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Side - 15 - 54 - せしる みゅーらー -(挿絵あり)

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Side - 15 - 54 - せしる みゅーらー -


「え・・・」

「おい、あれ・・・リーゼロッテ嬢だよな」

「消息不明って大騒ぎしてなかったか?」




こんにちは、リーゼロッテ・シェルダン15歳です、あ・・・、もうすぐ16歳になります。

私は今、王城の廊下をチベットスナギツネみたいな表情をして歩いています、黒いスカート、灰色のブラウス、黒いフード付きローブを着て・・・。

何故こんな事になったかというと、リィンちゃんと日本やコルトの街に旅行に行く前、陛下から国に居る反逆分子を一掃したいから協力して欲しいと頼まれたのです、呪いの刃事件も絡んでいるそうで、私とも無関係という訳ではなかったので了承したのです。

内容はというと・・・。




「リゼちゃんが旅行から帰ったら消息不明という事にしたい、しばらく今隠れている場所かニホン?にでも滞在しててもらって、こちらから連絡があれば城に来て欲しい」

「え・・・それだけでいいのですか?」

「消息不明と聞いて焦った反逆者達・・・主犯も含めて動き出すと思うから、囮を使って全員捕まえる」

「囮・・・ですか」

「あぁ、リゼちゃんを囮にするのが一番いいのだろうけどシェルダン家・・・君のお父さんに反対されたから容姿が似た子を使ってね、消息不明って噂を流した後で城の中を歩き回ってもらうんだよ、それで・・・おそらく奴らの頭が動くだろうから接触してきた所で証拠を押さえて捕まえる」

「囮の子は・・・危なくないのです?」

「そこを気にするのかい、・・・本当にリゼちゃんは優しい子だね、・・・多少の危険はあるだろうがリゼちゃん本人ではない・・・偽物だと分かれば危害は加えられないだろう、それに、相当な額の報酬を払って危険な任務だという事は囮の子や両親にも納得してもらっている」

「そういう事なら・・・でも私、隠れてるだけでほとんど何もする事がないのです・・・」

「いや、王城はもちろん、シェルダン家や・・・それこそ国のどこに奴らの手のものが居るか分からない、作戦が終わるまでは奴らに見つからないよう身を隠す事に集中して欲しい、それからもう一つお仕事をお願いしたいんだ、その件については後でお父さんから話があるだろう」

「はい・・・」




そう言って引き受けたのですが・・・。




「リゼちゃん、今リゼちゃんの囮役の子が私のお部屋に来てるんだけどね、すぐこっちに来れるかな、ちょっと様子がおかしいの」

コルトの街のお家で本を読んでいると、私が作った指輪の通信器でリィンちゃんから連絡が来たのです。

「お部屋の人払いできてる?、他に誰もいない?」

「うん、天井裏に影の人と、お部屋の外にムッツリーノさんと囮役を案内してきた衛兵さん、お部屋の中はトリエラさんと囮の子だけだよ」

「じゃぁ今からそっちに行くね・・・転移・・・」




「ひぃっ!・・・人が急に・・・」

「怖がらないでセシルちゃん、今話した私のお友達のリゼちゃん、リーゼロッテ・シェルダンだよ」

リィンちゃんのお部屋に転移すると、そこにはいつもの2人、リィンちゃんと護衛のトリエラさん、それに加えて私と同じくらいの身長で銀色の髪をした女の子、よく似てるのです・・・この子が囮の子?、俯いてすごく怯えてるのです。

「あ、トリエラさん、頼まれてたお魚の干したやつ」

「ありがとうございます・・・」

リィンちゃんの護衛のトリエラさんはいつもリィンちゃんが美味しそうに煮干しを食べてるのを見ていて、我慢できなくて少し食べさせてもらったらしいのです、そしてその美味しさにハマって、お金を払うから欲しいと私に頼んで来たのです、いやそれくらい別にタダでもいいんだけど・・・。

そして囮役の子と向き合ったのですが・・・。

「っ・・・」

「リゼちゃん、どう思う?」

「・・・左目・・・見せてもらっていい?」

「いや・・・いやぁっ!」

「大丈夫だから落ち着いて、・・・嘘・・・、これ本物の傷?、まだ完全に傷が塞がってないのです!、偽装じゃなくて・・・目は?、左目はどうなってるのです?」

「あぅ・・・ぐす・・・いやだ、見ないで・・・」

「セシルちゃん・・・お願い、眼帯を外して、リゼちゃんは腕のいいお医者様でもあるの」

「うぅ・・・はい・・・殿下・・・」

「・・・酷い・・・本当に斬られてる、これ・・・左目見えてないよね・・・誰がこんな事を、まさかお父様じゃないよね!」

「・・・うぅ・・・陛下じゃない・・・です、お父様と・・・お義母様が・・・囮なら本物に見えるように傷付けてやるって、・・・私・・・嫌だって抵抗したのに、・・・お前は馬鹿だから演技をするとバレるって、・・・それで・・・床に押さえつけられて・・・ひっく・・・」

「私、他の子にこんな酷い事させてまで囮に、・・・私の代わりになって欲しいなんて頼んでないのです!、これなら私が囮になるのです、・・・ごめんね、・・・私のせいでこんな事に・・・」

「ぐす・・・リーゼロッテ様のせいじゃ・・・ないです、・・・私、ずっとお家で、・・・酷い事されて・・・お父様は・・・お義母様や義弟を大事にして・・・陛下からお遣いが来て、危険な仕事だけど・・・お金を払うから私を借りたいって言われて、・・・みんな大喜びで、・・・私に・・・死んでもいいから役割を果たせって、・・・ひっく・・・私は・・・あのお家ではいらない子なの・・・」

「ちょっと待つのです!、まさか左足も?、・・・見せてもらえる?、・・・ここに座って、・・・靴を脱がせるよ」

「うぅ!、痛い・・・痛いの・・・痛いよぉ・・・」

「・・・腱を切られてる・・・まだ血が出てるのです、靴の中が血で真っ赤・・・これは治療したら治る・・・かな?、・・・安静にして絶対に歩かないで、私が診てあげるから」

「でも・・・これから囮で・・・お城の中を歩き回れって、・・・執事さんが」

「あー、多分陛下はこんな事になってるの知らないのです、ここに来てから会ってないよね、・・・あの陛下だから会えば違和感に気付くと思う、それに執事さんもこの傷は偽装だと思ってるのです・・・多分」

「お父様忙しいから執事さんに指示だけして後は任せてるんだろうなぁ・・・、セシルちゃん、私からも謝る、ごめんね、・・・謝ったからって左目が見えるようには・・・ならないけど、私に許された権力全部使ってでもセシルちゃんを悪いようにはしないからね」

「・・・はい、・・・ぐす・・・」




私の名前はセシル・ミューラー12歳、ローゼリア王国中西部に小さな領地を持つ貧しい下級貴族の長女です。

当主である私のお父様と、遠縁のお母様とはお金目当ての政略結婚だったようです、私が生まれて・・・あまりにも浮気がひどいお父様に愛想を尽かせて実家に帰ってしまいました、「あの男の子なんて」そう言って、・・・泣きながらお母様に縋り付くまだ幼かった私を置いて・・・。

それからお父様は再婚してお義母様と義弟がお屋敷に住むようになりました、お父様は義弟に後を継がせるつもりだったのでしょう、私は居ない者として扱われました、お食事も頻繁に忘れられるほどの「居ない者」。

・・・大きくなったら政略結婚をさせようと思っているのか、基本的な読み書きや立ち居振る舞いなどのマナーは教えてもらえましたが、・・・どこから連れて来たのか分からない、身なりの派手な女教師からは出来が悪いとよく殴られました。

お家は一般的な貴族としてはかなり貧しかったようです、お母様に慰謝料を支払ってからは特に、・・・僅かな収入はお父様の賭け事とお義母様の衣装代に消え、メイドさん達に支払われるお給料も少ない、・・・そうメイドさんや庭師のおじさんが喋っているのを聞きました。

私は一人で生きていける年齢まで耐え、この家から逃げ出そうと考えていました、街に逃げて、どこかのお店で雇ってもらおう、・・・そしてお金を貯めて自分の力で生きていくんだ・・・って。

でもそんな夢や希望は私の家族によって打ち砕かれました。

ある日、王都から陛下のお遣いの人が来て、お父様と長時間お話をしていました、それからお父様に呼ばれ、遣いの人を交えて詳しい説明がありました。

「これは機密事項であり、他言すると刑罰の対象になるから注意して欲しい、詳しい事情は言えないが、ある令嬢の囮として容姿の似ている貴家の長女を借りたい、今確認したところ、とても似ている、銀髪に青い瞳、身長もほぼ同じ、安全には細心の注意を払うが多少の危険はある、その危険に見合うだけの謝礼を払う、当然これはお願いであり、王命ではないので断ってもらっても構わない、検討いただきたい」

そのお話を聞いたお父様は目を輝かせました、私がお金になる、そして名前は明かさなかったのですがお父様は誰なのか察したようでした、どうやら有名な令嬢のようです、2つ返事で了承しました。

私にも遣いの人が意思確認をしましたが、この場で断れる筈がありません、断れば後で酷い目に遭わされるのが分かっているから・・・。

そして令嬢の姿絵を出し・・・本当に私によく似ていました・・・再び説明が続きます。

「彼女はリーゼロッテ・シェルダン、左足が不自由で杖を使って歩いている、左目も失明しており眼帯をしている、この令嬢の代わりに指定された日の指定された時間、王城の中を歩き回って欲しい、ある人物が接触して来るだろうがその人物の言う事は抵抗せず聞くように、声がかかるまで1日か2日、上手くいかなければもう少し日程が伸びるかもしれない」

「出発は明日にでもお願いしたい、ここから王都まで2日、必要なら前金で王都までの旅費を支払う、王都の指定された場所に行き、そこに居る人物にこの札を見せると迎えの者が来て王城内に案内する手筈になっている」

そう言ってお遣いの人は帰って行きました。

王都に行ける!、このお家から逃げ出せる、お仕事が終わったら帰りに逃げ出そう、まだ私は12歳だけど、年齢を誤魔化せば雇ってもらえる所があるだろう、私は期待でその夜は眠れませんでした。

次の日の朝。

「嫌!、・・・お父様何をするの?」

翌朝、客間に呼び出された私はお父様に床に押さえ込まれ、鉤の付いた鋭利な刃物を持ったお義母様が近付いて来ます。

「お前に王都で逃げられたら困るからな、左目を潰して左足も・・・歩けなくしてやる、そうすれば逃げ出したとしても傷物の令嬢など誰も相手にしないだろう、良かったじゃないか、お前は演技が下手で馬鹿だ、身代わりの令嬢そっくりに俺達がしてやろう」

「やだ!、お願いお父様!、私絶対逃げないから!、やめてよ・・・」

「おほほ、セシルさん、あまり動くと他の所を切りますよ」

「嫌だぁ!、助けて!・・・・ぎゃぁぁ、痛い!、痛いよぉ・・・うわぁぁん!」

そして私の左目は光を失い、顔には大きな傷が・・・そして左足首も切られて・・・。




痛い、・・・もうお顔の傷・・・血は止まったかな・・・、足は・・・見るのが怖い・・・ブーツの中が濡れてるから、血が止まってないかも・・・ぐすっ・・・。

王都行きの馬車に揺られて2日目、王都が遠くに見えて来ました、馬車の中には監視のメイドが一人・・・いつも私に意地悪する嫌な人・・・。

「お嬢様、王都の宿屋で1泊します、そこで身支度をして、貸し出された衣装に着替えて頂きます、王城に着いたら先方の指示通り、リーゼロッテになりきって下さい、絶対に失敗しないでくださいね」

「・・・」

「・・・ったく、なんで私がこいつの子守りなんか・・・」

「・・・」




ローブのフードを深く被って王城に入り、お部屋に案内された私は執事さんの前で挨拶しました。

「・・・どうでしょう」

「はい、よく知った人でないと見分けが付かないくらいです、歩き方はもう少し姿勢良く・・・そうですよくできました、では、この部屋を出たら誰の目があるか分かりません、気を抜かないようお願いします、まずは王女殿下にご挨拶を、部屋の外の衛兵に付いて行って下さい、先程お伝えした廊下を歩いた後はこのお部屋で滞在ください、どうぞよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします・・・」

私は痛む左足に泣きそうになりながら慣れない杖を使って王女殿下のお部屋に向かいました。


セシル・ミューラーさん


セシル・ミューラーさん(眼帯)
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