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470.閑話 とある二人の会話の情景1

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 千晴は、清涼と別れた後、駅に向かった。
誰かに見つめられているような視線を背中に感じた。
立ち止まり、周囲に目を向けるが、それらしい人を見つける事はなかった。
少し自意識過剰かなと心の中で反省すると再び、駅に向かって歩き始めた。

 先ほどの居酒屋での清涼の態度は一体、何だったのだろう。
千晴は電車で揺られながら、ぼんやりと考えていた。
そして、隣から漂う妙な臭いに顔顰める千晴であった。
隣に座っている男性は、盛大ないびきと共に寄りかかって来た。
電車が揺れる度に男性の頭部が千晴の肩にヒットしていた。
その度に思考が妨げられるために千晴は、イラっとした。
幾つものことが重なり千晴は折角、座れた席を立った。
席を立った瞬間、千晴は誰かと視線がぶつかったような気がしたが、
酔いのせいだろうと思い、また、考え事に耽った。

 千晴は、家に到着すると、すぐさまシャワーを浴びた。
さっぱりしたら後は寝るだけだった。
何となく『ヴェルトール王国戦記』にログインすると、
清涼からしつこいくらいにチャットへ注意書きがされていた。
読むとガチャを積極的に行い、アイテムを逐一、
誠一に送ることやあまり危険な地域に行かないように勧告し、
できれば王都周辺での活動に留めるようにとのことであった。
最後にしつこいくらいに自分のクランと接触して、
居場所を明確にするようにとのことであった。

読み終えた千晴は、盛大にため息をついて、ベッドに潜り込んだ。
「なんだかなー」
一言、つぶやくといい感じに酔いもまわっており、そのまま眠りに落ちた。

 翌朝、千晴は洗濯、掃除、そして炊事とてきぱきと
終わらせると朝食を取りながら『ヴェルトール王国戦記』に
ログインした。
清涼の機嫌を損ねるのは得策でないとの打算が働き、
昨夜のチャットの件を進めていた。
いつの間にかダンブル陣営からヴェルトール王国へ
誠一は帰参しているようであった。
目的地はどうやら主城であった。
そして、夜営の警備に誠一が就いていた。
誠一からのコメントが画面に表示されていく。
読むとどうやら誠一がこちらに接触を図っているようだった。

誠一に向けて千晴は書き込みを行った。
『こんばんは、誠一さん』

すると誠一から反応があった。
誠一は瞳を閉じて念じるような素振りを示した。

夜警なのに大丈夫なのだろうかと少し心配になってしまった。
『こんばんは、そちらも夜でしょうか?』

朝だったが、どうせこちらの状況は分からないと
思い適当に話の流れに合わせた。
『ええ、そうですよ。丁度、食事が終わったところです。
誠一さんは、もう寝る時間では?』

『いえ、夜営の警戒任務中ですが、この辺りは安全ですね』
誠一のと間でとりとめもない話がしばらく続いた。
本当にこちらの世界のことを分かっているようで、
昨夜の電車の件も話題として誠一に通じていた。
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