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432.集結地8

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「そう怪訝な顔をされても困る。
神のご指示でNランクの生贄を数体捧げただけだからな」
さも当たり前の様に話す男だった。

誠一は背中にぞくりとした悪寒を感じた。
コイツのプレーヤーは、人として何か欠けたものでもあるのだろうか。
あまりにも人の命を軽く扱っている。そのことが空恐ろしくなった。
ふと誠一は、所詮、これはプレーヤーにとって
やり直しのできるゲームに過ぎないと言うことを思い出した。

「所詮は仮想現実の世界か」

「アル、何だそれ?」
誠一の呟きにヴェルが反応した。

「ごめん、忘れて。それよりヴェル、目の前の敵に集中して。
奴らは人を生贄に高位の闇魔術を展開してくるから。
どこかに魔術師が紛れこんでいるはず」

「ふはっフハハハハハ、ご明察。
聞いていた通りに鋭いな。だがそれだけだ。
上位魔人との死闘の後でこれだけの数を
素体とした暗黒魔術、そして俺に抗し得るかな」

男の後ろに並ぶNランクの者たち、
ある者は腕が足が拉げ変な方向に向いていた。
ある者は血がだらだと流れていた。ある者は目が鼻が潰れていた。
あり得ざるを得ない姿は、マネキンのようであり、
まともに戦闘できるような状態でなく、
直ぐにでも処置が必要であるはずであった。
しかし、呻き声一つ聞こえず、整然と並んでいた。
それは乾いた笑いを誘うような滑稽な景色であった。

暗闇に中でもその凄惨な姿は誠一たちの瞳にも
ぼんやりとであるが映っていた。

「Nランクごときで神に見初められれば、こうなるのは自明の理だろう」

誠一はこの世界の理の一つを見せつけられていた。
「はははっ、馬鹿らしい。社畜の社員たちの上に立つ鬼畜な上司。
単に演じて見たかっただけだろう。
本来のおまえは、上司にいびられて何も言えない社畜側だろうよ。
屑がお前の世界の理をこの世界に持ち込むなよな。不愉快だ」

ロジェたち仲間は、理解が出来ずに誠一の方を見ていていた。
神に向かって何かを訴えていることは何となくだが、察していた。

「ガアアアア。貴様、一体、何を神へ訴えた。
謝罪しろ。神がご立腹だぞ。俺は言っていない。
ガガアアア、神よ、神よ、お怒りをお鎮めください」

敵の4人ほどが激しく苦しんでいた。
プレーヤーに八つ当たりされたのだろう。誠一はそう判断した。

プレートメイルを装着している男は、震える左腕を動かして、
革袋から一つのポーションらしきものを取り出した。

苦しんでいた他の1人は魔術の詠唱を開始していた。
他の二人はNランクの首を各々、刎ねた。
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