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香水の匂いとキス

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「さぁー、アリスちゃん。その御髪を綺麗にして旦那様を迎えましょうね。」
無理矢理湯浴みをさせられ背筋が寒くなるような甘い声を出して私の髪を梳かすコレット。

「まぁまぁ!アリスちゃん。メイドと一緒になってお屋敷中をお掃除していたくせに髪もお肌も綺麗で羨ましいわ。」
憎たらしいくらいにね。と笑いながら言う。

「流石にいつもの貧相な洋服ではいけないから、私のお下がりを着て頂戴。 まぁ、貴女のその貧相な身体には合わないものばかりですけれどね。」
衣装部屋から出してきたドレスを渡される。
キツイ香水の匂いが染み付いたドレス。
「そうだわ。伯爵様は夜のお営みがとても好きな方なの、きちんとご奉仕して差し上げるのよ。 生きている間は大切にされるわ。」
夜の・・・営み
ぞわぞわと鳥肌がたつ
クロヴィス様・・クロヴィス様・・・
目の辺りが熱くなり視界が歪む




サイズの合っていない真っ赤なドレスを着せられてパタパタと白粉を顔に塗り込み口は真っ赤な口紅を塗られる。
洋服に染み付いているのと同じ香水をふんだんにかけられてむせ返りそうになる。
「この香水はね、殿方だけ反応する興奮薬が入っているのよ。馬車に乗っている間に純潔が無くなるかもしれないけれど、どうせ夫婦になるものね。お継母様おかあさまからの餞別ですよ。」
ゾワッと毛が逆立ちそうになる。
外に出てる腕をゴシゴシと擦る意味がない事はわかっているのに。

その時正装した男が嬉しそうに扉の前に立っている。
「アリスは準備出来たかい?」
「あら、貴方は入ってきてはダメよ。 あの香水をたっっぷりと吹き付けたんですから。」
「おお、それはいかんな。 もうじき伯爵がやって来るからゆっくりしていなさい。 コレット、お前も支度を。」
「はい、旦那様」
2人が出て行った。
窓のない部屋で逃げ道がない。
正面から逃げる?いえ、そんな無謀な事出来ないわね。
このドレスでは重たくて走れないもの。


「・・・クロヴィス様。ごめんなさい。」
熱いものが頬を伝う。


バタバタと部屋の外が騒がしくなった。
「き、貴様は誰だ!!!! お前か!あんなちんけな物の送り主は!!!!」
ちんけな物の送り主?
ドアをコソッと開けてみると丁度正面が玄関ホールだ。
「え・・・・うそ。」
男と向かい合うように立っていたのは、クロヴィス様だった・・・
クロヴィス様が来てくださった。
涙が止めどなく出てくる。

男はクロヴィス様に
「お前のような下位貴族に我が家の娘をやる事はない!さっさと帰れ!」
と怒鳴りつけている。
クロヴィス様は特に気にした様子もない。
「伯爵は来ない。今頃王宮の兵に囲まれている頃だろう。」
「な、なに!?」
よくみるとクロヴィス様の後ろにはクロヴィス様の従者さんと4人程の兵が立っていた。
そしてその後ろには、ヤヤ?
もしかして、ヤヤが知らせてくれたの・・・?
いつもパンやミルクをこっそり届けてくれたヤヤ。
クロヴィス様に知らせに行ってくれたのね。


「エルマー・ウィドーソンお前の悪事は既に国王陛下の耳に入っている。」
「なんの事だ。」
「あくまでシラを切るつもりか・・・」
「シラを切る?潔白であるのになにを」
「妾であった現在の後妻と計画してアリスの母親の食事に毒薬を少量ずつ入れた罪、死亡自体は事故死だと言うのにそれを隠した罪そして娘を金で売ろうとした罪それ以外にも横領等々」
「ぐっ!!証拠があるとでも言うのか?」
「アリス。それ以外にもメイドや金を巻き上げられている者達から話を聞けるが?」
「っこの!!」
クロヴィス様に殴りかかりそうになったところで、後ろの兵達が動き出し取り押さえた。

「残念だったな。 お前と後妻の罪はこの国の国王に任せているから俺がどうこうするつもりはない。」
取り押さえられた男と隠れていたコレットが捕まった。
その後ろにアダムが。
「後妻と・・・その子供か」
「はい。」
「この子どもも一緒に連れて行ってくれ。」
「はい。 では、我々は先に王宮へ行きますので、後ほど。」
「わかった。すぐ行く」

そう話しているのが聞こえる。
・・・とうとう、あの2人が捕まった・・・。
ドアの前で座り込んだ。
とうとう・・・

ギィッと扉が開く。
そちらを見るとクロヴィス様が
「・・・アリス、見つけた。」
ふわりと微笑んでくださるクロヴィス様を見ていつの間にか固まっていた体がほぐれる。

「クロヴィス様・・・っお会い、したかった。 助けてくださり、本当にありがとう。」
涙が溢れてくる。
クロヴィス様は私の頬に手を当て涙を拭いてくださる。
「アリス、無事で本当に良かった。」
そう言ってギュッと抱きしめてくださる。
「クロヴィス様。 クロヴィス様から頂いた大切な贈り物を取られてしまいました。」
2つで1つのあの石の入ったブレスレット。
大切な宝物。
「これだろ?ちゃんとここにある。」
そう言って私の手首に付けてくださる。
「!これ、これです。・・良かった。」
戻ってきたブレスレットを見てホッとする。

「アリス、・・・俺と一緒にアプト国へ来てくれ。」
白いクロヴィス様の頬が少し染まっている。
「もちろんです。連れて行ってください。」
「アリス・・・」
「ん。」
クロヴィス様が優しく口付けてくださる。
「んぅ!」
その後私の唇を食むように吸い付き呼吸が追いつかない私は少し口を開く
するとクロヴィス様の舌が私の口の中に入ってくる。
「ぁ・・はっ。クロ、んっ」
「はぁ・・・アリス。」
頭を押さえ付けられて離れられない。
頭が真っ白になる
「んぅ・・・ふっ、ぁ」
苦しくなってきてクロヴィス様の胸を叩いてようやく離してもらった。
呼吸が浅くて息が上がる。

「クロ、ヴィ・・」
「っ、すまないアリス。急に止まらなくなった・・・」
!そうだ私。今男性を興奮させる香水がたっぷりかけられているんだったわ。
顔が熱くなる。
「いえ!!クロヴィス様のせいでは無いのです!私の香水のせいで」
「香水?」
「あ、あの」
「お嬢様!!こんな所にいらっしゃったんですか!?」
説明しようとしたらヤヤが入って来た。
「ぁ。ヤヤ・・・」
「まぁまぁ!!香水くさい!湯浴みをして落としてしまいましょう。」
「えぇ・・・あっ!お洋服は!!!」
バッとクロヴィス様の方を見る
「クロヴィス様・・・お願いを、聞いていただけますか?」
「なんだ。」
「あの、・・・あの家のクローゼットにクロヴィス様から頂いたお洋服を入れてるのです。 それをとって来ていただけますか?」 
「わかった。すぐ持ってこよう。」
サッと外に向かっていく。

「さあ!お嬢様は私と一緒に湯浴みですよ。」
「えぇ、」
グイグイとヤヤに引っ張られて行く。




湯船に張られたお湯にいろんな花びらが浮かべられている。
ヤヤは私の身体を後ろからタオルで拭いてくれる。
「お嬢様。出過ぎた真似をしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。」
ポツリとヤヤが話す。
「どうしてヤヤが謝るの。貴女には本当に感謝しているのよ。」
10年前まだヤヤの赤ちゃんが1歳だったのに、殆ど私の側にいてくれた。
こっそりと食事を届けてくれて、今回はクロヴィス様に私の事を伝えに行ってくれた。
感謝こそすれ怒る理由があるだろうか。

「本当に、本当にありがとう。」
「お嬢様・・・今まで本当にお世話になりました。」
「お世話になったのは私の方でしょ」
くすくすと笑うとヤヤも笑う。

クロヴィス様が持って来てくれていたお洋服の中から1着選んで着替える。
薄いピンクのAラインワンピース。
ヤヤが薄くメイクもしてくれた。

「よくお似合いですよ、お嬢様。」
「ありがとう。クロヴィス様に買って頂いたの。」
嬉しくてくるりと回る

「可愛らしいです。 さぁ、クロヴィス様の元へ参りましょう。 王宮へ向かうので、お嬢様も一緒にとの事です。」
「そうね。早くしなくちゃ。」
私はクロヴィス様が待っている玄関ホールへ向かう。

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