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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第035話 妄執と悪意⑤
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人の身に「竜」の力を降ろす――それは、常識的に考えればまず選ばない選択肢だ。
だが、それをアザエルは敢えて選び取る。明らかにリスクが大きい、失敗の可能性が高いと思われるその選択だが、発案者であるアザエルの顔には、まるで誕生日プレゼントを買ってもらった子どものような嬉しさと興奮が垣間見えた。
「ふぅむ……確かにゼクスやズィーベンの言わんとすることも分かるよ。だから……普通はキミたちに任せるところなんだけど、降ろす魔物の『格』を考えて、僕が直接やろう」
アザエルの口から紡がれた言葉に、ズィーベンは思わず目を丸くする。
「ア、アザエル様直々に……ですか? それならアドヴェントの成功確率も上昇しますが……失敗を回避できても、定着するとは限りません。御身に仕える身としては、やはり――」
「うん。キミの言いたいことも分かるよ。これはいわば僕のワガママだ。まぁでも安心してよ。もし降ろした魔物が定着せずとも、九条くんにとっては彼の人としての『人生』が終わるだけだし、クリムゾンドラゴンとなったところで僕が負ける確率はゼロだ。あんな血塗れトカゲが僕を殺せることなどできないさ。だってこれまでにも狩ってきたからね」
ズィーベンの告げた懸念に対し、アザエルは言い含めるように言葉を返す。主の意志の固さを理解したからか、発言したズィーベンは「左様ですか……」とそれ以上の明言を避けた。
「しかしながら、一つ疑問なのが施術される九条の意思です。彼はここまでのリスクを負ってまで受けるでしょうか?」
ズィーベンは渡された書類をアザエルに返却しながら問いかける。
「さっきも言っただろう? 直接この目で見たから決めたってさ。それに、多分――」
アザエルの言葉を、内線のコール音が遮る。彼はかかってきた内線に、受話器を取って相手を確認すると、その向こうから返ってきた言葉に歪んだ笑みを浮かべる。
「――うん、分かった。それじゃあそのプランで進めてくれない? 後で僕もそっちに行くから」
そして静かに受話器を置いたアザエルは、目の前に立つズィーベンに対して告げる。
「うん、僕の読み通りだったよ。九条武治はこっちの提案をすんなりと受け入れた」
「さすがの炯眼、恐れ入ります」
ズィーベンはアザエルの言葉に、頭を深く下げながら答える。
「ハハッ、そんな畏まって褒められるほどのことじゃないさ」
「ですが、今『読み通り』であったと……」
「まぁね。けど、今回は『九条だったから』っていう面もあったかな。何せ、彼は『自分が最強であること』を体現するために生きているからね。それを妨げるような輩は、徹底抗戦して正面から薙ぎ倒す。そうした信念を持つ彼は、良くも悪くも『自分の思いを貫く』。純粋で真っ直ぐだ。そう――たとえ薙ぎ倒すために高いリスクを負ってでもね」
アザエルの分析に、ズィーベンは「なるほど」と呟きつつも、最後の一線までは譲れないのか、
「ですが、『自分が最強であること』とはおこがましいですね。最強なのはアザエル様に確定しているのですから」
などとキリッとした真面目な顔つきで口を開く。
そんな彼女に、アザエルは破顔一笑しながら、
「ハハッ、当然だろう? 人の身で僕に敵うヤツなんていないさ」
などと言葉を紡ぐ。
「さて。それじゃあ早速行こうか、魔物を降ろしに。これ以上相手を待たせるのも悪いしねぇ……」
「御供致します……」
席を立ち、部屋から出るアザエルにズィーベンが後ろに続く。
(――さてさて。九条武治くん……キミはどのようにして人生を終わらせるのかな? 灰塵に帰すのか、魔物に成り果てて殺されるのか、はたまた――)
後ろに続くズィーベンが「あぁ……まるで年相応の子どもみたいで……可愛い」などと思っていることなど気づく様子もなく、アザエルは九条とゼクスの待つ部屋の扉を開けた。
だが、それをアザエルは敢えて選び取る。明らかにリスクが大きい、失敗の可能性が高いと思われるその選択だが、発案者であるアザエルの顔には、まるで誕生日プレゼントを買ってもらった子どものような嬉しさと興奮が垣間見えた。
「ふぅむ……確かにゼクスやズィーベンの言わんとすることも分かるよ。だから……普通はキミたちに任せるところなんだけど、降ろす魔物の『格』を考えて、僕が直接やろう」
アザエルの口から紡がれた言葉に、ズィーベンは思わず目を丸くする。
「ア、アザエル様直々に……ですか? それならアドヴェントの成功確率も上昇しますが……失敗を回避できても、定着するとは限りません。御身に仕える身としては、やはり――」
「うん。キミの言いたいことも分かるよ。これはいわば僕のワガママだ。まぁでも安心してよ。もし降ろした魔物が定着せずとも、九条くんにとっては彼の人としての『人生』が終わるだけだし、クリムゾンドラゴンとなったところで僕が負ける確率はゼロだ。あんな血塗れトカゲが僕を殺せることなどできないさ。だってこれまでにも狩ってきたからね」
ズィーベンの告げた懸念に対し、アザエルは言い含めるように言葉を返す。主の意志の固さを理解したからか、発言したズィーベンは「左様ですか……」とそれ以上の明言を避けた。
「しかしながら、一つ疑問なのが施術される九条の意思です。彼はここまでのリスクを負ってまで受けるでしょうか?」
ズィーベンは渡された書類をアザエルに返却しながら問いかける。
「さっきも言っただろう? 直接この目で見たから決めたってさ。それに、多分――」
アザエルの言葉を、内線のコール音が遮る。彼はかかってきた内線に、受話器を取って相手を確認すると、その向こうから返ってきた言葉に歪んだ笑みを浮かべる。
「――うん、分かった。それじゃあそのプランで進めてくれない? 後で僕もそっちに行くから」
そして静かに受話器を置いたアザエルは、目の前に立つズィーベンに対して告げる。
「うん、僕の読み通りだったよ。九条武治はこっちの提案をすんなりと受け入れた」
「さすがの炯眼、恐れ入ります」
ズィーベンはアザエルの言葉に、頭を深く下げながら答える。
「ハハッ、そんな畏まって褒められるほどのことじゃないさ」
「ですが、今『読み通り』であったと……」
「まぁね。けど、今回は『九条だったから』っていう面もあったかな。何せ、彼は『自分が最強であること』を体現するために生きているからね。それを妨げるような輩は、徹底抗戦して正面から薙ぎ倒す。そうした信念を持つ彼は、良くも悪くも『自分の思いを貫く』。純粋で真っ直ぐだ。そう――たとえ薙ぎ倒すために高いリスクを負ってでもね」
アザエルの分析に、ズィーベンは「なるほど」と呟きつつも、最後の一線までは譲れないのか、
「ですが、『自分が最強であること』とはおこがましいですね。最強なのはアザエル様に確定しているのですから」
などとキリッとした真面目な顔つきで口を開く。
そんな彼女に、アザエルは破顔一笑しながら、
「ハハッ、当然だろう? 人の身で僕に敵うヤツなんていないさ」
などと言葉を紡ぐ。
「さて。それじゃあ早速行こうか、魔物を降ろしに。これ以上相手を待たせるのも悪いしねぇ……」
「御供致します……」
席を立ち、部屋から出るアザエルにズィーベンが後ろに続く。
(――さてさて。九条武治くん……キミはどのようにして人生を終わらせるのかな? 灰塵に帰すのか、魔物に成り果てて殺されるのか、はたまた――)
後ろに続くズィーベンが「あぁ……まるで年相応の子どもみたいで……可愛い」などと思っていることなど気づく様子もなく、アザエルは九条とゼクスの待つ部屋の扉を開けた。
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