99 / 258
懐かしい人たち
夜の図書室
しおりを挟む「時子っ!」
弥生が階段から落ちかけた時子の背を引っ張る。
「なにやってんの、もう~っ!」
「い、いや。
今、そこに七月が――」
と言いながら、時子は階段下を振り返る。
時子から手を離しながら、弥生は溜息をついて言った。
「……まあ、私も見た気がするけど。
七月と二馬鹿と、狩衣着た妙な男を」
その七月も二馬鹿も、狩衣の男も今は影も形もない。
誰も居ない暗い踊り場を見ながら、時子は呟く。
「七月たち、何処行っちゃったの?
今、此処に居たのに。
私たちは何処に居るの?
此処、絶対、いつもの学校じゃないよね。
帰れるの?」
顎に手をやった弥生が、うーん、私に訊かれても、という顔をしたとき、沙智が、
「きゃっ」
と短く声を上げた。
「どうしたの?」
振り向いた二人も息を呑む。
月明かりに照らされた廊下の向こうからその人物は現れた。
「なにしてるんだ? お前たち」
そう言って、眉をひそめる。
自分の言葉に自分で疑問を抱いたかのように。
「お前たち……
そうだ。
俺は、お前たちを知っている。
誰だっけな?
いつも見てたような――」
三人は息を止めて、彼を見ていた。
男は自分たちのことがわからないように、首を捻っている。
まるで、生きて、そこに居るかのようだ。
沙智は堪えきれなくなったように、涙をこぼした。
小さく名を呼ぶ。
「鍵、開いてる」
図書室の戸に手をかけた七月は、ゆっくりと重い戸を引き開ける。
一瞬、中に誰かが立っているように見えてぎくりとした。
「これ、うちの図書室と違わないか?」
そんな三橋の言葉を聞くまでもなく、気づいていた。
いつもの図書室と書架の配置が違う。
「そうだね。
さっき入るときも思ったけど。
入り口にある『図書室』っていう看板も印刷してある書体が違ったよ」
看板ってな……。
お店じゃないんだから、と思いながら、辺りを見回す。
うちの図書室じゃないなら、何処のなんだろ。
まあ、夜の職員室も配置が違ったようだが、あれは、机の位置が違うくらいで、元は此処の職員室のようだった。
七月は窓の側に行く。
そういえば、覆い被さるようにある側の大きな木がない。
外の風景も違うのだろうかと窓を開けてみた。
顔をしかめ、
「……七竈がある」
と呟く。
校舎の西側に七竈の枝が僅かに見えた。
側に三村が来る。
「窓開けたら、いつもの校舎なの?
じゃあ、此処だけ違う空間なんだね」
「なんでもいいよ。
早く捜せよ」
何が怖いのか、窓辺には寄らずに三橋が言った。
「そうは言っても。
うーん。
いつ頃の事件だったかな。
詳しくは知らないから」
と三村は新聞の縮小版の並ぶ棚を見ながら呟く。
「だったら、ネットで調べた方がいいんじゃないか?」
と三橋は後ろを振り返っておいて、
「ない!」
と自分で叫んでいる。
南の窓の下にある検索用のパソコンがあるべき位置になかった。
当たり前だ。
此処は自分たちの図書室とは違うのだから。
「そもそもあったところで、ネットに繋がるわけ?
待てよ。
だったら、携帯にも繋がるかも。
直接、百ちゃんにかけて訊いてみようかな」
と三村は携帯を取り出してくる。
「繋がるのかっ? 此処からっ!?」
「わかんないでしょ。
此処、うちの校舎でもないようだし。
あ、鳴った」
水色のスマホを取り出した三村は耳に当ててすぐそう呟く。
「だったら、図書室来る必要なかっただろ!」
と三橋が切れていた。
いつもにも増して気が短くなってるな。
三村が言うところの心の許容量を越え始めているのかもしれないと思っていた。
自分や槻田には慣れ親しんだ常に霊の居る光景も、彼らにしてみれば、すべて初めてのことだ。
理性と現実に目の前にあるものが闘っているのかもしれない。
……悪魔呼び出そうとした男なのにな。
そういや、こいつ、私を生贄にしようとしやがったんだった、と思い出しながら、カウンターの方に向かう。
図書室に来なくてもよかった、と三橋は言うが、どうだろう。
此処は霊の彷徨うあの空間から隔絶された別の場所だからこそ、通じたのかもしれないし。
それに、さっき、新聞の縮尺版の背表紙が見えた。
別に時代が遡ってるわけではないようだ。
ちゃんと最近のものまであったから。
ならば、此処か隣の準備室に、あれはあるはずだ。
それが確認できただけでもよいのではないかと思っている間も、三村は百花に呼びかけている。
「百ちゃん? 百ちゃん。
僕、ちょっと訊きたいことがあるんだけど。
なに?
よく聞こえないよ。
雑音が凄くて。
え?
聞こえないって。
誰かずっとうめいてるし!」
邪魔だな、うめき声とか、呟いている。
三村の方が三橋より先に神経が太くなったようだ、と思う。
ぼんやりした光に照らされながら、軽く笑ったとき、書架の近くに居た三橋がカウンターの前まで歩いてきた。
「なにやってんだ?」
画面の灯りのせいで、こちらに気づいたようだった。
「あった、パソコン。
此処、最近の図書室には違いないようだから、何処かにあると思って捜してたのよ。
カウンターの下に隠れてたわ」
此処のカウンターは立って応対するようになっているらしく、位置が高い。
作業用のデスクはその下にあり、パソコンも隠れて見えなかったのだ。
「でも、なんか画面、謎の言葉がぐるぐる廻ってるだけなんだけど」
と笑う。
「……笑うとこか、そこ」
余裕だな、とこちらを見下ろし言う三橋を見ずに訊いた。
「三橋くんは余裕ないわね」
「あるわけないだろ、この状況で。
こんなときでもしっかりしてる槻田大先生はさすが、頼りになるだろう?」
となんの厭味か言い出す。
「別に――」
埒の明かない画面から目を上げ、パソコンからの光を少し受けている三橋の白い顔を見た。
「先生も私も慣れてるだけよ。
それで頼りになるとかならないとかいう問題じゃないし」
「……そ、そうか?」
と三橋は少しだけ嬉しそうな顔をした。
三橋、元々、余裕のない奴だから、此処の空間に入ってからテンパってるのは、見ても明らかだったが。
だが、まだカラ元気というか。
カラ威張りをする余裕はあったのに。
何処から、それがなくなった――?
七月はカウンター下のデスクで頬杖をつき、三橋を見上げる。
「な、なんだ……?」
無言で長く見ていると、彼は何故か照れたように身を引いた。
口調は相変わらずでも、目が泳ぐようになったのは、いつから――?
いや、答えは最初からわかっている。
そのまま、三橋に訊こうかと思ったが、やめた。
ポケットから携帯を取り出し、鳴らす。
「もしもし――?」
三村と百花よりも空間が近いせいか、簡単にクリアに繋がった。
「先生。
今、何処?」
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる