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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

コツを教えておいてください

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「あの、かき氷屋さん、なんで離れていくんですか?」

 茉守は話しているうちに、カウンターから出て、ジリジリ遠ざかっていくかき氷屋に問うてみた。

「僕、殺されますよね!」
とかき氷屋は叫ぶ。

「こんな話聞いちゃったら、殺されますよねっ?」

 殺され仲間を求めてか、かき氷屋は周囲をキョロキョロ見回しはじめた。

 だが、かき氷を売る売店の周辺に人はおらず、明るい日差しの降り注ぐ山頂で、みんな観光を楽しんでいた。

 あっち側に混ざりたいっ、という顔をかき氷屋はする。

「大丈夫です」

 いつものように表情もなく、茉守はマグマたちを指差し言った。

「殺すのならまず、この人たちから殺します」

 殺すのかよっ、とマグマが茉守を見下ろす。

 茉守はそちらは見ずに、かき氷屋に向かい言った。

「あなたより、この人たちの方が私のことを知りすぎているから。
 あなたはただ、しゃべらなければいい」

 でも、と茉守は小首を傾げたあとで言う。

「でも、あなたが居なくなったときのために、誰かにあのかき氷機を上手に動かすコツ、教えておいてくれると嬉しいです」

 マグマたちが、
『それはなんのためだっ!』
『こいつをったあとの話かっ!』
という顔をしていた。
 

 店内に居ると、かき氷屋が怯えるので、茉守たちは外の明るいベンチで三人並んでレモネードを飲んだ。

「マグマさんは早くに気づいていましたよね。
 私が山村瑞樹ではないこと」

 よく冷えていたので、汗を掻いている瓶を手に茉守は言う。

 せっかく離れてあげたのに。

 かき氷屋は店の中から、

 いつ殺る?
 殺られる?

 殺るっ? とハラハラしながら、こちらを窺っているようだった。

「私は菊池茉守さんの名前を借りて、此処まで来たけど。

 あなたは、私がニートさんに復讐に来た人間かもしれないと、まず、疑った。

 もともと、そういう人間が現れることを想定して、ニートさんを自宅の離れに住まわせていたのでしょうから。

 だけど、あなたは、私の山村瑞樹としての告白を聞いたとき、私が瑞樹を装おうとしている、別の誰かだと気がついた。

 私の語る『山村瑞樹の回想』に、まったく霊が出てこなかったからです。

 あれが霊が見える私自身の回想なら。

 おそらくそこに、瑞樹さんのお兄さんや、あそまでの執念を燃やしてお兄さんを殺した女の霊の話が出ていたはずですもんね」

 楽しげな家族連れが記念写真を撮っているのを見ながら、茉守はおのれの過去を語り出す。

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