メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

エルヴスヘイム事件3

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 読者の皆様ごめんなさい、本当は皆様方からすれば“番外編はやめろ”、“早く話を本筋に戻せ!!(つまりメリアリアとの純愛物語に戻せ!!)”と言う事になるのでしょうが(せっかく主人公とヒロインが心の底から結ばれて、“さあこれからだ!!”と言う時ですから)、しかしこのエルヴスヘイム編は物語の都合上どうしても避けては通れない箇所なのです(伏線を張る、と言う意味でも、どうしても書かざるを得ない部分なのです)。

 本当は、全部書いてから纏めて一気に投稿しようかとも思ったのですが、それをすると時間が掛かりすぎます(と言って一話ずつ投稿しましても、長すぎて恐らくは、皆様方がダレてしまうかと思われます、全部で大体、12、3話は掛かる予定なので)、そこで2話~3話ずつ投稿させていただく事にしました、どうかもう暫く、お付き合い下さいませ。

                    敬具。

              ハイパーキャノン。
ーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・」

 溜息を着きたくなるのを必死に堪えつつも、蒼太は始まりの拠点である“アイリスベルグの森”を抜けるべく、その道程を急いでいたが如何せん、大人の足でも次の街である“セファタ”まで三日は掛かる距離である、子供の蒼太では5日は見なければならないだろうと、アイリスベルグのエルフ達は話していた。

「・・・・・」

(参ったな)

 内心で呟きながら蒼太は昨日の昼(蒼太の世界では夜だったが)に聞かされた、フォルジュナからの話を思い出していた、即ち。

 “カインを倒す為の仲間を集める事”と“トワイライト・ゾーンを閉じて欲しい”、それである。

「トワイライトゾーン?」

「そうです」

 蒼太の言葉にフォルジュナが頷き返した、彼女に言わせると近頃、このエルフの世界に魔物の影が蠢いており、その元凶がどうやら、件(くだん)のダークエルフ族の雄、カインらしかった。

 彼は“ジガンの妙薬”の処方箋を奪うと賺(すか)さず逃走して自らの塒(ねぐら)である、東南の方向に聳え立つ大山脈“イェレベスタ”、その山奥に古から口を開いている鍾乳洞の、更に底の底の底、“大地のマグマの蠢く部屋”へと引き込んでしまった。

 それだけではない、どうやったのか知らないがそこで禁忌とされている秘術を用いて“トワイライトゾーン”の扉を開け放ち、そこから大量の魔物や魔霊をこの世界に呼び寄せ続けている、と言うのだ。

 トワイライトゾーン。

 日本でも昔から“逢魔が時”として知られている時間帯(午後4時~午後6時)に開け放たれるとされる、異界への扉だ、この時間帯はだから、事故や事件が急増される、とされており、また“神隠し”等と呼ばれている現象が多発する時間帯でもある。

 またそれと前後して、この夕方の4時を境に次の日の朝6時までは神社やお寺には近付いてはいけない、とされている。

 理由は至って簡単で、その地に蔓延(はびこ)る亡者達が救いを求めて殺到してくるからでありだからこそ、彼等に魅入られてしまった者(波長が合ってしまった者)は、その世界へと連れて行かれてしまうのである(これが所謂、“神隠し”の正体である、とされているのだ)←必ずしも出来るとは限りませんが、あえて心霊体験等がしたい方は自己責任でどうぞ。

「お願いします、蒼太。どうかカインの愚行を阻止し、その“トワイライトゾーン”の扉を閉ざしてきて下さい、それは貴方にしか出来ない事です」

「・・・なんで僕なんですか」

 と、フォルジュナからの説明に、黙って耳を傾けていた蒼太は“ちょっと待って下さいよ”とでも言わんばかりに聞き返した、当然であろう、いくら何でもそんな危険な目に遭うなんて思ってもみなかった、魔物や魔霊と闘うなんて、想定外も良いところだ。

 それに第一、禁忌の秘術までをも使う存在が相手ならば、こちらもしかるべき人物を差し向けてその力を封印するなりなんなりするべきじゃないのかと、彼は考えたのである、至極当然な思惑と言える。

「・・・カインはどうやっているのかは知りませんが、私達の動きを読んでいます。私達エルフの行動は、彼に筒抜けになっているのです」

 だから、とフォルジュナは苦しそうな表情を浮かべた、“人間族の力を借りるしか無かったのです”と。

「どうして僕らなんですか?他にも頼るべき種族は・・・」

「いいえ、人間しかいません!!」

 と、何事か言い掛けた蒼太の言葉を制してフォルジュナは続けた、“姿形やその思考体系が私達に最も近く、最低限のコミュニケーションが取れるのは異種族の中では人間族しかいなかったのだ”と。

「現に私達は500年前までは交流を持っていたのです。だからお互いに運動能力が近いことも、また人の中には困難に立ち向かう勇気と人を思いやる優しさを持っている存在がいることも知っていました、だから頼ったのです!!」

「・・・・・」

 それを言われると、蒼太は何も言えなくなってしまった、現にここに来たのだって、困っているサリナを見かねての事だったのだから、今更それについてとやかく言うのはフェアじゃない。

 それに、だ、今から帰るのはもはや危険だと、この時点で彼は判断していた、何故ならば自分はエルフの世界に来てフォルジュナと会い、その話を聞いてしまっている。

 彼女の話が本当なら今のこの状況だってカインに筒抜けになっている可能性が高く、そうなれば仮に帰れたとしても事件の真相を知ってしまった自分をカインが放って置くとはとてものこと思えなかった。

 へんな所でクソ真面目かつ冷静な蒼太はそう考えていたのだが、一方のフォルジュナはそんな彼の態度と言うか雰囲気から、その心情の移り変わりが手に取るように解っていた、そしてサリナの選択に間違いは無かったと確信していた、些か失礼な話になるが、もしこれが気の小さな人だったなら、そして至らない人だったなら。

 “そんなこと自分は知らない、いいから帰してくれ!!”と喚き散らしていた所だっただろう、・・・その後どう言う運命が待ち受けているかも知らずに。

「・・・じゃあサリナが自分の所に、完全に姿を現さなかったのは」

「貴方を守るためです」

 とフォルジュナは続けたが、仮にもし、実体を伴った姿で転移を果たしていれば、それは直ちにカインの知るところとなり、貴方の身は危険に晒(さら)されていただろう、と。

「あれはギリギリの選択だったのです。現に私達が姿を見せて協力を依頼した子供達は、殆どがその要求を拒否されましたが直後にカインによって連れ去られ、トワイライトゾーンの向こう側へと追いやられてしまいました」

「・・・じゃあ子供達が消えていたのは」

「そうです」

 とフォルジュナは続けた、“カインの仕業です”と。

「じゃあカインを倒さなければ、他の子達も帰って来られないって事ですか?」

「そう言うことになります、そしてだからこそ貴方に、そう子供の貴方に協力を要請したのです」

 何故なら、とフォルジュナは続けた、“自由にトワイライトゾーンを行き来できるのがあなた方、子供達だけだからです”と。

「子供には本当に、不思議な力が宿っています。それは純粋無垢な力、と言っても良いかも知れませんが、その力がトワイライトゾーンを往来する能力、翼となるのです。・・・多分、それは大人と違って魂と直に直結している部分が大きいが為に発現する能力なのでしょう」

「・・・・・」

「お願いします、蒼太。どうかカインの暴挙を食い止めて下さい。彼が何を考えているのかは、私達には解りませんが・・・。少なくとも良からぬ事を考えているのは間違いありません!!」

「私達も、出来る限りサポートはします」

 とサリナが後ろから言った、彼女も本当に困っている様子なのは、その表情を見れば良く解る。

「最初に言った通り、貴方にだけ全てを背負わせるつもりは有りません。貴方には戦士として、そしてあくまでも導き手としての役割を果たしていただきたいのです」

 “仲間を集めなさい”とフォルジュナはサリナからの言葉を受け継いで彼に投げ掛けた、“貴方だけでは流石に危険な目に合ってしまうだろうから”と。

「勿論、この世界の何処かにいる仲間を、等と言うつもりは有りません。仲間となるべき存在は、あなたが東南の方向に向かう過程で現れるでしょう、それも3人」

「3人、だけ・・・?」

「そうです」

 とフォルジュナは続ける。

「全員が、エルフで女性です。その時が来たなら、きっと彼女達の方から貴方に近付いてくるでしょう、ちなみに皆貴方より年上ですが、蒼太は見たところ、礼儀も正しいですし大丈夫でしょう」

「もう一つ、教えて下さいフォルジュナ様。さっきのトワイライトゾーンの話は、解りましたけど・・・。でもなんで人間の導き手が必要なんですか?エルフの大人の人では、ダメなんですか?」

「さっきも言いましたが、私達エルフの行動はどうしてだかカインに筒抜けになっているのです。それにカインは私達の行動パターンや、その限界を知り尽くしています、だから私達だけではダメなのです、どうしても協力者が必要なのです」

 “それも”と彼女は続けた、“仲間達の力を束ね、和合させる事の出来る導き手が”と。

「それに異種族に全てを任せてもいけません。本来であればこれは、あくまでもエルフ族の問題だった筈なのです。ですから本当は、私達だけで解決するべき事案の筈だったのですが・・・。恥ずかしながら、私達だけではどうすることも出来なくなってしまったのです、その為に例外として貴方の力を借りるしか無くなったのだと思って下さい」

「・・・・・」

「つまり、貴方に頼り切ってしまうとそこからまた新たな歪みと言うか、因果が生まれてしまうのです。そうなってしまうと後々、お互いの為になりません、なのであくまでもカインを倒すのは私達の役目であり、貴方にはそのサポートをお願いしたいのです。もちろんトワイライトゾーンから、貴方の御同族の方々も救出していただかなくてはなりませんから、その為でもあります。・・・一応、これで納得していただけましたか?」

「よく、解りました」

 と、蒼太は今度こそ頷いたがもう、ここまで来た以上は引き返せない、やるしかない。

「ちなみにここには結界が張ってあるので、私達の会話がカインに聞かれる事は有りません。ただ貴方も危惧していたかも知れませんけれど、貴方の家にサリナが行った事は伝わってしまっているかも知れません。彼の目は今や、人間界にも向けられておりますから・・・」

 ちょっぴり申し訳なさそうな顔をして、フォルジュナは続けた。

「彼の目を誤魔化す為には、特殊な結界が必要になります、常に背中に気を付けて・・・。一応、ここと同じ力を込めたお守りを貴方にもお渡しします。これでカインが、少なくともいきなり貴方をトワイライトゾーンに追い落とす事は出来なくなるでしょう。後は本当に、貴方次第です・・・」

 そこまで告げると、フォルジュナは側女のエルフの一人に“あれを”と言って奥から何やら持ってこさせるが、それは白い樫の様な植物で出来ている大人の人が持つ杖と白銀色の不思議なナイフ、そして同じく白銀に輝く鎖帷子であった。

「これは私達の願いと法力を込めて作った“白き導き手の杖”、そして“ミスリルのナイフ”と“ミスリルで編み込まれた鎖帷子”です。製造の過程でそれにも法力を封入してあります。・・・失礼ですけど貴方のその装備ではとてもの事、カインに太刀打ちは出来ないでしょうから」

「・・・凄い!!」

 蒼太は素直に感心した、まだ見習いとは言えども一応、彼だって“魔法戦士”の一人である、武具に宿っている力や気を感じ取る事は可能であった。

「それとこれは道中の路銀です、500フェスティルあります。普通の旅人4人が1ヶ月間、食べて行くことが出来るだけの蓄えです」

「ありがとうございます、フォルジュナ様!!」

 と、早速武器防具を装備した蒼太はフォルジュナに厚く礼を行った。

「では今日は遅いのでお開きにしましょう。この世界はまだ昼ですけれど、蒼太は夜の世界から来たのですモノね、この世界で明日の朝に旅立つと良いでしょう。・・・それと最後に」

 フォルジュナは付け加えた、“もし道中で困っている方を見掛けたなら出来る限りで力になってあげると良いでしょう”と。

「もしかしたなら“その方”は、貴方の運命を切り開いて下さる方かも知れませんよ、今すぐでなくとも将来ね」

「解りました、出来る限りで何とかしてみます!!」

 蒼太がそう頷くのを見届けるとフォルジュナは再び、“この世界をお願いします”と頭を下げて彼に自身の、そしてエルヴスヘイムの願いと命運を託した。
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