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ガリア帝国編

ガイアの青石

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「二人とも、ご苦労だったな」

 “戦闘報告”と“復帰要請”を同時に終えた蒼太達に対してオリヴィアが静かに告げた、“今日はもう、帰ってもらっても構わないよ”と。

「さっきも言ったが、既に寮の手配は終了している。後は君達が入居さえすれば、即座に生活を行う事が出来るだろう。・・・もっとも蒼太、君はまずは私物から買い揃えなければならないな!!」

「オ、オリヴィア。あの・・・」

「その事で私達、報告しなくちゃならない事があるの・・・!!」

「あっははははははっ!!・・・んん?」

 一頻り、愉快そうな笑いを零していたオリヴィアに対して蒼太とメリアリアはお互いに目配せし合い、頷き合うモノの、何分、帰って来てまだ早々ではあったがそれでも、気持ちの急いていた二人は共同で同時に、“自分達が婚約したこと”についての申告を行おうとしたのである。

 しかし。

「ザー、ザザザッ。ザーッ、ザー・・・ッ!!!」

「・・・・・?」

「・・・・・っ!!」

 彼等が何事かを話そうとした、その直前で突如とさて“通信映像機”が作動し始め外部より入電したメッセージを、“スクリーン”へと投影するモノの、それに伴って部屋の中の証明が暗くなり、あたかも映画でも見ているかのような感覚にさせられるが、さて。

「ザー、ザザザッ。ザー、・・・えます、・・・か?こち・・・ロラ、繰り返します、こちらアウロラ!!」

「アウロラ!!」

「アウロラだって!?」

 そんな周囲からの声に、蒼太とメリアリアとがピクリと反応して二人の体内を、ある種の緊張感が駆け抜けるが、やがて電波の状況が改善して来ると同時に画面には左右対称(シンメトリー)に整った愛らしい顔立ちのメリアリアのそれよりもやや深みのある紺碧色の瞳をした、ハーフアップロングの長くて艶やかな青髪を腰近くにまで伸ばしている、一人の美少女が映し出されて来た。

 彼女はどうやらフォンティーヌ邸宅内部にある、お客様用の応接室から通信を飛ばしているらしくて、背後には引き連れていった親衛隊の女史達共々、明るいシャンデリアや凝った内装の部屋の景観がハッキリと映し出されている。

「・・・・・っ!!」

「・・・・・っ!!?」

「えええっ!?そ、蒼太さん・・・っ!!?」

 側にいるメリアリアには目も暮れずに“どうして、蒼太さんがそこに・・・?”と些か面食らいながらもアウロラが、それでも思わず画面の中の彼の姿を食い入るように凝視するモノの、それは無理からぬ事だったと言えただろう、何しろアウロラはそもそも、オリヴィアから“見張りがいる関係上、飛行機は無理だろうから船で二人は来るだろう、あと1ヶ月以上は掛かるだろうな”と言われた為に今回の依頼を引き受ける事にしてつい半日ほど前に、懐かしの我が家へと帰宅を果たしたばかりなのであった、それなのに・・・。

「酷いですっ。こんな事だと知っていたなら、こんな任務なんて、受けるんじゃなかった!!」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!?」

(それは無いだろう、アウロラよ・・・!!)

 と、その場にいて娘の口から出た思わぬ言葉を耳にしてしまった、フォンティーヌ家(ハーズィ)の現当主“エリオット”とその妻“シャルロット”の心境や如何ばかりか。

「本当にもうっ、なんて事なのっ!?」

「ア、アウロラ様・・・」

「どうか御自重を・・・!!」

 慌てて親衛隊の女史達やおつきのメイド達が取りなすモノの、アウロラはそれでも無念であり“憤懣やるかたない”、と言った、それでもどこか悲しそうな表情のままでジッと蒼太を見つめ続けていたのだ。

「・・・・・」

「アウロラ・・・」

「アウロラよ・・・」

 一方でメリアリアと共に並びつつ、そんな彼女に複雑そうな表情を向けていた蒼太が何事かを口にしようとした瞬間に、その役割はオリヴィアへと変更される。

「まだ、君がそこへ潜入してから八時間も経過していない。にも拘わらずに連絡が入った、と言う事は何事か、捜査に進展があったのだろう、もしくは予期せぬアクシデントが起きたための緊急電か。いずれにせよ取り急ぎの報告があるのだろう?先ずはそれを話したまえ」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解りました”と暫しの沈黙の後にアウロラが言葉を紡ぐがそこには明らかな悲しみと苛立ちとが混じっていた、本当は早く蒼太の元へと駆け付けたい、早く蒼太に飛び付いて抱き締めたいと、その温もりを感じたいと、そればかりを考えていたのである。

 しかし先ずは仕事である、正直に言って不服であったがこうなった以上はなるべく早くに任務を終わらせて、彼の待つ場所へと帰還するにしくは無かった。

 ・・・何故ならば“そこ”こそが、彼女が本来いるべき居場所であり自らの“帰るべき場所”に他ならなかったのだから。

「その前に先ずは、状況の確認をさせていただきます。・・・お父様」

 “正直にお話し下さい”と、そう言って彼女は父を見るが、すると代わってそこに映し出されていたのは苦しそうな表情で腕を組み、蹲るように背中を曲げてソファに座り込んでいた、エリオットの姿であった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

 “おじさん”と、思わず蒼太は心の中で呟くモノの、彼が親しみを込めて“おじさん”呼ばわりする人は、この世にはたった二人しかいなかった、一人はメリアリアの父である“ダーヴィデ・ラザロ・デ・カッシーニ”でありもう一人が“エリオット・アミン・ド・フォンティーヌ”その人である。

 ちなみに故国であるエトルリア王国に於いては高名なる宮廷魔術師を務めると同時に“伯爵位”をも授けられていたダーヴィデはその縁でここ、“ガリア帝国”に来てからも政府から手厚い保護を受けると同時に“アルヴィン・ノア”の同胞の1人として日夜活動に勤しんでいたし、またエリオットにしても国を代表する大財閥の当主兼財政における担当大臣を補佐するブレーンの1人としてやはり、“ガリア帝国正統政府”より“伯爵位”を授けられていた(その為に、彼等の名前には貴族である事を表す“デ”や“ド”が付いているのだ)。

 そしてそんな人達を“おじさん”呼ばわりして許されていたのは後にも先にも蒼太ただ一人だけなのであって、それだってまだ、駆け引きなど知らない位に小さな頃から続いている“大事な娘の幼馴染(ボーイフレンド)”であったからこその処遇であった、これがもし、それ以外の人間がそんな事を口にしようものならば、いくらなんでも流石に“馴れ馴れしい”とか“礼儀知らずだ!!”と言うかどで立ち所に出入り禁止になる事は、想像に難くない事象だったのである(ちなみにそれだって、彼等は優しいからそれ位で済むのであって、これが下手な相手にならば“侮辱罪”で一家揃って処罰の対象とされる事も、決して珍しい事では無かったのだ)。

 そのエリオットがいま、心底辛そうに俯いてしまっている、蒼太は小さな頃にアウロラの家にお邪魔する度に笑顔で出迎えてくれていた彼の事を思うと心が痛んだ。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・お父様」

「・・・・・」

 “う、うん・・・”とアウロラから促される格好となってようやくエリオットはポツリポツリと話し始めた、今回盗まれた秘宝は“ガイアの青石”と呼ばれているフォンティーヌ家の至宝である事、それは文字通りこの星の思いが、祈りが凝縮されて結晶と化し、摩訶不思議な力を持つに至った宝玉である事、そしてそれはフォンティーヌ家の人間以外には決して触れる事が出来ないようになっている事、等を。

「あれは通常は、我が家の地下に設けられている秘密の祭壇に安置してあったのだ、そしてそこに行くためには私の書斎、即ち“当主の部屋”に入る必要があるのだが、その扉や窓枠にはある、強力な呪(まじな)いが施されている。もし一族以外の余人が不用意に開けようとして手を触れれば、立ち所に気が触れるか、酷い場合には死すら訪れる、と言う極めて強力なる呪(まじな)いが」

「・・・・・」

「・・・・・っ!?」

「それほどの・・・っ!!」

「静かにっ!!」

 一同から感嘆ともざわめきとも付かぬ声が湧き上がるがそれらをオリヴィアは制して話を聞くようにと目で合図する。

「二週間前に、私が祈りを捧げに行った際には確かにあったのだ。・・・無論、その時にだってちゃんと施錠や結界の確認だってしたし、側には誰も居なかった、其れ処か誰かが後からやって来る気配等も全くと言って良いほどに感じる事は出来なかったのだが・・・。それが一昨日の夜に再び“祈り”を捧げる為に行った際にはもう、影も形も無くなって居たのだ!!」

 そこまで話すとエリオットは、まるで悲しみ嘆くかのように両手で頭を抱えては、悔やむように下を向くがその様子から蒼太やメリアリアには、彼の無念さが痛いくらいに良く伝わって来た、蒼太は無論、彼の事を小さな頃から知っていたし、またメリアリアにしてもアウロラを救出に来た際に、この誇り高きフォンティーヌの当主の人となりについては、良く良く理解したつもりであった。

「あれは、先祖代々に渡って受け継がれて来た大切なる宝石なんだ、それを私の代になって失ってしまってはとてもの事、ご先祖様に顔向けが出来ない!!」

「あなた・・・」

「・・・・・」

(お父様・・・)

 そんな夫に寄り添うかのように、シャルロットは優しく背中を擦り続けては何度も声を掛けていたし、またアウロラも“何とかしてあげたい”と言った眼差しで、父の姿を見つめ続けていたのである。

「・・・より詳しい調査で判明した事なのですが。“ガイアの青石”は確かに、何者かによって盗み出されてしまっていました。・・・それも少なくとも、一週間以上前にです」

「なんだって!?」

「一週間以上も・・・っ!!」

「静粛にしろ!!」

 アウロラからのその言葉に、再びザワつく“女王位”達や親衛隊の各面々を、そう言って沈黙させるとオリヴィアはアウロラに“続けるように”と促した。

「当然、それだけでは無いだろう。君は何某か、“ある確証”を持っているな?そろを報告したまえ」

「はい、オリヴィア・・・」

 そう頷くと、アウロラは話を続けるモノの、それによると“ガイアの青石”にはそれ自体に強力な法力が宿っており、そしてそれは持っている者に対して強力な作用をもたらすと言う。

「・・・・・」

「作用・・・?」

「そうです」

 クレモンス達のその言葉にアウロラが頷くモノの、その作用とは人並み外れた高い巫力と莫大なまでの“運勢”を、持ち主に付加する事であって、特にそれは“財力”においてより、決定的なまでの影響を及ぼす、とされていたのだ。

「それって、つまり・・・」

「ええ・・・」

 “そうです”と、アウロラが頷きながら言い放った、“フォンティーヌの力の源、それ自体だと言っても過言では無い”と。

「私達“フォンティーヌ”は代々、“それ”を守ることを義務づけられて来たのです。そして“ガイアの青石”は、まるでその見返りに、とでも言うかのように私達に強力な力と運勢とをもたらし続けて来てくれたのですが・・・!!」

「それが、奪われてしまった。と・・・?」

「・・・・・」

 オリヴィアからの言葉にアウロラが黙って頷いた。

「先程の父の話にもあった通り、二週間前に見に行った時には確かにあったのだそうですけれども・・・。一昨日の夜に、祈りを捧げる為に行った際には最早、影も形も無かった、と・・・」

「“波動追跡(エネルギートレーサー)”は行ったのか?」

「それが、試みたのですが・・・。どうしても十日前までのものしか、測れないのです、それ以降は全く以て、波動を感知できなくなってしまっていましたから・・・」

「つまり少なくとも十日前には盗難に遭ってしまっていた、と言う訳だな?」

「そう言う事になります」

「ふぅーむ・・・!!」

 そう言うとオリヴィアは思わず唸って腕を組み、何事かを考える仕草を見せるが昨日今日、奪われたモノならともかくとしても、流石に十日も前のモノとなると皆目見当が付かない。

 第一においてそんなに珍しい宝石類や貴金属が持ち出されてしまっていたのならば最早、とっくに“違法オークション”等に掛けられてしまっているかも知れずにもしそうなれば所在の在処を探し出す事は、殆ど絶望的とさえ言える状況に陥ってしまっていたのである。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「アウロラ・・・」

 暫しの沈黙の後に先ず口を開いたのは、意外な事に蒼太であったが彼はこんな時だと言うのに冷静に事件を客観視していた、とにもかくにも現時点では情報が少な過ぎて話にならないと感じた彼はだから、アウロラを通じてその“ガイアの青石”についての“それ”を少しでも入手しようと試みる。

「先ずは“ガイアの青石”についての質問があるんだけれども・・・。そもそも“ガイアの青石”ってどの位の大きさで、どんな形状をしているんだ?また他にも何か特色はあるのか?例えば“フォンティーヌの人間以外は触ることが出来ない”だとか・・・」

「は、はい。あの・・・!!」

 “まさにそれです!!”とアウロラが叫ぶが彼女によれば“ガイアの青石”は1200カラットのダイヤモンドとほぼ同じ位の大きさがあり全身は蒼青色に輝いていて、フォンティーヌの血筋以外の存在は全くにして受け付けない、と言う。

 それも現当主から数えて三等親以外の人間でなければならずにそれ以外の人間が触ろうとするモノならば、迸る青き光によって忽ちの内に焼き尽くされてしまうだろう、との事だったのだ。

「その話は、おじさ・・・。エリオット伯爵様ご本人から拝聴したモノ、として解釈していいんだね?」

「はい、それで間違い御座いません」

 蒼太の口調が変わった事に触発されてかアウロラまでもが礼儀正しい貴族の令嬢然となる。

「うーん。それならばまだ、やりようはあるかも知れないな・・・。ねえ?メリー!!」

「ええ!!」

 それを受けてメリアリアが頷くモノの、そう言うことならば確かに、話はさして難しくは無かった、理由は至って簡単であり、仮に盗み出せたとしても、そんな物騒な法力の備わっている宝玉を、おいそれとは流通させられないであろうし第一買い手が付かないであろう事は、容易に想像が着くというモノだ。

「そもそも論として、持って帰る事自体が出来なさそうだしな・・・。それに僕達が帰って来る時だって、空港の警備は物凄く厳重だった、こんな御時世だから仕方が無いかも知れないが、ただでさえこの国は事件防止やテロ対策の関係上、検閲やら検疫やらにやたら力を入れているからね。そんなに大きくて珍しい宝石が何処かへと向けて持ち出されようとしたのならば、必ず空港の持ち物検査で必ず引っ掛かる筈だ。“違法ダイヤ”だって出回っている訳だし、それらを阻止する為にも犯人は“持ち出し許可証”を含めた繁雑な確認手続きに追われるに違いないけど・・・。今現在の時点において、そう言った情報等は何か報告はされているのですか?オリヴィア・・・」

「・・・いいや」

 “私の知っている限りでそんな事例は報告されていない”とこの年上の大騎士は応えるモノの、何かあってからでは遅いのでセイレーンとミラベル、それに国軍と警察機構とはその持てる情報を共有しており、にも関わらずにオリヴィアの知っている範疇においては今日までの所、空港の検閲でそんな“国宝級の宝石”が運び出されようとしている、等という事例は報告されてはいなかったのだ。

「船便だと指定場所に到着するまで時間が掛かり過ぎる上に、モノが途中で無くなる危険性が極めて高い。なにしろ扱う荷物が航空機とは比べ物にならない位に多い挙げ句にその内の幾つかは振り分け作業の際にやれ“名札が付いていない”だの“お届け先が不明である”等の理由から必ずと言って良いほど“紛失物扱い”にされてそのまま何処かにポイされる、と言ったのが実状だからね、クルーズ船の客(カスタマー)と違って誰もそれほどの注意は払わないし。それにもし、誰かに見つけられでもしたなら途中で強奪される恐れもある、僕ならばとてもじゃないが、苦労して手に入れた宝石を、そんな風には扱えないだろうな・・・」

「自動車は、どうだろうか?・・・いや、やはり“国境”で無理か・・・」

「ええ、途中で見付かるかと思います」

 オリヴィアの問いに蒼太が頷くモノの確かに、配送業者ならば先述の二つに比べればまだ、可能性はあるかも知れないモノの、それだって確実に持ち運びが出来るとは思えずに凡そ現実的には有り得ない方法である、それに航空機であれ船舶であれ自動車であれ、やはり国を跨ぐ際の検閲は非常に厳格で厳しいモノがある(麻薬の密売等が横行しているため、様々な機械で厳重にチェックされる。また“不審物”を持ち合わせていないかどうかをいち早くキャッチするために“警察犬”等が駆り出されている場合もある)、そんな不確実性の高い方法を、こんな大胆な盗みを働く人間がやってのけるとは思えなかった。

「アウロラ」

 蒼太が改めて、画面の向こうで神妙な面持ちを見せている、青髪の美少女に問い質した、“そもそも論としてこの宝石の存在を知っているのは何人なのか”と。

「存在そのものだけじゃ無い、この宝石の持つ不思議な力や“フォンティーヌ家の人間以外には扱えない”と言った特性を理解していた人物と言うのは何人いたんだ?」

「ええと、それは・・・」

「両親以外では私と妻。そして姉と弟達だけだ」

 するとまだ、状況を把握し切れていない娘に代わってエリオットがすかさず応えるモノの、彼によればエリオット達兄弟の父親にして先代当主であった“オーギュスタン”及びその妻“ヴァロンティンヌ”からこの秘密を教えられたのは今は既に他家へと嫁いでいるエリオットの姉アナイスと直ぐ下の弟のヴィクトー、そして更には末弟のレオ(即ち“アウロラ”から見た場合はそれぞれ、伯母と叔父達に当たる)、それにエリオット本人にその妻“シャルロット”と、計7名のみとなっていた。

「特にこの“秘密”を伝えられるのは当主直系の一族だけで、甥や姪達は知らない筈だ。いや、仮に知っていたとしても彼等が盗み出す道理はない、あれは我が家に安置されていなければ、親戚連中に対する効力も、失ってしまう代物だからね・・・」

「・・・お久し振りですエリオット伯爵、そしてシャルロット様。ご無沙汰していて大変申し訳御座いません」

「本当に久し振りだね、蒼太君。そして随分と逞しい男になった。君が“行方不明になった”と聞かされた時にはそれはそれは心配をしたモノだったよ、妻も私もね。勿論アウロラもだったが・・・」

「恐れ入ります・・・。ところで伯爵。今の話を総合致しますと、フォンティーヌの邸宅と分家筋の方々とは所謂(いわゆる)“呪術的ネットワーク”で繋がっている、と考えてもよろしいのですね?・・・それもその“ガイアの青石”の効力を、キチンと伝導できる程に強力でしっかりと構築されているモノによって」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・そうだ」

 暫しの沈黙の末に、エリオットが応えた。

「確かに我々は君の言う所の“呪術的ネットワーク”でしっかりと繋がっている、そしてその中核たる柱こそが何を隠そう我が家であったのだ。因みにこのネットワークは我が家を基軸において展開しているから、ここに安置していなければ、例え“ガイアの青石”を持っていたとしてもそれらが上手く機能せずに効力にも隔たりが生まれてしまうのだが・・・!!」

「効果に隔たりが出る、と言うことはつまり、家に拠っては隆盛と衰退とがハッキリと現れてしまう、と言う事ですね?伯爵様・・・」

 続けて問うたメリアリアの言葉にエリオットは深く頷いて見せるがもう少し正確に言うならば今までは均等に、全家とも七の効果で保たれていたモノが、ある家にはそれが十出るのに他の家には一しか出ない、と言ったように分かれてしまう、と言う事なのであり、そしてそれはそのまま、あからさまなまでの“不公平さの分配”となってしまうのであった。

「エリオット伯爵御本人と、奥様を除くとすれば・・・。現状で、それらを知っているのは5人と言う事になるのだけれど・・・。だけどそんな事をすれば、もしその5人の内の誰かが取って行ったとしても、すぐに所在が解るはずだわ。だってその内で最も力を持っている所にいる人が、その青石の所持者、と言う事になるのですもの!!」

「わざわざ“自分から取って行きました”って言わんばかりの状況になるだろうね。ただし青石の効果が目に見える形でハッキリと現れて来るまでにはそれなりに時間が掛かるだろう、それも恐らくは“年単位”のね。それならば調査して調べてしまった方が、やはり圧倒的に早いだろうけど」

 “問題は”とメリアリアからの言葉を受け継ぐ形で蒼太が告げた、“青石の波動を感知できなくなってしまっている点にある”と。

「恐らくは何か波動を遮断してしまうバッグか何かのアイテムでもって包み込んで持ち運んでいるのだろうが・・・。問題はそれが何で出来ているのか、だ。だって話を聞く限り“ガイアの青石”は“地球の祈りの思念が凝縮されたモノが結晶化した宝玉”なのだろう?それだったのならば物凄い崇高かつ強力なまでのエネルギーを秘めていた筈だ。それもフォンティーヌの人間以外には触れる事すら出来ない、と言う。それを持ち運べるようなアイテムと言ったら・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「“血”か・・・!!」

 思い至って“伯爵”と、蒼太が再び口を開くがこの時の彼はある確信を持ってエリオットに尋ねたのである、“最近誰かに貴方の血を抜き取らせはしなかったか”と。

「例えば“血液検査”や“献血”等で、誰かに御自身の血のサンプリングを渡すような事はありませんでしたか?」

「ああ、それなら」

 とエリオットが応えた、“ヴィクトーと一緒に献血をしに病院に行ったよ”と。

「彼がやっている病院でね。言っていなかったが弟は介護や医療方面に並々ならぬ関心を抱いているんだ、何よりも自身で幾つか事業も手掛けているのだが・・・。それが一体、どうかしたかい?」

「その時に何か、変わった事はありませんでしたか?例えばやたら血を抜かれた、とか・・・」

「・・・確か安全ギリギリの、600mlを献血したと記憶している。それが一体、どうしたのだ?」

「・・・・・」

「あなた、まさか・・・っ!!」

「君は、フォンティーヌ家(ハーズィ)の中に犯人がいる、と言っているのか?」

 メリアリアとオリヴィアとが等しく驚愕するモノの、蒼太は尚も考えつつもエリオットに語り掛ける。

「伯爵。隠されてはいるモノのあなた方も元々は、“呪術師”の家柄だった、違いますか?」

「・・・・・」

「それも恐らくは、“ガイアの青石”に選ばれる程に高潔で、強大なる力をもっていた呪術師。即ち“高位な神官”だった筈です、如何(いかが)ですか?」

「・・・・・」

「何が言いたいのか、と言えばですね伯爵。僕はこう考えているんですよ、あなた方は何某かの、“遮断魔法”や“結界呪法”の類いを知っているのでは無いのか、と。それも対象物の波動を殆ど完全なまでに封じ込めてしまえるような、極めて高度で強力なモノを」

「・・・・・」

「そしてそれは恐らくは、“本家の人間だけが使える”、そうですよね?」

「・・・・・」

「何故かというと、フォンティーヌ家に何かあった場合は当主は“ガイアの青石”を隠して守り、安全な場所にまで運び出さなければならないからです。その為にあなた方は、特に当主に於いてはその封印式と封印に必要なアイテムとを必ず先代から伝授されている筈なんです、違いますか?」

「・・・・・」

 “君は探偵になれるな”と、エリオットは苦笑交じりに呟くと呻くように呟いた、“正解だ”とそう言って。

「・・・・・?」

「どう言う、ことなの?あなた・・・」

「“血の封印式”、そうですね?」

 キョトンとしたような、それでいて何事かを訴えるかのような表情を浮かべて自らを見つめる愛妻(メリアリア)の視線にまるで、応えるかのようにして蒼太が発したその言葉に、エリオットは今度はやや自嘲気味に笑って頷いてみせるが果たして彼の言った通りでアウロラを始めとするフォンティーヌ家の血筋に連なる者達と言うのは誰もが皆、“ガイアの青石”の影響を何らかの形で色濃く受け継いでいたのであって、その血脈も、またDNA等に見られるような、所謂(いわゆる)“遺伝子情報”もだから、一般人の保持するそれらとは微妙に異なる部分があったがそれと言うのも元々、この“ガイアの青石”と言うモノ自体が当時“神官”を務めていたフォンティーヌ家の一族の願いに共鳴した地球の精霊神“ガイア”が顕現した際に託された、祈りによって“純粋なる領域”にまで高められた彼女の思念の結晶体そのものなのであって、当然の事ながら、そこには強大無比なる自然の法力が、しっかりと宿り込んでいたのである。

 そしてそれから放出される波動と言うのはだから、フォンティーヌの一族の身体や血潮、精神へと恐ろしい程によく馴染んだ、それは当然であろう、元々のガイアが彼等の願いに共鳴して現れた存在なのであるから、魔物や悪魔のような不浄不潔な輩の放つそれとは違って同調しこそすれ相反する理由等、何処にも無かったのであり、そしてその巨大なる“神聖力”とでも言うべき“力”は彼女達のDNA塩基情報そのもの至るまでに多大な影響を及ぼし続けていたのであった、アウロラを始めとするフォンティーヌ家の一族の髪の毛の色が皆、軒並み青いのはそれが原因なのであって、それと同時に“星震魔法”に見られるような所謂(いわゆる)“天体法術”を用いる事が出来るのも、偏(ひとえ)にそれら強力かつ崇高なる波動エネルギーを幼少の砌(みぎり)より浴び続けた為に、その身に宿りし“霊性なる力”自体が芯から活性化しているからに他ならなかったのである。

 もっとも。

 アウロラはこの事をつい最近まで知らなかった、否、もっと言ってしまえば事件が起きたその時までは、父であるエリオットから話してもらう事すら出来なかったのである

 一応、“フォンティーヌ家には代々伝わる家宝がある”と言う話位は聞いてはいたモノの、ではそれが一体何処にあるのか、それは一体何なのか、と言った、家宝の正体に付いての具体的な話と言うのは一切合切父の口から告げられる事はついに無かったのであった。
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