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運命の舵輪編
ルクレールの憂鬱・後編
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年が明けて。
季節は如月、まだまだ寒さは抜けきらないでいたモノのそれでもようやく冬も終わって世間は間もなく草花の咲き乱れる麗らかな初春を迎えようとしていた、そんな移り変わり行く日差しと気候の只中の週末の日の昼下がりー。
自分の妻となってくれていたメリアリアと共に手をつなぎながら、落ち着いた足取りで蒼太は整備された住宅街の歩道の上を、自ら賃貸契約を結んでいる“グランエール千歳烏山”へと向けて歩を進め続けていた、そうして二人で歩きながらも“去年は本当に色々な事があったな”等と、改めて過ぎ去っていってしまった日々の追憶へと意識を向けるがそもそもの事の発端となったのは去年の2月、即ちちょうど1年ほど前の雨が降り頻(しき)っていた、あの新宿都庁近くにあるビル群の、灰色の空模様の下で起きた。
その日、蒼太は“少女”とであった、“少女”は自分自身の名前を“メリーニ”と名乗っていたのだが、蒼太にはこの少女が誰なのか、と言う事が、何となく確信する事が出来ていたのだ。
ただし問題もあった、証拠がないのだ、しかもその上、本人自身が“メリーニ”だと言ってその正体を隠していた、今にして思えばそれはある意味、正解であったかも知れなかった。
もし彼女が最初から自分を“メリアリア”だ、等と触れて回っていたのならば、必然的にその名前に反応して来る輩はいたであろうし、もしそうなって来れば、共に過ごしている蒼太の身分もあからさまになっていたに違いない。
現にメリアリアの正体が明らかになった途端にこれである、蒼太は自分達が置かれている状況が、如何に厳しいモノであるのかを再認識せざるを得なかった、そしてー。
今後それは、このまま行けば一層苦しくなる事はあっても楽になることは無いであろう事は容易に伺い知る事が出来る、と言うモノであったがそもそも論としてここ、大八洲皇国には彼等の後ろ盾となってくれる組織が無い。
一応、遙かな古より陰ながら天皇家を守り支えて来た超能力呪術師集団である“八咫烏”が存在してはいるモノの、その一切は秘密のベールに包まれており接触する事が全く容易な事では無かった上に、会ってくれたとしても果たして味方になってくれるかどうかはまた別問題となって来る。
勿論、警察等にも行くわけにもいかなかった、当たり前と言えば全く以て当たり前な事なのであるが、“かつては国家の秘密組織に所属していました”等と知れればその時点で彼等はもうお終いであり、それに何よりかによりの話として蒼太は(メリアリアも同様だったが)もう一方の故国である“ガリア帝国”を裏切るつもりはサラサラ無かった、そんな悲しい事はしたくなかったしそれにもし、仮に本気で全ての情報と引き換えに自分達の保護を願い出て、それがここ、大八洲皇国において受け入れられたとしても今度は間違いなくガリア帝国側から、それももっと言ってしまえばそう言った、所謂(いわゆる)“裏の世界”に関する事柄や問題等を専門に取り扱っている、魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”の面々から裏切り者認定をされて完全に孤立させられた挙げ句に、かつての仲間達から延々と命を狙われ続ける事になるであろう事は、ほぼほぼと言って良いほどに紛う事無き彼等の運命と言わざるを得ない状況であったのだ。
(そんなのは、ゴメンだよ。ねえメリー・・・?)
と蒼太は心の中で手をつないだままの状態で、自分のすぐ隣を歩いている恋人に訴えるモノの、その視線に気が付いたメリアリアは一瞬、キョトンとした顔をして“どうしたの?”と尋ねて来る。
「どうか、したの?何か心配事があるんなら言ってよ、なんでも聞くから・・・!!」
「ううん、大丈夫。何でも無いよ・・・!!」
と、無用な心配を掛けたくない余りに最愛の妻から為される提言に対しても、思わず頭(かぶり)を振ってそう応えるが、そんな夫の態度に“そぉ・・・?”と告げるとメリアリアは少しだけ、寂しそうな顔をする。
(いけない!!)
それを見た蒼太は敏感に反応した、かつて神に言われた事があったのである、“お前は全て自分で抱えて何とかしようとし過ぎる”と、“本当に二人で生きていく事の意味を考えた事があるのか?”と。
それが当てはまるのが今、この時この瞬間の事象なのではと感じて至った訳であり、それ故に。
蒼太は妻に詫びて全てを話すことにした、“このままでは立ち居かなくなること”、“ただ日本にいて専守防衛に務めるだけでは何にもならないこと”、“問題を解決するためにはガリア帝国に帰ってセイレーンに復帰し、かつての仲間達の後ろ盾を得なければならないこと”等を。
「何でも無いわけ、無いじゃない!!」
「ご、ごめんよ、メリー。本当にごめん・・・!!」
夫からの謝罪の言葉に“もうっ!!”とメリアリアは、彼女にしては珍しくも彼に対して怒気を飛ばすが、それでも“でもいいわ”と割かし直ぐに許してくれた、“正直に話してくれたから”とそう言って。
「でも・・・。正直に言って、私もそれしか無いと思うわ、このままここで孤軍奮闘していても、いずれは・・・!!」
「うん・・・」
メリアリアが辛そうな、そして悔しそうな顔をしつつもそう応えるモノの、それに対して蒼太もまた短く頷くと、“そうなっちゃうよね、絶対に・・・”と言葉少な気にそう呟いた、そしてそれは絶対に、間違いでは無い確信があった、現に二人の素性と住所はルクレール達の手によって調べ上げられてしまっている筈であり、とすれば恐らく。
今後も新たな戦士が続々と送り込まれて来る可能性は非常に高くてそれにいつまで対抗し続ける事が出来るのか、甚だ疑問だ。
正直に言って、蒼太は自分が確かに、幼い頃から血反吐が出るほどの修業を受け続けて来て今に至った、そしてその結果として着実に成長して色々な事にも気が付いた上に、様々な能力を身に付ける事が出来たと言う自負、自信があったし、そしてそれはメリアリアもまた同じであり挙げ句に今は妻となってくれた彼女が今後も力を貸してくれるのはこれ以上無い位にまで心強いモノはあったが、しかし。
その一方で、“二人の力を持ってしてでも太刀打ち出来ないような輩がやって来たなら如何(どう)するべきか”、或いは“そう言う状況に追いやられてしまったのならば如何(どう)するべきか”と言う事にまで、彼は考えを巡らせていた、巡らせなければならなかった、恐らくその時が来たならば、メリーは間違いなく自分の為に死んでくれようとするだろうし、少なくとも本気で命を掛けて戦ってくれるだろう事は、想像に難くない事象であったが、だからこそ。
蒼太は何があったとしても、メリアリアの事だけは守り抜いてあげたかった、例え自分の命を犠牲にしてでも、それでも彼女にだけは何としてでも生き抜いていて欲しかったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ガリアに、帰るか・・・」
「・・・・・」
そこまで考えて蒼太は、尚も暫しの沈黙の内にメリアリアに対してそう告げると、彼女もまたコクンと頷きそう応じてくれるモノの、実は彼女も蒼太と同じ事を思っていたのであり、今後についてもし、夫が考え倦(あぐ)ねているようであれば、自分の気持ち、考えを提言するつもりだったのだ。
だが。
その必要はもうない、蒼太には、夫にはちゃんとした考えがある様子であり、しかもそれも納得が行くモノだった、であればこれ以上、自分が何某かの事について口出しするつもりなどは、当たり前だが全く無かった。
「行き先は、あなたが決めていいよ?私はそれに付いて行くから!!」
「・・・・・っ。解ったよ、メリー!!」
“ありがとう”とそう告げて隣にいた愛妻を抱き締めると、最初は驚いていたメリアリアもそれでもクスリと微笑みながら、蒼太の背中にソッと腕を回して応えてくれた。
ここは駅前から少し入った所にある閑静な住宅街である、人通りは表通りに比べれば格段に少なかった、だから。
「・・・・・っ!!」
「は・・・っ!!?」
誰に邪魔をされるでもなく、二人は暫くの間無言で抱き合い続けていたモノの、そんな二人が口付けをしようとした、その時だ。
不意に此方に近付いてくる何者かの気配を察して二人は抱擁を解くと、何事も無かったかのように手を繋いだまま、自宅へと向けて歩き始めて行くモノの、その気配はいつまで経っても消えてなくなる事は無く、ずっと後から付けてくる。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ・・・。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(またか・・・)
蒼太もメリアリアも思わず一瞬、泣きそうになってしまった、一見平和な筈のこの国にはもう、自分達が安寧に暮らせる土地と言うモノが無いのだろうか。
ずっとずっと追っ手に怯えて警戒しながらその日その日を生きて行かねばならないのだろうか。
「メリー・・・!!」
「うん・・・!!」
二人はそう頷き合うと、途中から自宅に向かう道を変えて再び、例の“公団住宅建設予定地”へと足を向けては歩き出すモノの、すると後ろから近付いてくる気配も足音も、進路を変えて追跡して来た。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(この気配から察するに・・・。相手は“人間”だな、どうやら・・・!!)
(足音から推測するに・・・。ガタイのいい男性かしら?かなり鍛えられている感じがするけど・・・)
歩きながらも相手の正体を油断無く探っていると、丁度その人物像が見えて来た辺りで工事現場にたどり着く。
バリケードには“休工”の文字が張られているために、土、日以外の平日でもここが稼働している心配はなさそうなモノだが、さて。
「・・・・・」
「ふ・・・っ!!」
二人は少しだけ足に力を込めて地面を蹴ると、工事看板と天幕で創られていたバリケードを飛び越えて中へと至るが、すると。
外の足音が途端に駆け足となって近付いて来た、一応、念のためにとそこから少し離れた場所に移動してから構えを取る蒼太とメリアリアの前に、両腕を使ってバリケードに攀じ登りつつもこちら側へと侵入して来る、一人の外国人男性がその姿を現した。
年の頃は22、3歳と言った所か、おっとりしているように見えてその実、ガタイは良くて筋骨は隆々、髪は短く切り揃えられており、黒のスーツを上下でビシッと着こなしていたのだが、その姿、雰囲気を確認した時にだから、蒼太もメリアリアも一瞬、同じく“軍人か!?”と思ってしまっていた。
(もしくは特殊機関の人間とかかな?まぁ、でもそれなら・・・)
(私達も、似たようなものだしね・・・)
そう思い直すと改めて二人は“彼”に対峙するモノの、何というか、相手は“一般的なプロフェッショナル”と言った感じの戦士であり、やはりどちらと言えば“兵士”に近い。
魔法力や気を練り上げて、と言うモノは一切感じられず、ただし素養のようなモノはそれなりに秘めているように見受けられるが、恐らくはそう言った訓練は受けて来なかったのであろう事が伺えた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「“初めまして”だな。日本人は戦う相手にもこうやって挨拶をするのだろう?」
二人が黙って目をやっていると、男は近付いてくるなり流暢な英語でそう言い放つが、それに対して蒼太がメリアリアを庇うようにしてスッと一歩前に出る。
「・・・それは“時”と“場合”と“人”に依るな」
「ほほう?」
すると男はメリアリアへは一瞥しただけで目をくれず、専ら蒼太を見つめているが、どうやら用があるのは自分らしいと思うと彼自身は安堵する。
「一体、何者だか知らないが・・・。僕らは“兵士”や“警察”に追われるような事などは、何もしていないつもりだがね?」
「いいや、覚えがあるだろ?」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「“レイ”と戦ったんだろ?君達は・・・。“エヴァ”ともな、そうだろ?」
「・・・・・?」
「・・・!?!?」
“なんだよそれ”、と蒼太は思い、“言っている事が解らないわ”とメリアリアも途方に暮れるが“レイ”と“エヴァ”と言ったら現状、思い当たるのは“新世紀エヴァンゲリオン”以外の何物でもなくて、なんでアニメの世界の話がこんなシリアスな場面に関わって来るのかがイマイチ理解できずにいた。
「ごめんなさい」
と蒼太は首を傾げつつも詫びを入れるが彼には(もっともメリアリアもまた似たようなモノであったのであるが)目の前の男性の言っている事が、今一理解出来ずにおり、“もしかしたなら人違いなのかな?”とまで思い始めるモノの、一方で男性の目つきは至って真面目そのものであり、決して冗談では無い事が伺えた。
しかし。
「レイもエヴァも強い子なんだよ。それを伸すなんて、信じられないな!!」
「・・・・・!?」
「ああ・・・っ!!」
そう言いつつも、男はいきなり蒼太目掛けて身体を思いっ切り屈ませたままで突進しつつも拳を作り、顎への一撃を狙うモノの、それを察した蒼太は自身も相手へと突進すると相手のそれよりも低い姿勢で拳を作り、ただし此方は顔面そのものへのカウンター・パンチを狙った。
「ウオォォッ!!?」
「・・・・・」
蒼太の勢いと戦法とに、“自分がやられる未来”をイメージさせられてしまった相手が一瞬、怯んだ隙を付き、蒼太はそのままタックルをかますと寝技に持ち込み揉み合いながらも後ろを取った、そのままー。
半ば羽交い締めのような体勢に持って行くと、相手の襟首を掴んでその首筋を思いっ切り締め上げに掛かるが、すると相手はすかさずその腕や手首を掴んで振り解こうと躍起になった、その力は結構強くて並の男性ならば三人掛かりでも歯が立たない事が伺えるモノの、しかし。
「ウゥゥゥグッ、ウグググッ。ウゥゥウゴオオォォォッッ!!!!?」
「・・・・・っ。・・・・・・・・っっっ!!!!!!!!」
蒼太も決して負けてはおらずにその太くて頑丈な腕と肩から湧き上がる筋力で片時も休むこと無く男の首を締め上げて行くモノの、その内“ヤバい!!”と感じたのだろう男は堪らず辺りを転げ回ったり、背中を地面に打ち付けるようにして蒼太を半ば強引に引き離そうと試みる。
だがその時はもう、遅かった、男の顔が赤くなり、やがては紫色へと変色して行ったのであるが、呼吸はおろか血液の流れ自体が完全に停止させられてしまっている為に、通常の生物であれば如何(どう)することも出来ないような場面であるにも関わらずに、それでも男は“ウンウン”唸って抵抗を続けては、蒼太を振り解こうと付近一帯をのたうち回った、しかし。
「ウ、ゥゥウッ!?ウゴオォォッ!!グググッ、ゴボオォォ・・・ッ!!!!!」
蒼太に吹き飛ばされてから、実に5分後に最後の呻き声を発して男は遂にグッタリとなり、その場に倒れ伏してしまった、その全身からは力が抜け落ちて行っており、意識も朧気な様子である、それを見た蒼太は。
「グウゥゥ、ゴフ・・・・・・・ッッッ!!!!!」
「・・・・・っ」
本人の戦闘意欲が完全に消失し尽くすのを待ってから戒めを解くモノの、その直後に素早く捕縛用のEMP内蔵の手錠を後ろに回させた両腕へと掛けて無力化させた。
「・・・・・っ。ん、んんっ!!?うおぉぉっ!?これはっ!!!」
「暴れても、無駄だよ」
それから凡そ5分程で目を覚ました男に対して蒼太が先ずは声を掛けるがこの時彼が使用したのは悪逆極まるシリアルキラーを捕縛する為に、特別に設(しつら)えられた非致死性兵器内蔵型手錠であり、いかなる力自慢の、それも訓練された兵士と言えども簡単には突破する事などは、間違っても出来る代物では無かったのである。
「く、ちくしょうっ。こ、殺せっ!!」
「・・・・・?」
「なんなの?この人・・・!!」
蒼太もメリアリアも呆れてしまうと同時に思わず“何言ってんだ?こいつ・・・”と言った顔を見せるがそもそもこの男がなんのつもりで襲って来たのか、そして何よりどこの誰なのか、と言った事も解らない内からいきなり殺すことなど、いくら何でも出来ようはずも無かったのであるモノの、しかし。
「く、くそっ。ちくしょうが・・・。レイ、ごめんよ!!」
「・・・・・」
「さっきから何よ、“レイ”って・・・」
蒼太もメリアリアもますます難解そうな顔を見せるが彼等にはそもそも、この“レイ”、“エヴァ”と言うのが良く解らない。
ただ見たところ、アニメオタクでは無さそうだし、何やら訳ありかな、等と思っていた所に。
何やらバリケードの向こう側から慌ただしく近付いてくる気配を察知した蒼太達は男に向けて身構えながらもそちらの方向へも意識を飛ばして探りをいれた、すると。
「ああっ、いたっ!!」
「やっぱりっ、ここだったんですね!?」
「・・・・・?」
「あなた達は・・・!!」
蒼太とメリアリアが見つめる先には跳躍からの着地を華麗に決めてバリケードを飛び越えて来た、二人の女性の姿があった。
“レウルーラ”の誇る最高戦力“超新星”、その内でも更に看板を張る事を許されているトップ戦士、“黄昏のルクレール”と“青天のエヴァリナ”である。
「・・・・・」
「・・・・・?」
(なんなんだよ、一体。今日は次から次へと・・・!!)
(どうしてこのタイミングでこの人達が出て来るのかしら・・・?)
神経を張り詰めさせつつも、怪訝そうな顔を見せる二人には目もくれず、ルクレールとエヴァリナは一目散に男へと向けて駆け寄って行く。
「ねえっ。ちょっとボブ、大丈夫!?」
「一体、なにがあったんですか!?」
彼の身体に付いていた土埃をパッパッと払い落としてやりながらもルクレールとエヴァリナは彼の手錠を外そうとする。
「無駄だよ、その手錠は・・・」
「何が無駄なんですか?蒼太さん・・・」
「・・・・・っ!!」
「嘘でしょ・・・っ!?」
溜息を付きつつ声を掛けた蒼太であったが今度は驚愕するのは彼等の番だった、何と屈強な兵士であっても簡単には外すこと等出来ない筈の手錠がアッサリと外されてしまっているではないか。
「・・・バカな!!」
「一体、何が・・・!!」
「“超新星”をなめないでくれる?あんまり・・・」
「伊達に“最高戦力”を名乗っている訳では無いんですよ・・・?」
その衝撃を顔に出す蒼太とメリアリアの目の前で、ルクレールとエヴァリナはガチャリと解錠された手錠をわざわざ見せるがこの時、間違いなく二人は有頂天になってしまっていたのでありそしてそれ故に、それと気付かないままにとんでもないミスをしでかしてしまっていた、何をやってしまったのか、と言えばそれは一見、何の役にも立たなくなってしまった(と彼女達が考える所の)“特殊手錠”を、それも極めて微量ながらもそれでも、自分達が術を発動させた際に付着してしまった痕跡や波動と言ったモノをキチンと処理もしない状態のままで(それもその事をよく確認もしない状態のままで)、それをアッサリと蒼太達へと向けて投げ返してしまったのである。
「・・・・・」
「蒼太・・・!?」
心配そうに覗き込むメリアリアの前で蒼太は突き返された形となった“それ”をマジマジと見つめるモノの、やがてポツリと呟いた、“返してくれて有り難う”と。
「お陰で手間が省けたよ・・・!!」
「・・・蒼太?」
「ふふっ。そうでしょう!?私達って優しいのよ、ねえエヴァリナ?」
「ええルクレールさん、良く“良い性格してるね”って言われますし・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
(それは間違っても、褒められているのではないんじゃ無いんじゃないかしら・・・!!)
メリアリアが堪らず心の中で突っ込みを入れるが一方の蒼太はもう、突っ込む余裕が無くなっていた、そんなモノはノエルだけで充分だったのであり、ついでに言えば目の前の二人組がボケているのか、或いは本気で言っていたのかが良く読めなかったからである。
「・・・・・」
「蒼太・・・?」
“まあいいや”と蒼太は告げるがそこから更にハアァッと一つ溜息を付いて後、愛妻に対して“参っちゃうよね?”と言う眼差しを向けて俯き加減で自嘲気味に笑うが、それが済むと。
「ところで」
と事態の究明に取り掛かった、ようやくにして本命の質問が出来る事にいっそ喜びを禁じ得なかったモノの、それでも努めて冷静に振る舞った彼は、一応ルクレール達にも解るようにこれまでの経緯を順を追って説明してやった、その上で。
いわく“その男はだれなのか”、“レイとエヴァとはなんなのか”、“なんでいきなり襲い掛かって来たのか”等々気になっている事を尋ねて行くモノの、それに対してルクレールは“それらについては応えられない”との一点張りであり、真面(まとも)な返答に応じようともしない。
「あのね、ルクレール。こっちは迷惑が掛かってるんだぞ!?それなのに“何の説明も出来ない”ってのはどう言う事なんだよ、一体・・・!!」
「聞いた通りよ」
それに対してルクレールはいっそ冷徹とも言える態度を終始一貫して貫くモノの、蒼太にしてみればこの男が明らかに何らかの事情を知っている可能性が極めて高い上に、それがルクレール達の事についても関係しているとなれば尚更、ここでそれらを究明して起きたかったのである。
「“レイ”とか“エヴァ”ってなに、なんなの一体、本気でさ?君達はあれか、ネルフか?それともゼーレの回し者か?いずれにしても、この事がバレたら“委員会”が黙って無いぞ?」
「問題ない」
と蒼太の言葉にルクレールが反応するモノの、彼女は続けて“スケジュールは全体の0・2%も遅れてはいない”と意味不明な発言を開始をする。
「明朝0600時に起動実験を行います!!」
「それまで“委員会”など放っておけば良い・・・!!」
「いや、いかんだろ!!」
と、エヴァリナまでもが意味不明な台詞回しで参戦して来た挙げ句にトップ等どうでもいい、そんな事は無視して構わない、と言った事にまで話が進んでしまった時点で蒼太は一社会人としては至極真っ当な判断をするモノの例えばこれが緊急非常事態にも関わらずに上がちっとも解っていない、とか、上層部がとち狂った判断を下そうとしている、とか言うのならばともかく、それ以外の日常業務的な状況下において下が上の判断に従わない場合と言うのは大抵、本人達も含めてろくな結果にならない事が多く、現にネルフはゼーレによって壊滅させられてしまっている(まあゼーレやネルフ自体がそもそも、胡散臭さ満載な組織、スタッフの集まりであったが・・・)。
「お前達ね、知ってるだろ?エヴァを1機修理するためには一国の財政が傾くんだぞ?解っているのか!?」
「それも、仕方が無いことだ!!」
「さよう。三度の報いの時を今!!」
「ああ、あんたらだけでな?うちらは一切関係無いんで・・・!!」
と遂にはサードインパクトに関する発言が飛び出し始めた時点において、もう蒼太には何がなんだかついていけなくなってしまった(メリアリアに至ってはそれ以前の段階で意味がよく解っておらずに“!?!?!?”状態である)、もうこんな奴らに関わっているのは時間の浪費と言うほか無く、早急に人類補完の扉を開ける必要性が生まれて来る事態である(ちなみにその為の“ネブカドレザルの鍵”となるのはこの世界的にはノエルかも知れず、彼女がここにいてくれたならば熱いオタクバトルが展開しまくったであろう事は想像に難くない事象である)。
「ふふっ。甘いですね蒼太さん。“黒き月”はこの星に埋め込まれているんですよ?」
「そうか、そう言うことか、リリン!!」
「もう、あの。どうだっていいんだけどね。取り敢えず、この男の身柄について・・・」
話がそこまで進んだ時の事だった、不意にルクレールの持ってきていたスマートフォン端末へと向けて、外部から着信が入り込み会話が一時中断する。
「はい、もしもし・・・。はい、はい・・・。ええ、大丈夫です、身柄は確保しています・・・。はい、はい。ええ、解っています。それでは・・・!!」
そう言って通信を切るとルクレールは蒼太達へと向き直る、そして。
「申し訳無いんだけれども・・・。これ以上は問答する気は無いわ。エヴァリナ!!」
「はい、ルクレールさんっ!!」
「あっ、ちょっと!!」
「メリー、待って!!」
異変に気付いたメリアリアが慌てて後を追おうとするのをすかさず蒼太が制止するモノの、ルクレールからの言葉を聞いたエヴァリナが懐から蒼くて丸い不思議な石を取り出してはそれに向かって念じ始めたのだ、すると途端に。
ルクレールやエヴァリナ、そして男の身体までが透け始めてその場から掻き消えるように消え失せてしまうモノの、それは“スカイストーン”とも呼ばれている、“青光石”を利用した移動術式の一種であり“空間そのもの”を繭状の特殊な法力の結界で包み込む事により発動する事のできる、“跳躍”と言われる特異現象の一つであった、これは一度発動が為されてしまうともはやその空間範囲や転移先を変更できない、と言った使いにくさはあったモノの、それでも最も安全確実に瞬間移動が出来るために、レウルーラ内部では部隊の迅速なる展開、撤収などに用いられる事が多かったのである。
もっともその移動距離や精度と言った諸々の能力は、使うものの法力次第で変わって来るのであったがは基本的にはこの青空の下にある全ての場所に移動する事が可能なのであって、ちなみにこの時、エヴァリナ達が向かったのは東京は千代田区にある“エイジャックス連合王国大使館本館”であった、そこのー。
地下7階の深さにまで下った地中に極秘裏に設けられていた“極東情報戦略司令室”の別室において、急遽決まってしまったロバートへの別任務の辞令を手渡すと同時に残りの休暇を別の日へと振り返る為の引き継ぎが為される手筈となっていたのだ。
「くうぅ・・・!!」
「してやられたわね・・・!!」
後に残された蒼太とメリアリアはそう言って臍をかむモノの、都合十秒にも満たない間で為された“空間転移”を目の前にした彼等はただただ自分達がそれに巻き込まれないようにするだけで手一杯であり、攻撃や捕縛等、何一つとして手を出す術が皆無であった、“やはりレウルーラは侮れない”と認識を新たにした蒼太とメリアリアは今一度気を引き締め直して、あの難敵の二人(と訳の分からん兵士一人)の相手をする事に決めたのである。
一方。
「ごめん、レイ・・・」
「・・・・・」
「怒って、いるよね・・・?」
「・・・・・」
「先走って、ごめんよ・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あの・・・」
「帰って来たら、お仕置きだから・・・っ!!」
しょぼくれて項垂れ続ける彼氏に対してルクレールは“もうっ”と溜息を付きつつ、そう告げた。
「だから必ず、帰ってきてね?お願い・・・」
「レイ・・・ッ。ああ、必ずっ!!」
「・・・チュッ!!」
そう言って頷いたロバートに、ルクレールは素早く口付けをした、誰にも見られてはいけなかったし、見られたくもなかった、それは二人だけの時間でありたかったし、二人だけの秘密でいたかったのである。
「いってらっしゃい・・・!!」
「行ってくるよ、レイ!!」
そう言って、ロバートは大使館を後にする
目指す赴任地は関西である、そこで大八洲を裏から支え続ける超能力呪術師集団“八咫烏”の動向を掴まなくてはならないのだ。
「寂しいよ、ボブ・・・」
後に残されたルクレールはそう呟いて先程口付けを交わした唇を人差し指でゆっくりとなぞる。
彼が帰ってくるのは再来週の月曜日である、そうしたら今度は3日の休みがもらえるらしかった、そうしたなら。
“どこへ連れて行ってもらおうかな”等とルクレールは考えるモノの、その時の彼女の顔は“レウルーラ”の誇る“超新星”としてのそれでは断じて無くて、ロバートと一緒にいる時に見せる一人の麗しの貴族令嬢“レイチェル”としてのモノだったのだ。
季節は如月、まだまだ寒さは抜けきらないでいたモノのそれでもようやく冬も終わって世間は間もなく草花の咲き乱れる麗らかな初春を迎えようとしていた、そんな移り変わり行く日差しと気候の只中の週末の日の昼下がりー。
自分の妻となってくれていたメリアリアと共に手をつなぎながら、落ち着いた足取りで蒼太は整備された住宅街の歩道の上を、自ら賃貸契約を結んでいる“グランエール千歳烏山”へと向けて歩を進め続けていた、そうして二人で歩きながらも“去年は本当に色々な事があったな”等と、改めて過ぎ去っていってしまった日々の追憶へと意識を向けるがそもそもの事の発端となったのは去年の2月、即ちちょうど1年ほど前の雨が降り頻(しき)っていた、あの新宿都庁近くにあるビル群の、灰色の空模様の下で起きた。
その日、蒼太は“少女”とであった、“少女”は自分自身の名前を“メリーニ”と名乗っていたのだが、蒼太にはこの少女が誰なのか、と言う事が、何となく確信する事が出来ていたのだ。
ただし問題もあった、証拠がないのだ、しかもその上、本人自身が“メリーニ”だと言ってその正体を隠していた、今にして思えばそれはある意味、正解であったかも知れなかった。
もし彼女が最初から自分を“メリアリア”だ、等と触れて回っていたのならば、必然的にその名前に反応して来る輩はいたであろうし、もしそうなって来れば、共に過ごしている蒼太の身分もあからさまになっていたに違いない。
現にメリアリアの正体が明らかになった途端にこれである、蒼太は自分達が置かれている状況が、如何に厳しいモノであるのかを再認識せざるを得なかった、そしてー。
今後それは、このまま行けば一層苦しくなる事はあっても楽になることは無いであろう事は容易に伺い知る事が出来る、と言うモノであったがそもそも論としてここ、大八洲皇国には彼等の後ろ盾となってくれる組織が無い。
一応、遙かな古より陰ながら天皇家を守り支えて来た超能力呪術師集団である“八咫烏”が存在してはいるモノの、その一切は秘密のベールに包まれており接触する事が全く容易な事では無かった上に、会ってくれたとしても果たして味方になってくれるかどうかはまた別問題となって来る。
勿論、警察等にも行くわけにもいかなかった、当たり前と言えば全く以て当たり前な事なのであるが、“かつては国家の秘密組織に所属していました”等と知れればその時点で彼等はもうお終いであり、それに何よりかによりの話として蒼太は(メリアリアも同様だったが)もう一方の故国である“ガリア帝国”を裏切るつもりはサラサラ無かった、そんな悲しい事はしたくなかったしそれにもし、仮に本気で全ての情報と引き換えに自分達の保護を願い出て、それがここ、大八洲皇国において受け入れられたとしても今度は間違いなくガリア帝国側から、それももっと言ってしまえばそう言った、所謂(いわゆる)“裏の世界”に関する事柄や問題等を専門に取り扱っている、魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”の面々から裏切り者認定をされて完全に孤立させられた挙げ句に、かつての仲間達から延々と命を狙われ続ける事になるであろう事は、ほぼほぼと言って良いほどに紛う事無き彼等の運命と言わざるを得ない状況であったのだ。
(そんなのは、ゴメンだよ。ねえメリー・・・?)
と蒼太は心の中で手をつないだままの状態で、自分のすぐ隣を歩いている恋人に訴えるモノの、その視線に気が付いたメリアリアは一瞬、キョトンとした顔をして“どうしたの?”と尋ねて来る。
「どうか、したの?何か心配事があるんなら言ってよ、なんでも聞くから・・・!!」
「ううん、大丈夫。何でも無いよ・・・!!」
と、無用な心配を掛けたくない余りに最愛の妻から為される提言に対しても、思わず頭(かぶり)を振ってそう応えるが、そんな夫の態度に“そぉ・・・?”と告げるとメリアリアは少しだけ、寂しそうな顔をする。
(いけない!!)
それを見た蒼太は敏感に反応した、かつて神に言われた事があったのである、“お前は全て自分で抱えて何とかしようとし過ぎる”と、“本当に二人で生きていく事の意味を考えた事があるのか?”と。
それが当てはまるのが今、この時この瞬間の事象なのではと感じて至った訳であり、それ故に。
蒼太は妻に詫びて全てを話すことにした、“このままでは立ち居かなくなること”、“ただ日本にいて専守防衛に務めるだけでは何にもならないこと”、“問題を解決するためにはガリア帝国に帰ってセイレーンに復帰し、かつての仲間達の後ろ盾を得なければならないこと”等を。
「何でも無いわけ、無いじゃない!!」
「ご、ごめんよ、メリー。本当にごめん・・・!!」
夫からの謝罪の言葉に“もうっ!!”とメリアリアは、彼女にしては珍しくも彼に対して怒気を飛ばすが、それでも“でもいいわ”と割かし直ぐに許してくれた、“正直に話してくれたから”とそう言って。
「でも・・・。正直に言って、私もそれしか無いと思うわ、このままここで孤軍奮闘していても、いずれは・・・!!」
「うん・・・」
メリアリアが辛そうな、そして悔しそうな顔をしつつもそう応えるモノの、それに対して蒼太もまた短く頷くと、“そうなっちゃうよね、絶対に・・・”と言葉少な気にそう呟いた、そしてそれは絶対に、間違いでは無い確信があった、現に二人の素性と住所はルクレール達の手によって調べ上げられてしまっている筈であり、とすれば恐らく。
今後も新たな戦士が続々と送り込まれて来る可能性は非常に高くてそれにいつまで対抗し続ける事が出来るのか、甚だ疑問だ。
正直に言って、蒼太は自分が確かに、幼い頃から血反吐が出るほどの修業を受け続けて来て今に至った、そしてその結果として着実に成長して色々な事にも気が付いた上に、様々な能力を身に付ける事が出来たと言う自負、自信があったし、そしてそれはメリアリアもまた同じであり挙げ句に今は妻となってくれた彼女が今後も力を貸してくれるのはこれ以上無い位にまで心強いモノはあったが、しかし。
その一方で、“二人の力を持ってしてでも太刀打ち出来ないような輩がやって来たなら如何(どう)するべきか”、或いは“そう言う状況に追いやられてしまったのならば如何(どう)するべきか”と言う事にまで、彼は考えを巡らせていた、巡らせなければならなかった、恐らくその時が来たならば、メリーは間違いなく自分の為に死んでくれようとするだろうし、少なくとも本気で命を掛けて戦ってくれるだろう事は、想像に難くない事象であったが、だからこそ。
蒼太は何があったとしても、メリアリアの事だけは守り抜いてあげたかった、例え自分の命を犠牲にしてでも、それでも彼女にだけは何としてでも生き抜いていて欲しかったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ガリアに、帰るか・・・」
「・・・・・」
そこまで考えて蒼太は、尚も暫しの沈黙の内にメリアリアに対してそう告げると、彼女もまたコクンと頷きそう応じてくれるモノの、実は彼女も蒼太と同じ事を思っていたのであり、今後についてもし、夫が考え倦(あぐ)ねているようであれば、自分の気持ち、考えを提言するつもりだったのだ。
だが。
その必要はもうない、蒼太には、夫にはちゃんとした考えがある様子であり、しかもそれも納得が行くモノだった、であればこれ以上、自分が何某かの事について口出しするつもりなどは、当たり前だが全く無かった。
「行き先は、あなたが決めていいよ?私はそれに付いて行くから!!」
「・・・・・っ。解ったよ、メリー!!」
“ありがとう”とそう告げて隣にいた愛妻を抱き締めると、最初は驚いていたメリアリアもそれでもクスリと微笑みながら、蒼太の背中にソッと腕を回して応えてくれた。
ここは駅前から少し入った所にある閑静な住宅街である、人通りは表通りに比べれば格段に少なかった、だから。
「・・・・・っ!!」
「は・・・っ!!?」
誰に邪魔をされるでもなく、二人は暫くの間無言で抱き合い続けていたモノの、そんな二人が口付けをしようとした、その時だ。
不意に此方に近付いてくる何者かの気配を察して二人は抱擁を解くと、何事も無かったかのように手を繋いだまま、自宅へと向けて歩き始めて行くモノの、その気配はいつまで経っても消えてなくなる事は無く、ずっと後から付けてくる。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ・・・。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(またか・・・)
蒼太もメリアリアも思わず一瞬、泣きそうになってしまった、一見平和な筈のこの国にはもう、自分達が安寧に暮らせる土地と言うモノが無いのだろうか。
ずっとずっと追っ手に怯えて警戒しながらその日その日を生きて行かねばならないのだろうか。
「メリー・・・!!」
「うん・・・!!」
二人はそう頷き合うと、途中から自宅に向かう道を変えて再び、例の“公団住宅建設予定地”へと足を向けては歩き出すモノの、すると後ろから近付いてくる気配も足音も、進路を変えて追跡して来た。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!」
(この気配から察するに・・・。相手は“人間”だな、どうやら・・・!!)
(足音から推測するに・・・。ガタイのいい男性かしら?かなり鍛えられている感じがするけど・・・)
歩きながらも相手の正体を油断無く探っていると、丁度その人物像が見えて来た辺りで工事現場にたどり着く。
バリケードには“休工”の文字が張られているために、土、日以外の平日でもここが稼働している心配はなさそうなモノだが、さて。
「・・・・・」
「ふ・・・っ!!」
二人は少しだけ足に力を込めて地面を蹴ると、工事看板と天幕で創られていたバリケードを飛び越えて中へと至るが、すると。
外の足音が途端に駆け足となって近付いて来た、一応、念のためにとそこから少し離れた場所に移動してから構えを取る蒼太とメリアリアの前に、両腕を使ってバリケードに攀じ登りつつもこちら側へと侵入して来る、一人の外国人男性がその姿を現した。
年の頃は22、3歳と言った所か、おっとりしているように見えてその実、ガタイは良くて筋骨は隆々、髪は短く切り揃えられており、黒のスーツを上下でビシッと着こなしていたのだが、その姿、雰囲気を確認した時にだから、蒼太もメリアリアも一瞬、同じく“軍人か!?”と思ってしまっていた。
(もしくは特殊機関の人間とかかな?まぁ、でもそれなら・・・)
(私達も、似たようなものだしね・・・)
そう思い直すと改めて二人は“彼”に対峙するモノの、何というか、相手は“一般的なプロフェッショナル”と言った感じの戦士であり、やはりどちらと言えば“兵士”に近い。
魔法力や気を練り上げて、と言うモノは一切感じられず、ただし素養のようなモノはそれなりに秘めているように見受けられるが、恐らくはそう言った訓練は受けて来なかったのであろう事が伺えた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「“初めまして”だな。日本人は戦う相手にもこうやって挨拶をするのだろう?」
二人が黙って目をやっていると、男は近付いてくるなり流暢な英語でそう言い放つが、それに対して蒼太がメリアリアを庇うようにしてスッと一歩前に出る。
「・・・それは“時”と“場合”と“人”に依るな」
「ほほう?」
すると男はメリアリアへは一瞥しただけで目をくれず、専ら蒼太を見つめているが、どうやら用があるのは自分らしいと思うと彼自身は安堵する。
「一体、何者だか知らないが・・・。僕らは“兵士”や“警察”に追われるような事などは、何もしていないつもりだがね?」
「いいや、覚えがあるだろ?」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「“レイ”と戦ったんだろ?君達は・・・。“エヴァ”ともな、そうだろ?」
「・・・・・?」
「・・・!?!?」
“なんだよそれ”、と蒼太は思い、“言っている事が解らないわ”とメリアリアも途方に暮れるが“レイ”と“エヴァ”と言ったら現状、思い当たるのは“新世紀エヴァンゲリオン”以外の何物でもなくて、なんでアニメの世界の話がこんなシリアスな場面に関わって来るのかがイマイチ理解できずにいた。
「ごめんなさい」
と蒼太は首を傾げつつも詫びを入れるが彼には(もっともメリアリアもまた似たようなモノであったのであるが)目の前の男性の言っている事が、今一理解出来ずにおり、“もしかしたなら人違いなのかな?”とまで思い始めるモノの、一方で男性の目つきは至って真面目そのものであり、決して冗談では無い事が伺えた。
しかし。
「レイもエヴァも強い子なんだよ。それを伸すなんて、信じられないな!!」
「・・・・・!?」
「ああ・・・っ!!」
そう言いつつも、男はいきなり蒼太目掛けて身体を思いっ切り屈ませたままで突進しつつも拳を作り、顎への一撃を狙うモノの、それを察した蒼太は自身も相手へと突進すると相手のそれよりも低い姿勢で拳を作り、ただし此方は顔面そのものへのカウンター・パンチを狙った。
「ウオォォッ!!?」
「・・・・・」
蒼太の勢いと戦法とに、“自分がやられる未来”をイメージさせられてしまった相手が一瞬、怯んだ隙を付き、蒼太はそのままタックルをかますと寝技に持ち込み揉み合いながらも後ろを取った、そのままー。
半ば羽交い締めのような体勢に持って行くと、相手の襟首を掴んでその首筋を思いっ切り締め上げに掛かるが、すると相手はすかさずその腕や手首を掴んで振り解こうと躍起になった、その力は結構強くて並の男性ならば三人掛かりでも歯が立たない事が伺えるモノの、しかし。
「ウゥゥゥグッ、ウグググッ。ウゥゥウゴオオォォォッッ!!!!?」
「・・・・・っ。・・・・・・・・っっっ!!!!!!!!」
蒼太も決して負けてはおらずにその太くて頑丈な腕と肩から湧き上がる筋力で片時も休むこと無く男の首を締め上げて行くモノの、その内“ヤバい!!”と感じたのだろう男は堪らず辺りを転げ回ったり、背中を地面に打ち付けるようにして蒼太を半ば強引に引き離そうと試みる。
だがその時はもう、遅かった、男の顔が赤くなり、やがては紫色へと変色して行ったのであるが、呼吸はおろか血液の流れ自体が完全に停止させられてしまっている為に、通常の生物であれば如何(どう)することも出来ないような場面であるにも関わらずに、それでも男は“ウンウン”唸って抵抗を続けては、蒼太を振り解こうと付近一帯をのたうち回った、しかし。
「ウ、ゥゥウッ!?ウゴオォォッ!!グググッ、ゴボオォォ・・・ッ!!!!!」
蒼太に吹き飛ばされてから、実に5分後に最後の呻き声を発して男は遂にグッタリとなり、その場に倒れ伏してしまった、その全身からは力が抜け落ちて行っており、意識も朧気な様子である、それを見た蒼太は。
「グウゥゥ、ゴフ・・・・・・・ッッッ!!!!!」
「・・・・・っ」
本人の戦闘意欲が完全に消失し尽くすのを待ってから戒めを解くモノの、その直後に素早く捕縛用のEMP内蔵の手錠を後ろに回させた両腕へと掛けて無力化させた。
「・・・・・っ。ん、んんっ!!?うおぉぉっ!?これはっ!!!」
「暴れても、無駄だよ」
それから凡そ5分程で目を覚ました男に対して蒼太が先ずは声を掛けるがこの時彼が使用したのは悪逆極まるシリアルキラーを捕縛する為に、特別に設(しつら)えられた非致死性兵器内蔵型手錠であり、いかなる力自慢の、それも訓練された兵士と言えども簡単には突破する事などは、間違っても出来る代物では無かったのである。
「く、ちくしょうっ。こ、殺せっ!!」
「・・・・・?」
「なんなの?この人・・・!!」
蒼太もメリアリアも呆れてしまうと同時に思わず“何言ってんだ?こいつ・・・”と言った顔を見せるがそもそもこの男がなんのつもりで襲って来たのか、そして何よりどこの誰なのか、と言った事も解らない内からいきなり殺すことなど、いくら何でも出来ようはずも無かったのであるモノの、しかし。
「く、くそっ。ちくしょうが・・・。レイ、ごめんよ!!」
「・・・・・」
「さっきから何よ、“レイ”って・・・」
蒼太もメリアリアもますます難解そうな顔を見せるが彼等にはそもそも、この“レイ”、“エヴァ”と言うのが良く解らない。
ただ見たところ、アニメオタクでは無さそうだし、何やら訳ありかな、等と思っていた所に。
何やらバリケードの向こう側から慌ただしく近付いてくる気配を察知した蒼太達は男に向けて身構えながらもそちらの方向へも意識を飛ばして探りをいれた、すると。
「ああっ、いたっ!!」
「やっぱりっ、ここだったんですね!?」
「・・・・・?」
「あなた達は・・・!!」
蒼太とメリアリアが見つめる先には跳躍からの着地を華麗に決めてバリケードを飛び越えて来た、二人の女性の姿があった。
“レウルーラ”の誇る最高戦力“超新星”、その内でも更に看板を張る事を許されているトップ戦士、“黄昏のルクレール”と“青天のエヴァリナ”である。
「・・・・・」
「・・・・・?」
(なんなんだよ、一体。今日は次から次へと・・・!!)
(どうしてこのタイミングでこの人達が出て来るのかしら・・・?)
神経を張り詰めさせつつも、怪訝そうな顔を見せる二人には目もくれず、ルクレールとエヴァリナは一目散に男へと向けて駆け寄って行く。
「ねえっ。ちょっとボブ、大丈夫!?」
「一体、なにがあったんですか!?」
彼の身体に付いていた土埃をパッパッと払い落としてやりながらもルクレールとエヴァリナは彼の手錠を外そうとする。
「無駄だよ、その手錠は・・・」
「何が無駄なんですか?蒼太さん・・・」
「・・・・・っ!!」
「嘘でしょ・・・っ!?」
溜息を付きつつ声を掛けた蒼太であったが今度は驚愕するのは彼等の番だった、何と屈強な兵士であっても簡単には外すこと等出来ない筈の手錠がアッサリと外されてしまっているではないか。
「・・・バカな!!」
「一体、何が・・・!!」
「“超新星”をなめないでくれる?あんまり・・・」
「伊達に“最高戦力”を名乗っている訳では無いんですよ・・・?」
その衝撃を顔に出す蒼太とメリアリアの目の前で、ルクレールとエヴァリナはガチャリと解錠された手錠をわざわざ見せるがこの時、間違いなく二人は有頂天になってしまっていたのでありそしてそれ故に、それと気付かないままにとんでもないミスをしでかしてしまっていた、何をやってしまったのか、と言えばそれは一見、何の役にも立たなくなってしまった(と彼女達が考える所の)“特殊手錠”を、それも極めて微量ながらもそれでも、自分達が術を発動させた際に付着してしまった痕跡や波動と言ったモノをキチンと処理もしない状態のままで(それもその事をよく確認もしない状態のままで)、それをアッサリと蒼太達へと向けて投げ返してしまったのである。
「・・・・・」
「蒼太・・・!?」
心配そうに覗き込むメリアリアの前で蒼太は突き返された形となった“それ”をマジマジと見つめるモノの、やがてポツリと呟いた、“返してくれて有り難う”と。
「お陰で手間が省けたよ・・・!!」
「・・・蒼太?」
「ふふっ。そうでしょう!?私達って優しいのよ、ねえエヴァリナ?」
「ええルクレールさん、良く“良い性格してるね”って言われますし・・・!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
(それは間違っても、褒められているのではないんじゃ無いんじゃないかしら・・・!!)
メリアリアが堪らず心の中で突っ込みを入れるが一方の蒼太はもう、突っ込む余裕が無くなっていた、そんなモノはノエルだけで充分だったのであり、ついでに言えば目の前の二人組がボケているのか、或いは本気で言っていたのかが良く読めなかったからである。
「・・・・・」
「蒼太・・・?」
“まあいいや”と蒼太は告げるがそこから更にハアァッと一つ溜息を付いて後、愛妻に対して“参っちゃうよね?”と言う眼差しを向けて俯き加減で自嘲気味に笑うが、それが済むと。
「ところで」
と事態の究明に取り掛かった、ようやくにして本命の質問が出来る事にいっそ喜びを禁じ得なかったモノの、それでも努めて冷静に振る舞った彼は、一応ルクレール達にも解るようにこれまでの経緯を順を追って説明してやった、その上で。
いわく“その男はだれなのか”、“レイとエヴァとはなんなのか”、“なんでいきなり襲い掛かって来たのか”等々気になっている事を尋ねて行くモノの、それに対してルクレールは“それらについては応えられない”との一点張りであり、真面(まとも)な返答に応じようともしない。
「あのね、ルクレール。こっちは迷惑が掛かってるんだぞ!?それなのに“何の説明も出来ない”ってのはどう言う事なんだよ、一体・・・!!」
「聞いた通りよ」
それに対してルクレールはいっそ冷徹とも言える態度を終始一貫して貫くモノの、蒼太にしてみればこの男が明らかに何らかの事情を知っている可能性が極めて高い上に、それがルクレール達の事についても関係しているとなれば尚更、ここでそれらを究明して起きたかったのである。
「“レイ”とか“エヴァ”ってなに、なんなの一体、本気でさ?君達はあれか、ネルフか?それともゼーレの回し者か?いずれにしても、この事がバレたら“委員会”が黙って無いぞ?」
「問題ない」
と蒼太の言葉にルクレールが反応するモノの、彼女は続けて“スケジュールは全体の0・2%も遅れてはいない”と意味不明な発言を開始をする。
「明朝0600時に起動実験を行います!!」
「それまで“委員会”など放っておけば良い・・・!!」
「いや、いかんだろ!!」
と、エヴァリナまでもが意味不明な台詞回しで参戦して来た挙げ句にトップ等どうでもいい、そんな事は無視して構わない、と言った事にまで話が進んでしまった時点で蒼太は一社会人としては至極真っ当な判断をするモノの例えばこれが緊急非常事態にも関わらずに上がちっとも解っていない、とか、上層部がとち狂った判断を下そうとしている、とか言うのならばともかく、それ以外の日常業務的な状況下において下が上の判断に従わない場合と言うのは大抵、本人達も含めてろくな結果にならない事が多く、現にネルフはゼーレによって壊滅させられてしまっている(まあゼーレやネルフ自体がそもそも、胡散臭さ満載な組織、スタッフの集まりであったが・・・)。
「お前達ね、知ってるだろ?エヴァを1機修理するためには一国の財政が傾くんだぞ?解っているのか!?」
「それも、仕方が無いことだ!!」
「さよう。三度の報いの時を今!!」
「ああ、あんたらだけでな?うちらは一切関係無いんで・・・!!」
と遂にはサードインパクトに関する発言が飛び出し始めた時点において、もう蒼太には何がなんだかついていけなくなってしまった(メリアリアに至ってはそれ以前の段階で意味がよく解っておらずに“!?!?!?”状態である)、もうこんな奴らに関わっているのは時間の浪費と言うほか無く、早急に人類補完の扉を開ける必要性が生まれて来る事態である(ちなみにその為の“ネブカドレザルの鍵”となるのはこの世界的にはノエルかも知れず、彼女がここにいてくれたならば熱いオタクバトルが展開しまくったであろう事は想像に難くない事象である)。
「ふふっ。甘いですね蒼太さん。“黒き月”はこの星に埋め込まれているんですよ?」
「そうか、そう言うことか、リリン!!」
「もう、あの。どうだっていいんだけどね。取り敢えず、この男の身柄について・・・」
話がそこまで進んだ時の事だった、不意にルクレールの持ってきていたスマートフォン端末へと向けて、外部から着信が入り込み会話が一時中断する。
「はい、もしもし・・・。はい、はい・・・。ええ、大丈夫です、身柄は確保しています・・・。はい、はい。ええ、解っています。それでは・・・!!」
そう言って通信を切るとルクレールは蒼太達へと向き直る、そして。
「申し訳無いんだけれども・・・。これ以上は問答する気は無いわ。エヴァリナ!!」
「はい、ルクレールさんっ!!」
「あっ、ちょっと!!」
「メリー、待って!!」
異変に気付いたメリアリアが慌てて後を追おうとするのをすかさず蒼太が制止するモノの、ルクレールからの言葉を聞いたエヴァリナが懐から蒼くて丸い不思議な石を取り出してはそれに向かって念じ始めたのだ、すると途端に。
ルクレールやエヴァリナ、そして男の身体までが透け始めてその場から掻き消えるように消え失せてしまうモノの、それは“スカイストーン”とも呼ばれている、“青光石”を利用した移動術式の一種であり“空間そのもの”を繭状の特殊な法力の結界で包み込む事により発動する事のできる、“跳躍”と言われる特異現象の一つであった、これは一度発動が為されてしまうともはやその空間範囲や転移先を変更できない、と言った使いにくさはあったモノの、それでも最も安全確実に瞬間移動が出来るために、レウルーラ内部では部隊の迅速なる展開、撤収などに用いられる事が多かったのである。
もっともその移動距離や精度と言った諸々の能力は、使うものの法力次第で変わって来るのであったがは基本的にはこの青空の下にある全ての場所に移動する事が可能なのであって、ちなみにこの時、エヴァリナ達が向かったのは東京は千代田区にある“エイジャックス連合王国大使館本館”であった、そこのー。
地下7階の深さにまで下った地中に極秘裏に設けられていた“極東情報戦略司令室”の別室において、急遽決まってしまったロバートへの別任務の辞令を手渡すと同時に残りの休暇を別の日へと振り返る為の引き継ぎが為される手筈となっていたのだ。
「くうぅ・・・!!」
「してやられたわね・・・!!」
後に残された蒼太とメリアリアはそう言って臍をかむモノの、都合十秒にも満たない間で為された“空間転移”を目の前にした彼等はただただ自分達がそれに巻き込まれないようにするだけで手一杯であり、攻撃や捕縛等、何一つとして手を出す術が皆無であった、“やはりレウルーラは侮れない”と認識を新たにした蒼太とメリアリアは今一度気を引き締め直して、あの難敵の二人(と訳の分からん兵士一人)の相手をする事に決めたのである。
一方。
「ごめん、レイ・・・」
「・・・・・」
「怒って、いるよね・・・?」
「・・・・・」
「先走って、ごめんよ・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あの・・・」
「帰って来たら、お仕置きだから・・・っ!!」
しょぼくれて項垂れ続ける彼氏に対してルクレールは“もうっ”と溜息を付きつつ、そう告げた。
「だから必ず、帰ってきてね?お願い・・・」
「レイ・・・ッ。ああ、必ずっ!!」
「・・・チュッ!!」
そう言って頷いたロバートに、ルクレールは素早く口付けをした、誰にも見られてはいけなかったし、見られたくもなかった、それは二人だけの時間でありたかったし、二人だけの秘密でいたかったのである。
「いってらっしゃい・・・!!」
「行ってくるよ、レイ!!」
そう言って、ロバートは大使館を後にする
目指す赴任地は関西である、そこで大八洲を裏から支え続ける超能力呪術師集団“八咫烏”の動向を掴まなくてはならないのだ。
「寂しいよ、ボブ・・・」
後に残されたルクレールはそう呟いて先程口付けを交わした唇を人差し指でゆっくりとなぞる。
彼が帰ってくるのは再来週の月曜日である、そうしたら今度は3日の休みがもらえるらしかった、そうしたなら。
“どこへ連れて行ってもらおうかな”等とルクレールは考えるモノの、その時の彼女の顔は“レウルーラ”の誇る“超新星”としてのそれでは断じて無くて、ロバートと一緒にいる時に見せる一人の麗しの貴族令嬢“レイチェル”としてのモノだったのだ。
応援ありがとうございます!
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