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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第033話 妄執と悪意③
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一方、ゼクスと別れたアザエルは、自室に戻ると奥に置かれた長机の上に置かれた書類に目を落としながら漆黒の皮張りの肘掛け椅子に腰を下ろす。
「……失礼ですがアザエル様、あのような者で本当によろしいのですか?」
椅子に腰を下ろしたアザエルに、続いて部屋の中に入ってきたズィーベンが訊ねる。
「あのような者とは……九条クンのことかい?」
問いかけられたアザエルは、あくまでも穏やかな口調で確認する。
「はい。確かに過去の経歴から見れば、戦力としては申し分の無いように思われますが……いささか自らの欲望に執着し過ぎかと思います」
「ふむ……キミらしい、実に冷静な意見だ。それで?」
アザエルは笑みを浮かべつつ、話を促す。
「戦力として迎え入れるということは、同時に私たちの『心臓』たる実験室を見せるということです。いくら戦力として加えるに相応しい力があろうとも、自身の妄執に取り憑かれていては、我々の一員となった後も合理的な判断が下せず、最悪の場合アザエル様を裏切ることになりかねません。私には、あの男にそこまでする価値が――ッ!?」
しかしながら、彼女の言葉は、突如として訪れた息苦しさに最後まで紡がれることなく終わる。
「ねぇ……誰が余計なことまで喋っていいと命じた?」
ギリギリと目に見えない力で首が絞められ、息苦しさと霞む意識の中、ズィーベンがふと椅子に座るアザエルを見やる。すると、そこには不快感をそれと悟らせぬ笑みを貼り付けたまま、掲げた左手を握る主の姿が捉えられた。
「カハッ!? も、申し訳――」
即座に謝罪の言葉を述べようとするズィーベンに被せるように、アザエルが呟く。
「価値があるか無いか、それは僕が決めることだ。キミの意見は思慮するに値するが、それまでだ」
「ガハッ! はぁはぁ……っはぁ、はぁ……」
静かに紡がれた言葉とともに、アザエルが指を鳴らすと、ズィーベンの首を絞めていた力が消え去り、酸素を欲していた肺に新鮮な空気が取り込まれる。
「いやぁ~、しっかし……キミも大概だねぇ。まさか、僕に首を絞められるために、わざわざ地雷を踏み抜いたんだろ?」
「えっ!? あ、いえっ! 決してそのようなことは……っ!」
アザエルの指摘に、ズィーベンはワタワタと慌てながら否定するものの、その仕草が却って図星であると告げてしまう。
「あははっ! まぁキミが根っからのドMなのは今に始まったことじゃないしね」
「あうあうあう……」
大笑いしながら話すアザエルに対し、ズィーベンは耳を真っ赤に染めながら言葉を詰まらせた。
「……さて、と。そろそろイジワルするのはここぐらいにして、だ。そろそろ本題に入ろうか」
アザエルは両肘を長机の上に乗せ、口元を手で隠すように両手を組みながら告げる。
「はい。現在、九条武治に降臨させる魔物については、こちらの資料にある通りです」
彼の言葉にスイッチが入ったかのように、ズィーベンはその表情を「仕事モード」へ切り替える。そして席に座るアザエルに歩み寄り、用意していた書類を手渡した。
――降臨。それは、人の身にアザエルたちのもつ魔物を「宿す」儀式及びその過程を指す。
具体的には、まず対象者の身体を特殊な薬によって魔物を「受け入れる」肉体に作り変える。そして次に受け入れの体制が整ったその肉体に、直接宿す魔物の核を「埋め込む」のだ。
ただし、この儀式には、相応のリスクも伴う。
「ふむ……『オーガロード』に『レッサードラゴン』、そして『ゴブリンジェネラル』か。まぁ無難な選択って感じだね」
彼女から資料を受け取ったアザエルは、素早くそれに目を通して率直な印象を口にする。
「戦力として見るからには、アドヴェントさせる魔物にも、それなりの『格』が要求されます。これら三種の魔物ならば、彼の身体でも比較的リスクを抑えることができるかと」
「なるほどね。アドヴェントは失敗すると塵となって消えるしねぇ……」
そう。アザエルの言葉の通り、この「降臨」の儀式は、失敗すると被験者の身体が塵となって消える。
これは比喩的な意味ではなく、文字通り、被験者の身体――それを構成する組織がまるで自壊するように活動を停止し、崩れるのだ。残されるのは、塵となった被験者の成れの果てと埋め込まれた魔物の核のみとなる。
また、辛くも失敗を回避できたとしても、その身に降ろした魔物が安定した状態で定着しないケースもあり得た。この場合、被験者は降ろした魔物にその精神を喰われてしまい、身体も降ろした魔物のそれに変質する。
要するに、「人としての生」が終わることを意味するのだ。
人智を超えた力を手にすることができるアドヴェント。しかしながら、その人の身に過ぎた力を求めた代償は、あまりにも苛烈なものであった。
「ただねぇ……」
手にした書類をハラリと脇に滑らせたアザエルは、ため息混じりに呟く。
「それだと面白くない」
「……はっ?」
キョトンとした顔で反射的に訊き返したズィーベンに、アザエルはニヤリと口の端を持ち上げながら続けた。
「……失礼ですがアザエル様、あのような者で本当によろしいのですか?」
椅子に腰を下ろしたアザエルに、続いて部屋の中に入ってきたズィーベンが訊ねる。
「あのような者とは……九条クンのことかい?」
問いかけられたアザエルは、あくまでも穏やかな口調で確認する。
「はい。確かに過去の経歴から見れば、戦力としては申し分の無いように思われますが……いささか自らの欲望に執着し過ぎかと思います」
「ふむ……キミらしい、実に冷静な意見だ。それで?」
アザエルは笑みを浮かべつつ、話を促す。
「戦力として迎え入れるということは、同時に私たちの『心臓』たる実験室を見せるということです。いくら戦力として加えるに相応しい力があろうとも、自身の妄執に取り憑かれていては、我々の一員となった後も合理的な判断が下せず、最悪の場合アザエル様を裏切ることになりかねません。私には、あの男にそこまでする価値が――ッ!?」
しかしながら、彼女の言葉は、突如として訪れた息苦しさに最後まで紡がれることなく終わる。
「ねぇ……誰が余計なことまで喋っていいと命じた?」
ギリギリと目に見えない力で首が絞められ、息苦しさと霞む意識の中、ズィーベンがふと椅子に座るアザエルを見やる。すると、そこには不快感をそれと悟らせぬ笑みを貼り付けたまま、掲げた左手を握る主の姿が捉えられた。
「カハッ!? も、申し訳――」
即座に謝罪の言葉を述べようとするズィーベンに被せるように、アザエルが呟く。
「価値があるか無いか、それは僕が決めることだ。キミの意見は思慮するに値するが、それまでだ」
「ガハッ! はぁはぁ……っはぁ、はぁ……」
静かに紡がれた言葉とともに、アザエルが指を鳴らすと、ズィーベンの首を絞めていた力が消え去り、酸素を欲していた肺に新鮮な空気が取り込まれる。
「いやぁ~、しっかし……キミも大概だねぇ。まさか、僕に首を絞められるために、わざわざ地雷を踏み抜いたんだろ?」
「えっ!? あ、いえっ! 決してそのようなことは……っ!」
アザエルの指摘に、ズィーベンはワタワタと慌てながら否定するものの、その仕草が却って図星であると告げてしまう。
「あははっ! まぁキミが根っからのドMなのは今に始まったことじゃないしね」
「あうあうあう……」
大笑いしながら話すアザエルに対し、ズィーベンは耳を真っ赤に染めながら言葉を詰まらせた。
「……さて、と。そろそろイジワルするのはここぐらいにして、だ。そろそろ本題に入ろうか」
アザエルは両肘を長机の上に乗せ、口元を手で隠すように両手を組みながら告げる。
「はい。現在、九条武治に降臨させる魔物については、こちらの資料にある通りです」
彼の言葉にスイッチが入ったかのように、ズィーベンはその表情を「仕事モード」へ切り替える。そして席に座るアザエルに歩み寄り、用意していた書類を手渡した。
――降臨。それは、人の身にアザエルたちのもつ魔物を「宿す」儀式及びその過程を指す。
具体的には、まず対象者の身体を特殊な薬によって魔物を「受け入れる」肉体に作り変える。そして次に受け入れの体制が整ったその肉体に、直接宿す魔物の核を「埋め込む」のだ。
ただし、この儀式には、相応のリスクも伴う。
「ふむ……『オーガロード』に『レッサードラゴン』、そして『ゴブリンジェネラル』か。まぁ無難な選択って感じだね」
彼女から資料を受け取ったアザエルは、素早くそれに目を通して率直な印象を口にする。
「戦力として見るからには、アドヴェントさせる魔物にも、それなりの『格』が要求されます。これら三種の魔物ならば、彼の身体でも比較的リスクを抑えることができるかと」
「なるほどね。アドヴェントは失敗すると塵となって消えるしねぇ……」
そう。アザエルの言葉の通り、この「降臨」の儀式は、失敗すると被験者の身体が塵となって消える。
これは比喩的な意味ではなく、文字通り、被験者の身体――それを構成する組織がまるで自壊するように活動を停止し、崩れるのだ。残されるのは、塵となった被験者の成れの果てと埋め込まれた魔物の核のみとなる。
また、辛くも失敗を回避できたとしても、その身に降ろした魔物が安定した状態で定着しないケースもあり得た。この場合、被験者は降ろした魔物にその精神を喰われてしまい、身体も降ろした魔物のそれに変質する。
要するに、「人としての生」が終わることを意味するのだ。
人智を超えた力を手にすることができるアドヴェント。しかしながら、その人の身に過ぎた力を求めた代償は、あまりにも苛烈なものであった。
「ただねぇ……」
手にした書類をハラリと脇に滑らせたアザエルは、ため息混じりに呟く。
「それだと面白くない」
「……はっ?」
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