エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第261話

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「何が分かったというのだ?」

 綱泉佐志峰の姿をしている魔族を相手に戦っているケイ。
 幾度かの攻防によって、ある程度この魔族のことが分かってきた。
 その発言に対し、佐志峰のは反応する。

「お前はアジ・ダハーカなんかじゃないってことがだ」 

「…………最初からそんなものだと言った覚えはないが?」

 最佐志峰が言うように、アジ・ダハーカかもしれないということは、ケイが勝手に思ったことだ。
 しかし、ケイからすると、それはかなり重要なことだった。
 アジ・ダハーカは、千の魔法を使うという話もある。
 それだけ魔力が豊富だということになる。
 エルフであるケイも魔力には自信があるが、魔力頼みな所がある。
 なので、自分よりも魔力を持っている敵と戦うのは、かなり危険なので出来れば避けたい。
 ましてや、アジ・ダハーカは魔法だけでなく毒などの攻撃も危険な相手。
 戦って勝てる保証がどこにもない。
 目の前の佐志峰がアジ・ダハーカであったならば、いくら人間の姿の状態であろうともその片鱗が見えるはずだ。
 しかし、戦っていて確信を得た。
 
「お前何で魔法を使わないんだ?」

「………………」

 ケイと戦っている時、佐志峰は一度として魔法を放ってこなかった。
 魔闘術は使っており、攻撃はかなり鋭い。
 しかし、ケイの銃撃に対して、佐志峰は一度として魔法を使用せずに向かってきた。
 魔法を使えば、ケイへ接近することは難しくないはずだ。 
 ケイの問いに、佐志峰は黙り込む。

「いや…………使えないんだろ?」

「………………」

 そもそも、遠距離での戦闘になったなら、魔法で攻撃をすれば良い。
 なのに、一度も放たないのは、使いたくても使えないからだろう。
 そう確信したケイに、佐志峰はまだ無言のままでいる。

「……それが分かった所で、何だというのだ? 貴様が今劣勢に立たされていることには変わりはないだろ?」

 否定しない佐志峰のセリフで、完全にケイの考えが正解だったということになる。
 佐志峰の方からすれば、もうケイは脅威ではない。
 それを知られたところで、勝利は揺るがない。

「劣勢? 全然そんなことないが?」

「フンッ! 虚勢を張るとは……」

 ケイの銃による攻撃は、威力も速度も完全に把握した。
 勝ち目がないのにもかかわらず軽口を利くケイに、武人としての潔さを感じず、佐志峰は不愉快そうに鼻を鳴らした。

「ハッ!!」

“ボッ!!”

「っ!?」

 ケイが気合いの籠った声を出すと、これまで纏っていた魔力の量が一気に増えた。
 それを見て、佐志峰は目を見開く。
 魔闘術は纏う魔力の量によって、使用者の強化度合が変わる。
 ただ量を増やせば良いだけではなく、コントロールできなくては強化されず魔力の無駄にる。
 しかし、魔力を増やしたケイの魔闘術は、きちんとコントロールされている。
 攻撃も防御も桁が一つ上がったことだろう。

「なっ?」

 さっきの勝つ気満々だった佐志峰とは反対に、今度はケイが自信ありげにドヤ顔をした。

「くっ!!」

 ケイの魔闘術を見た佐志峰は、その魔力量に冷や汗を流す。
 さっきに自分の勝利を確信していたような言葉が、井の中の蛙だったように思えて恥ずかしくもなって来る。

「シッ!!」

 色々な感情が湧いた佐志峰は、冷静さを失い、思わず剣を抜いて攻撃を計った。
 これまでの中でも最速の攻撃ではあった。

「っ!?」

 ただ、佐志峰の剣がケイに当たらない。
 何故なら、その場にいたはずのケイが、いつの間にか消え去っていたからだ。

「当たんねえよ!!」

「っ!?」

 ケイの残像を斬ったままの体勢でいる佐志峰の耳に、聞こえて来た声は背後からだった。

「がっ!?」

 背後からの声に反応して振り返ると、ケイの蹴りがもう目前に迫っていた。
 その蹴りは、佐志峰の顔面に直撃し、かなりの距離吹き飛ばした。

「くっ!!」

 ケイり飛ばされた佐志峰は、空中で体勢を立て直し、何とか着地に成功する。
 しかし、強烈な一撃に口の中が鉄の味でいっぱいになる。

「この野郎!!」

“ペッ!!”

 ザックリと切れた口の中と、蹴られたことによる顔面の痛みに、佐志峰は怒りが沸き上がった。
 蹴りを入れられたのには腹が立つが、佐志峰はケイの失敗に気付く。
 口が切れて血を出してしまったことだ。
 佐志峰は口の中の血を、ケイに向かって吐き出した。

「シャーー!!」

 その血液は変化をし、蛇へと変貌を遂げた。
 アナコンダ程の大きさの蛇は、すぐさまケイへ向けて威嚇の声をあげる。

「血液に魔力を加えるだけで魔物が生み出せるなんて、魔族ってのは便利だな……」

 その蛇を見ても、ケイは全然慌てない。
 それよりも、血液から魔物を生み出せるということに感心し、面白そうに蛇を眺めた。
 完全に実態があり、普通の魔物に見える。
 これが血液から生み出せるなんて、不思議だが興味がそそられる。
 ケイの家族が住むアンヘル島で似たようなことができれば、何もしないでも狩りができるし、小さい子供の護衛代わりにできる。
 結構役に立つ能力に思える。

“パンッ!!”

「まぁ、それほど必要ないか?」

 魔物は大人が狩れば良いし、子供も大人がみんなで育てればいい。
 何もわざわざ魔物を作り出す必要性はない。
 蛇の観察を終えたケイは、もう用がなくなったので蛇へ弾丸を打ち込む。
 たった一発で蛇の頭は吹き飛び、そのまま動かなくなった。 

「馬鹿なっ!?」

「驚いている暇があるのか?」

「っ!?」

 血液から作り上げる蛇は、自分で言うのも何だがかなりの強度をしている。 
 それが一撃で殺されてしまうなどとは思わず、佐志峰は驚きの表情へと変わる。
 それは隙となり、ケイの接近を許してしまう。

「うがっ!!」

 至近距離で自分に向けられた銃口から体をずらす佐志峰。
 だが、ケイはそれを読んでいた。
 避けた方向へ向けて膝蹴りを放ち、佐志峰の鼻を蹴りつぶした。

「おのれ!!」

 鼻の骨が折れ、噴き出した血と痛みに怒りで表情を歪ませた佐志峰は、急に肉体を変貌させていったのだった。

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