黒の創造召喚師

幾威空

文字の大きさ
38 / 244
【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第033話 妄執と悪意③

しおりを挟む
 一方、ゼクスと別れたアザエルは、自室に戻ると奥に置かれた長机の上に置かれた書類に目を落としながら漆黒の皮張りの肘掛け椅子に腰を下ろす。

「……失礼ですがアザエル様、あのような者で本当によろしいのですか?」

 椅子に腰を下ろしたアザエルに、続いて部屋の中に入ってきたズィーベンが訊ねる。
「あのような者とは……九条クンのことかい?」
 問いかけられたアザエルは、あくまでも穏やかな口調で確認する。

「はい。確かに過去の経歴から見れば、戦力としては申し分の無いように思われますが……いささか自らの欲望に執着し過ぎかと思います」
「ふむ……キミらしい、実に冷静な意見だ。それで?」
 アザエルは笑みを浮かべつつ、話を促す。

「戦力として迎え入れるということは、同時に私たちの『心臓』たる実験室ラボを見せるということです。いくら戦力として加えるに相応しい力があろうとも、自身の妄執に取り憑かれていては、我々の一員となった後も合理的な判断が下せず、最悪の場合アザエル様を裏切ることになりかねません。私には、あの男にそこまでする価値が――ッ!?」

 しかしながら、彼女の言葉は、突如として訪れた息苦しさに最後まで紡がれることなく終わる。

「ねぇ……誰が余計なことまで喋っていいと命じた・・・?」
 ギリギリと目に見えない力で首が絞められ、息苦しさと霞む意識の中、ズィーベンがふと椅子に座るアザエルを見やる。すると、そこには不快感をそれと悟らせぬ・・・・笑みを貼り付けたまま、掲げた左手を握る主の姿が捉えられた。

「カハッ!? も、申し訳――」
 即座に謝罪の言葉を述べようとするズィーベンに被せるように、アザエルが呟く。

「価値があるか無いか、それは僕が決めることだ。キミの意見は思慮するに値するが、それまでだ」

「ガハッ! はぁはぁ……っはぁ、はぁ……」

 静かに紡がれた言葉とともに、アザエルが指を鳴らすと、ズィーベンの首を絞めていた力が消え去り、酸素を欲していた肺に新鮮な空気が取り込まれる。

「いやぁ~、しっかし……キミも大概だねぇ。まさか、僕に首を絞められるために、わざわざ地雷を踏み抜いたんだろ?」
「えっ!? あ、いえっ! 決してそのようなことは……っ!」
 アザエルの指摘に、ズィーベンはワタワタと慌てながら否定するものの、その仕草が却って図星であると告げてしまう。

「あははっ! まぁキミが根っからのドMなのは今に始まったことじゃないしね」
「あうあうあう……」
 大笑いしながら話すアザエルに対し、ズィーベンは耳を真っ赤に染めながら言葉を詰まらせた。

「……さて、と。そろそろイジワルするのはここぐらいにして、だ。そろそろ本題に入ろうか」
 アザエルは両肘を長机の上に乗せ、口元を手で隠すように両手を組みながら告げる。
「はい。現在、九条武治に降臨アドヴェントさせる魔物については、こちらの資料にある通りです」
 彼の言葉にスイッチが入ったかのように、ズィーベンはその表情を「仕事モード」へ切り替える。そして席に座るアザエルに歩み寄り、用意していた書類を手渡した。

 ――降臨アドヴェント。それは、人の身にアザエルたちのもつ魔物を「宿す」儀式及びその過程プロセスを指す。

 具体的には、まず対象者の身体を特殊な薬によって魔物を「受け入れる」肉体に作り変える。そして次に受け入れの体制が整ったその肉体に、直接宿す魔物の核を「埋め込む」のだ。

 ただし、この儀式には、相応のリスクも伴う。

「ふむ……『オーガロード』に『レッサードラゴン』、そして『ゴブリンジェネラル』か。まぁ無難な選択って感じだね」
 彼女から資料を受け取ったアザエルは、素早くそれに目を通して率直な印象を口にする。

「戦力として見るからには、アドヴェントさせる魔物にも、それなりの『格』が要求されます。これら三種の魔物ならば、彼の身体でも比較的リスクを抑えることができるかと」
「なるほどね。アドヴェントは失敗すると塵となって消えるしねぇ……」
 
 そう。アザエルの言葉の通り、この「降臨アドヴェント」の儀式は、失敗すると被験者の身体が塵となって消える。
 これは比喩的な意味ではなく、文字通り、被験者の身体――それを構成する組織がまるで自壊するように活動を停止し、崩れるのだ。残されるのは、塵となった被験者の成れの果てと埋め込まれた魔物の核のみとなる。
 また、辛くも失敗を回避できたとしても、その身に降ろした・・・・魔物が安定した状態で定着しないケースもあり得た。この場合、被験者は降ろした魔物にその精神を喰われてしまい、身体も降ろした魔物のそれに変質する。
 要するに、「としての」が終わることを意味するのだ。

 人智を超えた力を手にすることができるアドヴェント。しかしながら、その人の身に過ぎた力を求めた代償は、あまりにも苛烈なものであった。

「ただねぇ……」
 手にした書類をハラリと脇に滑らせたアザエルは、ため息混じりに呟く。

「それだと面白くない・・・・・

「……はっ?」
 キョトンとした顔で反射的に訊き返したズィーベンに、アザエルはニヤリと口の端を持ち上げながら続けた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。