エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
214 / 375
第10章

第214話

しおりを挟む
「善貞はどこからきたんだ?」

「官林村って所だ」

 ひょんなことから知り合うことになった善貞。
 話しを聞いてみると、彼は猪の魔物がこの周辺の村に被害を与え始めたことを危惧し、1人猪退治に出たらしい。
 支度資金がなく、食料を用意せずに出てきてしまったと後悔していたところで、調理していたケイに遇ったのだそうだ。
 その被害を受けた村が、善貞が暮らしていた官林村という所で、月和村から北に1日かかる所に存在しているらしい。

「それにしても、だいぶ繁殖してしまっているようだな……」

「これだけ猪が多いのは原因があるのか?」

「まぁ……、色々と……」

 ケイが繁殖した理由を尋ねると、善貞は表情を曇らせる。
 何か言いたくなさそうな事でもあるのだろうか。
 ということは、善貞もこの原因に何か関係あるとでも言うのだろうか。
 ただの観光に来ているケイは、重い話ならあまり深くかかわりたくない。

「冒険者の仕組みのない日向では、どうやって魔物の退治を行なっているんだ?」

 何か話が嫌な方向にいきそうだったので、ケイは方向をずらすことにした。
 日向の国には冒険者組合のような存在がない。
 魔物が繁殖しないようにするためには、誰かが間引かないとならない。
 村人や商人では、弱い魔物はともかく、今回の猪のような獰猛な魔物を相手にすることができないだろう。

「たいていはその領地を治める大名家が、所持している剣術集団を派遣して対処に当たるんだ」

「へ~……」

 日向は、東西南北それと中央の5つの地域に分けられており、それぞれの地域に大名家が置かれている。
 中央には、さらにこの国の皇族も住んでいて、そこが首都となっているのだそうだ。
 その大名家は、有事の際への備えとして、それぞれ私設の武術団を所持している。
 その中には魔物へ対処するための部隊もあるらしく、魔物の繁殖の兆候があると報告を受けた場合に派遣されるのだそうだ。

「兆候があってからの行動は遅いんじゃないか?」

「それはそうなんだが……」

 報告を受けてからの行動では、間に合わない可能性もある。
 そうなる前に対処した方が楽な気がする。
 しかし、善貞の反応からすると、それができない理由があるのかもしれない。

「だいぶ前にはこの周辺の魔物に対処するための武家があったんだが、取り潰しにあってな……」

「ふ~ん……」

 家の取り潰しとは穏やかではない。
 何か問題でも起こしたのだろうか。
 ただ、ケイにはそれでどうでも良いこと。
 ケイは軽く返事をする。

「今は、山で分断された西側は、魔物無法地帯になっている状態だ」

 今登っている緒伝山などの3つの山によって、都会の奧電とは分断されているような地理になっている。
 西側にはケイも寄った反倉と月和村、それと官林という村の3つがあるが、山に近い月和と官林は魔物の被害が起きてから助けを呼ぶしかないらしい。

「それじゃあ、近くの村はどうしようもないな……」

 村では戦える人間なんて少ないだろうし、繁殖を抑えることなんてできないだろう。
 ここら辺は、本来たいした魔物が生息していないそうだが、このままでは猪以上の魔物が増えてしまうかもしれない。
 以前のように、大名家に変わってこの周辺の魔物に対処するための武家を置くべきだ。

「反倉は交易の関係上、ケイのような冒険者が来たりするので、周辺の魔物を退治してもらう依頼ができるだろうが、月和と官林はきついな……」

 反倉は大陸との交易で発展しているため賑わっていたが、月和村は農業を中心にしていた。
 そのため、頼む人間もいないのでなかなか厳しいかもしれない。

「じゃあ、俺たちが猪を狩るか?」

【うんっ!】「ワンッ!」

 困っているのなら助けてあげよう。
 やっぱり人や物が昔の日本に近いからか、困っている人をそのままにしておくのが何だか気が引ける。

「えっ? お前たち村と関係ないだろ?」

「急ぐ旅でもないし、猪の対処は慣れている。間引くぐらい暇つぶしの範囲内だ」

 ケイの言葉に、善貞が反応する。
 依頼もされていないのに、魔物退治なんて何の得にもならないだろう。
 しかも、猪はかなり凶暴な魔物だ。
 遇った時にかなりの数の猪の死骸があったが、罠などを使って捕まえたのだろうと考えていた。
 思い付きでするには危険すぎる。
 善貞は止めるが、猪の退治はアンヘル島で慣れているので、ケイからしたらたいして面倒でもない。
 なので、キュウとクウの運動がてら、猪の数を間引くことにした。

「……おっ? 早速来たな……」

「えっ?」

 善貞と話している途中だが、ケイの探知に猪が引っかかった。
 腰の銃を1丁抜き、ケイは猪のいる方角に向ける。

“パンッ!”

「プギャッ!!」

 こっちに向かって来ていた猪が、悲鳴を上げて横に倒れる。
 その脳天には、ケイの銃から発射された弾丸によって穴が開いている。

「……い、今の魔闘術……!?」

「んっ? そうだが?」

 善貞は、ケイが銃の引き金を引く前、魔闘術を発動したことに驚いたようだ。
 亡くなった美花から聞いた話だと、大陸には少ないが、日向だと魔闘術を使える人間がまあまあいるらしいと聞いていた。
 なので、そんな驚く事かと思い、ケイはなんてことないように答える。

「頼む! 俺に魔闘術を教えてくれ!」

「……えっ?」

 刀を差しているし、猪の退治に1人で来るくらいだから、ケイは善貞も魔闘術を使えるのかと思っていた。
 しかし、どうやら使えないようだ。
 自分の方がよっぽど無茶してることに気付かないのだろうか。
 そんな善貞の頼みに戸惑うケイだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...