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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain08》 呪われし魔法道具
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「悪い! 待たせた!」
一撃で多くの敵を屠った強力な突き技――一閃万破を放ったツグナは、どこかバツの悪い顔を浮かべながら二人に小さく謝罪する。
――あぁ、これでもう……大丈夫だ
それまでどこか影が差していた二人の表情が、ツグナの顔を視界に捉えた瞬間、急速に明るさを取り戻していく。
「ったく、遅いよツグ兄っ!」
「そうだよ。ツグナの注文はいっつもハードだけど、今回のは軽く目眩が起きるレベルだよ」
明るさに加え、心に余裕が生まれたことを象徴するように、アリアとソアラが揃って微笑みを浮かべつつも軽口を叩く。
「だから、悪かったって。里の方は比奈菊とフラン、リーナに任せてきたからさ。あの三人なら大抵のことは対処できるだろ。ってなワケで、こっからは俺も参戦だ。さぁて……いっちよ派手にやるか!」
「「うん!」」
ツグナの掛け声に対し、気合いを入れ直した二人が同時に頷き合う。その頼もしい返事に、ツグナは口の端を持ち上げながら呟いた。
「これだけ多数のお客様だ。こっちも相応のメンツでもてなさないと、な!」
笑いながらもツグナは左腕から引き抜いた魔書を開き、彼のユニーク魔法――《創造召喚魔法》により生み出された従者を召喚する。
「団体様のご到着だ! 出迎え頼むぜ! ――リル、サクヅキ、コクヨウ、白兎っ!」
青白い燐光が魔書から迸り、4本の柱となる。やがてその燐光が弾けて現れたのは、
――全身を銀灰色の見事な毛で覆われた狼のリル
――赫と蒼の双剣を携えたサクヅキ
――漆黒の身体で直上支援を行う鷹のコクヨウ
――ガンソード「クリアディーヴァ」を振るう白兎
いずれも直接戦闘に長けた、ツグナの従者たちである。
「リルは俺と左右から削る! サクヅキと白兎はソアラたちと共に正面から戦線を押し上げろ! コクヨウは上空からの支援と敵の後方からの牽制を頼む! ここが正念場だ! 気張って行くぞ!」
「「「「「「了解っ!!」」」」」」
ツグナの発破をかける言葉に、場の空気がピシリと引き締まる。先ほどまでのソアラとアリアの奮闘により、オークの群れは大分その数を減らしてはいるものの、未だ三桁を超える陣容を誇っている。
「それじゃあ――――散開っ!!」
ツグナの合図に従い、各人が持ち場に着く。前線はソアラ、キリア、サクヅキ、白兎の4名に任せ、ツグナはリルと共に魔闘技を用いて向上させた身体能力で茂みを利用して身体を隠しながら素早く移動する。
「リルは左側から、俺は右側からだ」
「了解した。こちらは任せろ、主」
ツグナの指示に軽く頷いたリルは、彼と分かれて茂みの向こうに消える。ほぼ同時に遠くから戦闘音が響き、大地を通して微かな振動が身体に伝わる。
「あっちはもう始まってんのか。それじゃ……俺も行こうとするかね」
発動させていた魔闘技を維持しつつ、ツグナは乱立する木々の合間を縫うように地を駆ける。
(っ――!? 見えた!)
オークの群れの中心、その大将たる「オーク・エンペラー」の姿を捉えたツグナは、駆けながら腰に下げた刀の鯉口を切り、鞘走りを利用して速度を増した刀身でもって挨拶代わりの攻撃を仕掛ける。
「はあああああぁぁぁっ! 桜花一閃!」
刀術「桜花一閃」――その技は、抜き放った刀から一直線に相手を襲う『三日月形の空気の刃』を顕現させる技である。攻撃の範囲が直線という欠点はあるものの、射程があるため離れた敵も逃さず攻撃できる利点がある。
ツグナと接敵したオークたちは即座に迎撃の構えをとろうとするものの、放たれた技を視認することができずに呆気なく首から上がボトリと音を立てて地に落ちる。
しかし――
(チィッ……さすがは腐っても「エンペラー」ってか?)
ツグナは心の中で盛大に舌打ちをしつつ、オーク・エンペラーの顔を射抜くような鋭い目で見つめる。どうやらオーク・エンペラーは桜花一閃の特性をすぐに把握したらしく、部下の身体を楯代わりにして自分の身を射線上から外したのだ。
「ブモオオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
攻撃を受けたオークたちは、すぐさまツグナを仕留めようと動きを見せたその時、
――彼のいる位置とは反対の方角から、白い雷と凄まじい豪風がオークたちを襲った。
(カハッ! この計ったようなタイミング……コクヨウの指示か?)
オークたちの意識外からの、雷と風の魔法攻撃。ツグナはそれをリルのもつ風系統魔法と雷系統魔法との複合魔法である「白嵐槍」だと見当をつけると同時に、チラリとその目を上に向ける。
彼の予想を裏付けるように、攻撃が収まると同時に狼の遠吠えが耳に届き、上空では漆黒の鷹がゆっくりと旋回していた。
「グモアアアアアッ!!」
一方、圧倒的な物量を投じたオーク・エンペラーは、部下たちがみるみるうちにその数を減らし、三方面からの同時攻撃を前に右往左往する事態に、ついに怒りと苛立ちが頂点に達した。
オーク・エンペラーは背に装備していた巨大な両刃の戦斧を手にとると、「邪魔だ」と告げる代わりに近くに控えていたオークたちの首を纏めて刎ねる。
その後もオーク・エンペラーはゆっくりとツグナに向けて歩みながら、準備運動よろしく付近にいる部下たちの首を刎ねていく。
「……付いてきてくれた部下は俺の玩具ってか? 敵ながら上のクズっぷりには同情を禁じ得ないな」
ツグナは射出された砲弾の如く、勢いよく空へと飛ぶオークやオーク・ジェネラルの頭を視界に捉えつつ、ポツリと呟く。
やがて彼の前に姿を現したのは、同胞たちの血を浴び、怒りで目が血走ったオーク・エンペラーだった。エンペラーの持つ両刃斧は血糊がベッタリと付着し、見るからに「使いにくそう」という印象を抱く。
だが、ツグナはその血塗れの斧を「視た」瞬間、彼の警戒心が急上昇する。
――呪具:「最期の皇帝斧」。所有者と同種族の血を浴びることにより、その斧が奪った命の分、所有者の各種ステータスを「倍化」させ、斧自体の切れ味を始めとする殺傷性を向上させる。
(『呪具』、か……迷宮でも似たような呪具はこれまでも見たことはある。だが……「同胞殺し」を要求するものは初めてだな)
ツグナは「異界の鑑定眼」で確認したその両刃斧の特性に、思わず息を呑んだ。
一撃で多くの敵を屠った強力な突き技――一閃万破を放ったツグナは、どこかバツの悪い顔を浮かべながら二人に小さく謝罪する。
――あぁ、これでもう……大丈夫だ
それまでどこか影が差していた二人の表情が、ツグナの顔を視界に捉えた瞬間、急速に明るさを取り戻していく。
「ったく、遅いよツグ兄っ!」
「そうだよ。ツグナの注文はいっつもハードだけど、今回のは軽く目眩が起きるレベルだよ」
明るさに加え、心に余裕が生まれたことを象徴するように、アリアとソアラが揃って微笑みを浮かべつつも軽口を叩く。
「だから、悪かったって。里の方は比奈菊とフラン、リーナに任せてきたからさ。あの三人なら大抵のことは対処できるだろ。ってなワケで、こっからは俺も参戦だ。さぁて……いっちよ派手にやるか!」
「「うん!」」
ツグナの掛け声に対し、気合いを入れ直した二人が同時に頷き合う。その頼もしい返事に、ツグナは口の端を持ち上げながら呟いた。
「これだけ多数のお客様だ。こっちも相応のメンツでもてなさないと、な!」
笑いながらもツグナは左腕から引き抜いた魔書を開き、彼のユニーク魔法――《創造召喚魔法》により生み出された従者を召喚する。
「団体様のご到着だ! 出迎え頼むぜ! ――リル、サクヅキ、コクヨウ、白兎っ!」
青白い燐光が魔書から迸り、4本の柱となる。やがてその燐光が弾けて現れたのは、
――全身を銀灰色の見事な毛で覆われた狼のリル
――赫と蒼の双剣を携えたサクヅキ
――漆黒の身体で直上支援を行う鷹のコクヨウ
――ガンソード「クリアディーヴァ」を振るう白兎
いずれも直接戦闘に長けた、ツグナの従者たちである。
「リルは俺と左右から削る! サクヅキと白兎はソアラたちと共に正面から戦線を押し上げろ! コクヨウは上空からの支援と敵の後方からの牽制を頼む! ここが正念場だ! 気張って行くぞ!」
「「「「「「了解っ!!」」」」」」
ツグナの発破をかける言葉に、場の空気がピシリと引き締まる。先ほどまでのソアラとアリアの奮闘により、オークの群れは大分その数を減らしてはいるものの、未だ三桁を超える陣容を誇っている。
「それじゃあ――――散開っ!!」
ツグナの合図に従い、各人が持ち場に着く。前線はソアラ、キリア、サクヅキ、白兎の4名に任せ、ツグナはリルと共に魔闘技を用いて向上させた身体能力で茂みを利用して身体を隠しながら素早く移動する。
「リルは左側から、俺は右側からだ」
「了解した。こちらは任せろ、主」
ツグナの指示に軽く頷いたリルは、彼と分かれて茂みの向こうに消える。ほぼ同時に遠くから戦闘音が響き、大地を通して微かな振動が身体に伝わる。
「あっちはもう始まってんのか。それじゃ……俺も行こうとするかね」
発動させていた魔闘技を維持しつつ、ツグナは乱立する木々の合間を縫うように地を駆ける。
(っ――!? 見えた!)
オークの群れの中心、その大将たる「オーク・エンペラー」の姿を捉えたツグナは、駆けながら腰に下げた刀の鯉口を切り、鞘走りを利用して速度を増した刀身でもって挨拶代わりの攻撃を仕掛ける。
「はあああああぁぁぁっ! 桜花一閃!」
刀術「桜花一閃」――その技は、抜き放った刀から一直線に相手を襲う『三日月形の空気の刃』を顕現させる技である。攻撃の範囲が直線という欠点はあるものの、射程があるため離れた敵も逃さず攻撃できる利点がある。
ツグナと接敵したオークたちは即座に迎撃の構えをとろうとするものの、放たれた技を視認することができずに呆気なく首から上がボトリと音を立てて地に落ちる。
しかし――
(チィッ……さすがは腐っても「エンペラー」ってか?)
ツグナは心の中で盛大に舌打ちをしつつ、オーク・エンペラーの顔を射抜くような鋭い目で見つめる。どうやらオーク・エンペラーは桜花一閃の特性をすぐに把握したらしく、部下の身体を楯代わりにして自分の身を射線上から外したのだ。
「ブモオオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
攻撃を受けたオークたちは、すぐさまツグナを仕留めようと動きを見せたその時、
――彼のいる位置とは反対の方角から、白い雷と凄まじい豪風がオークたちを襲った。
(カハッ! この計ったようなタイミング……コクヨウの指示か?)
オークたちの意識外からの、雷と風の魔法攻撃。ツグナはそれをリルのもつ風系統魔法と雷系統魔法との複合魔法である「白嵐槍」だと見当をつけると同時に、チラリとその目を上に向ける。
彼の予想を裏付けるように、攻撃が収まると同時に狼の遠吠えが耳に届き、上空では漆黒の鷹がゆっくりと旋回していた。
「グモアアアアアッ!!」
一方、圧倒的な物量を投じたオーク・エンペラーは、部下たちがみるみるうちにその数を減らし、三方面からの同時攻撃を前に右往左往する事態に、ついに怒りと苛立ちが頂点に達した。
オーク・エンペラーは背に装備していた巨大な両刃の戦斧を手にとると、「邪魔だ」と告げる代わりに近くに控えていたオークたちの首を纏めて刎ねる。
その後もオーク・エンペラーはゆっくりとツグナに向けて歩みながら、準備運動よろしく付近にいる部下たちの首を刎ねていく。
「……付いてきてくれた部下は俺の玩具ってか? 敵ながら上のクズっぷりには同情を禁じ得ないな」
ツグナは射出された砲弾の如く、勢いよく空へと飛ぶオークやオーク・ジェネラルの頭を視界に捉えつつ、ポツリと呟く。
やがて彼の前に姿を現したのは、同胞たちの血を浴び、怒りで目が血走ったオーク・エンペラーだった。エンペラーの持つ両刃斧は血糊がベッタリと付着し、見るからに「使いにくそう」という印象を抱く。
だが、ツグナはその血塗れの斧を「視た」瞬間、彼の警戒心が急上昇する。
――呪具:「最期の皇帝斧」。所有者と同種族の血を浴びることにより、その斧が奪った命の分、所有者の各種ステータスを「倍化」させ、斧自体の切れ味を始めとする殺傷性を向上させる。
(『呪具』、か……迷宮でも似たような呪具はこれまでも見たことはある。だが……「同胞殺し」を要求するものは初めてだな)
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