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その後のお話
2.
さよならした人たちのその後② 前編:
わたしは結婚して侯爵家に入る予定だった。いや、当主として君臨するはずだった。エリザベスと結婚すれば夫として実質的に当主になれたのだ。
エリザベスは「わたしでは侯爵家は運営できませんからすべてリンハルト様にお任せしたいです」と甘えた声で言っていたし、その母親も「二人はとてもお似合い。この家は第一子が家を継ぐのだし、リンハルト様は次期当主のエリザベスと結婚するべきだわ」と言っていた。
それなのに今は家で軟禁状態だ。エリザベスと侯爵家の別邸にいるところをリアーネたちに踏み込まれた。浮気をしたと思っていたリアーネは浮気をしていないと言うし、エリザベスは次期当主になれないと言う。そしてそのまま慰謝料を請求され家に帰された。一緒についてきた人間に渡された手紙を読むなり父と兄は大激怒した。わたしは婚約者と一緒にいただけなのに……。
たしかにエリザベスと結婚したいと言ったとき父にはエリザベスと別れてリアーネとやり直せと言っていた。だが、浮気をするような女とは結婚したくないし、自分は当主の夫となるために準備してきたのだ。次期当主であるエリザベスと結婚するのは当然だろう。侯爵家に入れば、さらに当主として実権を握ることができれば父や兄たちを見返すことができる。わたしは兄より優秀なのだから。
しかし、エリザベスが当主になれないのなら話は別だ。
父に部屋から出ることを許されたが目の前には父がいる。今日も説教だろうか。家族は顔を合わせれば文句しか言わない。わたしはぼんやりと何度目かわからない話を聞いていた。
「お前はなんということをしてくれたんだ! 慰謝料だけでなくこれまでの支援金も返さなくてはならない。関係する取引も駄目になる」
だが、わたしは父上に確かめなければいけないことがある。
「父上、リアーネが浮気をしていないというのはほんとうですか?」
「なぜ疑う? ありえないだろう。リアーネ嬢は夜会にはほとんど出ないし、変な人間は叔父の伯爵夫妻が近づけないようにしている」
父とは他に会話をしたような気もするがほとんど覚えていない。わたしは気がつけば部屋にいた。
リアーネは浮気をしていないと言っていたし、父上もそう言っていた。ということはやはりリアーネはわたしのことが好きなのだ。エリザベスとの結婚を反対しないのも愛するわたしの気持ちを尊重するために身を引いただけに違いない。昔からリアーネはわたしの言うことを尊重し、一歩身を引いてきていた。今回もそうなのだろう。慰謝料の請求も請求すればわたしの方から謝ってくると思ってのことだ。
であればわたしが迎えにいかなくてはいけない。きっとわたしが来るのをまっているのだろう。
わたしがリアーネの婚約者に選ばれたのもわたしが優秀だったからだ。わたしのほうが優秀なのに兄がいるから家は継げない。わたしがどれだけ優秀でも父はわたしを後継者として認めなかった。だが、リアーネの祖父はわたしを侯爵家の婿にと言ってくれた。リアーネもわたしを尊敬の目で見ていた。わたしは認められたようで嬉しかった。
「リアーネ、彼がリンハルト殿。おまえの婚約者だ。優秀な人間だから彼からたくさん学びなさい」
「はい、お祖父様。はじめまして、リンハルト様。リアーネと申します。とても優秀な方なのですね。ぜひいろいろ教えてください。素敵な方と婚約できて嬉しいです」
リアーネはきらきらとした目でわたしをみていたし、それが心地よかった。だが、リアーネと婚約して数年が過ぎれば現実が見えてくる。
自分はリアーネより優秀だと思っていたが、それはただわたしが年上で先に多くのことを学んでいるからだった。認めたくはなかったがリアーネは自分より優秀だったんだと思う。リアーネは親戚のルドニークに難しい本をもらうたびに喜んでいた。リアーネが“ルド兄様”と呼び慕っているのは正直おもしろくなかったが、完全に兄として慕っているようだったし、わたしを婚約者として立ててくれていたので気にならなかった。
エリザベスと初めて会ったときはリアーネとはあまり似ていないと思った。母親が違うから当然といえば当然だが立ち振る舞いが全然違うのだ。ここでもリアーネがよく教育されていることを実感した。
だから当時はエリザベスのことは正直なんとも思わなかった。社交界デビューする頃には立ち振る舞いは少し改善したがリアーネと比べればかなり見劣りする。それでもその容姿とスタイルで人目を引いていた。それなのにエリザベスは適齢期になっても婚約者は決まらない。
リアーネが社交界デビューするとさらにリアーネの評判は高まっていった。最初は良い気分だったが、比較され自分のほうがふさわしいのではと言いだす人間まで現れた。わたしはリアーネの添え物ではない。
そんな頃にエリザベスはわたしに近づいてきた。リアーネに会いに行けば勉強や仕事の途中だと待たされることはよくある。そんな時、決まって相手をしてくれたのはエリザベスだった。
「リンハルト様のような人がわたしの結婚相手だったらいいのに……」
「リアーネがわたしの名をかたって遊んでいるんです。結婚前に遊んでおきたい。でも婚約者がいるから姉の名を使わないと問題になると言って……。おかげでわたしの結婚がきまらないんです」
「きっとリアーネは結婚したらわたしを追い出すんだわ。あの子のせいで結婚できないというのに……」
「リンハルト様はほんとうにすごい方なのね」
「お父様とお母様はわたしが次期当主になったらどうかと言うの。リアーネが当主になったらわたしの居場所がなくなってしまうでしょう? わたしは長女だから当主になれるのですって。ねぇ、リンハルト様……」
エリザベスはわたしをすごいと言ってくれる。母親譲りの容姿で侯爵家の娘にもかかわらず結婚が決まらないのはかわいそうだ。しかも腹違いの妹のせいで……。浮気するような婚約者よりかわいそうなエリザベスを守らなければいけない。しかも、エリザベスと結婚すればわたしに侯爵家を任せてもらえる。リアーネの浮気に目をつぶって結婚したとしても当主はリアーネだ。大きな裁量権はない。だが、エリザベスならわたしを立ててくれるし、頼って甘えてくれる。容姿もスタイルもいい。こんなにいい話はない。
だが、それは全て誤解だったというのだ。リアーネはわたしのことを想っているのだからやり直せる。やり直せばわたしは侯爵家の人間だ。家族はわたしのことを見直すだろう。怒りも収まるはずだ。
まずは手紙を書こう。わたしの想いを伝えれば慰謝料も取り下げてやり直したいといってくるに違いない。わたしはリアーネへ手紙を書いた。
わたしは結婚して侯爵家に入る予定だった。いや、当主として君臨するはずだった。エリザベスと結婚すれば夫として実質的に当主になれたのだ。
エリザベスは「わたしでは侯爵家は運営できませんからすべてリンハルト様にお任せしたいです」と甘えた声で言っていたし、その母親も「二人はとてもお似合い。この家は第一子が家を継ぐのだし、リンハルト様は次期当主のエリザベスと結婚するべきだわ」と言っていた。
それなのに今は家で軟禁状態だ。エリザベスと侯爵家の別邸にいるところをリアーネたちに踏み込まれた。浮気をしたと思っていたリアーネは浮気をしていないと言うし、エリザベスは次期当主になれないと言う。そしてそのまま慰謝料を請求され家に帰された。一緒についてきた人間に渡された手紙を読むなり父と兄は大激怒した。わたしは婚約者と一緒にいただけなのに……。
たしかにエリザベスと結婚したいと言ったとき父にはエリザベスと別れてリアーネとやり直せと言っていた。だが、浮気をするような女とは結婚したくないし、自分は当主の夫となるために準備してきたのだ。次期当主であるエリザベスと結婚するのは当然だろう。侯爵家に入れば、さらに当主として実権を握ることができれば父や兄たちを見返すことができる。わたしは兄より優秀なのだから。
しかし、エリザベスが当主になれないのなら話は別だ。
父に部屋から出ることを許されたが目の前には父がいる。今日も説教だろうか。家族は顔を合わせれば文句しか言わない。わたしはぼんやりと何度目かわからない話を聞いていた。
「お前はなんということをしてくれたんだ! 慰謝料だけでなくこれまでの支援金も返さなくてはならない。関係する取引も駄目になる」
だが、わたしは父上に確かめなければいけないことがある。
「父上、リアーネが浮気をしていないというのはほんとうですか?」
「なぜ疑う? ありえないだろう。リアーネ嬢は夜会にはほとんど出ないし、変な人間は叔父の伯爵夫妻が近づけないようにしている」
父とは他に会話をしたような気もするがほとんど覚えていない。わたしは気がつけば部屋にいた。
リアーネは浮気をしていないと言っていたし、父上もそう言っていた。ということはやはりリアーネはわたしのことが好きなのだ。エリザベスとの結婚を反対しないのも愛するわたしの気持ちを尊重するために身を引いただけに違いない。昔からリアーネはわたしの言うことを尊重し、一歩身を引いてきていた。今回もそうなのだろう。慰謝料の請求も請求すればわたしの方から謝ってくると思ってのことだ。
であればわたしが迎えにいかなくてはいけない。きっとわたしが来るのをまっているのだろう。
わたしがリアーネの婚約者に選ばれたのもわたしが優秀だったからだ。わたしのほうが優秀なのに兄がいるから家は継げない。わたしがどれだけ優秀でも父はわたしを後継者として認めなかった。だが、リアーネの祖父はわたしを侯爵家の婿にと言ってくれた。リアーネもわたしを尊敬の目で見ていた。わたしは認められたようで嬉しかった。
「リアーネ、彼がリンハルト殿。おまえの婚約者だ。優秀な人間だから彼からたくさん学びなさい」
「はい、お祖父様。はじめまして、リンハルト様。リアーネと申します。とても優秀な方なのですね。ぜひいろいろ教えてください。素敵な方と婚約できて嬉しいです」
リアーネはきらきらとした目でわたしをみていたし、それが心地よかった。だが、リアーネと婚約して数年が過ぎれば現実が見えてくる。
自分はリアーネより優秀だと思っていたが、それはただわたしが年上で先に多くのことを学んでいるからだった。認めたくはなかったがリアーネは自分より優秀だったんだと思う。リアーネは親戚のルドニークに難しい本をもらうたびに喜んでいた。リアーネが“ルド兄様”と呼び慕っているのは正直おもしろくなかったが、完全に兄として慕っているようだったし、わたしを婚約者として立ててくれていたので気にならなかった。
エリザベスと初めて会ったときはリアーネとはあまり似ていないと思った。母親が違うから当然といえば当然だが立ち振る舞いが全然違うのだ。ここでもリアーネがよく教育されていることを実感した。
だから当時はエリザベスのことは正直なんとも思わなかった。社交界デビューする頃には立ち振る舞いは少し改善したがリアーネと比べればかなり見劣りする。それでもその容姿とスタイルで人目を引いていた。それなのにエリザベスは適齢期になっても婚約者は決まらない。
リアーネが社交界デビューするとさらにリアーネの評判は高まっていった。最初は良い気分だったが、比較され自分のほうがふさわしいのではと言いだす人間まで現れた。わたしはリアーネの添え物ではない。
そんな頃にエリザベスはわたしに近づいてきた。リアーネに会いに行けば勉強や仕事の途中だと待たされることはよくある。そんな時、決まって相手をしてくれたのはエリザベスだった。
「リンハルト様のような人がわたしの結婚相手だったらいいのに……」
「リアーネがわたしの名をかたって遊んでいるんです。結婚前に遊んでおきたい。でも婚約者がいるから姉の名を使わないと問題になると言って……。おかげでわたしの結婚がきまらないんです」
「きっとリアーネは結婚したらわたしを追い出すんだわ。あの子のせいで結婚できないというのに……」
「リンハルト様はほんとうにすごい方なのね」
「お父様とお母様はわたしが次期当主になったらどうかと言うの。リアーネが当主になったらわたしの居場所がなくなってしまうでしょう? わたしは長女だから当主になれるのですって。ねぇ、リンハルト様……」
エリザベスはわたしをすごいと言ってくれる。母親譲りの容姿で侯爵家の娘にもかかわらず結婚が決まらないのはかわいそうだ。しかも腹違いの妹のせいで……。浮気するような婚約者よりかわいそうなエリザベスを守らなければいけない。しかも、エリザベスと結婚すればわたしに侯爵家を任せてもらえる。リアーネの浮気に目をつぶって結婚したとしても当主はリアーネだ。大きな裁量権はない。だが、エリザベスならわたしを立ててくれるし、頼って甘えてくれる。容姿もスタイルもいい。こんなにいい話はない。
だが、それは全て誤解だったというのだ。リアーネはわたしのことを想っているのだからやり直せる。やり直せばわたしは侯爵家の人間だ。家族はわたしのことを見直すだろう。怒りも収まるはずだ。
まずは手紙を書こう。わたしの想いを伝えれば慰謝料も取り下げてやり直したいといってくるに違いない。わたしはリアーネへ手紙を書いた。
感想
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