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471.閑話 とある二人の会話の情景2

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『今更ですが、あなたのことを何て呼べばいいでしょうか?』
唐突に誠一が自分のことを聞いて来た。
そう言えばそうだと思い、少し笑ってしまった。
今更感があるが、そもそもゲームに個人情報を流して
危険がないか不安であった。

「うーん、どうしたものかな」
ネットで検索してみるもめぼしい情報や体験談はなく、
千晴は名前だけ伝えることにした。

『千晴、数字の千に晴天の晴でちはる。
改めて話すと何かこそばゆいですね』
画面の向こうで誠一の表情が愕然としていた。

『えっ女性』

『えっえええ』

誠一の驚きの声が連続で浮かび上がって来た。

『どういうこと?』
誠一が落ち着くのを待って、千晴は声をかけた。

誠一はかぶりを振って、答えていた。
『いえ、ゲームに興じているので男性の方かと思っていましたので』

最初の頃の自分の指示などすっかりと忘れてしまっている千晴は、
誠一の驚きなど分かる筈もなかった。
しかし以前に根暗なオタク呼ばわりされたことは
薄っすらと覚えていた。
これ以上、この話をする気もなかったために千晴は話題を転じた。
『そこまではまってないですけどね。
そうだ、誠一さん、今、落ち着いていますから、
話しますけど、大学に在籍していた跡はなかったですよ』

千晴には誠一が動揺しているように見えた。
誠一から彼の住んでいたアパートの住所が提示された。
千晴はそもそもこの住所が存在するかどうか分からなかった。
ネットのマップからこの住所を検索するとアパートがヒットした。
翔陵国際大学から数駅の所にそのアパートはあった。
『あったわ。確かにその住所はありますね。
念のために見てきましょうか?』

誠一からお礼を言われた。
千晴は午後にでも行ってみようと思い、その後、
とりとめもない話を少しするとログアウトすることを伝えた。

千晴はゲームをログアウトすると、
ささっとお風呂とトイレを掃除した。
Tシャツに短パンというラフな服装の千晴は、
マットを干すためにベランダに出た。
空は青く部屋に籠っているのが勿体ない位の晴天であった。
何度か太陽の明りのせいか眩しくて、千晴は光を腕で遮った。

「日差し強いな。布団も干したいけど、マンションだとなー」
窓際に布団干しスタンドを広げて、布団を掛けた。
室内換気のために窓を少し開けて、昔変わらぬ網戸をシフトさせた。

千晴は外出するために着替えを始めた。
布団も窓際に干しているし、この階層だしと少し横着をして、
カーテンを閉めずに着替えを始めた。
Tシャツを脱ごうとした時、千晴は何か視線を感じて
胸下まで上げたシャツを下ろした。

「んんん?」
気のせいかと思ったが、念のため、カーテンを閉じて、
着替えを再開した。

着替えが終わると千晴は、出かける前に誠一の現在地を
チャットで清涼に伝えた。
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