メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

エルヴスヘイム事件6

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 エルフの街や集落は、基本的に皆、木の上にあります(つまり街は基本的には森の中にある、と思って下さい)。

 勿論中には人間と同じように地面に家を建てて生活を営んでいる所もありますが、基本的には皆、大木を利用して木の上で暮らしているのです(後で出て来ますが王宮や城下町等は流石に大理石やベトン等で出来ています、要するに石造りの荘厳な建築物です)。

 エルフの集落(もしくは街)の詳しい情景描写は“追憶編2”に描かれています。
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 エルフ達は基本的に、不用意に他の種族と交流は持つ事はしない。

 しかし“冒険者”と言う定職に着いている者達は例外で、よその世界に出稼ぎに行くことも多々あった、彼等は皆、簡単な時空間魔法を用いる事が出来た他、それと同等の力を秘めたアイテムを使用する事で異界の門を開き、異世界(平行世界)と自分達の世界とを自由に行き来する事が出来たのだ。

 だがしかし。

 そんな彼等を以てしても、所謂“トワイライトゾーン”を開く事は絶対の禁忌とされており、またそれは容易に出来る事では無かった、あれは異界と言うよりは、もっとハッキリと言ってしまえば“魔界への扉”とでも言ってもいいモノであって、開いた者は瘴気に蝕まれて自らも忽(たちま)ちの内に魔道に落ちる、とされていたのた。

 それに、もう一つ。

 魔界は平行世界のような異世界と異なる、れっきとした“別世界”とでも言っていい場所であってそこと繋がる為には異次元との結節点、いわゆる“次元断層”を飛び越える為の特別な術式が必要となる(単に時空間に穴を開けて“時渡り”をすれば良い、と言う単純なモノでは無いのだ)。

 だがそれは一部の者達を除いて伝承はされておらず、どちらにせよ、行くことはおろか、通信することさえ困難な筈だった、それなのに。

 それをこの男はやってしまった、ダークエルフ族の戦士、カインである。

 年の頃は人間に直すと17、8歳と言ったところか、それよりもやや若い。

 身体は日に焼けたように黒くて185cm前後の身長を誇っており、短めに切り揃えられたその髪の毛は灰色で切れ長の瞳は鈍色、顔は整った、美形と言えば美形をしていた、・・・ただし。

 面構え自体は良いのだが顔のランクは上の下と言った所であり、また爽やか系と言えば爽やか系だがそれはフォルジュナ達のような暖かさのある知性とは違い、良く言えばイケイケ、悪く言えば何処か暴力的な雰囲気のあるイケメンだった。

「・・・何者だ?」

 鍾乳洞の最深部、流れ出るマグマに薄らと照らし出された暗がりの中でベッドに横たわりながら彼、カインは一人ごちていた。

 周囲には洗面台や洗濯機、奥の方にはシャワーまでが備え付けてあり、その下には何やら魔力の溢れる文字と記号がビッシリと書かれた方円が描かれていた、どうやら水を取り入れる為の魔方陣らしい。

「フォルジュナのやつ。どうやったのか知らないが、どうやら奴らの言う所の“協力者”を見つけて来たらしいな・・・」

「人間の、子供みたいね・・・」

 するとすぐ側にあった別の影が、ゆっくりと蠢いてそれに応えるモノのその声はやや高い声域の、憂いのある艶っぽさを含んでいた。

 顔は美人系だが清楚と言うよりもギャルっぽい風貌をしている。

 その髪の毛は肩辺りまで伸びており、カインと同じく灰色だったがただしいくらかの光沢があった、瞳の色も一緒の鈍色、そして身長は彼の胸くらいと少し体格差のあるカップルだ。

「ルキナ、いや今はメイルか・・・」

「どうするの?カイン・・・」

「はあ・・・」

 面倒くせぇな、と尋ねるメイルにカインは返すと彼女に背を向けて横になる。

「全くよぅ。ようやく人間界にも馴染んで来たってぇ矢先なのにな。どうすっぺかな・・・」

「言葉が、戻ってるよ・・・」

 そんな彼氏の態度にクスクスと微笑むとメイルと呼ばれた女性は上から覆い被さるようにして彼に纏わり付き、斜め後ろから顔を近付けてその唇をチュッと奪う。

「クロードって呼んだ方が良い?」

「そりゃ人間の時の名前だべ?ちゃんとこっちの名前で呼んでくれや」

「解った!!」

 そう言うとクスクス笑いながら“カイン”と再び彼氏の名を呼ぶ。

「何だよ」

「・・・呼んでみただけ」

 そう言って再び口付けをすると、メイルはようやく身体を離した。

「一応さ」

「ん?」

「どんな子なのか、様子を見るためにちょっとちょっかいを掛けてみたの」

「何かしたのか?」

 とそんな彼女からの言葉に初めてカインは大きな動きを見せた身体ごとパートナーへと向けて相手の双眸を凝視し、その耳を傾ける。

「ゴブリンの子供達をね、迎撃に向かわせたんだけど・・・。意外な事に反撃して来たのよ」

「ほう?」

 メイルからの報告にカインは興味津々と言った様子で応じるモノの、そんな彼の反応を見たメイルは瞳を閉じておでことおでこをくっ付ける。

 そして何やら小声で呪文のようなモノを唱えるとその感覚と記憶とをリンクさせて、ゴブリンを通して自分が見聞きした事柄を彼の中へと向けて流し込んで言った。

「なるほどな、確かに人間の子供だ。しかし魔法戦士としての力を兼ね備えている、となると・・・」

「ええ」

 カインの言葉に、メイルは妖しく微笑みながらも頷いた、“セラフィムの人間でしょうね”と言葉を続けて。

「あなたの、予測通りね・・・」

「ああ、そこまではな。大凡の見当は付いていた、協力者を募る、とは言っても、まさか何の手立ても能力も無い一般人の子供を呼び寄せるとは考えられないからな」

 もっとも、と彼は続けた。

「それにしたってまだ、見たところ幼年部を卒業して間もない位の年齢だろうに。よく出たとこ勝負で実戦を熟せたモノだな・・・」

「そうね、本当に勇敢な子みたい。それに困難を撥ね除けるだけの力もあるわ、それで」

 “どうするの?”とメイルは引き続き尋ねるがその瞳と表情には若干の甘えというか熱っぽさがあった。

「・・・取り敢えずはまだ、様子を見るさ。どんな奴かもよく解っていないしな、それでもし」

「・・・・・?」

「もし。使えるようなら、こちら側に引き摺り込みたいんだ、出来るか?」

「うーん、やってみないと解らないけど・・・」

 でも任せて?とメイルはパートナーからの言葉に頷いて見せて、再び彼へと絡み付いてその頬に自らの頬を擦り付けたり、細身の身体に全身を押し付けたりした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 蒼太の旅は続いていた、魔物共の襲撃を退けつつもガリアーノ大平原も後にして、更に大河“イリアリアス”を渡り切り、アイゼンベルグを出立してから八日目の昼に、ようやくにして次の大森林“シュタットベルグ”へと到着した。

 この中にある街“ガウンゼン”はその周囲を円形の高い城壁で囲まれている城塞都市であり、エルフ達の中でも腕利きの冒険者達の集まる街でもあった、だから。

 もしも仲間が見付かるとするのならば、ここで加入して貰える可能性が高い、蒼太はそう踏んでいたのだ。

 しかし。

「坊やには悪いけど・・・。ここはお子様の来るとこじゃ無いのよ?」

 と、情報収集と仲間の勧誘を行おうとして立ち寄った先の酒場では、年齢制限を理由にあっさりと入店を拒否されてしまうが良く考えればそれが当然だろう、今までが親切にしてもらい過ぎたのだ。

 如何にエルフ達の世界とは言えども、子供の一人旅などは通常では考えられない、逆に“もしかしたなら何か事情のある子なのか”と怪しまれてしまったのかも知れなかった。

 だけど。

「う~ん、困ったな・・・」

 蒼太は、途方に暮れてしまった、まさか最初から最有力候補の酒場が出禁になるとは思わなかった、こうなったら次の手段、冒険者ギルドに行こうと思ったのであるがそれも拒否された、曰く“金銭的収入の安定しない方や子供からの依頼は受けない”との事であり、そこでも結局は門前払いを喰らわされた。

「・・・・・」

(はあぁ・・・)

 心の内で溜息を着くがこうなったらもう、街行く人に片っ端から声を掛けて、等と考えてそれも止めた、今までの例からして相手にされない可能性が高いし下手をすれば変な連中に、逆に絡まれてしまうかも知れなかった、迂闊な事は出来ない。

(でも何かやんなきゃ・・・。このまま手を拱いていたなら、本当に何も変わらないし、出来ないままだ!!)

 自分を救えるのは自分のみ、何かを変えたいのならば自分で行動をするしか無いのだ、それを蒼太は知ってはいたが、しかし。

 ではどう行動すれば良いのかが解らなかった、何らかの考えが喉元まで出掛かっているようで、しかし答えが見えて来ないのだ。

 そんな折ー。

「はあぁぁ、今月も無しの飛礫(つぶて)か・・・」

 一人の女性エルフの言葉が、溜息混じりに聞こえて来た、見るとそこにはスラリとした体型の、若いエルフが立ち尽くしており、この世界の蝦蟇口だろう、おサイフを取り出して何やらブツブツと呟いている。

 身長は160一寸(ちょっと)くらい、色白で他のエルフと同じように顔はシンメトリー左右対称で整っており気の強そうな群青色の、澄んだ美しい瞳をしている。

 背中には弓矢を背負い、腰には短剣を差しているその出で立ちは、まさしく蒼太が此方に来てから何度となくすれ違った、エルフ族の戦士そのものだった。

「また赤字か、このままではにっちもさっちも行かなくなるな・・・」

「・・・あの、お姉さん」

「うん?」

 “明日の夕食からは、切り詰めなければならないか”等とブツブツ言っていた彼女に対して、自身ももう後が無い蒼太は一縷の望みを託しつつも、思い切って声を掛けてみた。

「お姉さん、冒険者なの?」

「・・・ああ」

 まあそうだが、と女性は蒼太に向き直りながらそう応じるが、その目は明らかに些か怪訝そうな、“なんだ?この子は”と言う意思を表していた。

 しかしそれ位ならば、蒼太も既に慣れて来ていた、異世界から来た他種族の、ましてや知らない子供にいきなり声を掛けられれば、如何にエルフとは言えども警戒心の強い冒険者ならば不審に思うのは当然だろう。

(ここで負けちゃ、ダメだ!!)

 蒼太は一呼吸置いてから、彼女に告げ始めた、自分がアイゼンベルグの長フォルジュナの頼みでダークエルフのカインを討伐しに行く事、その為には3人の仲間が必要な事、それを捜しているのだけれども既にギルドでも酒場でも断られてしまった事などを。

「ほう?」

 すると願いが届いたのか、女性がピクリと反応するのが見て取れた、“フォルジュナの名前なら知っている”と、彼女は告げて、更に続ける。

「アイゼンベルグか、懐かしい響きだ。私は隣町であるセファタの出身でね、あの集落とは只ならぬ付き合いもあった」

「じゃあ・・・!!」

「ダメだ」

 と、目を輝かせ始めた蒼太だったがそれを女性は一蹴した、“自分にはその依頼に興味は無いし関係も無い”と言ってー。

「それに人に物事を頼む際にはそれなりの見返りが必要だ、君はそれを、持っているのか?」

「あと400フェスティルはあるけれど・・・。路銀に使えって言われているんだ」

「話にならんな」

 と女性は再び頭(かぶり)を振った、“それではギルドに行っても同じ事だっただろう”とそう告げて。

「冒険者達に依頼をするのならば、最低でも600フェスティルは必要な筈だ。・・・フォルジュナともあろう者が知らぬはずがあるまいに」

「・・・・・」

「とにかく。そう言うわけですまんな、少年よ。悪いが他を当たって・・・」

「これは王国全体の危機でもあります、それをご存知なのですか?」

「・・・なに?」

 するとその言葉を聞いた女性の瞳がさっきとは別の意味で怪訝な、ともすれば驚きの色を覗かせ始めた、そしてー。

「どう言う事だ?詳しく話してみろ」

 全身を彼へと向けてそう言い放つが蒼太は“やった”と思っていた、どうやら食い付いたぞ、と。

(エルフの人々は皆、王国の事に対しては他人事の顔をしない。全員で国の事を考えているんだ、それに・・・)

 彼等は皆、国王陛下の事を尊敬しているんじゃ無かろうかと、ここに来る途次(みちすがら)、蒼太は考えていたのだがその証左はあった、フォルジュナやサリナ、そしてアイゼンベルグから今に至るまでのエルフの人々の態度や言動である、中でも特に代表的なのはサリナだった、彼女は一般人でありながらこの国の行く末を、そして国王の病状を深く案じていた、だからこそ自身の身の危険を呈してまで蒼太の前に現れたのである、ならば他のエルフ達も思いに大小強弱の違いはあれどもそうである可能性は高い。

 そう踏んで賭けてみたのだが結果は大正解だったようだ、現に女性は身を乗り出すようにして蒼太の言葉に耳を傾けている。

「・・・エルファサリア国王陛下が、重度の御病気を患っておいでなのです、それを治癒するためにはどうしても“ジガンの妙薬”が必要なのですけれども・・・。それをカインに取られてしまいました、このまま行ったら王様の命が危ないのです!!」

「こ、国王陛下が・・・っ!?知らなかった、道理で最近、少しも姿を現されないと思ってはいたのだが」

 その言葉に衝撃を受けたのだろう、女性は急に表情を暗くして、項垂れてしまった、そんな彼女に。

 蒼太は続けた、“急いでジガンの妙薬”を届けないと大変な事になります”と。

「・・・それに。これは王国の危機なのです、それを救ったとなれば、王国政府からそれなりの謝礼をいただけるでしょうね」

「なにっ!?」

 するとそれを聞いた女性エルフの目の色が急に変わった、心なしか表情も明るくなり雰囲気にも積極性が出て来ている。

「し、少年よ。君はその、国王陛下を救うための旅をしていると、そう言うわけだな?」

「・・・ええ、まあそうですけど」

「なぜそれを早く言わない!!」

 女性エルフは突然そう言うと弓矢をガシャンとつがい直した。

「解った、そう言うことなら一肌脱ごう!!なに、王国の危機等と聞いたなら、放ってはおけないからな!!」

「・・・仲間になってくれるの!?」

「勿論だとも!!」

 佇まいを正しつつ、女性は威勢良く胸を張った。

「ありがとう!!本当に助かります・・・。ええと」

「アイリスだ」

 女性は告げた。

「自分は“アイリス・フェレオン・ウンディーネ”。・・・君は?」

「僕は蒼太、綾壁蒼太です!!」
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