メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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ガリア帝国編

人類恐竜化計画

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 地球上に人類達が溢れ始めて暫くが経った頃の事、 レプティリアン達の魂は遂にいよいよ、その活動を開始した。

 彼等は本当に、ありとあらゆる事をした、ただ単に人々に享楽を教えて溺れさせるのみならず、例えばもっともらしい理屈をつけては常に社会全体を巻き込む形で過剰な論争を引き起こさせつつ人々に派閥を形成させて戦わせ、真理に対する人々の知性と情熱とを無駄に消費させ続けた。

 個人個人に対しても同様であり、朝から晩まで一日中、クタクタになるまで働かせては、しかもそれを毎日のように繰り返させて次第次第に人々の心から自分自身や将来の事、そして自分を側で支えてくれる大切な人についての考える余裕を失わせていったのだ。

 そんな打ち続く毎日の中で人々は誰もがその日その日を生き切るだけで精一杯にさせられると同時にすっかりと疲れ果てさせられてしまい、感覚を麻痺させられて行ってしまっていたのであるが、それは己や身近な存在へと意識をいかなくさせると同時に彼等との絆を脆弱にさせて、容易にその“愛の共鳴の結晶”であった筈の“家庭”を崩壊させては破滅へと追いやっていったのである。

 お互いへの愛慕と情熱とが冷え切ってしまっている夫婦ほど、脆くて危険なモノは無く、日常生活はまだ何とか送れるにしても、何かの切っ掛けさえあれば一撃で砕け散る、“ガラス板の上の関係”を保っているに過ぎない彼等の内ではだから、現に何人もの人々がパートナーの不貞行為によってその関係に幕を閉じていってしまっており、それどころか酷い場合には家庭そのものが崩壊してしまう場合さえもあったのだ。

 “心はあくまで肉体の一部であり快楽を求めるように出来ている”、“そこには愛も自分の意志も関係はしておらずにただの肉体の反射現象としての愉悦があるに過ぎない”。

 このたった二つの事柄が理解できていなかったが故に、一体何組の夫婦とカップルとが途中で別れざるを得なくなって来た事だろう。

 “本当に愛し合っている人との間に為されるセックスはこれ以上無いほどに気持ち良くて心地好いモノ”、そして“愛し合うと言うことは愛を育み合うと言うことの出発点に過ぎないのだ”。

 それらを知らなかったが為に一体何組の夫婦やカップル達が、その人生の途上において空中分解させられて来た事だったのだろう。

 魂の存在を理解できず、頭で解ったとしても感じて繋がる事の出来ないでいた地球人類は、彼等にとって“格好の鴨”だった、ある時は薬物を用いて対象を廃人同然にまで犯し抜き、またある時は“人を裏切ってしまった”と錯覚させては絶望の淵に落とし込ませて別れを現実のモノにさせ、我に返った彼氏彼女をその途端に涙で濡らさせ続けたのである。

 それだけではない、人々には常に上手いことを言って夢を見させ、足下を疎かにさせた挙げ句に日常や身近にあるモノ、いつも側にいてくれる人への感謝と尊敬の心を奪い、そしてそれと連動させて“慎み”をも失わせていったのだが、そんな彼等人類が特に弱かったのが“セックス”、“スポーツ”、“スクリーン”であり、これらは大半の人々を熱狂させては堕落させるのに、十二分なまでの役割を果たしてくれた。

 しかし。

 そうは言ってもやはり、結果はレプティリアン達が満足するのとは程遠いモノばかりであった、やはり人々は彼等に比べると遥かに強くて勇気と優しさを持ち合わせており、そしてー。

 何よりも大切なエッセンスである“愛”を知っていたのである。

 その証拠にー。

 ここまで手を変え品を変えて堕落の道を、トリックを仕掛け続けたのにも関わらずに人類の大多数はその冷静さを失う事なく一生を添い遂げたままで終わって行ったし、また愛を本当に破逆し尽くしてしまう人間もごく僅かに留まってしまっているのが現状だったのだ。

 その上。

 二人の絆を崩壊させようと試みても、それを敢然と跳ね返して逆に余計に愛を深める夫婦やカップルが極めて多く、または実際に不倫に追いやったとしてもそれを見事に乗り越えて結局は、お互いへの更なる信頼と思いとを獲得して行ってしまったそれらもかなりの数を占めており正直言って、これでは自分達がやっている事の方が馬鹿らしくなってくるレベルであった。

 仲違いをさせようにも同様で“僕が悪かった”とか“私が悪いの!!”と言ってはお互いに謝りあって仲直りをする、と言った姿が彼方此方で何度として見られ、彼等としてはそれも面白くは無い。

 それでも一応ー。

 彼等から文化文明を奪い取り、宗教を利用して冷静さと恥の概念を歪ませ、挙げ句の果てには戦争や疫病と言ったモノを何度となく誘発させてはその一瞬の間にだけは、人間の心を荒ませる事にも、そして何よりその存在を間引く事にも成功していたのであったがそれとても泡沫の夢に過ぎなかった。

 否、もっと言ってしまえば確かに最初はそれも奏功していたのであるけれども、次第に人々は目覚め始めて行った、“このままではいけない”と、“こんな事を繰り返して何になるのか”と。

「“人間共”は総じてしぶとい」

 デュマは語るが彼等とてバカでは無い、この数百万年の間に人間達と関わりを持つ事で彼等の持つ特性や心の動き、また或いは行動パターンと言ったモノを悉(つぶさ)に観察し、そして学習して来た(どうしてそれを“自分事”として置き換えられなかったのかは不明)。

 その結果“自分が本当に大切であると認識している物事以外においては”、民族や育って来た環境如何(かんきょういかん)によって差はあれどもそれでも人には皆“いけない事だと解ってはいても、それが許されている間は罪や罰と言った物事を認識しづらい”と言う自分自身に対する一種の精神的トリック、要するに“甘え”がある事が解って来たのである。

 彼等はそれを逆用させては更に様々な問題を引き起こさせて来た、その代表的なモノこそが“差別意識”であり“環境汚染”であり“余分なエネルギーの消費増大”である。

 この内に差別とは何処から来るのか、と言えばそれは“コイツはちゃんと身体を洗っているんだろうか”、或いは“変な匂いとかしないだろうな?”と言った具合に“他人に対する不理解”や“異物認識”に起因する問題であり、環境やエネルギーについては“これだけ巨大で力強い地球なのだから、多少の事があってもビクともすまい”と言った、単なる“世界の広大さへの追従”がその根底に端を発しているのであって、これがもし“今日明日中に何とかしなければならない問題”となると恐らく、人々は目の色を変えて飛び付くであろう事は、想像に難くない事象であった。

「“良心”と“良識”か。忌々しい言葉よ、神々の言い分を、正当化させているモノに過ぎん!!」

 “しかし”とデュマは付け加えた、“今となってはもはや、これらを逆用させた罠を張るより方々が無い”と。

「人間共め、意外とやりおる。本来であればもはや、とっくに決着(けり)が着いていてもおかしくはない問題であったのだがな・・・」

「しかしメイヨール、お言葉ですが・・・!!」

 とすかさずガイヤールが発現するモノの、曰く“エネルギー消費問題に関しましては未だに解決を見ておりません”と。

「環境問題についても同様です。彼奴等(きゃつら)め“もはや敵わぬ”とばかりにサジを投げているのでは御座いますまいか!?」

「いいや、ガイヤール。それとても奴らは気付き始めている・・・」

 それに対して横から更にデマーグが口を挟んだ。

「ここ最近は、特に“先進国”を中心として“エコ”の概念が高まって来ている。奴らも“このままではまずい”と思ったのだろう、かなり真剣な取り組みが為され始めているようだぞ?」

「ちいぃぃ・・・っ!!」

「お前達に問うておきたいが・・・。今現在、彼奴等(きゃつら)が使用しているエネルギーの原材料が、一体なんなのであるのか。解っているのであろうな?」

「ハハッ、メイヨール!!」

「勿論で御座います!!」

 ガイヤールとデマーグの両名が畏まって応えるモノの、あれは要するにかつての同胞達の亡骸であり、そこから分泌された体液、死蔵物等が蓄積されて形成された物質である。

 それを彼等は空気中に放出し続けているのであり、しかも地球が10億年と言う途轍もなく長い年月を掛けて溜め込み続けて来たモノを、僅かに200年かそこらで使い切ろうとしている。

「あれが全て大気中に放出されれば、我等の無念は幾許かは晴らされる事となる。何故ならば石油や石炭と言ったモノには失意の内に死んでいった同胞達の思いが染み込んでいるからな、それらが解き放たれる事にもなる訳だ」

「今まで地下深くに封じ込められていたモノを、人間達が発掘してくれた、と言う訳ですね?」

「そう言う事だ」

 エカテリーナの言葉にデュマが頷くモノの、本音を言えばそれだとて、内心穏やかではいられなかった、人間達が目覚め始めているのは事実であるし、だからこそ決して状況は、予断を許さぬモノへとなってきていたのである。

「しかしだ、いずれにしても厄介な事だぞ?これでは“キング・カイザーリン”に合わせる顔が無いではないか!!」

「“3S政策”は、それでも順調に稼働しております!!」

 デアーグが言うモノの、この3Sとは何かと言えば先に挙げた“セックス”、“スポーツ”、“スクリーン”の事であり即ち、“性欲による倫理観の破壊”、“競技観戦を通しての熱狂による冷静さの喪失”、そして最後は“ゲームや映画等を通しての現実逃避における感覚の退化”、それであった。

 ところが。

「最近はそれも上手く行って無いみたいじゃない。皆気付いているみたいだよ?例えばテレビのニュースなんかが特定の国、企業、団体に都合の良い報道しかしないって事にも・・・」

「やり過ぎたんだよ、バカどもが!!」

 と、そんなエカテリーナの言葉を聞きながらガイヤールが忌々しげに吐き捨てるが一昔前ならいざ知らず、“インターネット”の発達して来た現代では情報が一瞬で、全世界を駆け巡るようになっているのであり、偏向報道などを繰り返していれば立ち所にバレてしまうのである。

「それにスポーツも飽きられ始めているみたいだし・・・。もっと別の何かでも、捜すしか無いんじゃないの?」

「しかし“セックス”と“スクリーン”は、まだ機能している!!」

「機能しているって・・・。それ使っているのも所詮は一握りの人間でしょ?人類全体がどうのって言うレベルじゃないじゃない!!」

「やかましいっ!!」

 相次ぐエカテリーナからのダメ出しに、遂にガイヤールが切れた。

「偉そうに言いやがって。何なら貴様、代わりに代替案を出してみろ!!」

「いや、だからさ!!」

 そう言うとエカテリーナは持ってきた剣を取り出して見せた。

「・・・・・っ!?」

「な・・・っ!!」

「・・・もうさ。やっちゃえば良いじゃん、一思いにズバーッとね?面倒臭い事をし過ぎちゃったんだよ、私達は!!」

「・・・まて、エカテリーナ!!」

 いきり立って皆を煽ろうとする彼女を、デュマは呆れて静止した。

「お前は一番、性急に過ぎるな。そんな事をした所で我等の無念を晴らす事はできんぞ?」

「それは、確かにそうですけれども・・・。ですがメイヨール・・・!!」

「ガイヤールよ」

「ハハッ!!」

 尚も何事かを言い掛けたエカテリーナを静止しつつもデュマが今度はガイヤールへと視線を向ける。

「・・・“カインの子供達”に連絡を取れるか?」

「ハッ、可能ですが!!」

「では言伝を頼みたい。彼等に“アベルを殺すように”と指令を出せ。“長男”と“三姉妹”に、ここへ来るように、と・・・」

「“アベル”を?しかし・・・」

「解ったな?ガイヤール・・・」

「ハハッ!!メイヨール・・・!!」

 そう言って恭しくお辞儀をすると、いそいそと退出して行くガイヤールを見やりながらデュマは言った、“お主達二人も下がっていい”と、“別命があるまでは現状の指令を守っておれ”とー。

「ハハァッ!!」

「それではメイヨール、エカテリーナ退出いたします」

「デアーグ・ツィマーマン。退出を致します!!」

「・・・・・」

 その言葉と共に颯爽とフードを翻しつつもその場を後にして行く二人を目で見送りながらもデュマは“ふうぅぅ・・・っ!!”と一人溜息をついたのだった。
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