41 / 244
【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第036話 師匠、大学へ行きたいと仰る(当日に)①
しおりを挟む
「あぁそうだ……ツグナは確か、白桜学院の生徒だったよな?」
「えっ? まぁ……そうだけど?」
「あそこは確か、大学も併設されていたと思ったが違うか?」
桜も散り、初夏の訪れを感じ始める4月の下旬。朝陽が窓から差すリビングにて電源の入ったテレビから流れるニュースを聞きながら朝食のパンを齧っていたツグナに、ろくに梳かしていない寝癖の酷い頭で紅茶を片手に新聞を読んでいたリリアが訊ねる。
半妖精族であるリリアがニュースを聞き流しながら新聞を読む姿は、本来の彼女を知る者ならば何とも違和感を拭えない光景に思えることだろう。しかしながら、彼女の指に嵌められた「纏装の指輪」の効果によりその特徴的な耳を偽装している今の姿からは、その違和感もある程度は軽減されている。
「大学? うんまぁ……併設はされているよ。俺は行ったことないけど」
というより「普通科だし、そもそも行く機会すら無いけど」という言葉は出さず、ツグナは代わりにコーヒーを流し込む。
既に時間は朝の7時を過ぎている。にもかかわらず、この場にいるのはツグナとリリアだけだ。
ソアラとアリアは部活へ、キリアとリーナは大学の研究施設を使用した特別授業にそれぞれ出ている。
ちなみにではあるが、ソアラは悩んだ末に「合気道」を、アリアは自身の得意とする剣を生かす「剣術部」に入部している。どちらも入部したばかりなのだが、既に正レギュラーの座が確実視されており、「大会ではダークホースとなるだろう」と見られているほどだ。
当初は「部活という新しい環境に馴染めるだろうか」と人知れず気を揉んでいたツグナであったが、それは結果的には杞憂に終わった。
ソアラは持ち前の明るさから入部して早々に友だちを作り、同級生・先輩から可愛がられている。また、アリアは他クラスの同級生と仲良くなったようで、その子と一緒に下校することもしばしばだ。
一方、彼らと一緒に登校しないシルヴィは「ツグナの稼ぎばかりに頼れないから!」と一人部屋に籠るリリアとは対照的に、ツグナたちの勉強を見ている合間に外へ出て、最近はアルバイトを始めている。なお、アルバイトをするにあたり必要な書類――例えば給与振込先となる銀行口座の開設に伴う住民票などの各種行政書類――は、市役所で問題なく発行できている(履歴書に記載する経歴は、ディエヴスからの手紙に記載のあった情報を転載)。
住民票などを取得できたとシルヴィから話を聞かされた時、「なんでこんなところにも気を遣うことができるのに、今回の依頼につながるような致命的なミスには疎いんだ?」とツグナの口から嘆きにも似たため息が漏れたのはここだけの話だったりする。
閑話休題。
さて、諸々の手続きを終え、晴れてアルバイト先が決定したシルヴィであったのだが、その彼女が選んだアルバイトは「塾講師」であった。もともとの教養の高さに加え、教え上手な気質もあり、アルバイトを始めてわずか数週間で生徒から絶大な信頼を寄せられる人気講師の座に上り詰めていた。
担当は中高生の数学がメインだが、ツグナたちの勉強を見る際に万般の学問を高いレベルで修めたためか、数学以外の科目も手の空いた時間に教えている。
一度その塾がある建物の前を通り過ぎた際、入り口のすぐ脇には黒縁眼鏡を掛けたスーツ姿のシルヴィを前面に押し出したポスターが貼り出されており、通行する何人かはそのポスターの近くで足を止め、思わず見入っているのがツグナの目にとまったことがある。それも異性・同性限らずだ。
(あの黒縁眼鏡は絶対に伊達眼鏡だよなぁ。それにしても……あの顔……)
ポスターに写る黒縁眼鏡のシルヴィ。その格好は、ツグナに向こうの世界でシルヴィと出会ってすぐに行われた「魔法講義」を彷彿とさせた。
そんなこんなで瞬く間に異性・同性限らず人気講師となったシルヴィは、ツグナからすれば自慢の「姉」たる存在だ。
(ただ……俺が行くと絶対恨まれそうなんだよなぁ……)
ソアラたちとの一件で多少なりともそうした視線を敏感に感じ取りやすくなったツグナは、自分がシルヴィのもとを訪れた際のことをイメージし、その時に向けられる自分の視線を想像するとため息しか出なかった。
もちろん、当の本人はそうしたツグナの懸念など露知らず、今日も今日とてアルバイトに精を出している。
「えっ? まぁ……そうだけど?」
「あそこは確か、大学も併設されていたと思ったが違うか?」
桜も散り、初夏の訪れを感じ始める4月の下旬。朝陽が窓から差すリビングにて電源の入ったテレビから流れるニュースを聞きながら朝食のパンを齧っていたツグナに、ろくに梳かしていない寝癖の酷い頭で紅茶を片手に新聞を読んでいたリリアが訊ねる。
半妖精族であるリリアがニュースを聞き流しながら新聞を読む姿は、本来の彼女を知る者ならば何とも違和感を拭えない光景に思えることだろう。しかしながら、彼女の指に嵌められた「纏装の指輪」の効果によりその特徴的な耳を偽装している今の姿からは、その違和感もある程度は軽減されている。
「大学? うんまぁ……併設はされているよ。俺は行ったことないけど」
というより「普通科だし、そもそも行く機会すら無いけど」という言葉は出さず、ツグナは代わりにコーヒーを流し込む。
既に時間は朝の7時を過ぎている。にもかかわらず、この場にいるのはツグナとリリアだけだ。
ソアラとアリアは部活へ、キリアとリーナは大学の研究施設を使用した特別授業にそれぞれ出ている。
ちなみにではあるが、ソアラは悩んだ末に「合気道」を、アリアは自身の得意とする剣を生かす「剣術部」に入部している。どちらも入部したばかりなのだが、既に正レギュラーの座が確実視されており、「大会ではダークホースとなるだろう」と見られているほどだ。
当初は「部活という新しい環境に馴染めるだろうか」と人知れず気を揉んでいたツグナであったが、それは結果的には杞憂に終わった。
ソアラは持ち前の明るさから入部して早々に友だちを作り、同級生・先輩から可愛がられている。また、アリアは他クラスの同級生と仲良くなったようで、その子と一緒に下校することもしばしばだ。
一方、彼らと一緒に登校しないシルヴィは「ツグナの稼ぎばかりに頼れないから!」と一人部屋に籠るリリアとは対照的に、ツグナたちの勉強を見ている合間に外へ出て、最近はアルバイトを始めている。なお、アルバイトをするにあたり必要な書類――例えば給与振込先となる銀行口座の開設に伴う住民票などの各種行政書類――は、市役所で問題なく発行できている(履歴書に記載する経歴は、ディエヴスからの手紙に記載のあった情報を転載)。
住民票などを取得できたとシルヴィから話を聞かされた時、「なんでこんなところにも気を遣うことができるのに、今回の依頼につながるような致命的なミスには疎いんだ?」とツグナの口から嘆きにも似たため息が漏れたのはここだけの話だったりする。
閑話休題。
さて、諸々の手続きを終え、晴れてアルバイト先が決定したシルヴィであったのだが、その彼女が選んだアルバイトは「塾講師」であった。もともとの教養の高さに加え、教え上手な気質もあり、アルバイトを始めてわずか数週間で生徒から絶大な信頼を寄せられる人気講師の座に上り詰めていた。
担当は中高生の数学がメインだが、ツグナたちの勉強を見る際に万般の学問を高いレベルで修めたためか、数学以外の科目も手の空いた時間に教えている。
一度その塾がある建物の前を通り過ぎた際、入り口のすぐ脇には黒縁眼鏡を掛けたスーツ姿のシルヴィを前面に押し出したポスターが貼り出されており、通行する何人かはそのポスターの近くで足を止め、思わず見入っているのがツグナの目にとまったことがある。それも異性・同性限らずだ。
(あの黒縁眼鏡は絶対に伊達眼鏡だよなぁ。それにしても……あの顔……)
ポスターに写る黒縁眼鏡のシルヴィ。その格好は、ツグナに向こうの世界でシルヴィと出会ってすぐに行われた「魔法講義」を彷彿とさせた。
そんなこんなで瞬く間に異性・同性限らず人気講師となったシルヴィは、ツグナからすれば自慢の「姉」たる存在だ。
(ただ……俺が行くと絶対恨まれそうなんだよなぁ……)
ソアラたちとの一件で多少なりともそうした視線を敏感に感じ取りやすくなったツグナは、自分がシルヴィのもとを訪れた際のことをイメージし、その時に向けられる自分の視線を想像するとため息しか出なかった。
もちろん、当の本人はそうしたツグナの懸念など露知らず、今日も今日とてアルバイトに精を出している。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5,185
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。