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続編幕前話 ――Before the curtain――
《Before the curtain10》 呪具と魔剣
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「行け――哭竜枝葉」
ツグナは牽制とばかりに、疾走しながらも竜顎刀を横薙ぎに振るう。瞬間、その振われた刀の軌道に沿って細い枝にも似た赤黒い竜が幾本も伸び、オーク・エンペラーの身体に絡み付くと次々にその牙を突き立てる。
「ブルモアアアアアアアアァァァァッ!」
赤黒い竜にギチギチと締め付けられ、全身を噛み付かれたオーク・エンペラーは、たまらず悲鳴を上げてその増幅された筋力でもって絡み付く竜たちをブチブチと音を立てて引き千切る。時間にしてわずか数分にも満たない間の、時間稼ぎ、足止めにすらならない拘束時間ではある。
しかしながら、疾駆するツグナにとってはそのわずかな時間が最大の好機を生む。
「――万破繚乱っ!」
突進によって生じた運動エネルギーをそのまま攻撃に乗せた、貫通力を誇る突き技「一閃万破」。この技に「斬撃」による切断力を持つ技「百花繚乱」が合わさった複合技である「万破繚乱」を、今度は手にした竜顎刀でもって繰り出す。
魔書の力が武具という形となって顕在化する「大罪召喚」。その源たる「魔書の力」とは、結論から言ってしまえば「神の力」である。紆余曲折を経て魔書という形となったその神の力が、ツグナの持つ「大太刀」という姿で現れるのがこの竜顎刀だ。
神の力という強大な力の一端を具現化する竜顎刀は、その刀自体の大きさもさることながら、耐久性という面でも一線を画したものとなる。
ツグナの相棒たる爛顎樟刀は、始祖竜・アイオゲートの鱗を原料に、これを製錬した竜神鋼というインゴットが素材となっている。この素材から生み出された彼の相棒は、他の冒険者たちが装備する刀剣よりも数段、いや下手をすれば数十段は上の一振りとなっており、耐久性も同様に優れてはいる。
しかし、その竜神鋼をも超える刀がこの竜顎刀だ。「大罪召喚」を発動させた場合のみという制約はあるものの、現状ではこの大太刀がツグナの持てる刀では最高の一振りとなっている。
「ブグモオオオオオオォォォッ!!」
その最高の耐久性を持つ竜顎刀で放たれた二度目の万破繚乱。身体に纏わり付いていた赤黒い竜たちを引き千切ったオーク・エンペラーは、当然ながら真正面から向かってくるツグナの姿はその目に捉えられていた。
一度はその身に受けたことがある技であるが故に、威力・速度・攻撃回数・ダメージの総量はある程度の見当がつく。
そのため、彼の放った万破繚乱に対し、オーク・エンペラーは手にした呪具の両刃斧「最期の皇帝斧」を楯のように眼前に広げながら防御体勢をとった。
「だりゃあああああああぁぁぁっ!」
呪具の両刃斧を楯に、ツグナの怒濤の攻撃を防ぎながらオーク・エンペラーの表情が不気味に歪む。
この攻撃を凌ぎ切れれば――
そんな思惑が透けて見えるオーク・エンペラーには、その先にイメージする勝利を、今か今かと待ち望む期待と愉悦に満ちた暴力的な笑みが浮かぶ。
だが――
ツグナの放った攻撃は、単にオーク・エンペラー自体にダメージを与えることを目的としてはいなかった。彼の真の狙い――それは、目の前に行く手を阻むように掲げられた呪具そのものである。
(「異界の鑑定眼」で視た使用の効果対象は、あくまでも所有者のステータスに限定されている。「同胞殺し」によってこの斧自体の耐久値が上がるわけじゃあない。なら、この斧さえ砕ければ……っ!!)
最優先事項は武具の破壊。それさえ達成できれば勝機は見えてくる――ツグナはそんな考えから、随一の耐久性を誇る竜顎刀を召喚し、「防ぎやすいように」わざと真正面から攻撃を仕掛けた。
一度放った万破繚乱を再度放ったのは、「防御する」という選択へ誘導するためだ。
戦闘において、一度手札を晒した技を再び見せるのはかなりのリスクを伴う。それは最初に受けた際の記憶をもとに「どうすれば比較的安全に防げるか?」と相手に分析されてしまうからだ。
もちろん、非常に高威力かつ広範囲に及ぶ、隙の無い攻撃ならば、再度放つ意味はあろう。
しかし、そういった「防いでも無駄」と相手に思わせる攻撃は、軒並み消費する魔力量が多かったり制限があったりとシビアな条件を伴うこととなり易い。
そうした点を鑑みれば、ツグナの狙いは直接本体へ攻撃を仕掛けるよりも、幾分勝機は見出せるものと言えよう。だが、これは一種の賭けに近い。武器破壊の確率はそもそも低く、その武器自体がどれだけ摩耗や衝撃に耐えられるのかは、装備する武具によって異なり、その使用回数・頻度によっても違ってくるためだ。
また、こまめにメンテナンスしていればそれだけ壊れにくくなるのは道理だが、どのくらいの頻度でメンテナンスしているかは個々人の状況によるからだ。
もっとも、魔物はそもそも武具をメンテナンスするといった概念は無いため、後者は無視できるとしても、やはり不確定要素は大きい。
「っ――! だああああああああああぁぁぁっ!」
しかしながら、もはや災害とも呼べるオーク・エンペラーの攻撃は、一事が万事、まともに食らったら最後、その命は菓子の包み紙にも似た軽さでいとも簡単に消え失せる。
だからこそ、反撃の隙も与えぬ、怒濤の攻撃をするほか選択肢が無かった。
もちろん、これは分の悪い賭けではあるとの認識はツグナ自身も抱いてはいる。だが、現実としてステータスを「倍化」させているオーク・エンペラーに対抗できる策は、これしか無いというのが本音であった。
ツグナとの戦闘に入る直前、オーク・エンペラーは「同胞殺し」の効果を発動させた。
その両刃斧の餌食となったオークたちは、少なく見積もっても優に20は超えている。仮に筋力の値が100とした場合、20倍ともなればその値は20,000に達し、ツグナのそれを大きく上回る。もちろん、オーク・エンペラーのステータス構成要素の数値には個体差があるため、一括りにすることはできない。
(――チィッ! クソッ! まだかよ! まだ壊れないのかっ!?)
半ば祈るような気持ちで技を放ち続けるツグナ。突進力と貫通力、そして切断力を併せ持つ万破繚乱は彼の刀術スキルの中でも最大の攻撃力を誇る技だ。
幾度となく死に直面した場面に遭遇しても、ツグナは磨き上げてきた技でそれを回避してきた。
今回ばかりは駄目なのか――襲いくる不安を強靭な精神力で捩じ伏せ、同時に「俺が信じなくてどうする!」と叱咤しつつ眼前の敵に向けて技を放つ。
「あ゛あ゛あ゛あああああああああぁぁぁっ!!」
もはや言葉にすらならない声の雄叫びを上げながら、ツグナはただひたすらに竜顎刀の刃を斧に突き立てる。
――ピシィッ
幾度となく、回数さえ覚えていないほど打ち据えた時。
ツグナの願いが現実として現れる。
「っ――!!! 行っけえええええぇぇぇ!!!」
呪具の刃の先、そこに生じたわずかな罅割れ。それを見逃さず、ツグナはここぞとばかりに、一気呵成に刃を打ち込む。
――そして、
「ブルモアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!?」
オーク・エンペラーの力の象徴たる両刃斧の呪具――最期の皇帝斧は、ツグナの召喚した竜の顎に喰われ、粉々に砕けて消える。
得物を失い、呪具の効果が切れたオーク・エンペラーは、続けて襲い来る竜顎刀の刃に成す術なく、その身体を切り刻まれた。
「はぁ……はぁ……やってやったぞ、チクショウが……まったく、マジで割に合わない仕事だった」
竜顎刀を地に突き刺し、それを杖代わりに肩を何度も上下させて荒い息を上げたツグナは、そのまま崩れ落ちるように大地に四肢を投げ出したのだった。
ツグナは牽制とばかりに、疾走しながらも竜顎刀を横薙ぎに振るう。瞬間、その振われた刀の軌道に沿って細い枝にも似た赤黒い竜が幾本も伸び、オーク・エンペラーの身体に絡み付くと次々にその牙を突き立てる。
「ブルモアアアアアアアアァァァァッ!」
赤黒い竜にギチギチと締め付けられ、全身を噛み付かれたオーク・エンペラーは、たまらず悲鳴を上げてその増幅された筋力でもって絡み付く竜たちをブチブチと音を立てて引き千切る。時間にしてわずか数分にも満たない間の、時間稼ぎ、足止めにすらならない拘束時間ではある。
しかしながら、疾駆するツグナにとってはそのわずかな時間が最大の好機を生む。
「――万破繚乱っ!」
突進によって生じた運動エネルギーをそのまま攻撃に乗せた、貫通力を誇る突き技「一閃万破」。この技に「斬撃」による切断力を持つ技「百花繚乱」が合わさった複合技である「万破繚乱」を、今度は手にした竜顎刀でもって繰り出す。
魔書の力が武具という形となって顕在化する「大罪召喚」。その源たる「魔書の力」とは、結論から言ってしまえば「神の力」である。紆余曲折を経て魔書という形となったその神の力が、ツグナの持つ「大太刀」という姿で現れるのがこの竜顎刀だ。
神の力という強大な力の一端を具現化する竜顎刀は、その刀自体の大きさもさることながら、耐久性という面でも一線を画したものとなる。
ツグナの相棒たる爛顎樟刀は、始祖竜・アイオゲートの鱗を原料に、これを製錬した竜神鋼というインゴットが素材となっている。この素材から生み出された彼の相棒は、他の冒険者たちが装備する刀剣よりも数段、いや下手をすれば数十段は上の一振りとなっており、耐久性も同様に優れてはいる。
しかし、その竜神鋼をも超える刀がこの竜顎刀だ。「大罪召喚」を発動させた場合のみという制約はあるものの、現状ではこの大太刀がツグナの持てる刀では最高の一振りとなっている。
「ブグモオオオオオオォォォッ!!」
その最高の耐久性を持つ竜顎刀で放たれた二度目の万破繚乱。身体に纏わり付いていた赤黒い竜たちを引き千切ったオーク・エンペラーは、当然ながら真正面から向かってくるツグナの姿はその目に捉えられていた。
一度はその身に受けたことがある技であるが故に、威力・速度・攻撃回数・ダメージの総量はある程度の見当がつく。
そのため、彼の放った万破繚乱に対し、オーク・エンペラーは手にした呪具の両刃斧「最期の皇帝斧」を楯のように眼前に広げながら防御体勢をとった。
「だりゃあああああああぁぁぁっ!」
呪具の両刃斧を楯に、ツグナの怒濤の攻撃を防ぎながらオーク・エンペラーの表情が不気味に歪む。
この攻撃を凌ぎ切れれば――
そんな思惑が透けて見えるオーク・エンペラーには、その先にイメージする勝利を、今か今かと待ち望む期待と愉悦に満ちた暴力的な笑みが浮かぶ。
だが――
ツグナの放った攻撃は、単にオーク・エンペラー自体にダメージを与えることを目的としてはいなかった。彼の真の狙い――それは、目の前に行く手を阻むように掲げられた呪具そのものである。
(「異界の鑑定眼」で視た使用の効果対象は、あくまでも所有者のステータスに限定されている。「同胞殺し」によってこの斧自体の耐久値が上がるわけじゃあない。なら、この斧さえ砕ければ……っ!!)
最優先事項は武具の破壊。それさえ達成できれば勝機は見えてくる――ツグナはそんな考えから、随一の耐久性を誇る竜顎刀を召喚し、「防ぎやすいように」わざと真正面から攻撃を仕掛けた。
一度放った万破繚乱を再度放ったのは、「防御する」という選択へ誘導するためだ。
戦闘において、一度手札を晒した技を再び見せるのはかなりのリスクを伴う。それは最初に受けた際の記憶をもとに「どうすれば比較的安全に防げるか?」と相手に分析されてしまうからだ。
もちろん、非常に高威力かつ広範囲に及ぶ、隙の無い攻撃ならば、再度放つ意味はあろう。
しかし、そういった「防いでも無駄」と相手に思わせる攻撃は、軒並み消費する魔力量が多かったり制限があったりとシビアな条件を伴うこととなり易い。
そうした点を鑑みれば、ツグナの狙いは直接本体へ攻撃を仕掛けるよりも、幾分勝機は見出せるものと言えよう。だが、これは一種の賭けに近い。武器破壊の確率はそもそも低く、その武器自体がどれだけ摩耗や衝撃に耐えられるのかは、装備する武具によって異なり、その使用回数・頻度によっても違ってくるためだ。
また、こまめにメンテナンスしていればそれだけ壊れにくくなるのは道理だが、どのくらいの頻度でメンテナンスしているかは個々人の状況によるからだ。
もっとも、魔物はそもそも武具をメンテナンスするといった概念は無いため、後者は無視できるとしても、やはり不確定要素は大きい。
「っ――! だああああああああああぁぁぁっ!」
しかしながら、もはや災害とも呼べるオーク・エンペラーの攻撃は、一事が万事、まともに食らったら最後、その命は菓子の包み紙にも似た軽さでいとも簡単に消え失せる。
だからこそ、反撃の隙も与えぬ、怒濤の攻撃をするほか選択肢が無かった。
もちろん、これは分の悪い賭けではあるとの認識はツグナ自身も抱いてはいる。だが、現実としてステータスを「倍化」させているオーク・エンペラーに対抗できる策は、これしか無いというのが本音であった。
ツグナとの戦闘に入る直前、オーク・エンペラーは「同胞殺し」の効果を発動させた。
その両刃斧の餌食となったオークたちは、少なく見積もっても優に20は超えている。仮に筋力の値が100とした場合、20倍ともなればその値は20,000に達し、ツグナのそれを大きく上回る。もちろん、オーク・エンペラーのステータス構成要素の数値には個体差があるため、一括りにすることはできない。
(――チィッ! クソッ! まだかよ! まだ壊れないのかっ!?)
半ば祈るような気持ちで技を放ち続けるツグナ。突進力と貫通力、そして切断力を併せ持つ万破繚乱は彼の刀術スキルの中でも最大の攻撃力を誇る技だ。
幾度となく死に直面した場面に遭遇しても、ツグナは磨き上げてきた技でそれを回避してきた。
今回ばかりは駄目なのか――襲いくる不安を強靭な精神力で捩じ伏せ、同時に「俺が信じなくてどうする!」と叱咤しつつ眼前の敵に向けて技を放つ。
「あ゛あ゛あ゛あああああああああぁぁぁっ!!」
もはや言葉にすらならない声の雄叫びを上げながら、ツグナはただひたすらに竜顎刀の刃を斧に突き立てる。
――ピシィッ
幾度となく、回数さえ覚えていないほど打ち据えた時。
ツグナの願いが現実として現れる。
「っ――!!! 行っけえええええぇぇぇ!!!」
呪具の刃の先、そこに生じたわずかな罅割れ。それを見逃さず、ツグナはここぞとばかりに、一気呵成に刃を打ち込む。
――そして、
「ブルモアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!?」
オーク・エンペラーの力の象徴たる両刃斧の呪具――最期の皇帝斧は、ツグナの召喚した竜の顎に喰われ、粉々に砕けて消える。
得物を失い、呪具の効果が切れたオーク・エンペラーは、続けて襲い来る竜顎刀の刃に成す術なく、その身体を切り刻まれた。
「はぁ……はぁ……やってやったぞ、チクショウが……まったく、マジで割に合わない仕事だった」
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