七竈

菱沼あゆ

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ラジヲ

混線

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 全員で狭いコタツに座り――

と言っても、二体は霊だが。

 まだ呑気に音楽なぞ流しているラジオを聞きながら、お弁当を食べていた。

 今日は英嗣もトイレの人も、陰膳はいらないというので、お茶だけだ。

「私さあ、ひよりさんって好きなんだよね」

 七月はぼそりとそんな言葉をもらす。

 急にどうした、という目でみんなが見た。

「なんていうかさ。
 自信満々って感じでさ。

 言動が女王様みたいなの」

「そういうのが好きなのか?」
と白身魚のフライを食べながら、上目遣いに三橋がこちらを見る。

「いや、ああいう、自分が世界の中心だと思ってる人って、意外と他人を攻撃しないじゃない」

「あの……褒めてるの? 矢部さん」
と三村が苦笑いしながら、口を挟んできた。

「褒めてるつもり。
 やっぱ、自分に対して不安があると他人を攻撃するんだと思うんだよね」

「牧田とかのことか?」
とよりにもよって、三橋が言う。

「陽菜の攻撃はいっそ気持ちいいわよ。
 最近の、私は悪役なのよ、的なあの割り切った物言いがすがすがしいというか」

「僕、牧田さんも、沢木さんも似たタイプに見えるんだけど」

「全然違うじゃない。
 男の人って、やっぱり、女をざっくりとしか見ないのね」
と三村に言うと、

「お前の普段の物の考え方は、どちらかと言うと、男寄りだと思うがな」
と三橋が返す。

「いや、ともかくさ。
 まあ、私は、ひよりさんが好きだったんだけどねって話」

 そう言うと、三村が、
「……矢部さん、なんだかさっきから、話、過去形じゃない?」
と言う。

「え?」

「さっきから、沢木さんの話するとき、なんだか、今居る人について話してる感じじゃないよ」

 思い出話してるみたいだ、と三村に言われて、ぞくりとする。

 ……本当だ。
 どうしてだろう。

 何かの予感だろうか。

 いや、単に脆弱でない自信を持って、己れが世界の中心だと言い切りそうなひよりが、あんな頼りなげな瞳を見せたから。

 だから、心配しすぎているのだろうか。

「そろそろ九時だぞ」
と槻田が腕時計を見る。

 黒いラジオを全員が見つめる。

 いきなり妙な音がした。
 何かの警笛のような音。

「うわっ、びっくりした」
と七月が言うと、三村が顔しかめる。

「なんだろ、これ。
 こんなの番組の最初にないよ?」

 確かに、番組とは関係なかったようだ。

 ずっと普通に始まりの音楽が流れていたから。

「今の音……」
と英嗣が呟く。

「普通に電波に乗って来た音じゃないね」

 黙っていたトイレの霊が、そこで、こくりと頷いた。

 メインのパーソナリティはひよりではないので、ごく普通に番組は続いていく。

 ひよりは相槌を打ちながら、間で、笑い声を立てている。

 それに少し遅れるようにして、違う笑い声が聞こえた。
 ひよりのものではない。

 少し引きつったような落ち着かない声だ。
 時折、ひよりの声に被さる。

 ぶつぶつと話し声らしきものも聞こえていた。

 明らかに、通常の放送とは違う音が混ざっている。

 ラジオだから、雑音が混ざるのは当たり前だが、そういうのとは違うと感じていた。

「かなり混線してるね。
 ……あっちの世界と」
と英嗣が笑う。

「……七月?
 どうかしたのか?」
と槻田が訊いた。

「いや――
 ごめん。
 なんだろう、気持ち悪くて」

 吐き気もよく言われる霊現象のひとつではあるが。
 今までどんな霊に遭遇しても、自分はそんな風にはならなかった。

 ひよりが何を言うのか、気になるが、まだ、普通に番組は続くらしい。

 少し席を外そうと、七月は立ち上がり、洗面所に行った。

 洗面所のドアを閉め、ラジオの音を遮断する。

 白い壁に背を預けると、すぐに目を閉じた。

 目の前にある鏡を見ないためだ。
 何かがそこに映りそうな気がしたから。

 すぐに誰かがノックする音がした。

「……七月?」
 槻田の声だ。

 返事はしなかったが、すぐにドアは開いた。
 そちらを振り向いてから、目を開ける。

「大丈夫か?」

「……大丈夫。

 戻って。
 ひよりさんのラジオを聞いていて。

 何かあったら、私に教えて」

 わかった、と槻田は頷き、行こうとしたが、足を止める。

 部屋の方に向かって、
「何か雰囲気が変わったら、呼べ」
と言い、ドアを閉めた。

「……閉めるのかよ」
と言う三橋のなんとも言えない声が聞こえた。

 槻田の手が一度、背中に触れ、そのあと耳を塞ぐ。

「聞かなくていい。
 後から俺が何を言ったか教えてやるから」

 耳塞いで、そう言っても、その言葉は私に聞こえないとか思わないのだろうか。

 いや、聞こえてるけど。

 どうもときどき、間が抜けている。

 七月は少し笑った。
 そのまま槻田の胸に縋る。

 あまりこうして寄り添ったことはないが、初めてそうしたときからずっと。
 なんだか懐かしい匂いだと思っていた。

 落ち着くからきっと、そう思うのだろう。

「大丈夫よ。
 私、聞かなくちゃ」

 何が自分を不快にさせたのか。
 今は考えないようにした。

 意識を正常な状態に保つ方が先だ。

 こうしている間にも、番組は進んでいる。

 早く戻らなくては、と行こうとしたが、その手を槻田が掴んだ。

「……七月。
 俺はたぶん――」

 その顔を見つめたとき、彼が何を言おうとしたのかわかった気がした。

 自分もそのことを頼もうかと思っていた。

 だが、今、此処では口にしたくない。

 今はまだ――

「行こう。

 そうだ。
 録音できるラジオ、用意しとけばよかったわね」
と言って、

「そんな危険な音声の入ったテープを何処に保存しとくつもりだ」
と言われる。

「勝手に夜中に飛んだり落ちたりしてそうね」
と先程からの霊現象を思い出し、笑ってみせたが、槻田は笑わなかった。




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