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2.
わたしは侯爵様のペースに飲み込まれないように、話を切り出した。
(ぼやぼやしてたらまた変な話が始まってしまうもの。今日こそわかってもらわないと)
「あの、お願いがあるんですけど」
「何でも言ってごらん。服? 宝石? 何か足りないものがあった? それとも、部屋の内装が気に入らない? アメリアが気に入っていたもので揃えたけど、なんでも言ってくれ」
(わたしが気に入っていたものって何? 初めて会ったはずなのに怖いんですけど。……って怯んでいては駄目よ!)
「そうじゃなくて、いい加減、帰して欲しいんです」
「どこに?」
侯爵様は不思議な顔をする。心底わからないといった様子だ。
「そんなの、家に決まってるじゃないですか」
「君の家はここだよ?」
「違います。それに、ここには仕事で来ただけなんです。仕事が出来ないと困るんです。皆も心配しているはずです」
「それは問題ないと言っただろう?」
「問題大ありです。取引先にも迷惑が……」
「その取引先は僕だから」
「え?」
「正確には僕が保有している商会が君の取り引き相手だよ。話はつけてあるから」
「そんな勝手なこと困ります。それじゃあ、どんな取り引きをしたのかわからないじゃないですか」
「あとで書類を確認すればいいだろう?」
「そういう問題じゃありません。どんな会話をしたかも重要ですし、信頼関係が大切なんです。今後の取り引きにだって……」
「君の要望は全て飲み込んであるから大丈夫だよ。心配することは何もない」
笑顔で何も問題ないと言ってくる侯爵様。
(問題大ありですよ!)
「わたし、いい加減に戻らないと。仕事を失ってしまいます」
「君の仕事は僕の妻じゃないか」
(…………なんで? そんな仕事ってある?)
隣ではリズも困ったような何とも言えないような、ドン引きした顔をしている。
「そんな仕事ありません。結婚に同意した覚えもありません」
「どうして? 僕たちは結婚していた仲だというのに」
(はい。危ない人。誰かこの人を捕まえてください。って言ってもこの地を治めている人がこの侯爵様だから難しいのよね……)
「本当に覚えていないの?」
「そんな過去はなかったと思いますよ。そもそも、侯爵様にお会いしたのも初めてですし、この街に来たのも初めてです」
「侯爵様じゃなくてギルと呼んでくれと言っただろう?」
目の前の侯爵様は名前、しかも愛称で呼んでくれと主張してくる。
仕事柄、面倒な取り引き相手や客に会ったことはある。けれど、この人はその中で群を抜く面倒な人だ。
(よし、逃げよう! これで帰してくれないのなら逃げるしかないわ)
「ギルベルト様」
「ギル」
「えっと、ギル様? わたしには他にも仕事があるのです。この街での取り引きが終わったのなら帰らないと」
「仕事なんてしなくても良いじゃないか」
「いえ。働かざる者食うべからず、です。そもそも、わたしは無理を言ってお世話になっているのですから」
「もちろん、ここにいるなら好きなことをしてもらっても構わないよ」
(話が通じない……)
わたしが生まれた家はこの国の没落した元貴族だ。没落後は母親の親戚を頼って隣国に渡り、商会で働かせてもらっている。恩を仇で返すなんてことはできない。
(もう無理。絶対に帰る!)
逃げると決心したわたしはその後の会話を適当に流して終わらせた。
もうこれで終わりだと思えば愛想も振りまける。
笑顔で対応したわたしに侯爵様はご機嫌だった。
少しだけ胸が痛んだ気もするが気にしないことにした。
(絶対に逃げるんだから!)
(ぼやぼやしてたらまた変な話が始まってしまうもの。今日こそわかってもらわないと)
「あの、お願いがあるんですけど」
「何でも言ってごらん。服? 宝石? 何か足りないものがあった? それとも、部屋の内装が気に入らない? アメリアが気に入っていたもので揃えたけど、なんでも言ってくれ」
(わたしが気に入っていたものって何? 初めて会ったはずなのに怖いんですけど。……って怯んでいては駄目よ!)
「そうじゃなくて、いい加減、帰して欲しいんです」
「どこに?」
侯爵様は不思議な顔をする。心底わからないといった様子だ。
「そんなの、家に決まってるじゃないですか」
「君の家はここだよ?」
「違います。それに、ここには仕事で来ただけなんです。仕事が出来ないと困るんです。皆も心配しているはずです」
「それは問題ないと言っただろう?」
「問題大ありです。取引先にも迷惑が……」
「その取引先は僕だから」
「え?」
「正確には僕が保有している商会が君の取り引き相手だよ。話はつけてあるから」
「そんな勝手なこと困ります。それじゃあ、どんな取り引きをしたのかわからないじゃないですか」
「あとで書類を確認すればいいだろう?」
「そういう問題じゃありません。どんな会話をしたかも重要ですし、信頼関係が大切なんです。今後の取り引きにだって……」
「君の要望は全て飲み込んであるから大丈夫だよ。心配することは何もない」
笑顔で何も問題ないと言ってくる侯爵様。
(問題大ありですよ!)
「わたし、いい加減に戻らないと。仕事を失ってしまいます」
「君の仕事は僕の妻じゃないか」
(…………なんで? そんな仕事ってある?)
隣ではリズも困ったような何とも言えないような、ドン引きした顔をしている。
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「どうして? 僕たちは結婚していた仲だというのに」
(はい。危ない人。誰かこの人を捕まえてください。って言ってもこの地を治めている人がこの侯爵様だから難しいのよね……)
「本当に覚えていないの?」
「そんな過去はなかったと思いますよ。そもそも、侯爵様にお会いしたのも初めてですし、この街に来たのも初めてです」
「侯爵様じゃなくてギルと呼んでくれと言っただろう?」
目の前の侯爵様は名前、しかも愛称で呼んでくれと主張してくる。
仕事柄、面倒な取り引き相手や客に会ったことはある。けれど、この人はその中で群を抜く面倒な人だ。
(よし、逃げよう! これで帰してくれないのなら逃げるしかないわ)
「ギルベルト様」
「ギル」
「えっと、ギル様? わたしには他にも仕事があるのです。この街での取り引きが終わったのなら帰らないと」
「仕事なんてしなくても良いじゃないか」
「いえ。働かざる者食うべからず、です。そもそも、わたしは無理を言ってお世話になっているのですから」
「もちろん、ここにいるなら好きなことをしてもらっても構わないよ」
(話が通じない……)
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(もう無理。絶対に帰る!)
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少しだけ胸が痛んだ気もするが気にしないことにした。
(絶対に逃げるんだから!)
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