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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain09》 憤怒の刃、召喚
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呪具――それは読んで字の如く、呪われた魔法道具を指す。大抵は迷宮の中で発見されることが多く、その危険性から国やギルドといった限られた組織による厳重な管理下に置かれるため、一般にはほとんど出回っていない。
呪具の多くは、その所有者に何らかの力を授けるものや、今回のように元々の力を増幅させるものなど、その効果は多岐にわたる。加えて、その使用効果は一般的な魔道具よりも効果が大きいことから、犯罪者集団に属する者たちの中には非合法なルートで呪具を持つ者も稀に存在する。
確かに呪具は一般的な魔法道具と比べて簡単に強大な力を手にすることができる代物ではある。しかしながら、その代わりに何らかの対価を伴うことがほとんどだ。
オーク・エンペラーの持つ両刃斧が「同胞殺し」を要求するように。
「ハッ! 仲間を殺して手に入れた力で俺を倒すってか? ジョートーだよ。やれるもんならやってみろやぁ!」
ツグナは呪具の効果でステータスが数十倍にも増幅されたオーク・エンペラーに対し、自らを鼓舞するように吠える。そして魔闘技によって向上された身体能力により、彼我の距離を瞬く間に詰めた。
オーク・エンペラーに迫るツグナの姿がわずかに揺らめくと同時、鏡写しのように駆ける彼の姿がいくつも現れる。
――魔闘技の派生スキル「夢幻燈火」。自身の魔力を放出して作られた幻影と共に、ツグナは抜き身の刀を構えて技を放つ。
「はああああああああああぁぁぁぁっ! ――万破繚乱っ!」
突きと斬撃の複合技、万破繚乱。突進によるエネルギーと幾重にも放たれる斬撃を織り交ぜたツグナの渾身の技である。
だが――
「ブルゥモアアアアアッ!!」
「ッ――!? ぐうっ!?」
オーク・エンペラーの放った単なる一薙ぎによって、ツグナは巻き起こる豪風と共にいとも容易く弾き飛ばされてしまう。
「チイッ! 単に振るっただけでコレかよ……」
何とか空中で姿勢を制御して叩きつけられる事態は回避したものの、刃と刃を打ち合わせて感じる相手の力に、ツグナの背を冷たい汗が流れていく。
「ブモアアアアアァァァッ!」
「ッ!? ヤベッ――!」
オーク・エンペラーが咆哮と共に振り下ろした斧に、ツグナは咄嗟に転がるようにしてその場から飛び退く。
直後、彼が先ほどまで立っていた場所を、轟音を伴った斧が叩き割った。また、攻撃に付随して発生した凄まじい衝撃波が周囲にばら撒かれ、その余波により太い幹を持つ木々が次々と圧し折られていく。
「これじゃあまるで、歩く災害だな……」
相手から距離を置き、軽く息を吐きながらツグナは率直な感想を漏らした。既に千を超えていたオークの群れは大きくその数を減らし、残るは上位種のオーク・エリートやオーク・ジェネラルを含めて100を切っているという状況にある。
(さすがにエリートやジェネラルも同時に相手できる余裕は無いか。やっぱり、その辺りはリルたちに任せるほかないか……)
意識を彼方に向ければ、未だに戦闘を繰り広げていると思われる音と微かな振動が伝わってくるものの、それは散開直後に耳にしたものよりも大分散発的なものとなってきている。
(このままいけば、オークの大行進がソアラの里とぶつかるのは避けられる。だが――)
オーク・エンペラーの姿をしかに収めつつ、ツグナはポツリと胸中に言葉を零す。
――目の前にいるコイツはどうなる?
不意にソアラの母レイラの笑みが彼の脳裏を掠める。彼女の意地の悪い笑顔と言葉に煽られたソアラの膨れっ面は、遠巻きに眺めていたツグナも思わず頬が緩んでしまう光景であった。
また、自分が作った料理を前に、「美味い美味い」と笑いながら接してくれた里の人たち。そして楽しかった宴会の思い出もツグナの脳裏に蘇る。
かつて人族から理不尽な仕打ちを受けた過去を持つ狐人族。だが、彼らはわずかな時間ではあれどツグナたちを迎え入れてくれた。もちろん先人たちが受けた辛い過去を忘れたわけではない。おそらく狐人族のソアラがいたからという側面はあっただろう。
(あぁ、そうだよ。彼らは「人族だから」と俺を色眼鏡で見ることなく、キチッと真正面から見て――そして迎え入れてくれた。ここは……この場所は、彼らが必死に生きて、そして守り続けてきた大切な場所だ。そして俺の仲間の故郷でもある。だから――それを土足で踏み潰そうとするヤツは……)
ツグナはスッと背を伸ばし、仁王立ちで真っ直ぐにオーク・エンペラーを見つめるとそれまで抜いていた刀を静かに鞘の中に戻す。
「――すべからく俺の『敵』だ。なら……」
口を開きつつ、彼は鞘に戻した刀の代わりに、左腕から魔書《クトゥルー》を引き抜く。
「相手が誰であろうと――叩っ斬る!」
そして手にした魔書を開き、その強大な力の一端をツグナは言葉を紡ぎながら顕現させる。
「来い――竜顎刀……」
彼の呼び声に応えるように、裂けた大地からひと振りの大太刀が姿を現す。現れた刀は、柄の先から刃先まで赤黒く染め上げあげられ、召喚したツグナの背丈とほぼ同じ刃渡りを持つ。そして、特徴的なのがその鍔にあしらわれた竜の頭蓋骨である。
この大太刀こそ魔書の持つ強大な力が具現化されたものであり、ツグナの持つユニーク魔法《創造召喚魔法》が持つ「大罪召喚」の第一原罪《憤怒》の力である。
「さて、征こうか……」
竜顎刀を担ぐように構えたツグナは、立ちはだかる難敵――オーク・エンペラーに向かって真っ直ぐに駆け出していった。
====================================================
以下、アトガキ。
・竜顎刀の初出は書籍版2巻参照。
呪具の多くは、その所有者に何らかの力を授けるものや、今回のように元々の力を増幅させるものなど、その効果は多岐にわたる。加えて、その使用効果は一般的な魔道具よりも効果が大きいことから、犯罪者集団に属する者たちの中には非合法なルートで呪具を持つ者も稀に存在する。
確かに呪具は一般的な魔法道具と比べて簡単に強大な力を手にすることができる代物ではある。しかしながら、その代わりに何らかの対価を伴うことがほとんどだ。
オーク・エンペラーの持つ両刃斧が「同胞殺し」を要求するように。
「ハッ! 仲間を殺して手に入れた力で俺を倒すってか? ジョートーだよ。やれるもんならやってみろやぁ!」
ツグナは呪具の効果でステータスが数十倍にも増幅されたオーク・エンペラーに対し、自らを鼓舞するように吠える。そして魔闘技によって向上された身体能力により、彼我の距離を瞬く間に詰めた。
オーク・エンペラーに迫るツグナの姿がわずかに揺らめくと同時、鏡写しのように駆ける彼の姿がいくつも現れる。
――魔闘技の派生スキル「夢幻燈火」。自身の魔力を放出して作られた幻影と共に、ツグナは抜き身の刀を構えて技を放つ。
「はああああああああああぁぁぁぁっ! ――万破繚乱っ!」
突きと斬撃の複合技、万破繚乱。突進によるエネルギーと幾重にも放たれる斬撃を織り交ぜたツグナの渾身の技である。
だが――
「ブルゥモアアアアアッ!!」
「ッ――!? ぐうっ!?」
オーク・エンペラーの放った単なる一薙ぎによって、ツグナは巻き起こる豪風と共にいとも容易く弾き飛ばされてしまう。
「チイッ! 単に振るっただけでコレかよ……」
何とか空中で姿勢を制御して叩きつけられる事態は回避したものの、刃と刃を打ち合わせて感じる相手の力に、ツグナの背を冷たい汗が流れていく。
「ブモアアアアアァァァッ!」
「ッ!? ヤベッ――!」
オーク・エンペラーが咆哮と共に振り下ろした斧に、ツグナは咄嗟に転がるようにしてその場から飛び退く。
直後、彼が先ほどまで立っていた場所を、轟音を伴った斧が叩き割った。また、攻撃に付随して発生した凄まじい衝撃波が周囲にばら撒かれ、その余波により太い幹を持つ木々が次々と圧し折られていく。
「これじゃあまるで、歩く災害だな……」
相手から距離を置き、軽く息を吐きながらツグナは率直な感想を漏らした。既に千を超えていたオークの群れは大きくその数を減らし、残るは上位種のオーク・エリートやオーク・ジェネラルを含めて100を切っているという状況にある。
(さすがにエリートやジェネラルも同時に相手できる余裕は無いか。やっぱり、その辺りはリルたちに任せるほかないか……)
意識を彼方に向ければ、未だに戦闘を繰り広げていると思われる音と微かな振動が伝わってくるものの、それは散開直後に耳にしたものよりも大分散発的なものとなってきている。
(このままいけば、オークの大行進がソアラの里とぶつかるのは避けられる。だが――)
オーク・エンペラーの姿をしかに収めつつ、ツグナはポツリと胸中に言葉を零す。
――目の前にいるコイツはどうなる?
不意にソアラの母レイラの笑みが彼の脳裏を掠める。彼女の意地の悪い笑顔と言葉に煽られたソアラの膨れっ面は、遠巻きに眺めていたツグナも思わず頬が緩んでしまう光景であった。
また、自分が作った料理を前に、「美味い美味い」と笑いながら接してくれた里の人たち。そして楽しかった宴会の思い出もツグナの脳裏に蘇る。
かつて人族から理不尽な仕打ちを受けた過去を持つ狐人族。だが、彼らはわずかな時間ではあれどツグナたちを迎え入れてくれた。もちろん先人たちが受けた辛い過去を忘れたわけではない。おそらく狐人族のソアラがいたからという側面はあっただろう。
(あぁ、そうだよ。彼らは「人族だから」と俺を色眼鏡で見ることなく、キチッと真正面から見て――そして迎え入れてくれた。ここは……この場所は、彼らが必死に生きて、そして守り続けてきた大切な場所だ。そして俺の仲間の故郷でもある。だから――それを土足で踏み潰そうとするヤツは……)
ツグナはスッと背を伸ばし、仁王立ちで真っ直ぐにオーク・エンペラーを見つめるとそれまで抜いていた刀を静かに鞘の中に戻す。
「――すべからく俺の『敵』だ。なら……」
口を開きつつ、彼は鞘に戻した刀の代わりに、左腕から魔書《クトゥルー》を引き抜く。
「相手が誰であろうと――叩っ斬る!」
そして手にした魔書を開き、その強大な力の一端をツグナは言葉を紡ぎながら顕現させる。
「来い――竜顎刀……」
彼の呼び声に応えるように、裂けた大地からひと振りの大太刀が姿を現す。現れた刀は、柄の先から刃先まで赤黒く染め上げあげられ、召喚したツグナの背丈とほぼ同じ刃渡りを持つ。そして、特徴的なのがその鍔にあしらわれた竜の頭蓋骨である。
この大太刀こそ魔書の持つ強大な力が具現化されたものであり、ツグナの持つユニーク魔法《創造召喚魔法》が持つ「大罪召喚」の第一原罪《憤怒》の力である。
「さて、征こうか……」
竜顎刀を担ぐように構えたツグナは、立ちはだかる難敵――オーク・エンペラーに向かって真っ直ぐに駆け出していった。
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以下、アトガキ。
・竜顎刀の初出は書籍版2巻参照。
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