エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第243話

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「フゥ、フゥ……」

「下りてこい毛玉!!」

 上空で浮遊しながら、息を切らすキュウ。
 その体は所々血が出ている。
 上空で多少の上下動をして調節しながら戦っていたが、何発かの投石に被弾してしまった。 
 殿を務めることになったキュウは、身体的特徴を生かし、空中浮遊することで近接戦闘をしないように戦っていた。
 それによって、美稲の剣士たちを追いかける剣術部隊の者たちの足止めを成功していた。
 しかし、剣で戦えないとすぐに気づいた彼らは、そこら辺に落ちている石を投げて応戦していた。
 遠くから見ていると、小さい魔物相手に石を投げて戦っている様がとても見苦しい。
 しかし、それしか戦う方法がないのだからしょうがない。
 ただの投石でも、多くの人数に投げつけられれば危険な状況になる。
 更に上空へと行ってしまえば、投石攻撃を受けることなど無くなるが、そうなると今度は離れすぎてキュウの攻撃が当たらなくなる。
 調節によって何とか足止めするのに丁度いい高さを保っていたが、まずいことにキュウの魔力もそろそろ切れかけてきた。

「くらえ!!」

「っ!?」

 魔法の連発で足止めをしてきたが、それによって魔力がなくなり、かなりの疲労が溜まって来た。
 そのせいか、キュウの集中力も切れてきて、高度を少し下げ過ぎた。
 そこを見逃さず、剣術部隊の者たちはいっせいに投石を開始する。
 避ける場所もなく、上空へ逃げようにも間に合わない。
 魔闘術で身体強化した者たちによる高速の投石は、キュウがいくら魔闘術を使えると言っても、その防御力ではそう何発も耐えられない。
 しかも、魔力が減ってきて纏う魔力も弱まってきている。
 当たり所によっては即死もあり得る。

「っ!!」

 懸命に躱そうとするキュウだが、それができたのも数発。
 弾幕のように飛んで来る石に逃げ道はなくなった。
 そのことに気付いたキュウは、襲い来る痛みに耐えるべく目を瞑った。

“ガガガガ……!!”

「っ!?」【しゅじん!?】

 覚悟したのに痛みが来ず、石が何かに当たる音が鳴り響いた。
 不思議に思ってキュウが目を開くと、目の前には魔力で出来た壁ができていた。
 こんなことができる者の心当たりは、キュウには一人しかいない。

「人の従魔に怪我させやがって……」

 怪我をしている上空のキュウを見て、ケイは眉根を寄せる。
 キュウたちケセランパサランは、主人のためとなったら命を惜しまないという悪い癖があるので、ケイは心配をしていた。
 普通、ケセランパサランは、人の目にはそう滅多にお目にかかれない。
 というのも、魔物の餌と呼ばれ、生まれてから魔物に襲われず生き残れるのは、長くて1ヵ月といったところらしい。 
 ケイのように誕生の瞬間に会うと言うような事でもない限り、捕まえることすら困難だろう。
 それ程に弱いということをキュウたちも分かっているのか、保護してくれて、美味しい食事と安全な住処を与えてくれる主人たちに感謝する気持ちが強いのかもしれない。
 ケイからしたら、キュウたち従魔も家族のようなものなので、自分のために命を懸けるのはできればしてほしくない。
 
「銃使い?」「何故ここに?」「いつ我々を抜いたんだ?」

 キュウを怪我させたことにケイが腹を立てている中、敵である剣術部隊の者たちは、それぞれ疑問の声を発していた。
 彼らはケイが転移魔法を使えるとは知らない。
 それどころか、転移という魔法があるということすら知らないかもしれない。
 そんな彼らの考えとしては、そもそもファーブニルと戦っていたはずのケイがここにいること、それを置いておくにしても、いつの間に自分たちを追い越していたのかということが疑問に思う所なのだろう。

「坂岡源次郎は死んだ! お前たちがこれ以上戦っても無駄だ!」

 ついちょっと前にだまし討ちした方法を、ケイはまた行うことにした。
 キュウが足止めを頑張ってくれたのは分かるが、ここにいる生き残りが少々多い。
 まともに戦うとなったら、全員を屠ることは難しいかもしれない。
 それほどに、ケイの魔力の残量は少ない。

「これが証拠だ!」

「そんな!?」「馬鹿な!?」

 案の定、証拠だなんだとという反応が返ってきたので、ケイは源次郎の刀を取り出して彼らに見せつけた。
 効果はあり、その刀を見た敵たちは一気に戦意を失っていった。

「刀を収めて逃げるなら追わない。大陸にでも逃げるんだな……」

 これで、あとは背中を見せた彼らを背後からハチの巣にするだけでいい。
 数が数なだけに、運よく攻撃を逃れてケイに斬りかかって来る者もいるかもしれないが、それも対した数にはならないだろう。
 そう思ってマシンガンを取り出す用意をしようとしたケイだったが、

「んっ? ……追わないけれど、攻撃しないとは言ってない気が……」

「チッ!!」

 こんな時に妙に敏い者がいるようで、みんなが刀を収めた時に1人の男が呟いた。
 さっきの場合は人数もそれほど多くなかったことだし、他に比佐丸たちがいて、彼らも刀を収めていたところから騙せたのかもしれない。
 しかし、キュウが心配ですぐにこちらに来たため、ここにはケイしか存在しない。
 ケイが銃を使って遠くから戦うという戦闘スタイルを取るということは、ここにいるメンバーは嫌という程身をもって知っている。
 そうなると、背を見せたらズドンとやられるというイメージがふと沸いた者がいても仕方がない。

“ズダダダ……!!”

 背中からハチの巣は無理だが、ほとんどの者が刀を収めている。
 これを逃すまいと、ケイは舌打ちしつつも慌ててマシンガンを出してブッ放つ。

「貴様!!」「卑怯な!!」「恥を知れ!!」

 昔の日本のように、正々堂々と戦うのが暗黙のルールとしてあるのかもしれないが、勝つためには卑怯な手でも使える者は何でも使うのが、幼少期からの無人島暮らしで培った考えだ。
 罵詈雑言が飛んで来ても、ケイは気にすることなく弾丸を連射する。

「くたばれ!!」

「くっ!?」

 刀を収めていたこともあり、対応できずに多くの者を仕留めることができたが、やはり全員は無理。
 ケイの攻撃の範囲外から大回りをするように、数人の男が斬りかかってきた。
 その攻撃を躱すために、ケイは一旦攻撃を中断するしかなかった。

「あっ!?」

 ケイの攻撃が途中で止み、生き残った者たちは二手に分かれた。
 だまし討ちをしたケイを許すまじと斬りかかってくる者と、先程ケイが言ったように、もうこの国で生き残る術がないと察して、西に逃げるために山の方向へ走り出す者。
 向かってくる者も面倒だが、より面倒なのは、山へ逃げ込もうとしている者たちの方だ。
 全員殺すか捕まえるかしないと、八坂たちの将軍家への心証が変わってくるかもしれない。
 ケイにしてみれば関係ないで済ませることも出来るが、八坂たちに迷惑をかけるのは美花の両親のこともあるケイとしては看過できない。

「こんなことなら、比佐丸さんたちを連れてきて、キュウだけ助けていればよかった」

 斬りかかって来る敵たちのことを相手にしながら、ケイは反省の言葉を呟いた。

【しゅじん! キュウがおう!】

「駄目だ! キュウは安全な所に避難していろ!」

 数人が逃げることにケイが困った顔をしたのを察知したのか、上空でフラフラしているキュウが追いかけようとしていた。
 しかし、追って仕留めるほどキュウの魔力はもう残っていないだろう。
 むしろ、ケイからすると、キュウにはもう休んでいてもらいたい。

「ケイ殿! 逃げたのを追って下され!」

「っ!? 比佐丸さん!? どうして……?」

 何も言わずにキュウの所に来てしまったため、比佐丸たちはそのまま美稲の町へ向かっていると思っていた。
 それなのに、大怪我を負わなかった者たちみんなが、こちらへ向かて走って来ていた。
 敵の残りと比べれば人数が足りない気がするが、今なら、まだケイが逃げた敵を追って仕留めてくるくらいの時間は持つだろう。

「頼んだ!」

「了解した!」

 来てくれたのはかなりありがたい。
 敵の攻撃を躱したケイは、向かって来る敵を比佐丸たちに任せ、逃げた者たちを追うことにした。

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