わたしを無理やり連れて来た侯爵様はなぜかわたしを溺愛する

和泉 凪紗

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 侯爵様のこんな姿は初めて見るはずなのに、なぜか見覚えがあるような気がした。
(侯爵様と知り合って間もないんだもの。気のせいだわ)

「侯爵様の話が真実だと仮定して、人生をやり直しているからと言って、別にわたしともう一度結婚する必要はないでしょう?」
「それはそうかもしれないけれど……。どうしても君とやり直したいんだ。君には何もしてあげられていない」
「別にわたしは侯爵様にして欲しいことはないのですが。そもそも、知り合わずともこれまで普通に幸せに生きてきましたし」
「え? 僕と結婚していないんだよ? それに貴族じゃなくなってつらい思いをしてきたんじゃ……」
「六歳の頃になんと言ったかは覚えていませんが、子供の言ったことですし……。それに貴族じゃなくてもわたしは幸せですよ。仕事も楽しいですし。貴族のままだったらこんな風に生きることは難しかったと思いますから。ずっと貴族として生きてきた侯爵様にはわからないかもしれませんけど」
「そんな……」
「侯爵様も自分の幸せを見つけてください。責任なんて何も感じなくて良いんですよ。家が没落したのだって侯爵様のせいとも限りませんし。今のわたしでは身分も釣り合わないでしょう? ちゃんと良い人を見つけてください」

 わたしは笑顔で侯爵様を励ました。過去にとらわれず前を向いて生きて欲しい。

「いや、僕は君を愛して……」
「それは過去のことじゃないですか。それに、その死ぬ前のわたしと今のわたしは全然違うんですよね?」
「……そうだね。もちろん、同じところもあるけど」

 励ましたのに、目の前の侯爵様は元気がない。
(なんだか調子が狂ってしまうわ)

「それにしても侯爵様はどうかしたんですか? いつもはもっと自信に溢れているのに。今はとても自信なさげですね」
「……僕は元々こんな性格だよ。なぜか黙っていると怖いとか冷たいとか言われるけど」

 たしかにここの領主は恐ろしい人だと聞いたことがある。関わるようなことはないと思って気にしていなかったけれど。
 
「僕は君のためならなんだってするよ? 身分だって気にしなくて良い」
(なんでもしてくれるなら帰して欲しいのだけど……。身分も気にした方が良いと思う)
「でしたら、帰して――」
「それ以外で!」

 言い終わる前に拒否されてしまった。このままでは話は平行線だ。

「やっぱり、このまま黙ってあなたと結婚することはできません」

 私の言葉に侯爵様はしょんぼりした顔をする。
(なんだろう。この気持ち)
 
「どうしても僕と結婚できないと?」

(この人、このまま一人にして大丈夫なのかしら? それに、以前にもこんな風に思ったことがあったような……)
 不思議な感覚に陥りながらも、わたしは目の前の侯爵様のことを考えた。
 わたしに危害を加えるようなことはしないし、わたしの望みを叶えてくれようとしている。家には帰してくれないけれど。
(わたしはこの人のことを嫌いなのかしら? ううん。なぜか嫌いじゃない。監禁したり、話を聞いてくれなかったりするところは嫌だけど、嫌いとは言い切れないわ。わたしって変な趣味があったの?)

 自分の中で一つの答えが出たわたしは侯爵様に話を持ちかける。

「えぇ、ですから恋愛させてください」
「恋愛?」
「あなたはわたしのことを知っていると言いますけど、わたしは何も知らないんです。だからお互いのことを知って、恋愛して、好きになれば結婚するのも構いません」
「本当か?」

 侯爵様の顔がぱぁっと明るくなる。すごく嬉しそうだ。
(相手のことを何も知らないうちに拒否するのは良くないわ。それにわたし、恋愛というものをしてみたかったし。丁度良いわよね)

「恋愛して、結婚しても良いと思えたら、です」
「じゃあ頑張るよ」
「では、まずわたしを国に帰してください」
「それは出来ないよ。だって、元々君はこの国の人間じゃないか」
「それは過去の話です。今はこの国の人間ではありません。それに仕事も中途半端なんです。きりの良いところまで仕事をして転職します」
「では、この国に?」
「いつこれるようになるかはわかりませんけど」
「では、すぐこちらに来ることになりそうだね。次の仕事は心配しなくても大丈夫だよ。僕のところで働けば良いから」
「それはお断りします」
「え?」
「仕事を紹介してもらう義理はありませんから」
「そんなことは……」
「ありません」
「でも、元々僕たちは婚約してたんだよ?」
「それって関係ありますか?」
「関係あるよね?」
「ありませんよね?」
「いずれ、結婚するんだし……」
「まだ決まっていませんよ?」
「そんな……」
「とにかく、はじめからやり直しましょう?」
「……わかった。よろしく頼む」

 わたしは笑顔で侯爵様に手を差し伸べた。
 不思議なことに強引だけど、嫌いなわけではない。

「まずは手紙の交換からですね」
「帰る前に一緒に街を……」
「ふふっ。それって最初にするべきことじゃありません? 監禁しても親交は深まらないのに」

 わたしは思わず吹き出してしまった。順番が違うと思う。

「いや、君をここに留め置くのに必死で……監禁してたわけでは……」
「本当にしょうがない人」

 再び訪れたこの国でこんな出会いがあるなんて思っていなかった。
 人生をやり直しているからとか、結婚していたとか信じられなことばかり言う人。
 これからどうなるかはわからない。それでもわたしたちは良い方向に向かって歩き始めたはずだ。
 身分差は気になるけれど、いざそうなった時はこの人に頑張ってもらうしかない。
 人生をやり直しても、探し出して、またわたしを愛そうとしてくれるのだもの。
 きっとなんとかしてくれるはずだ。
 もちろん、わたしだって結婚したくなるくらい好きになれば、一緒になれるように努力する。

「わたしと結婚したいのなら、わたしにギル様を好きにさせてくださいね」
「あぁ、頑張るよ」
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