黒の創造召喚師

幾威空

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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】

第017話 いざ征かん、学校という名の日常へ②

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 ――私立白桜はくおう高等学院。通称、「白学ハクガク」。この学校がツグナたちの通う学校となっている。

 中学・高校・大学まで揃う一貫校で、生徒数は1,000名を超える進学校と広く認知されている。

 都内の一等地に建つ学舎は、学校名に由来する白と桜色を基調とした格調高い建物である。付近に大学も併設されていることから、一部のクラスでは高校のレベルを超えた専門的なカリキュラムを導入し、専門知識及び最先端技術を身につけられる環境が整っている。

 白桜学院は、そのカリキュラムにより「特進I類」・「特進II類」・「外国語学科」・「普通科」に別れ、クラスもそれに応じて分けられている。

 家を出発したツグナたちは、電車と徒歩で学院に向かった。トータルで40分ばかりの道のりだったが、ツグナ自身「これなら走った方が早く着くな……」と感じたのはここだけの話だったりする。
 スキル「魔闘技」で身体能力を向上させれば、屋根伝いに直線距離で移動することも可能なのだから。

 そんな考えを頭の片隅に置きつつ、校舎の前に掲げられた掲示板の前に立ったツグナたちは、そこに記されたクラス分け表で自分の名前を確認している。
 
「えっと……俺は普通科か」
「私は……特進II類だね。ツグナとは別かぁ~」
「あ、私も特進II類でソアラと同じだ。ツグ兄とは離れちゃうなぁ……」

 ディエヴスの手紙には学校名だけが記されており、そのぐたあなクラスまでは記載がなかった。ツグナはディエヴスなりの「ドッキリ」かと推測したが、単にそれぞれの適性から割り振った結果なのではないかとも思えた。

 学校に来る前に確認したパンフレットには、「特進I類」は主に技工系、「特進II類」はスポーツ系とそのカリキュラムに特色が見られる。この特色を見れば、レギオンの中でも前衛を務めるソアラとアリアが「特進II類」であることは納得できるというものだろう。

 また、

「……むぅ。私は特進I類ですか。アリアと同様、私も兄さんとは別クラスですね」
「私もリーナと同じね」

 後衛として魔法で攻撃や支援を担うリーナとキリアは、魔法という学術的要素の高い分野との相性から技術的な授業が豊富な特進I類のクラスになっていた。

「まぁクラスは見事にバラバラだが、合同で行われる授業もあるみたいだし、そんなに落ち込まなくても大丈夫さ。昼休みにも会えるだろ?」
「まぁ、そうだね。それに、クラスが違うとその授業のことを聞くのも楽しいかも。特進I類とII類じゃあ、授業内容が大きく違うみたいだし」
 ツグナの言葉に、ソアラが笑顔を交えながら返す。

「うむぅ……しかし、クラスが分かれてたら兄さんの勇姿が……」
「はいはい。リーナ姉、愚痴もそこまで。さっさと行かないと遅刻しちゃうよ~」
 一方、リーナは未だに不満気な様子を見せていたが、アリアに押されて渋々ながら割り振られた自分のクラスへと向かっていく。

 そんな形で迎えた登校初日だったが、この時、まだツグナ――いや、彼を除く・・・・面々は知らなかった。

 ――自分たちの存在が周囲にどんな影響を与えているかなど。

「…………」
 特進I類Aクラス―一般的に「特IAクラス」とも呼ばれる―に所属することになったリーナは、周囲から向けられる視線にある種のむず痒さと困惑の思いを抱いていた。

「……なぁ、オイ」
「あぁ……凄いよな」

 その視線の大多数は、同じクラスとなった男子生徒からのものである。視線に気づいて顔をそちらに向けると、だいたいの確率で顔を赤く染めて明後日の方へと目を逸らすのだ。

(……? おかしいですね。纏装の指輪アイテムの効果はちゃんと発動していると思うのだけれど……)

 今のリーナは事前にディエヴスに要求した通り、「黒髪黒眼」の容姿になっている。これは学校に行く前に鏡で見たので、間違いはない。

 だったらどうして……?

 そんな風に自席で考えを巡らせていた彼女に、ふと横から声がかかる。

「私は神崎かんざきかえでっていうの。よろしくね」
「えっ? あ、あぁ……よろしくお願いしますね、神崎さん」
 かけられた声に思考を中断されたリーナは、ハッと我を取り戻すと、わずかな間を置いて軽く頭を下げる。

「あぁ、楓でいいよ。代わりに私は何て呼べばいいかな、お隣さん?」
 にぱっと朗らかに咲く花わわ思わせる笑みを浮かべながら、楓が訊ねる。

「ではリーナと。家族もそう呼んでいるので」
 問われたリーナも微笑を湛えて言葉を返す。

「オッケー、それじゃあ私もリーナって呼ぶわね。でも……なんだか外国人みたいな呼び方ね」
 葉に衣を着せない、ストレートな楓からの感想に、リーナはやや口を開けて呆けた後、くすくすと笑う。

「えっ? いや、何か変だった?」
「ううん、何でもないの。そうね、外国の人のような呼び方よね。でも仕方がないわ……だって本当に日本の外に・・・・・住んでいたのだから」
 リーナは笑いながらも楓に理由を説明する。正確には日本―いや、地球とは異なる場所―から来たというのが正しいのだが、それをわざわざ告げても意味はない。

「そうなんだ」
「えぇ。名前は『佐伯さえき莉奈りな』なのだけれど、昔からリーナと呼ばれているから、すっかりこの呼び方に慣れちゃって。だから、楓もそう呼んでくれると嬉しいわ」
「うん、分かったわ」
 リーナの言葉に、楓は首を縦に振って頷いた。

 このリーナと楓の会話にもあるように、学校に通うにあたり、ツグナ・リーナ・アリアは名前を日本的なものに変えた。
 もっとも、「変えた」とはいってもそれは単に表向きのものであり、「兄妹きょうだいとして」下手に疑われることを回避した結果でしかない。

 ツグナは転生前の名前である「佐伯さえき継那つぐな」に。
 リーナは「佐伯さえき莉奈りな」に、アリアは「佐伯さえき亞理亞ありあ」としている。

 ちなみに、ソアラとキリアは変更してはいない。なお、付け加えるならば、ツグナたちが同居している理由としては、「リーナとアリアは兄妹で、他の面々は外国に渡った曽祖父の子―つまりは親戚―です」というものにしている。

 また、ツグナたちも「最近まで外国に住んでいた」という体にしておけば、先の呼び方に対する違和感も抵抗なく受け入れられ易い。言語については「全言語完全理解」で対応できる。

(まさか早速この設定が生きてくるとは……兄さんはどうしてこういう細かいところに気付けるのかしら)

 楓とのやり取りを終えたリーナは、ふと自分の兄の思慮深さに驚きと感心の念を抱く。
 実はこの「設定」についても、ツグナが過去に読んでいたライトノベルからの受け売りから事前にディエヴスと話し合って決めたことなのだが、リーナ自身はそれを知らない。
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