黒の創造召喚師

幾威空

文字の大きさ
37 / 244
【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第032話 妄執と悪意②

しおりを挟む
(人智を超えた、人ならざる者の力……だと?)

 去り際、アザエルが告げたセリフを、九条は頭の中で反芻したものの、その意図が分からず眉間に皺を寄せていた。

「さて、では参りましょうか」
 室内に残されたゼクスが、眼鏡を掛け直しながら呟く。

「行くって……どこへだ?」
 クルリと背を向けたゼクスに九条は問いかけると、彼の背中越しにポツリと言葉が返ってくる。

「――アザエル様からの贈り物……それを授けられる場所に、ですよ」
 そして、そのまま部屋から出ようとするゼクスを、九条は慌てて跡を追った。


 ――何だ、コレは。


 手術室のような部屋から出て数分後。
 ゼクスの後追った九条は、術衣姿のまま目の前にある大きな窓の向こうに見える光景に息を呑んだ。

 そこには、この世のものとは思えない生き物が檻の中で鎖に繋がれていた。
 
 くすんだ緑色の肌を持った、人型の生き物
 背中から炎を噴き出す、真っ赤なトカゲ
 長さ30センチを超える牙を持った、ツノの生えた熊
 翼を広げない状態で既に全長2メートルを超す体格を有する大柄の鳥
 血のように真っ赤な肌と鋭い歯、頭から突き出たツノを持つ人型の生き物

 ……など、檻の中にいるのは、どれも九条がこれまで見たことのない生き物だ。

「貴方は『並行世界』という言葉を耳にしたことはありますか?」
「並行、世界……」
 食い入るように窓の向こうを見つめる九条に、手を後ろに組んで傍に立つゼクスが問いかける。

「えぇ……ここはとある事情で・・・・・・私たちの世界に迷い込んだ異形の生き物――私たちは便宜上「魔物」と呼んでいますが――を秘密裏に捕獲しつつ、その秘めたる力を解明し、人類の益々の発展に寄与する研究を行っている場所なのです」
 ゼクスは檻の中に閉じ込められた魔物を無表情で見つめながら呟く。

「それがアザエルが言っていた『力』とどう関係があるんだ?」
 窓から視線を外し、ゼクスの顔を見た九条はさらに訊ねながら話を促す。

「魔物は先ほども言った通り、私たちとは別の世界から迷い込んだ存在を指します。それはご覧になられたことからも分かるように、あの檻の中にいる生き物は、これまで目にしたことはないハズです。魔物の生態系は当然ながら地球とは異なることから、地球には存在しない、未知のエネルギーや効果を発揮する原料が採取できる可能性があるのですよ。では、そうした『未知の力』を人間に適用するとどうなるのか……もうお分かりですね?」
 金縁眼鏡を掛け直しながら紡がれたゼクスの言葉に、ブルリと九条の身が震える。

(そうか……これが『人智を超えた力』か……)

 この力を取り込めば、常識では考えられいほどの高い身体能力が得られたり、超常的な力を得られる可能性がある。

(これだ……この力があれば!)

 完膚なきまでの敗北を味わい、どこか生気の抜けた目をしていた九条の瞳に火が灯る。

 それは彼にとっての生きる希望、と読み替えてもいいのかもしれない。ただし、その取り戻した光は「復讐」や「妄執」といった類の、決して喜ぶべきものではないものなのだが。

「理解されましたか。ですが、これは強大な力や可能性を秘めている反面、人によってはこれまでの『人生』すら変わってしまう危険リスクも存在します。何せ未だその全容が解明されていませんから。それでも貴方は挑戦ベットしてみますか?」
 九条の腹の底、その真意を探るようなゼクスの目。彼の眼鏡越しに見つめてくるその冷徹さを宿した目に、

「ハハッ……『これまでの人生が変わる』リスクだと? そんなものはあの時にとうに味わってるさ。なら……」

 九条は凶悪な笑みをその顔に貼り付かせながら呟く。
 彼の人生は、あの時――ジムの同輩による讒言からマスコミにバッシングを受け、協会から追放された瞬間から、九条武治の人生はがらりと変わっている。
 光り輝く「世界チャンピオンとして」の自分から、黒い闇の「不良集団のヘッドとして」の自分に。

 ――既に底まで堕ちているのなら
 ――もう、失うものは何一つ無いのなら

「こちらこそ……是非頼む」

 九条はゼクスからの申し出に、頷きながら嬉しそうに呟いた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。