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第12章「これからも、私と親友でいてください」

あの日の約束をもう1度 桜十葉side

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「よし!大丈夫!」



私はそう自分に勇気付けて、倉本明梨ちゃんがいるクラスに向かう。



あっという間に日は過ぎていき、今はもう冬休みに入る直前。冬休みに入る前に、必ずしておきたいことがあったのだ。



「倉本明梨ちゃん居ますか……?」



明梨ちゃんは、私のクラス、1年E組の隣の1年D組だ。



噂によると本当は中学当初、明梨ちゃんも私と同じ特進クラスだったらしい。だけど明梨ちゃんはお父さんの大企業会社を継ぐために今年はフランスに行く予定があったらしく、クラス替えをしてもらったそうだ。



そう言えば、そうだった。明梨ちゃんを見たのは入学式の日だけ。それから7か月くらい学校に来ていなくて、話しに行こうと思っても行けなかったのだ。



だからあの日、突然明梨ちゃんが教室に居る私に声をかけてきたことにすごく驚いたんだ。



ちなみに、明梨ちゃんのお父さんが経営している会社というのが、世界でも有名な服のブランド会社だそう。本当に、この学校の情報網はすごい。



「えっ!結城さん来てんだけど!!なんで!?」



私が恐る恐るD組に顔を出すと、途端に騒がしくなる教室。



へっ……!?何この状況……!!

なぜかみんながこちらを見ている。こんなに注目されるとは思ってなかった。



1人の男子生徒が大きな声でそう言った途端、私がいる廊下にまで群がってきた男子生徒たち。



「え、えっと……」



私、何か目立つようなことしちゃった?



「わ、本物だ……。すげぇ可愛い」


「まじで天使……、不純物が一切混じってない…」


「校内イチの美少女か……納得」



この人たちは、ちゃんと日本語を話しているのだろうか?さっきから私とはそぐわないことばかり言っている気がする……。



「桜十葉、こっち」



突然後ろから腕を引かれ、半歩後ろに下がる。私の腕を握っている人物は、



「明梨ちゃん……!」



助かったよ!何だか意味の分からない状況になってたから……。



私は明梨ちゃんに腕を引かれ、男子生徒が群がる廊下を早足に通り過ぎる。階段の影に隠れて、喧騒から遠のいてからやっとひと息吐けた。



「桜十葉、自分が男子たちに人気あるってこと、ちゃんと自覚してる?」



………。
…………?
……………!?



「わ、私がだ、男子に人気があるって!?そんなの地球が滅びちゃうくらいにありえないよ!」


「……はぁ~、桜十葉。もう1人で廊下に出るのはやめといた方がいい。ましてや教室に1人で来るなんて……」



明梨ちゃんは、ほっとしたような表情で私を諭した。私、絶対に男子に人気になられる理由1つも持ってないよね…!?



「でもまぁ、桜十葉は昔からだもんね。その鈍感さ。今更気づけって言っても変えられないか…」



明梨ちゃんの言葉に、たちまち心が温かくなる。明梨ちゃんとの思い出が、どんどん頭の中で蘇っていく。



私の親友だった子をやっと思い出せたんだ。これほどまでに嬉しいことはない。私が昔のことを思い出したって言ったら明梨ちゃんはどんな顔するのかな……?



驚くかな?心配するかな?……でも、喜んでくれるかな?



私はドキドキしながら、口を開いた。



「“あかりん”…、」



私が昔、彼女のことをそう呼んでいたように。今、呼んでみたくなった。



私がその呼び名を口にした途端、明梨ちゃんが大きく目を見張った。何も言葉が出ない、というくらいにあんぐり口を開けて驚愕していた。



あ、やっぱり驚いちゃった。



「明梨ちゃん。…私、やっと全部、思い出したんだよ」



私は今、きっととても優しい顔をしている。過去の記憶が戻って、私のどこか欠けてしまっていた心が満たされていったんだ。



すべての苦難を乗り越えた先には、必ず良いことがありました。神様。



あなたの言うことを批判する人がいるけれど、私はそうは思いません。だって今、こんなにも心が満たされている。



「桜十、葉……っ!?思い出したって、なんで……!!」



明梨ちゃんは、信じられないというような顔で私を見つめる。



「まぁ色々あって、……それで明梨ちゃんとの思い出も全部、思い出せたんだ」



理由を話すと長くなってしまうから、私は曖昧に答えた。



「そうなんだ、……。でも、あかりんって……ふふっ」



明梨ちゃんは力が抜けたような笑みを浮かべて、階段に座り込んだ。私も、明梨ちゃんの隣に腰を下ろす。



「あかりんって、昔私が呼んでたでしょ?」


「ふっ、そうだけど…久しぶりに聞いたよ。私、その呼び方で呼ばないでって桜十葉に言った記憶が沢山あるんだけどそれは覚えてないの?」



笑いを押し殺しながらそう冷やかすように言う明梨ちゃん。明梨ちゃんの笑顔、久しぶりだな。そう思うと、すごく嬉しい。



「え?そんなこと言ってたの?」


「やっぱり桜十葉は変わらないね。自分に都合の悪い記憶だけは本当に忘れちゃってるなんて、桜十葉らしいよ」



今さらっとディスられた気がするけど、気にしない気にしない!



「明梨ちゃん。私と、……これからも親友でいてください」



笑い続ける明梨ちゃんに、私は真剣な表情で向き直って、そう言った。



そう。これからは、じゃなくて、これからも。明梨ちゃんとの思い出はどれも楽しいものばかりで、私たちがどれだけ仲が良かったのかを思い出した。



だから今、私は明梨ちゃんと打ち解けて話せているんだ。



「もちろんだよ、桜十葉。これからも私と親友でいてね」



明梨ちゃんは真剣な私を見て笑いを止め、真っ直ぐな瞳でそう言った。



「桜十葉、私たちの約束をまだ覚えてる?」



突然、そんな質問をしてきた明梨ちゃん。
私たちの、約束?確か、覚えている気がする。



『わあ、この絵本の中の王子様、とってもかっこいいね!』


『そうだね!桜十葉も王子様と結婚したいなぁ~』



私たちは、幼い頃から共通の趣味があった。それが、絵本を読むことだった。その中でも1番好きだったのが、『シンデレラ』だ。



絵本の中に出てくる王子様に、私たちはどうしようもないにドキドキした。



『おとちゃんっ。わたしたちも大きくなったら、王子様みたいな彼氏が出来るのかな?』


『うんっ!きっと出来るよ!もし出来たら一緒にダブルデートしようね』



幼い頃の私たちは、まだ知らぬ“恋”というものに興味があった。この約束をしたのが、確か5歳の頃だった。



「うんっ!もちろん覚えてるよ。彼氏ができたら、一緒にダブルデートしようねっていう約束でしょ?」



私の言葉に、明梨ちゃんが嬉しそうに頷く。



「そう!私さ、鈴本さんに勝手に聞いちゃったんだけど、桜十葉って彼氏がいるんでしょ?」


「うん、そうだよ。裕翔くんって言うの」



裕翔くんのことを自分の親友に話せることがすごく嬉しい。いつか、朱鳥ちゃんにも、明梨ちゃんにも、裕翔くんの本当のことを話せたらいいな…。



裕翔くんは、これからはヤクザとして生きていかなくてもいい。



裕希さんが、組長の座を継いでくれると言ってくれたのだ。それは何だか複雑で、悲しいことだけど裕希さんが決めたことなのなら私は応援しようと思う。



「そうなんだ。……実は私もね、フランスでお仕事の勉強をしている間に彼氏が出来たの。相手はフランス人なんだけど…」



明梨ちゃんが恥ずかしそうにそう言った。



「え、フランス人!?誰なの、気になるなあ!」



まさか、明梨ちゃんにも彼氏がいたとは…。知らなかったから驚きだ。しかも相手は、フランス人!明梨ちゃんは、フランス語も話せるのかな?



「ルイスって言うの。すごく可愛い子だよ」


「へ~!そうなんだ。でも、男の子なのに…可愛い?」



私は不思議に思って首を傾げる。



「肌がすっごく白くてね、身長は私よりもめちゃくちゃ高いんだけどすっごい甘えたがり屋なの。だからすごく可愛いんだよね」



普段冷静でクールなタイプの明梨ちゃんがすごく優しそうな顔をしてルイスさんのことを語った。恋をすると女の子は変わるって、本当だったんだなあ…。



「私もルイスさんに会ってみたい!」


「うん。今度冬休みにルイスが日本に来る予定だから多分会えるよ」



明梨ちゃんが嬉しそうな顔をして私の言葉に頷く。私、やっぱり恋バナが大好きだ。



「明梨ちゃんって何ヵ国語話せるの?」



さっきから気になっていたことを質問する。



「今はまだ4ヵ国語しか話せないよ。日本語と英語と中国語とフランス語!フランス語はお父さんの会社継ぐために勉強してたんだけど、勉強した甲斐があったよ」



4ヵ国語……。凄すぎるっ…!私は日本語と英語しか話せないよ…。



「私もお父さんたちの会社を継ぐからもっと勉強しないといけないなあー」



ため息混じりの声でそう言った。そんな私に、明梨ちゃんはふふっと笑う。



「桜十葉はもう十二分に頑張ってるよ。昔から勉強熱心だったからね」



明梨ちゃんの言葉に思わず照れてしまう。自分の頑張っていることを誰かが知ってくれていて、それを褒めてくれるのはすごく嬉しかった。



「そうかな?ありがとう」


「うん、そうだよ。桜十葉、もし良かったらなんだけど冬休みにダブルデートってやつ、してみない?」



明梨ちゃんの提案に私はもちろん頷く。



「うんっ!いいね、すごく楽しそう」


「だよね。私、実はずっとこれが長年の夢だったの。桜十葉の彼氏、どんな人だろう?」



明梨ちゃんの言葉にまた嬉しくなった。そして、私の大切な親友に裕翔くんを会わせると思うとすごくわくわくした気持ちになる。



「おーとはっ!こんなところで何してるの?」



明梨ちゃんと一緒に階段で話していたら、突然後ろから朱鳥ちゃんの声がした。私はその声に振り返る。



「朱鳥ちゃんっ!……今ね、明梨ちゃんと話してた」



私の言葉に、朱鳥ちゃんは隣に居た明梨ちゃんを見た。そしてまた私と目を合わせて、心配そうな顔を一瞬した後、すぐにいつも通りの表情に戻った。



「桜十葉、良かったね!今すごい安心した」



どうやら朱鳥ちゃんは私が教室に居ないことを心配して探しに来てくれたみたいだ。そして私が明梨ちゃんと話しているところを見たから、それが心配で話しかけたんだそう。



前に、明梨ちゃんのことを朱鳥ちゃんに相談していたもんな……。朱鳥ちゃんは、やっぱりすごく優しい女の子だ。



「倉本さん!初めましてだよね?私、鈴本朱鳥って言います!」



張り切ってそう自己紹介をする朱鳥ちゃん。そんな朱鳥ちゃんを驚いた表情で見つめていた明梨ちゃんが、ふわっと微笑んだ。



「うん。初めまして。私は倉本明梨です。朱鳥って呼んでもいい?」


「もちろんだよっ!じゃあ私もあかりんって呼ぶねっ」



“あかりん”



朱鳥ちゃんが明梨ちゃんのことをそう呼ぶものだから、私と明梨ちゃんは目を見合わせて吹き出してしまった。



そんな私たちに朱鳥ちゃんは不思議そうに首を傾げていた。



「それよりも、さっきちょっと聞こえちゃったんだよねぇ~。あかりん、彼氏が出来たんでしょー?」


「え、なんでそれを…っ」



そうだった。朱鳥ちゃんは怖いぐらいの地獄耳なんだ。



明梨ちゃんは頬を真っ赤に染めて、驚いている。



「真っ赤になったあ、可愛いね」



朱鳥ちゃんはそう言いながら、明梨ちゃんの頬をぷにっとつまむ。朱鳥ちゃんは、人と打ち解けるのがもの凄く速いんだ。



私も、入学式の日に朱鳥ちゃんに話しかけられてその明るさに助けられた。



「桜十葉、実はね…私、許嫁だった人と正式にお付き合いをすることになりました」



改まった口調で嬉しそうにそう言った朱鳥ちゃん。前にその許嫁のことで悩んでいた朱鳥ちゃんが、今はその人のことを笑顔で話している。



その事実がすごく嬉しかった。



「そうなんだ!すごく良かったね」


「何~?朱鳥も彼氏いるんじゃーん!私をからかって、こんの~!」


「あははっ、こしょばいよ~!」



明梨ちゃんは朱鳥ちゃんを思いっきりくすぐる。私はそんな明梨ちゃんを楽しい気持ちいっぱいにくすぐった。



「ちょ、桜十葉やめてよー!あはははっ」



階段には、私たち3人の楽しそうな笑い声が響いていた。



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