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ガリア帝国編

ガイア・マキナ

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「・・・・・」

(“フライブルク”か・・・!!)

 一方で。

 その名前を聞いた蒼太は若干、複雑な感情を抱いていた、何故ならばそここそは蒼太の飛ばされし戦乱の世界線“ガイア・マキナ”において、かの悪名高き“ドラクロワ・カウンシル”の“便宜上の本部”が置かれていた場所に他ならなかったからである。

 彼等は基本的には、“決まった総本山”と言うモノを持ってはいなかった、其れ処か“決まった姿”、“立ち位置”すらも定めてはいなかったのであって、常にその時その時の自分達にとって都合の良い役職、立場に腰を落ち着けては全体を俯瞰し、会員や下部組織の人員達に対しての指令、指示を与えるようにしていたのであるモノの、例えばある時は“ドラクロワ・カウンシル”の中でも最高位である“大祭祀長”だったかと思えば、またある時は“ニムロデ王の系譜”の長、“反逆の導き手”だったり、そして更には“フリー・ピープルズ”の統括官“グランドジェネラル・レジェンド”を同時に兼ねていたり等と、一人で何役もの顔を持ち合わせており、しかもその所属組織同士が裏で縦横で繋がっていたモノだから尚更、その正体、所在が分かり難いモノになっていたのだ。

 蒼太達の所属していた“ガイア・マキナ”における“反ドラクロワ・カウンシル統一戦線”、通称“マルス”の面々はだから、その巧妙かつトリッキーな隠匿の手口に何度となく裏を掻かれては“レベッカ”を始めとする彼等の高級将校達を取り逃がし続けて来たのあり、“アジト”と呼ばれる場所に踏み込んだとしてもいつも“すんでの所で”司令部まるごと移転されてしまい、肩透かしを食らう、と言った事を繰り返していた。

(奴らは基本的には“移動する旅団”のようなモノだった、だから此方の動きを察知すると常に彼方此方に設置されていた、“それなりの設備”を誇っていた“グラウンド・ロッジ”と呼ばれている“本部たり得る基地”へと逃げ込んではそこを自分達最高司令部の意思発信の場として活用し、全体へと指示指令を出すようにしていたんだ・・・!!)

 蒼太は思うがそんな彼等の“司令部”が置かれた場所と言うのはプロイセンのフライブルクを始めとして、ベルリン、ハーメルン、ガリアのマルセイユ、ナント、ネーデルランドのユトレヒト、そしてチューリッヒのベルン等、実に七カ所にも及んでおりそれらを虱潰しに当たった挙げ句にようやくにして、連中をエトルリアの“ベスビオス火山”へと追い詰め、そこで最終決戦を挑んだのであるモノの、結果は“マルス”の勝利に終わり、少なくともその世界線では“ドラクロワ・カウンシル”は解体されて消滅し、以降平和な世界体制の構築へと向けて舵を切り始めた時点で蒼太はこの“現実世界”へと帰還を果たした、と言う訳であったのだ。

 ちなみに。

 その際に蒼太が相手をしたのは“一等星のリゲル”と呼ばれる凄腕の、スカンジナビア連合王国出身の剣士であり、今は廃れてしまっているエウロペ連邦における最古流剣術の一派“クローヴィス流”を扱う褐色の大男であった、三度戦ってようやくにして決着を着ける事が出来た程の難敵であった彼は間違いなく、“ドラクロワ・カウンシル”の一角を占めている程の実力者であると同時に本物の正統派戦士であってその点、前もって自身に何某かの法術を施したり、卑劣な手段に訴えなければ戦うことが出来ないような他の面々とは根本からして違っていた。

(リゲルが何を考えて“ドラクロワ・カウンシル”になんか入ったのかは知らないけれども・・・。彼は間違いなく“愛”を、そして“神々”を憎んでいた、あの憎悪と執念とは一体、何処から来ていたのだろう・・・?)

 “いけない、いけない”と、そこまで考えた時に蒼太は慌てて頭(かぶり)を振って自身の思いを振り払うが、いずれにしても最早済んだ事であり、今更彼の事を思い返してみたとしても、それは詮無き事でしか無かった、既にリゲルは戦死してしまっており、しかも討ち取ったのは他ならぬ自分自身なのだ、あまりそう言った因縁のある故人を無理矢理に、引き合いに出すような真似はすべきではない。

(だけど驚いたよなぁ。あっちの世界では僕は僕よりも7歳も年上で、あんなワイルドな感じになっているなんて。しかもメッチャ逞しかったし、それにメリーやアウロラ、そしてオリヴィアと結婚してあの子達との間に五人ずつ、子供まで作っていたんだから・・・!!)

 慌てて思考を変えた蒼太が密かに思いを馳せたのは、彼方(あちら)の世界においてのメリアリア達“花嫁”と自分自身との関係だった、彼方は此方側よりも7年程時間が先行して流れていてその関係上、皆此方側の自身や彼女達よりも実年齢で7歳は上を行っておりその精神的、肉体的な面の全てにおいて大人びていたのである。

 ちなみに。

 戦乱の打ち続いていた“ガイア・マキナ”では各国共に“徴兵制”が復活しており男性は14歳になると嫌でも2年間は軍役に就かなくてはならなかったのであり、当然向こうの蒼太も軍隊に入って2年間の間は各地を転戦、その後に退役して一般人に戻りそのままー。

 メリアリアやアウロラ、オリヴィア達と結婚したのであるモノの、これにはちょっとした理由があった、と言うのはガイア・マキナにおける男子の死亡率は各国共にそれなりに高くて、特に兵役に取られる関係上、若くて健全な男性ほどその傾向が強かったのである。

 要するに、男子の絶対数が慢性的に不足していたのであってその為、ガイア・マキナでは婚姻可能年齢が男子16歳、女子14歳にまで引き下げられていた挙げ句、しかも本人達が真に望むのであるならば重婚すらも可能と言う、ちょっとしたハーレムのような制度、体制すらも国から保障、奨励されていたのであるが、そんな訳であったから向こうの蒼太はだから、自分に思いを寄せてくれていたメリアリア達三人と本音で話し合った結果、彼女達全員と同時に結婚して子供を設ける事となり、それぞれの花嫁達の両親達からの祝福と援助もあって当時としてはかなり盛大なプライダル・パーティーを執り行う運びとなったのだ。

 そんな彼等の平穏にして幸せな日々は7年と半年程続いたのだがしかし、8年目を迎えようとしていた時にある契機が訪れた、そしてそれこそが向こうの蒼太、メリアリア達をして“ドラクロワ・カウンシル”との戦いへと駆り立てる“切っ掛け”となり“原動力”ともなった出来事だったのであるモノの、当時軍や“女王位”を引退して慎ましくも幸せなる毎日を送っていた彼と彼女達の前に突如として“疾風のバーネット”と呼ばれる難敵が現れては戦いを挑んで来たのである。

 当時の“ドラクロワ・カウンシル”の最高位、“主催大祭祀長”であった“バルトロメウス”は本人達にその気があろうと無かろうと、そして当たろうが外れようが関係なく無作為的に将来的に、配下の者達に自分達にとって敵対する可能性のある者達全てを抹殺して回らせていたのであり、その一環として蒼太達の前にも姿を現したのであるモノの、この“バーネット”と名乗る男は風と衝撃波とを操る能力を持ち合わせていてその体裁き、技のキレ等実力も蒼太と拮抗していたのだがただ一つ、違っていたのは勝つためには手段を選ばない、と言う点であって、そしてそれを蒼太は正確に見抜いていた、流石に戦歴が長いこともあって、相手の立ち振る舞い、雰囲気から胡散臭いモノを感じた蒼太はそれを最大限に警戒しつつも戦線を展開して行ったのだが当時、メリアリア達は既に現役を引退して久しいのと揃いも揃ってお腹の中に、蒼太の第5子を妊娠していた為に思うような援護が出来ずに歯軋りしながらも、夫の戦闘の行方を見守る以外に道は無かったのである。

 戦いは地上戦から空中戦へと移って行き、どちらが先に相手の頭上、背後を取るか、隙を突くか、と言ったモノへと様変わりしていったのであるが、事態が動いたのが開始から約30分程経った時の事だった、痺れを切らしたバーネットが“必殺の一撃”を放とうと構えを取り、そしてー。

 それに応じる形で蒼太もまた“最終奥義”を発動させようとしていたのであるモノの、それはバーネットの罠だった、互いに最後の決め手に賭けると見せ掛けてその実、バーネットは蒼太の攻撃を擦り抜けては妻達のいずれかを人質に取り、そのかどで蒼太を脅迫、一気に始末するつもりだったのであるモノの、相手の殺気や目線の位置からすんでの所でそれに気が付いた蒼太は互いに飛び掛かった所でわざやや体を反らし気味にして剣閃を少し下げ、脇を擦り抜けようとしていたバーネットの頭から心臓に掛けてを一瞬にも満たない時間で見事に切り裂いてみせたのだった。

「・・・・・」

 地面に落下して行く、物言わぬ屍となったバーネットを目で追いながらもこの時、蒼太は既に現役に復帰する腹を固めていたのだ、“引退している場合では無い”と、“まだ自分達が心穏やかに暮らす為には世間は血生臭過ぎる”と。

 それを妻達に話した所、彼女達もそれを承諾してくれて、其れ処かー。

 “自分達も、共に戦う”と言う事を約束してくれたのであるが、それから毎日が大変だった、引退してから後もトレーニングを欠かさなかった蒼太はともかくとしても、何度も何度も彼の子供を妊娠、出産していたメリアリア達はもう一度基礎から鍛錬をやり直す事となり、互いに子育てを協力し合いながらも蒼太の指導の元で日々、汗を流していたのであったが、そんな所へー。

 もう一人の、珍客が訪れた、言わずもがな、“神界”から“現実世界”へと向けて帰還して来る途中の蒼太その人であったのだが最初、彼を見た時の彼等の表情と言うモノを、蒼太は絶対に忘れる事が出来ないであろう、“鳩が豆鉄砲を喰らったような”とはああ言う事を言うのだと、何度思い返してみても、面白くて面白くて思わず笑いが溢れそうになる。

「・・・・・っ!!」

「・・・・・っ!?」

「!?!?!?!?!?」

「な、なんだ!?これは・・・っ!!」

 “ガイア・マキナ”に顕現した蒼太の姿を目撃した“向こうの世界の蒼太達”は皆一様に瞳を丸くして、信じられないようなモノを見る面持ちで彼の事を凝視するモノの、暫しの話し合いと向こうの蒼太との共鳴の末にようやくにして彼等は蒼太の事を認めて受け入れてくれたのであり、そしてその日から彼等との合同で、蒼太の“戦闘訓練”が始まった、と言う訳である。

(・・・だけど神様に修業を付けてもらえたのは、確かに幸せな事だったけれども。改めて思い返してみても、“向こうの僕達”に出会えたのもまた、“僥倖だった”と言う他ないな。そのお陰で僕は“大津国流剣術”の極意を会得する事が出来たのだから!!)

 蒼太が思い返すモノの、この“大津国流剣術”と言うモノは“鹿島流剣術”の流れを汲む古流剣術の一派であり、蒼太の父“清十郎”が極めし必殺剣の奥義であった、元々、蒼太はそれの一部を伝授されていて基礎的な動きや形は出来ていた上に、幾度も経験していた実戦によってかなり逞しいまでに鍛え上げられてもいたから後は、根本的な心得の教示だけで事は済んだのである。

 即ち。

 “大津国流は剣で切るのではない、己で切るのだ”と言うそれであったがそもそも論において剣術とは剣道等とは全く違う種類、次元の武術であり、後者が“剣の道を通して己を鍛えて成長させる”と言う事に主眼を置いているのに対して前者は“剣を通して森羅万象、あらゆるモノを体現する”事こそがその目的とする所であった。

 それ故に、切る際には己の能力を発動させて剣に伝え、その力で切るのであって、そこにおいて剣は術を発動させるための“媒体”に過ぎずに大切なモノはあくまでも自身の腕であり体であり、そして心そのものである、と言う訳であったのだ。

 それを本格的に修めて自分のモノとした蒼太は“ガイア・マキナ”の蒼太から無事に“免許皆伝”を授けられてようやく、戦士として完成された形となったのであり(反対に彼には“神人化”の極意を教えた)、そしてそれは“一等星のリゲル”との戦いでその威を存分に発揮しては彼を助けてその類い稀なる難敵を、打ち滅す事に成功したのである。

(しかしクローヴィス流か・・・。“ペンドラゴンの剣術”と並んで今はもう、失われてしまったモノだとばかり思っていたのだがな・・・。これは“大八洲”においてもそうだったけれどもあの時代の剣術と言うのは基本的な形や動作を教えたら、後はもうその人その人が独自に研鑽を重ねて進化、発展させる、と言うやり方が主流であったから厳密に言えば“~流”と言うのは基本的には存在していなかった筈なんだ、勿論その源流となった剣術ならば多数存在していたのだろうけれども、それをキチンと体系化して“流派”として纏め上げ、“奥義、極意”を門人に伝えるようにしたモノ、と言うのは数えるほどしか現存していない・・・)

 “それをどうやって学んで行ったのだろうか”と、蒼太が疑問に頭を回し始めていた、その時だ。

「ではアウロラ、後は君と親衛隊の面々で何とかなるだろう。君は引き続き、そこに留まって他にも何か見るべきモノは無いか、気になる点は無いかどうか、調査を続けてくれたまえ。また当たり前の事とは思うが伯爵御本人に危害が及ぶ事の無いように、警備は厳重にしてな?」

「了解致しました、オリヴィア。それではアウロラ・フォンティーヌ、引き続き事件の捜査とフォンティーヌ家の警護に入ります!!」

「・・・・・」

「あなた・・・?」

 そう言ってアウロラが通信を切断したその直後に、蒼太は言いようの無い不安に襲われていた、正直に言って事がそれで済めば良いが、そのヴィクトーと言う男の行動が、どうしても気になって仕方が無かったのである。

(彼は何故、こんな事を?ちゃんと考えて調べれられれば、自分に何らかの疑惑の目が行く可能性を考慮出来なかったのか・・・?いいや、そんな事は無いはずだ。仮にもし、そこまでの頭が無かったのならばそもそも論としてこんな事件等、起こさなかったに違いない!!)

 そこまで考え至った歳に、蒼太には幾つかの選択肢が浮かび上がって来た、即ち。

一、目論みがバレても誤魔化しきれる自信があった。

二、彼は無関係でありただただ今回の事に利用されただけ。

三、強大なる力を持った何者かが後ろで糸を引いている。

 この中のどれが最適なのか、と言えばそれは現時点では“三”が最有力候補であった、一は常識的に物事を考えられる人間が犯行に及ぶ心理としては無理があるし、第一に本家から追求されれば一発で終わりである。

 二はどうかと言えばこれも正直に言って難しく、彼の行動や指針が余りにも犯人のそれにマッチし過ぎている。

 そうなるとやはり、考えられるのは三番目であり、そして問題なのはその“何者か”と言うのが何処の誰なのか、と言う事であった、如何に分家とは言えども国内有数の財閥であり伯爵位を持っているフォンティーヌ家を上回る権勢を誇っている家柄と言うのは、そう多いモノでは無い。

(“ノアイユ家”か“ヴァリエール家”か、それとも“クーベルタン家”の面々か・・・)

 “そう言えば”とそこまで思い至った際に、蒼太の頭にもう一つの名前が浮かんだ、彼の同性の幼馴染にして親友アンリの実家、“ヴァロワ家”だ、かつての“ノルマンディー大公家”の血筋を引いていた彼の家ならば確かに、ガリア帝国内部における地位も名声もフォンティーヌ家に勝るとも劣らないモノがあり、もし彼等が加担しているのだとするのならば仮に本家から何か言われたとしても、言い逃れも出来ようと言うものである。

(ヴァロワ家ならば、先に挙げた三家とも婚姻を通じてかなり深い関係にある、もしエリオット伯爵が今回の事でヴィクトー氏を“弾劾裁判”に掛けたとしても容易く“無罪”を勝ち取る事が出来るだろう・・・!!)

 しかしそうなると、今度は“どうしてヴァロワ家がそんな事をしているのか”、と言う問題に行き当たるがそもそも論として権勢を誇っている貴族同士が争うなどは、現在の社会体制下では余り現実的な意味を持たずに却って“平和を乱す者”と言う事で誹謗中傷の的になる。

 しかも蒼太の知る所、アンリの実家とフォンティーヌ家が互いに敵対していた歴史などは聞いた試しが無くて、どう考えても辻褄の合わない事だらけであった。

(いや、待てよ・・・)

 しかし蒼太にはある確信があった、それは今現在、アンリの実家ヴァロワ家において起きている、と言われている“プチお家騒動”とでも言うべきそれだ。

 聞けばかつてノルマンディー大公家から逃れてエイジャックス連合王国に保護されていた、自称“一族の血を引く男”と言う者が、当のエイジャックス連合王国から送り返されて来たと言う、そのかどで今、ヴァロワ家はてんてこ舞いになっている筈であり、とてもの事他家に手を出せる状況に無い。

 しかし。

(まさか“エイジャックス連合王国”がまた関わっている、と言うのか?だとしたならその狙いは一体なんだ、今回の一連の騒動と何か関係があるのだろうか・・・)

 “もし”とそこまで思い至った時に、蒼太の中である仮説が浮かび上がって来た、“もし、今回の一連の騒動がエイジャックス連合王国による国家煽動事件だったとしたならば”と。

(こいつは、大変な事になるぞ・・・!!)

「・・・メリー、オリヴィア!!」

「・・・・・?」

「どうしたのだ?一体・・・」

 些か緊迫した面持ちの夫の姿にメリアリアの表情も硬くなり、オリヴィアも何事かと、怪訝そうな顔付きで問い質して来た。

「もう一度、エリオット伯爵に連絡を取ってもらっても良いですか?」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「それは構わんが・・・。何故だ?」

「例えば、これは本当に“例えば”の話なんですけれどもね?」

 そう断りを入れてから、蒼太は二人に恐る恐る尋ねてみた、“もし仮にヴィクトーさんが事業か何かで失敗して、巨額の負債を抱えていたならどうでしょう?”と。

「これはヴィクトーさんの性格にも拠りますけれども・・・。例えばとてもプライドが高い人ならば、仮に兄に対してであっても絶対に泣き付いたりはしない、と思うんですよね?でも何らかの形で損失は補填しなければならない、とするとどうなるとお考えですか?」

「ああ・・・っ!!!」

「それで家宝を盗んだと言うのか!?」

「まだそうとは決まっていませんが・・・。エリオット伯爵にもう一度通信を繋いでお聞きしなくてはならないと思います、もし僕が考えている通りの事柄がいま、ガリアで進行しているのならば、コイツは国際的な大問題になるかも知れないからです!!」

「・・・・・っ!!!」

「詳しく、話してみろ・・・」

 オリヴィアに促される形で蒼太が話し始めるモノの、先ずは損害の補填に“ガイアの青石”を盗み出して売り払う、当然、事業の損失などは個人で払えるモノでは無いため、それは何某かの企業や国の手に渡る事となるモノの、それがもし、エイジャックス連合王国であったならばもう一つ、別の使い方が出て来るのである。

「今現在、アンリの実家であるヴァロワ家においてちょっとした騒動が勃発しているのは御存知でしょう?」

「・・・・・」

「ああ・・・」

 “エイジャックスから保護されていた一族の男が帰って来たのだったな”と言うオリヴィアの言葉に“そうです、それです!!”と蒼太が頷くモノの、彼は続けて言った、“当然、その男にはエイジャックスの息が掛かっているでしょう”と。

「もし彼にその宝石が渡ったのならば、どうなると思いますか?」

「・・・・・っ!!!!!」

「・・・・・っ!!」

 その言葉に、メリアリアもオリヴィアも、思わずハッとした顔となった、もしそれが事実ならば、事は単なる“お家騒動”では済まされずに、国家規模での恥辱事件に発展する事になるだろう。

「フォンティーヌ家は家宝を奪われたかどで、エリオット伯爵が失脚させられるでしょうし、アウロラには姉が一人に弟達が三人、いますけれども皆まだ小さくてとてもの事、跡継ぎにはなれませんから次の当主には恐らくは、エイジャックスの後ろ盾を得たヴィクトー氏が就く事になろうかと思われます。一方のヴァロワ家もまた、現当主である“ギヨーム・エティエンヌ公”が失脚させられ、変わってその男が当主の座に座る、と言う筋書きなのかも知れません!!」

「確か・・・。アンリさんの家には他に、後妻との間に出来た、腹違いの弟がいるだけだって聞いた事があるわ!!」

「ああ。だがその子もまだ、幼かったな・・・」

 蒼太の言葉にメリアリアとオリヴィアも思わず頷くモノの、この蒼太達の考え通りの筋書きだとするのならば当然、その男は渡されたフォンティーヌ家の家宝を単なる飾りや観賞用の宝玉としてのみ利用するだけでは終わらせない筈であり、恐らくは“ヴァロワ家当主の間”か何処かしらの目立つ場所にでも、ひっそりと置いておく事だろう、そしてそれを誰かが見付けた暁には当然、事件は発覚して当局に踏み込まれるであろうしその際、真っ先に疑われるのはアンリを含めた当主一族であり、“まだ此方に来たばかりで日も浅く、右も左も解らない”とでも曰のたまっておけば、例の“貴族特権”でその男だけは逮捕や弾劾を免除される事となる。

 そして他に誰も継ぐ者のいない当主の座は自動的に彼のモノとなるのであって、その後ろにはやはり、エイジャックス連合王国が存在している、と言う段取りが出来上がる訳であり、これならば確かに、“戦闘NG”である現代においても立派にその国を、根幹から支配する方法を確立させられる、と言う寸法だった。

「勿論、現時点ではまだ何の証拠も確証も無い事だけれども・・・。もしこの考えに間違いが無いのだとすれば、その元になったヴィクトーさんの失敗だって、本当に偶発的に起きた事かどうか・・・」

「なんて言うことなの?こんな事って・・・!!」

「・・・・・」

 蒼太の推論に、流石に驚きを隠せないメリアリアだったが、それに対してオリヴィアはあくまでも冷静だった、“まあ待て”と二人に告げると彼女は今一度、フォンティーヌ家に向けて、即ち“アウロラ”へと向けて連絡を試みる。

「ザー、ザッ、ザー・・・ッ!!はい、こちらアウロラです!!」

「アウロラ、済まないが少し聞きたいことが出来たのだが・・・。エリオット伯爵はまだいらっしゃられるか?」

「申し訳御座いません、父はいま、審査会を開くための手続きをするために、“貴族院”へと向けて出立してしまいました・・・」

「そうか・・・」

 “では仕方が無い”、と通信を切ろうとしたオリヴィアだったがその時にふと、思い付いたかのようにアウロラへと向けて問い質した。

「アウロラ。ここ最近で、エリオット伯爵がヴィクトー氏との間にトラブルを抱えていた事は無いか?特に金銭的なトラブルを・・・」

「それでしたら」

 アウロラが応えた、“叔父様が介護事業の失敗から巨額の負債を抱えて父に頭を下げに来た事があります”と。

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

 “やっぱり!!”と蒼太とメリアリアとが顔を見合わせて頷き合うがオリヴィアは構わずそのまま質問を続けた。

「その時の様子を、詳しく聞かせてくれないか?例えば話の内容等を・・・」

「話を聞いて、父は珍しく激昂していました。叔父はどうやら父にはかなりの間内緒にしていたらしくて、それで然るべき手も打てずに負債が膨らんでしまったらしいのです」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・幾らだ?」

 オリヴィアが尚も問い質した、“具体的で無くてもいい、その負債と言うのは個人が払える程度のモノなのか?”と。

「そしてそれを、エリオット伯爵はお支払いになったのか、もしそうならばどうやって支払ったのか、教えてもらいたい」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・我が家の総資産の内の、実に7分の1を切り崩してそれに充てた、と聞きました。それ程の額だったと」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

(これで、ハッキリしたな・・・!!)

 蒼太とメリアリアとが神妙そうな顔をして俯いてしまい、オリヴィアは腹の底から“ハアァァ・・・ッ!!”と深い息を吐いた。

「アウロラよ、もう一つだけ聞きたいのだが・・・。そのヴィクトー氏とはどんな性格の持ち主なのかね?」

「えっ。お、叔父の性格ですか・・・?」

 とその質問にアウロラは、明らかに一瞬、動揺したような態度を取るモノの、しかし。

「そうだ。どうしても今回の捜査に必要な事なのだ、隠さずに教えて欲しい・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解りました”と、少しだけ困ったような顔をみせた後で、アウロラは渋々と言った呈で語り始めた、それによると。

 “弱者に対しては優しい反面プライドが極めて高く、独断専行な部分がある”、その上ー。

 “そう簡単には自身の非を認めない”、それであった。

「悪い人では無いのですけれども、些か思い込みで行動する事が多くて・・・。父もホトホト困り果てておりました・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「“情に脆いワンマンタイプ”と言う訳か・・・」

 オリヴィアの言葉にアウロラが頷くモノの成る程、これならばエイジャックスに目を付けられた理由も頷けると言うモノだ。

「彼等からすれば、一番の優良物件だったと言う訳だな?ところでその巨額の損失を出してしまった理由と言うのは?」

「叔父の経営する幾つかの施設内で食中毒が発生したらしくて・・・。ですが叔父は衛生管理の体制は万全だったと言い張っていて、中々折れようとはしませんでした、他にも新型介護用品の先物取引でかなりの損失を出したとか」

「それだな、恐らくは!!」

 オリヴィアが合点が行ったかのように顔を上げるが”株“や“先物取引”等という分野は彼等の最も得意とする所であり、近年では“ナポレオン戦争”にみられる株価の情報操作戦等の暗躍が有名であった。

「恐らくは・・・。ヴィクトーさんは、嵌められたんでしょうね、ワンマンで情に脆い人が介護施設で適当な体制を敷く筈がありませんから」

「それと後は株価ね・・・。確か“ロスチャイルド家”がやったんだっけ?あの“株価操作”って言うのは・・・。そう言うのって専門的な知識があっても見抜くのって難しそうだし、二重の意味で気の毒だわ!!」

「・・・・・」

 互いに話を進めて行く綾壁夫妻の言葉語りを背中で聞きつつ、オリヴィアは頭をフル回転させていた、先ずはヴィクトー氏の身柄を確保する事が最優先事項である事は間違いないが、事件を公にする事は絶対に避けなくてはならない、さもないとこの国自体がエイジャックスからの乗っ取りにあって機能しなくなってしまう。

(もしエイジャックスに実権等を握られでもしたなら・・・。我々等は即時解体だろうな、連中からしてみれば散々、自分達の支配体制構築に対する妨害工作を行って来た訳なのだから当然と言えば当然な訳だが・・・!!)

 しかし、とオリヴィアは考えるモノの、まさかエイジャックス側がここまで踏み込んだ謀略戦を仕掛けて来るとは思ってもみなかった、確かにこれまでもお互いへの嫌がらせなら腹の探り合いやらは、何度となく繰り返して来た事だったのであるが確かに、ここ最近のエイジャックスによる“ガリア外し”とでも言うべきモノは目を見張るモノがあったのは事実だったが、それに加えて。

 もし蒼太の言った通りの事が本当に起きているとするならば、彼女には甚だ疑問が残った、それは“どうしてエイジャックス側がここまでするのか”と言う事であったが確かに、この2カ国はかつては百年戦争や植民地問題やらで対立を繰り返して来たモノであったが近年は“経済協力”やら“対外問題”等ではそれなりに、“蜜月”とも言って良い関係にあったのにも関わらずである。

(そんなにまでして我々を、支配下に置きたいと思う理由はなんなのだ?そんなにこの国が邪魔なのか?それとも別に何か理由が・・・)

「・・・リヴィア、オリヴィア!!」

「ハッ!!」

 そこまで考えを巡らせていた時だった、不意に後ろから自らを呼ぶ声が聞こえて思考の海から現実へと、意識が呼び戻されて行く。

「オリヴィア、僕の声が聞こえてますか?」

「どうしたの?ボーッとしちゃって。オリヴィアらしく無いわね」

「す、すまん。何だったかな・・・?」

「アンリにもこの事を伝えておかないと。その男の事を、注意深く探るように、って・・・」

「場合によっては拘束もしなくてはならないでしょうね、こんな事態になっているのだから・・・!!」

「異議無し!!」

「私も!!」

「私もね・・・」

「あ、ああっ。そうか、そうだったな・・・!!」

 蒼太とメリアリアの言葉に、その場にいた全員が頷くモノの、それを見たオリヴィアもまた、慌てて自身も了承の旨を伝えてみせるがその頭の中は、どうにもスッキリしない気持ちでいっぱいであった。

 だがしかし、確かに今はそれどころでは無い、先ずはアンリにも連絡を取ってこの事をよくよく、言っておかねばならないのだ。

「・・・取り敢えず、アウロラよ。君は現状、そのままフォンティーヌの邸宅に滞在させていただいて、屋敷と伯爵及びそのご家族の警備に当たるよう、心掛けてくれ。何かあったらどんな些細な事でも良いから、必ず報告を入れるように!!それから伯爵がお戻りになられたのならば、必ずもう一度連絡を入れて欲しいのだ、出来るか?」

「はい、大丈夫です。お任せ下さい!!」

 アウロラの言葉を確認すると、オリヴィアは通信を切って今度はアンリを呼び出した、事は一刻を争うのであり、万事手抜かり無くやらなければならない。
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