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第10章
第236話
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「半分に分かれてくれてありがたい!」
“パパパパ……!!”
「「「「「っ!?」」」」」
ファーブニルに追われて北へと向かったと思っていたケイが、どういう訳か戻って来ていたことに剣術部隊の面々は慌てた。
そのせいか、ケイの攻撃に対しての対処が鈍り、多くの者が銃撃を食らう破目に遭った。
2手に分かれたことで、数が減り精神的に楽になったケイは、強めに威力を上げた連射を放ち、物言わぬ骸へと変えていく。
「くそっ! 八坂の前にそいつを殺せ!」
八坂のことを殺しに向かっていたのだろうが、これではケイと八坂に挟み撃ちにされたような状態だ。
剣術部隊の面々は、数の多い八坂の方ではなく、細かいながらも多くの傷を負っているケイを優先的に倒すべく向かってきた。
「いい判断だが、遠距離攻撃がないのは致命的だ!!」
どうやら、剣術に魔力を合わせる戦いをしているうちに、魔闘術を使いこなせるように日向の剣士たちはなってきたのだろう。
たしかに、魔闘術を使えるようになるだけで、かなり戦闘力が上がってはいる。
しかし、大陸の人間のように、魔法を使わない戦いをしてきたからか、魔力を体外へ飛ばすという行為が極端に不得意になっているのかもしれない。
接近戦での強さはたしかにケイも認めるが、それだけでは戦闘の幅が狭い。
エルフという種族は、本来膨大な魔力を利用して遠距離から戦うことを得意とする種族だと思う。
まさに、日向とは正反対だ。
相性的にどちらが良いのか分からないが、ケイの場合は接近戦も得意な方だ。
その分戦術面での引き出しも多く、どの距離でも戦えるからこそ数を相手にしても対処できる。
遠くから攻撃をして近付かせず、接近されれば武術で対応する。
それによって、剣術部隊の隊員はジワジワ減っていくことになった。
「チッ! ファーブニルもの魔物を連れて来たと言うのに、これでは何の意味もないではないか!!」
遠く離れていて、肉眼では豆粒のように見える位置で、北へ離れた剣術部隊の者が逃げ惑っている。
その様子に、今回の作戦の総指揮をとっている坂岡源次郎は舌打ちをする。
まさか、魔物を擦り付けられるとは思わず、どうしていいか分からない状況のようだ。
大陸の冒険者なら御法度だが、ここ日向ではそんな事決まっていない。
そのせいで、このようなことになるとは思っていなかったのかもしれない。
「……ここから大砲は届くか?」
このままファーブニルを放っておいたら、北へ行った仲間が全滅してしまう。
捨て駒の浪人どもと違い、彼らは綱泉家にとって重要な役割を担っている者たちだ。
何とかして救いたいが、源次郎に選べる手段は一つしかない。
「残り3発、全て撃ち込めばもしかしたら……」
源次郎の問いに、部下の男は曖昧に答える。
可能性的にギリギリといったところなのかもしれない。
「……仕方がない。やれ!」
「了解しました!」
源次郎の指示を受け、部下の男はすぐに行動を開始する。
ケイがいる方へ向けていた大砲を、ファーブニルのいる方へと向け、狙いを定め始めた。
“ドンッ!!”“ドンッ!!”“ドンッ!!”
「っ!? どこに向かって……」
剣術部隊の者たちを相手にしていたケイが、大砲音にまたかと思って目を向けるが、砲口はこちらには向いていなかった。
それに訝しんでいると、大砲が向いている方向を見てすぐに察しがついた。
「って、ファーブニルにか?」
大砲が向いているのは、ケイが擦り付けてきたファーブニルがいる方向だった。
ケイに使うよりも、ファーブニルを攻撃してこちら側に目を向けた方が、仲間を救えると思ったのだろう。
大砲の砲撃で仲間にも被害が及ぶかもしれないが、それでも何もせずにいれば全員ファーブニルの腹の中になってしまう。
それを阻止するにはこれしかない。
源次郎としても苦渋の選択に、歯ぎしりをする思いだった。
「っ!? 当たった!?」
大砲の命中精度が高い連中を連れて来て正解だった。
何とか剣術部隊の仲間の巻き添えを最小限にして、ファーブニルに球を当てることに成功した。
それを見て、源次郎は思わず拳を握って笑みを浮かべた。
「グゥラァーー!!」
「ゲッ!? 戻ってきたか!?」
大砲の球の直撃に痛みを感じたのか、ファーブニルは剣術部隊の隊員を食べるのをやめてこちらへ顔を向けた。
3発当たったというのに、大きな怪我をしていないように見える。
自分に痛みを与えた者へ怒りを向けようとしたが、ファーブニルはどうやら何によって攻撃を受けたのか気付いていないようだ。
「……何か俺に目を向けてないか?」
原因が分かっていないようなのに、何故かファーブニルはこちらへ向かって走ってくる。
そのことに疑問を持っていると、自分に目を向けているとケイは気付く。
「ヤバい! 八坂様たちは避難を!」
「わ、分かった! しかし、お主は?」
ファーブニルがこちらへ向かって来ていることに、八坂たちも気付いている。
なので、退避の指示を出すケイ。
さっきまで相手にしていた剣術部隊の者たちは、いつの間にかケイたちの相手をやめてもう避難を開始していたため、八坂たちもその指示に納得した。
しかし、ケイがその場から動かないでいることに疑問を持った。
「どうにか時間を稼いでみます!」
八坂たちが逃げるとしたら、怪我人もいることから時間がかかる。
その間、ファーブニルが待ってくれるわけもない。
だとすると、誰かが足止めをしならなければならない。
それができそうなのは自分しかいないと思ったケイは、足止めをすることを八坂らに告げた。
「無茶だ!! お主も逃げるべきだ!!」
ファーブニルの相手なんかして、ただで済むはずがない。
そのため、八坂はケイも一緒に逃げることを提案する。
元々、ケイは八坂へ助力するつもりなどなかったはず。
命を懸けてまで救おうとしていることに感謝しつつも、どうしてそこまでしてくれるのかが分からなかった。
「大丈夫です! それに、殺られるつもりもないですから!」
たしかにファーブニルを相手にするのはきついが、八坂たちが町に逃げ込めるくらい剣術部隊の人数を削ったつもりだ。
町に逃げ込めば、一般市民がいる中で八坂を攻撃することになる。
そうなれば、剣術部隊と同時にそれを動かす権限を持つ上重にも問題が飛び火するだろう。
それに、ファーブニルを相手にするからといって、ケイは殺されるとは思っていない。
何故なら、最悪の場合転移して逃げることができるからだ。
そのため、ケイは八坂たちだけを逃がし、迫り来るファーブニルを待ち受けたのだった。
“パパパパ……!!”
「「「「「っ!?」」」」」
ファーブニルに追われて北へと向かったと思っていたケイが、どういう訳か戻って来ていたことに剣術部隊の面々は慌てた。
そのせいか、ケイの攻撃に対しての対処が鈍り、多くの者が銃撃を食らう破目に遭った。
2手に分かれたことで、数が減り精神的に楽になったケイは、強めに威力を上げた連射を放ち、物言わぬ骸へと変えていく。
「くそっ! 八坂の前にそいつを殺せ!」
八坂のことを殺しに向かっていたのだろうが、これではケイと八坂に挟み撃ちにされたような状態だ。
剣術部隊の面々は、数の多い八坂の方ではなく、細かいながらも多くの傷を負っているケイを優先的に倒すべく向かってきた。
「いい判断だが、遠距離攻撃がないのは致命的だ!!」
どうやら、剣術に魔力を合わせる戦いをしているうちに、魔闘術を使いこなせるように日向の剣士たちはなってきたのだろう。
たしかに、魔闘術を使えるようになるだけで、かなり戦闘力が上がってはいる。
しかし、大陸の人間のように、魔法を使わない戦いをしてきたからか、魔力を体外へ飛ばすという行為が極端に不得意になっているのかもしれない。
接近戦での強さはたしかにケイも認めるが、それだけでは戦闘の幅が狭い。
エルフという種族は、本来膨大な魔力を利用して遠距離から戦うことを得意とする種族だと思う。
まさに、日向とは正反対だ。
相性的にどちらが良いのか分からないが、ケイの場合は接近戦も得意な方だ。
その分戦術面での引き出しも多く、どの距離でも戦えるからこそ数を相手にしても対処できる。
遠くから攻撃をして近付かせず、接近されれば武術で対応する。
それによって、剣術部隊の隊員はジワジワ減っていくことになった。
「チッ! ファーブニルもの魔物を連れて来たと言うのに、これでは何の意味もないではないか!!」
遠く離れていて、肉眼では豆粒のように見える位置で、北へ離れた剣術部隊の者が逃げ惑っている。
その様子に、今回の作戦の総指揮をとっている坂岡源次郎は舌打ちをする。
まさか、魔物を擦り付けられるとは思わず、どうしていいか分からない状況のようだ。
大陸の冒険者なら御法度だが、ここ日向ではそんな事決まっていない。
そのせいで、このようなことになるとは思っていなかったのかもしれない。
「……ここから大砲は届くか?」
このままファーブニルを放っておいたら、北へ行った仲間が全滅してしまう。
捨て駒の浪人どもと違い、彼らは綱泉家にとって重要な役割を担っている者たちだ。
何とかして救いたいが、源次郎に選べる手段は一つしかない。
「残り3発、全て撃ち込めばもしかしたら……」
源次郎の問いに、部下の男は曖昧に答える。
可能性的にギリギリといったところなのかもしれない。
「……仕方がない。やれ!」
「了解しました!」
源次郎の指示を受け、部下の男はすぐに行動を開始する。
ケイがいる方へ向けていた大砲を、ファーブニルのいる方へと向け、狙いを定め始めた。
“ドンッ!!”“ドンッ!!”“ドンッ!!”
「っ!? どこに向かって……」
剣術部隊の者たちを相手にしていたケイが、大砲音にまたかと思って目を向けるが、砲口はこちらには向いていなかった。
それに訝しんでいると、大砲が向いている方向を見てすぐに察しがついた。
「って、ファーブニルにか?」
大砲が向いているのは、ケイが擦り付けてきたファーブニルがいる方向だった。
ケイに使うよりも、ファーブニルを攻撃してこちら側に目を向けた方が、仲間を救えると思ったのだろう。
大砲の砲撃で仲間にも被害が及ぶかもしれないが、それでも何もせずにいれば全員ファーブニルの腹の中になってしまう。
それを阻止するにはこれしかない。
源次郎としても苦渋の選択に、歯ぎしりをする思いだった。
「っ!? 当たった!?」
大砲の命中精度が高い連中を連れて来て正解だった。
何とか剣術部隊の仲間の巻き添えを最小限にして、ファーブニルに球を当てることに成功した。
それを見て、源次郎は思わず拳を握って笑みを浮かべた。
「グゥラァーー!!」
「ゲッ!? 戻ってきたか!?」
大砲の球の直撃に痛みを感じたのか、ファーブニルは剣術部隊の隊員を食べるのをやめてこちらへ顔を向けた。
3発当たったというのに、大きな怪我をしていないように見える。
自分に痛みを与えた者へ怒りを向けようとしたが、ファーブニルはどうやら何によって攻撃を受けたのか気付いていないようだ。
「……何か俺に目を向けてないか?」
原因が分かっていないようなのに、何故かファーブニルはこちらへ向かって走ってくる。
そのことに疑問を持っていると、自分に目を向けているとケイは気付く。
「ヤバい! 八坂様たちは避難を!」
「わ、分かった! しかし、お主は?」
ファーブニルがこちらへ向かって来ていることに、八坂たちも気付いている。
なので、退避の指示を出すケイ。
さっきまで相手にしていた剣術部隊の者たちは、いつの間にかケイたちの相手をやめてもう避難を開始していたため、八坂たちもその指示に納得した。
しかし、ケイがその場から動かないでいることに疑問を持った。
「どうにか時間を稼いでみます!」
八坂たちが逃げるとしたら、怪我人もいることから時間がかかる。
その間、ファーブニルが待ってくれるわけもない。
だとすると、誰かが足止めをしならなければならない。
それができそうなのは自分しかいないと思ったケイは、足止めをすることを八坂らに告げた。
「無茶だ!! お主も逃げるべきだ!!」
ファーブニルの相手なんかして、ただで済むはずがない。
そのため、八坂はケイも一緒に逃げることを提案する。
元々、ケイは八坂へ助力するつもりなどなかったはず。
命を懸けてまで救おうとしていることに感謝しつつも、どうしてそこまでしてくれるのかが分からなかった。
「大丈夫です! それに、殺られるつもりもないですから!」
たしかにファーブニルを相手にするのはきついが、八坂たちが町に逃げ込めるくらい剣術部隊の人数を削ったつもりだ。
町に逃げ込めば、一般市民がいる中で八坂を攻撃することになる。
そうなれば、剣術部隊と同時にそれを動かす権限を持つ上重にも問題が飛び火するだろう。
それに、ファーブニルを相手にするからといって、ケイは殺されるとは思っていない。
何故なら、最悪の場合転移して逃げることができるからだ。
そのため、ケイは八坂たちだけを逃がし、迫り来るファーブニルを待ち受けたのだった。
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