わたしと姫人形

阿波野治

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三日目 その15

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「じゃあ、どんな猿が焼かれているのかは確認していない?」
「はい。炎の勢いの具合とかで、姿が分かる猿も何匹かいましたけど。チンパンジーっぽいのと、テナガザルっぽいのは一匹ずつ見ました。それから、リスザルの仲間なのか子どもの猿なのかよく分からない、小さめの猿も」
「そっか。鳴き声はどうだった?」
「焼かれはじめたばかりで、猿たちもまだ死んでいないから、悲鳴は凄かったですよ。毎回思うけど、地獄だなって」
「人間の悲鳴は?」
「人間? 叫んでいる人もちらほらいましたよ。たぶん、考えていた以上に残酷な光景だったんだと思います。毎回来ている私はもう慣れっこだけど――」
「違う。見物客じゃなくて、焼かれているほう。焼かれている檻の中から、人間の悲鳴や絶叫は聞こえてこなかった?」
「ないない。ないですよ、人間の声なんて。人間の声に近い声で鳴いている猿ならいた記憶はありますけど、似ているというだけで、猿の鳴き声ではあったと思います。……ていうか」

 マツバさんの顔から笑みが消えた。眉根と眉根の間隔が少し狭まる。

「ナツキさん、どうしてそんなことを訊くんですか?」
 無言で、再び写真を指差す。マツバさんは、檻から上半身を出した黒焦げの屍骸を改めて凝視し、またわたしに顔を戻す。わたしは言った。
「その屍骸、人間っぽくない?」
 マツバさんはまたしても写真に注目した。
 屍骸は黒焦げだが、体や顔の輪郭はかろうじて原型を留めている。頭部の形といい、体型といい、猿ではなく人間のようにわたしには見える。

「そう、ですかね。私には猿にしか見えませんけど」
 マツバさんはわざとらしいくらいに大きく首を傾げた。
「気にしすぎじゃないですか? 人間かもしれないと思って見ると、そう見えなくはないかな、という気もたしかにしますけど、違うと思いますよ。猿と人間は親戚みたいなものだから、パッと見そっくりなのは当たり前じゃないですか?」
「それはそうだけど……。でも、わたしには猿には見えない」
「だけど、人間の声は聞こえませんでしたよ。仮に焼かれたのが人間であれば、『助けてくれ』とか『出してくれ』とか『熱いよ』とか、そういう言葉を叫んだと思うんですけど、そういう声は全然聞きませんでした。ていうか、人間を檻に入れて焼くとか、ありえませんって」

 檻の中から人間の声は聞こえてこなかったそうだが、マツバさんは焼却が始まった当初は現場にはいなかったのだから、聞き逃しただけでは? 猿たちの鳴き声の甲高さにかき消された可能性は? 猿ぐつわをされるなどして、発声を封じられていたのでは?
 納得したように小さくうなずいてみせたが、心の中では反論の言葉を並べていた。
 では、人間が檻に閉じこめられて焼かれたのだとしたら、なんのために?
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