黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第034話 妄執と悪意④

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「『オーガロード』に『レッサードラゴン』、そして『ゴブリンジェネラル』……降臨の対象としては悪くはない。むしろ、ベストチョイスかとは思える」

「で、でしたら……」
 一体何故、と問いたそうな顔でアザエルの顔色窺うズィーベンに、彼は机の引き出しから取り出した一枚の紙を差し出しながら答える。

「けれど、それじゃああまりにもリターンが少ない。僕も実際に彼と対面してなければキミの案をすんなり了承しただろう。そう、この目で直接見てなければ、ね……」
「実際に会ってみた結果がコレ・・ですか……」
「あぁ。ちなみに、もう九条武治ひけんしゃには打診済みだよ」
 ズィーベンは「なら自分の提示した案は無駄じゃないか」という文句は心の底に仕舞い込み、渡された書類に目を落とす。と同時に、そこに記された内容について、若干震えた声で訊ねた。彼女の手に持つ書類には、一体の魔物の写真が添えられている。

 ――そこには、高さ15メートルを優に超える、骨だけのドラゴンの姿が写されていた。博物館などで見られる全身骨格の標本ならまだしも、そこに写されていたドラゴンの骨は、通常の動物が有するそれとは異なり、赤黒く血で染め上げたかのような骨で構成されていた。

 その全身赤黒い骨だけのドラゴンは、「クリムゾンドラゴン」と言い――別名「鮮血竜」、「呪い竜」とも呼ばれる。ドラゴンの中でも屈指のパワーと凶暴性を持ち、一度暴れると辺りを廃墟と化すまで破壊行為を続ける。

 また、さらに厄介なのがその口から吐き出される息吹ブレスと高耐性の骨だ。

 一つ目の吐き出される息吹ブレスは、他のドラゴン種とは違い、高温の炎ではない。そのブレスは盾を構えれば何とか防げるほどの暴風なのだが、凶悪な二つの附属効果が存在する。

 それは状態異常と腐食効果だ。そのブレスを浴びた者は、「毒」・「麻痺」・「石化」・「衰弱」のいずれかの状態異常に陥る。どの状態異常になるかは完全にランダムではあるものの、下手をすると治療しようと動いた者まで巻き込まれることになりかねないため、防衛のための盾は必須装備となる。

 しかし、その盾も二つ目の附属効果である「腐食」により、装備そのものを長時間使用することができない。この効果は地味なものと思われがちだが、これは防御するための装備そのものを失うリスクがあるのと同じことだ。

 腐食対策を施した大楯であっても、吐き出されるブレスにはもって三回が限度。この地味だが有能な腐食効果と状態異常付与効果により、討伐難易度はレッサードラゴンやワイバーン、成体のドラゴンのそれと比較しても高い。

 一見して弱点らしい弱点が無さそうに思えるクリムゾンドラゴンだが、このドラゴンには致命的とも呼べる弱点が存在する。それは心臓の位置にある、直径3メートルを超える正八面体の石だ。この石こそが「核」であり、唯一の弱点とも呼べる場所なのだが、この石を守るように存在するかのドラゴンの骨が厄介な点の二つ目である。

 クリムゾンドラゴンの赤黒い骨に宿る効果――それが「高耐性」である。この耐性とは物理・魔法の双方を指している。具体的な耐性のレベルとしては、物理攻撃ならば他のドラゴンの頭蓋を一撃で叩き割るほどの攻撃を、魔法ならば中程度の範囲攻撃魔法の攻撃を受けても平然としていられるほどの耐性を有している。
 重装甲戦車を彷彿とさせるこの骨を砕くには、生半可な力や技術、装備なしでは到底為し得ない。それこそ、一流の技術で製作された剣や魔法発動体、一流の剣術や魔法技術が相俟ってなし得ることなのだ。

 それほどまでの脅威を持つ魔物を、一人の人間の身に「降ろす」。アザエルの言葉にズィーベンが震えるのは無理のないことだ。
 それは命を対価に差し出す、悪魔に魂を売ることと同義なのだから。ハイリスク・ハイリターンの範疇を超え、もはや「分の悪い」博打にも等しい所業であると言えた。
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