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4.
翌日、侯爵様は部屋を訪ねてきた。リズに何か言われたのだろうか。
「アメリア。入っても良いかい?」
「わたしに拒否する権限はありません。この屋敷は侯爵様のもので、わたしはここに捕らわれているだけの人間ですから」
わたしは思わずとげとげしい物言いで返してしまう。少し傷ついたような顔をしているけれど、それを気にかける余裕はわたしにはない。
(悪いのは侯爵様よね……?)
「アメリア……」
「なんでしょうか? お話があるならどうそ。わたしに拒否権はありません」
(駄目だ。こんな風に言ってしまうなんて)
わたしはかなり失礼な態度を取っているはずなのに、目の前の侯爵様は怒ったりはしていない。なんだか弱々しい。
(わたしを監禁していることを反省したのかしら?)
「アメリア、悪かった。そこまで思い詰めるなんて思わなかったんだ。ちゃんと理由を話すよ」
「理由を話してくれるのですか?」
「信じてもらえないと思って黙っていたんだ。それに、いつか思い出してくれると思って」
「思い出すって言われても……」
「本当に覚えていない? 僕たちは昔婚約していたことを」
「婚約?」
そう言われるとたしかにそうだ。わたしには遙か昔に婚約者がいたことはある。ただ、家が没落したのであの話は無効になったはずだ。
(この人があの時の婚約者なの? 確かにあの時の婚約者も格好良かったけど)
「そう。君が六歳の頃にも会ったことがあるはずだ。そのときの君は僕の顔が素敵だから結婚できるのを嬉しい、楽しみにしていると言っていたよ」
(自分の馬鹿! そんな頃から面食いだなんて……)
「でも、その話は私の家がなくなって無効になりましたよね? それなのに、ここにわたしを監禁するなんて理由としては弱いと思うのですが」
「監禁って……そんなつもりはないんだけど」
(いや、立派にこれは監禁でしょうよ。話の続きを訊きたいから黙っているけど)
侯爵様はわたしに理由を話すと言ったわりには言いづらそうにしている。
「ここからは本当に信じてもらえないと思うんだけど、僕たちは本当に結婚していたんだ」
「前にも言いましたけどわたしは侯爵様と結婚したことはありません。未婚です」
(わたしに記憶喪失だった過去なんてないわよ)
「……僕は人生をやりなおしているんだ」
「は?」
(意味がわからない。ついにおかしくなってしまったのかしら)
「前の人生では君の家は没落していなくて、僕たちはそのまま結婚した。当時の僕はそこまで君が好きじゃなくて、君の方が僕のことを好きだったんだ」
(え? 気持ち悪い。勝手に記憶をねつ造してるんですけど)
「僕のこと、気持ち悪いとか思っているでしょ」
「はい」
「だから言いたくなかったんだ……。時間が巻き戻ったなんて信じられないよ、普通」
(いや、信じる信じない以前に、人を軟禁してる時点で普通に気持ち悪い人なんですけど)
「で、話を続けると、君との結婚生活は悪くなかった」
(続けるの? そして、何、その上から目線)
「最後は尽くしてくれる君にすっかり僕も惚れ込んでいてね。とても幸せな生活を送っていたよ。だけど、あるとき商売敵に命を狙われてね。君は僕をかばって死んでしまったんだ。結局、その後すぐに僕も殺されたけどね」
侯爵様は話ながら悲しそうな顔になっていく。深く後悔している顔だ。妻が自分をかばって死んだだけでそんなに後悔するのだろうか。わたしは反応に困ってしまう。
「はぁ」
「で、気がついた時には僕の時間は巻き戻っていた。ちょうど僕たちが婚約した頃だ。なんて幸運なんだと思ったよ。それで、僕たちを殺した商売敵を先に潰してしまおうと不正を暴こうとしたんだ。そうしたら君の家が巻き込まれて没落してしまった……」
(家が没落したのってこの人のせいだったの? でも、他に何か隠しているような気もするわ)
確かにわたしの家は没落した。不正を暴かれ捕まった人間との関わりを疑われたからだ。実際には関係はなかった。けれど、失った信用を取り戻すまで家が持たなかった。
それでも、この人のせいとは言い切れない。疑われてしまう方が迂闊だったのだ。実際に遠縁の家は不正に荷担したとして処分されている。
それに、この人はわたしより多少年上だったとしても当時はまだ子供だったはずだ。何が出来るというのだろうか。
「それで、君たちはこの国から出て行ってしまって、行方がわからなくなってしまった。ずっと探してた。今回、やっと君を見つけたんだ」
「その話が本当かどうかわかりませんし、信じるのは難しいです」
「そう、だよね……」
目の前には自信なさげな様子の侯爵様。犬の耳がついているとしたら完全に垂れ下がっているだろう。
(あれ? この人ってこんなに気弱な感じだっけ?)
話を聞いているうちに今まで感じたことのない感情がわき上がってくる。
(なんだろう。この感じ……)
「アメリア。入っても良いかい?」
「わたしに拒否する権限はありません。この屋敷は侯爵様のもので、わたしはここに捕らわれているだけの人間ですから」
わたしは思わずとげとげしい物言いで返してしまう。少し傷ついたような顔をしているけれど、それを気にかける余裕はわたしにはない。
(悪いのは侯爵様よね……?)
「アメリア……」
「なんでしょうか? お話があるならどうそ。わたしに拒否権はありません」
(駄目だ。こんな風に言ってしまうなんて)
わたしはかなり失礼な態度を取っているはずなのに、目の前の侯爵様は怒ったりはしていない。なんだか弱々しい。
(わたしを監禁していることを反省したのかしら?)
「アメリア、悪かった。そこまで思い詰めるなんて思わなかったんだ。ちゃんと理由を話すよ」
「理由を話してくれるのですか?」
「信じてもらえないと思って黙っていたんだ。それに、いつか思い出してくれると思って」
「思い出すって言われても……」
「本当に覚えていない? 僕たちは昔婚約していたことを」
「婚約?」
そう言われるとたしかにそうだ。わたしには遙か昔に婚約者がいたことはある。ただ、家が没落したのであの話は無効になったはずだ。
(この人があの時の婚約者なの? 確かにあの時の婚約者も格好良かったけど)
「そう。君が六歳の頃にも会ったことがあるはずだ。そのときの君は僕の顔が素敵だから結婚できるのを嬉しい、楽しみにしていると言っていたよ」
(自分の馬鹿! そんな頃から面食いだなんて……)
「でも、その話は私の家がなくなって無効になりましたよね? それなのに、ここにわたしを監禁するなんて理由としては弱いと思うのですが」
「監禁って……そんなつもりはないんだけど」
(いや、立派にこれは監禁でしょうよ。話の続きを訊きたいから黙っているけど)
侯爵様はわたしに理由を話すと言ったわりには言いづらそうにしている。
「ここからは本当に信じてもらえないと思うんだけど、僕たちは本当に結婚していたんだ」
「前にも言いましたけどわたしは侯爵様と結婚したことはありません。未婚です」
(わたしに記憶喪失だった過去なんてないわよ)
「……僕は人生をやりなおしているんだ」
「は?」
(意味がわからない。ついにおかしくなってしまったのかしら)
「前の人生では君の家は没落していなくて、僕たちはそのまま結婚した。当時の僕はそこまで君が好きじゃなくて、君の方が僕のことを好きだったんだ」
(え? 気持ち悪い。勝手に記憶をねつ造してるんですけど)
「僕のこと、気持ち悪いとか思っているでしょ」
「はい」
「だから言いたくなかったんだ……。時間が巻き戻ったなんて信じられないよ、普通」
(いや、信じる信じない以前に、人を軟禁してる時点で普通に気持ち悪い人なんですけど)
「で、話を続けると、君との結婚生活は悪くなかった」
(続けるの? そして、何、その上から目線)
「最後は尽くしてくれる君にすっかり僕も惚れ込んでいてね。とても幸せな生活を送っていたよ。だけど、あるとき商売敵に命を狙われてね。君は僕をかばって死んでしまったんだ。結局、その後すぐに僕も殺されたけどね」
侯爵様は話ながら悲しそうな顔になっていく。深く後悔している顔だ。妻が自分をかばって死んだだけでそんなに後悔するのだろうか。わたしは反応に困ってしまう。
「はぁ」
「で、気がついた時には僕の時間は巻き戻っていた。ちょうど僕たちが婚約した頃だ。なんて幸運なんだと思ったよ。それで、僕たちを殺した商売敵を先に潰してしまおうと不正を暴こうとしたんだ。そうしたら君の家が巻き込まれて没落してしまった……」
(家が没落したのってこの人のせいだったの? でも、他に何か隠しているような気もするわ)
確かにわたしの家は没落した。不正を暴かれ捕まった人間との関わりを疑われたからだ。実際には関係はなかった。けれど、失った信用を取り戻すまで家が持たなかった。
それでも、この人のせいとは言い切れない。疑われてしまう方が迂闊だったのだ。実際に遠縁の家は不正に荷担したとして処分されている。
それに、この人はわたしより多少年上だったとしても当時はまだ子供だったはずだ。何が出来るというのだろうか。
「それで、君たちはこの国から出て行ってしまって、行方がわからなくなってしまった。ずっと探してた。今回、やっと君を見つけたんだ」
「その話が本当かどうかわかりませんし、信じるのは難しいです」
「そう、だよね……」
目の前には自信なさげな様子の侯爵様。犬の耳がついているとしたら完全に垂れ下がっているだろう。
(あれ? この人ってこんなに気弱な感じだっけ?)
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(なんだろう。この感じ……)
感想
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