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消えずの火と第一の殺人
倖田家のサヨ
しおりを挟む刺された人間の身元はまだわからず。
手術は無事に終わったが、意識は戻らないままだという連絡が入った。
茉守は、マグマたちと一緒に、島にある倖田の実家でお昼をご馳走になった。
「ともかく、これ以上死体を見つけるな。
山中などで見つけた場合は、そっと埋めろ」
と倖田は無茶な指示を出してくる。
いや、死んでませんし、と思いながら、茉守はよく味のしみた煮しめを食べる。
「犯人に言ったらいいと思いますよ」
と言って、
「犯人誰なんだよ。
……って、お前、何杯食ってんだっ」
と倖田に叫ばれる。
「いや、食ってもいいんだが、顔と動きが一致してないぞっ」
「すみません。
あまりにも美味しくて」
無表情に茉守は言った。
倖田家のお手伝いサヨは、茉守にご飯をよそいながら言う。
「たんとお食べ~。
ここらは昔、神の島に鍬を入れてはならないという理由で、農業はやってなかったけど。
畑は最近、作るようになったんだよ。
米は本土のものだけどねえ」
「そうなんですか。
美味しいです」
「美味しかったら、美味しそうな顔をしろよ」
とよく食べるが無表情な茉守にマグマが言う。
「まったく、『神の住まう島』というキャッチフレーズで売り出そうと思ったのに。
橋の開通式の日に殺人とか。
観光客に悪い印象がついてしまったじゃないか」
と溜息をつく倖田にマグマが言う。
「神の住まう島なんて、たくさんありそうじゃないか。
『連続殺人の起こる島』とかにしろよ」
「予告状が降ってきただけだろ」
まだ連続していない、と倖田は言った。
「ヘリの風圧で木々が激しく揺れてたから、何処かに引っかかってたイタズラ書きがタイミング悪く降ってきただけかもしれないし」
そこで、倖田は茉守を見て問う。
「で?
夏休みの宿題の地図は描けたのか?」
「地図は観光課の方がくださったものですよ。
私は、人が死んではならない島の墓を調べに来ただけなんですけどね」
と茉守は呟く。
そこで、マグマがちょっと迷うような顔をして言った。
「……お前、願いが叶いそうにもないのに、ミサンガが切れそうだから、包帯で止めていると言っていたが。
なんの願いをかけてるんだ?」
「それは言えませんよ」
マグマが窺うようにこちらを見て問う。
「叶いそうにないのか? その願い」
「今すぐ叶えることも可能かもしれませんが。
……叶えましょうか?」
いや、なんなんだよ、その願い、と倖田が眉をひそめた。
「倖田さんが駄目だとおっしゃりそうなので、やめときます」
そこで、ニートが立ち上がった。
「ご馳走様」
「おう。
戻るのか」
「坂の上のじいさんが手を合わせに来るって言ってたから。
まあ、この騒ぎでは来ないかもしれないが」
そんなニートの言葉に倖田は笑い、
「あのじいさん、好奇心旺盛だから、事件現場の方に走ってってるよ。
まあ、被害者も助かりそうだし、とりあえずよかった」
と言う。
「意識が戻ったら、犯人、捕まりますかね?」
と茉守は訊いたが、マグマは眉をひそめ、
「どうだろうな。
背後から刺されてるから」
と言う。
まあ、いきなり、ふいをつかれたのなら、わからないかもしれないな。
でも、あんな売店の裏なんて。
誰かが呼び出さないと行かないような。
いや、眺めがいいから行ったのかもしれないけど。
などと考察しながら、先に帰っていくニートの背を見る。
豪勢な和風の庭には燦々と日が降りそそぎ、ニートの白衣がそれを眩しく反射していた。
ふと疑問に思い、問うてみる。
「ニートさんはなんで、神主の格好してるんですか?」
「あれはただのコスプレだよ」
「コスプレ……?」
「いや、あいつが暇もてあまして、あそこで砂紋を描き始めたとき、神社の娘が草履を持ってきて。
それ履いて描いた方が足跡がつかないですよと言ったんだが。
そのうち、女どもが盛り上がって、いろいろ持って来て、
『草履履くのなら、ついでにっ』
って。
気がついたら、神主が出来上がっていた。
だから、コスプレだ」
とマグマは語る。
「されるがままに着てるのが面白いですね」
と茉守が感想を述べると、
「面倒くさがりだからな。
あと……
白い衣を着てると禊をしてる気分になるからじゃないのか」
と言う。
マグマもそこで立ち上がった。
「おい、俺も今日は暇だから。
お前が望むなら、引き続き案内してやるが」
ありがとうございます、と頭を下げ、茶碗を片付けるのを手伝ったあとで。
茉守は、マグマにデパートの店員か、と揶揄されたお辞儀をして、サヨと倖田に礼を言う。
「どうもご馳走様でした。
後日、改めてお礼を」
「いや、別にいい」
「ご家族の方にも――」
と言うと、
「家族は居ない。
音楽性の違いで解散した」
と真顔で倖田は言う。
……此処は笑うべきところなんだろうか。
いや、そうであっても、私は笑えないのだが、と思ったとき、マグマが、
「行くぞ」
と言ってくれた。
いい天気だ。
雲ひとつない。
……事件のせいで、テレビ局のヘリが飛んでいるようだが。
死体のない墓である楠のところまで山道を登りながら、ニートは空を見上げる。
次はお前だ、か――。
だがまあ、こんな島で二件も事件が起こるなんてないだろう。
そんなに島民も居ないしな。
そうそう事件なんて……と思いながら、枯山水の場所まで行ったニートは気がついた。
自分が途中まで綺麗に描いていた砂紋のど真ん中。
そこに、ビニールのようなものに包まれた大きな塊が落ちていることに。
プチプチした梱包材で巻かれているようだ。
うっすら中に人のようなものが見える。
「ともかく、これ以上死体を見つけるな。
山中などで見つけた場合は、そっと埋めろ」
と言う倖田の言葉を思い出しながら、ぼんやり眺める。
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