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ロミオとジュリエットは離婚しました ~シマトネリコ~

ロミオとジュリエットは離婚しました

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「いいお兄さんじゃないか」

 兄が帰ったあとで、准がそう言ってきた。

「練人さんが父親についていったのは、ひとりで一度捨てた家や会社に戻ってやっていくのはきついと思ったからじゃないのか」

 葉名は溜息をつき、

「まあ、そうなのかもしれませんけどね。
 なにかこう、チャラい人なので、楽したくて、父についていったように見えてしまうんですよ」

 そう言っている端から、社長室の外で涼子を口説いている声が聞こえてくる。

 ……おのれ、兄め。
 恥をかかせおって。

 やはり、トネリコの木で撲殺すべきだったか、と今は閉まっている黒い扉を見ながら思う。

「しかし、お前には、いろいろ秘密があるな」
と准が言ってくる。

「二階堂の娘なことも、モンキーなことも隠していたし」

 いや、モンキーは隠してたわけじゃありません、と思う葉名の前で腕を組み、少し睨む風に、准が訊いてきた。

「他にもまだ、俺に隠していることはないか?」

「もうありませんよ」
と言うと、そうか? と言ったあとで、准はなにか思いついたように笑い、

「いや、あるな」
と言って、少し顔を近づけてくる。

 赤くなって後退しながら、いや、なにがっ? と思う葉名に准は言った。

「例えば――

 実は俺を好きなこととか」

 ぎくりとしてしまったのだが、准は気づかず、ははは、と笑う。

「しかし、笑えない話だな」
と眉をひそめて言ってくる。

「ロミオとジュリエットは離婚しました、か」

 まあ、お芝居みたいに、めでたし、めでたしで終わらないですからね、人生は、と昨日、見たばかりの准の父の人情芝居を思い出しながら、葉名は思っていた。

 


「実はちょっと疑っていたのよ」

 葉名が社長室を出ると、涼子がそんなことを言ってきた。

 なにを? といろいろありすぎて思ったが、准とのことだった。

「だって、いつだったか、あんたと社長、ふたりともに、服とか髪に同じ謎の白いものがついていたのよっ」

 ……パウダービーズです、それ。

 兄にくどかれていた涼子に、すみません、ご面倒おかけしましたと詫びて、葉名は職場に下りた。



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