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俺は、どうなる?
もう戻れない?
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夜が明け、
社長の身体のまま出社する。
フロアに顔を出した瞬間、
空気が変わった。
「……社長が来た」
ひそひそと続いていた話し声が、
一斉に止み、
フロアは不自然なほど静まり返る。
――社長室に行くしか、ないか。
そう思い、
収は社長室のほうへ向かった。
その途中。
「鈴木、無断欠勤か?」
「電話、入れておけよ」
係長の声が聞こえる。
思わず、収は足を止め、
反射的に口を開いた。
「係長」
「鈴木くんには、私が電話しておく」
係長が目を丸くする。
「社長みずからですか?」
「鈴木、びっくりすると思いますよ」
「あ、ああ……」
「ちょっと、仕事が落ち着いたものでな」
自分でも苦しい言い訳だと思いながら、
そう言ってその場をやり過ごす。
そして、社長室へ。
扉を閉め、
椅子に腰を下ろした瞬間、
一気に現実が押し寄せてくる。
――ちょっと待て。
――俺の身体は、どうなってる。
――このまま……戻れなかったら?
嫌な想像が、頭を埋め尽くす。
試しに、
自分のスマホを取り出し、
自分の電話番号にかけてみる。
……繋がらない。
コール音すら、鳴らなかった。
胸の奥が、ざわざわと騒ぎ出す。
じっとしていられなくなり、
収は社長室を出て、
トイレへ向かった。
いつものように、
個室に入り、
扉を閉める。
ここなら、
少しは落ち着いて考えられる――
はずだった。
すると――
「ワシを探しとるんか~。ふぉっふぉっふぉっ」
どこからともなく、声が聞こえた。
収は、はっとして個室の扉を開ける。
そこには、あの爺さんが立っていた。
「あ……あの、俺は……」
「俺は、どうなるんですか!」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「どうもならんよ」
爺さんは、こともなげに言う。
「お前は、このまま社長の姿で、生きていくだけじゃ」
「……じゃあ、元の俺は?」
「鈴木収は、どうなるんですか!」
「さぁのう~」
「行方不明者、ってことで処理されるじゃろうて」
「そんな……そんなの嫌です!」
「何とかしてください!」
爺さんは、首を横に振る。
「なんもできんよ」
「いいじゃないか」
「しがない会社員から、社長になれたんじゃから」
そして、にやりと笑う。
「まあ……」
「お前さんがしたことで、これから大変なことになるがのぅ」
「ふぉっふぉっふぉっ……」
その笑い声を残し、
爺さんは、トイレの外へと消えていった。
収は、その場に立ち尽くし、
やがて、腰から崩れ落ちる。
――絶望だった。
そこへ、足音が近づく。
「社長、大丈夫ですか?」
「具合、悪いんですか?」
係長だった。
「あ……ああ」
「ちょっと、めまいがしてな」
収は、無理に立ち上がりながら続ける。
「今日は……早退させてもらうよ」
係長は、心配そうにうなずいた。
「分かりました。お大事にしてください」
収は、ふらふらとした足取りでトイレを出る。
そのまま、誰とも目を合わせず、
会社を後にした。
社長の身体のまま――
家路へと向かいながら、
収は、自分の居場所が、
もうどこにもないことを、
はっきりと自覚していた。
社長の身体のまま出社する。
フロアに顔を出した瞬間、
空気が変わった。
「……社長が来た」
ひそひそと続いていた話し声が、
一斉に止み、
フロアは不自然なほど静まり返る。
――社長室に行くしか、ないか。
そう思い、
収は社長室のほうへ向かった。
その途中。
「鈴木、無断欠勤か?」
「電話、入れておけよ」
係長の声が聞こえる。
思わず、収は足を止め、
反射的に口を開いた。
「係長」
「鈴木くんには、私が電話しておく」
係長が目を丸くする。
「社長みずからですか?」
「鈴木、びっくりすると思いますよ」
「あ、ああ……」
「ちょっと、仕事が落ち着いたものでな」
自分でも苦しい言い訳だと思いながら、
そう言ってその場をやり過ごす。
そして、社長室へ。
扉を閉め、
椅子に腰を下ろした瞬間、
一気に現実が押し寄せてくる。
――ちょっと待て。
――俺の身体は、どうなってる。
――このまま……戻れなかったら?
嫌な想像が、頭を埋め尽くす。
試しに、
自分のスマホを取り出し、
自分の電話番号にかけてみる。
……繋がらない。
コール音すら、鳴らなかった。
胸の奥が、ざわざわと騒ぎ出す。
じっとしていられなくなり、
収は社長室を出て、
トイレへ向かった。
いつものように、
個室に入り、
扉を閉める。
ここなら、
少しは落ち着いて考えられる――
はずだった。
すると――
「ワシを探しとるんか~。ふぉっふぉっふぉっ」
どこからともなく、声が聞こえた。
収は、はっとして個室の扉を開ける。
そこには、あの爺さんが立っていた。
「あ……あの、俺は……」
「俺は、どうなるんですか!」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「どうもならんよ」
爺さんは、こともなげに言う。
「お前は、このまま社長の姿で、生きていくだけじゃ」
「……じゃあ、元の俺は?」
「鈴木収は、どうなるんですか!」
「さぁのう~」
「行方不明者、ってことで処理されるじゃろうて」
「そんな……そんなの嫌です!」
「何とかしてください!」
爺さんは、首を横に振る。
「なんもできんよ」
「いいじゃないか」
「しがない会社員から、社長になれたんじゃから」
そして、にやりと笑う。
「まあ……」
「お前さんがしたことで、これから大変なことになるがのぅ」
「ふぉっふぉっふぉっ……」
その笑い声を残し、
爺さんは、トイレの外へと消えていった。
収は、その場に立ち尽くし、
やがて、腰から崩れ落ちる。
――絶望だった。
そこへ、足音が近づく。
「社長、大丈夫ですか?」
「具合、悪いんですか?」
係長だった。
「あ……ああ」
「ちょっと、めまいがしてな」
収は、無理に立ち上がりながら続ける。
「今日は……早退させてもらうよ」
係長は、心配そうにうなずいた。
「分かりました。お大事にしてください」
収は、ふらふらとした足取りでトイレを出る。
そのまま、誰とも目を合わせず、
会社を後にした。
社長の身体のまま――
家路へと向かいながら、
収は、自分の居場所が、
もうどこにもないことを、
はっきりと自覚していた。
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