メサイアの灯火

ハイパーキャノン

文字の大きさ
上 下
161 / 405
ガリア帝国編

アウロラ・フォンティーヌ編9

しおりを挟む
「もう、ドングリが落ちてるんだね」

「松ぼっくりも、彼方此方(あちらこちら)で見掛けますね・・・」

 11月も後半に差し掛かっていた、ある秋晴れの土曜日の午後にー。

 蒼太とアウロラは二人で連れたって、“ルテティア郊外の森”へと森林浴を兼ねた散策に来ていたのである。

 ここは、ちょうど1年ほど前にアウロラが道に迷って一人で泣いていた森林でありその際に、蒼太に助けてもらった事が切っ掛けとなって二人の縁が結ばれては、本格的な交遊をスタートさせる事が出来たのだ。

「この前さ。ここに来た時にはリスがいたんだよ?」

「リス?リスですか!?私も見たかったです!!!」

「ちょうどあの木からあの木へと、飛び移っている所だったよ!!」

「この森って以外と動物が多いんですのね、知りませんでしたわ」

 とアウロラはお嬢様言葉で応えると、自らも顔を上へと向けては木々の梢をもっと良く見ようと試みるが、その頭には春のバースデー・パーティーの折に蒼太がプレゼントした髪飾りが装着されていた。

「それ、付けてくれているんだね・・・?」

「当然です、だって・・・!!」

 とアウロラがハキハキとしながらクルリと蒼太へと向き直って答えた、“蒼太さんがくれたモノなんですもの!!”と。

「これを付ける度に、蒼太さんに触れてもらえる気がして、ドキドキとするんです!!」

「あ、あははっ。オーバーだよ、アウロラは・・・」

 と蒼太はその勢いに、やや気圧されつつも応じるモノのアウロラは至って本気であり、その言葉に嘘偽りなど微塵も含まれてはいなかったのであるが、しかし。

「ああっ!?そ、そうだった!!」

 このままでは拙(まず)いと言うか流石に、“話題に詰まる”と思った蒼太は急に話題を変えに来た、“エリオット伯爵の具合はどう?”とそう告げて。

「この前、足の甲を“スズメバチ”に刺されちゃっただろ?大丈夫かな、と思って・・・!!」

「え、ええ!!」

 とそれに対してアウロラは多少の戸惑いを覚えたモノの、あくまで慇懃かつ丁寧な言葉遣いと立ち振る舞いとで彼に応えた。

「お陰様で。父からも“くれぐれもよろしく”と仰せつかっておりますわ!!」

「そっか・・・!!」

 とその言葉に些か、蒼太も胸を撫で下ろしていた、“なんともないなら、良かったよ”とそう告げるモノの、事の起こりは夏休みも終わった二ヶ月前の、ある晴れた土曜日の事だった、この日、蒼太はアウロラと遊ぶ約束をしていた為に朝からフォンティーヌ家へとお邪魔させてもらっていたのであるモノの、ところが。

 事件はその最中に起きたのだった、その年は残暑が特に厳しかった挙げ句にルテティア全域は“ヒートアイランド現象”に見舞われていた事も加わって、尋常ならざる暑さに見舞われていたのであるが、そんな灼熱の気候の中でも天空の上から吹いてくるそよぎ風は心地好く肌を癒してくれるために、庶民はそれを活かす為に空気温度差を生み出す工夫としてグリーンカーテンや水まきを、そして貴族や財産を持っている人々は自らの邸宅にスプリンクラーやウッドデッキを整備してはそこにビーチ・パラソル等を刺し立てては日陰や水辺を擬似的に作り出し、それで涼を取っていたのだ。

 当然、エリオットをその例に漏れずに自らの家の中庭の一角にウッドデッキを整備してはそこで読書をしたり、冷たいアイス・ティーを喉の奥へと流し込んだりしつつも夏の暑さの残るその時期を、それでも前向きかつ快適に過ごしていたのであるが、しかし。

「痛いっ!!?」

「・・・・・っ!!!」

 エリオットのその声で、土いじりをして庭先で遊んでいた蒼太達が振り向いて彼を見ると、何と一匹のオオスズメバチが足下に止まって今まさに彼を刺している真っ最中だったのだ。

「ああ!!?」

 “おじさん!!”と蒼太は咄嗟にそう叫んでしまっていた(本来、蒼太にとっては友達の家の御両親は皆おじさん、おばさんである)、続いて“コイツ!!”と叫んで蒼太は“波動真空呪文”を指先一点にまで凝縮させて生成させるとそれをバンドガンの要領で、“極超音速”でぶっ放してオオスズメバチを一撃の元に粉砕し、エリオットの足の甲に刺さっていた毒針の残骸を注意しながら抜き取ってやったのである。

「おじさん、大丈夫!!?」

「痛つつつ・・・・・っ。ああ、ああ。蒼太君、私は大丈夫だよ!!!」

 “いやぁ、ハッハッハッ”とエリオットは敢えて笑って見せた、“すまんすまん、私とした事が、ついうっかり居眠りをしてしまってね!!”とそう言って。

「一応、医者に行った方が良いよっ。僕、エドモンさんを呼んで来る!!」

 そう言うと彼はその場にいて一緒に遊んでいたアウロラに、“おじさんと一緒に家の中に入ってて!!”と叫んで自身は直ぐさまフォンティーヌ家お抱えの家医であるエドモンを呼びに屋敷内を駆けて行った(中々見付ける事が出来ずに結局は波動精査を行ってモハメドの部屋に居るのを見つけ出し、事情を話して彼共々付いて来てもらった)。

「いやはや、恥ずかしい限りだな。中庭で読書をしていたら、うっかり居眠りをしてしまってな・・・」

「これは・・・。まあ問題は無いでしょう、心臓からの位置も遠いですし、アナフィラキシーも起きてはいない様子ですから・・・」

 それでも一応、と言うことで“解毒薬”と“鎮痛剤”を飲んで傷を洗浄し、更に塗り薬を塗り込んで手当をすると、“本日はシャワーを浴びないで下さい”と言ってエドモンは医務室へと戻って行った。

「いやはや申し訳ない、すっかり騒がせてしまったようだ」

 “それにしても”とエリオットは難しい顔を見せて唸るように呟いた、“まだベスパスズメバチの巣が残っていたのか!!”と。

「蒼太君。君にこの前、娘を助けてもらった際に、業者に頼んでおいたのだがな・・・」

「群れと逸(はぐ)れたハチだったのかも知れません、ハチの中にもいるらしいんです、そう言う変な個体が・・・」

「なるほど、お互いうっかり者同士で気が合ってしまったのかもなぁっ!!あっはっはっはっはっ!!!」

「それより・・・。ごめんなさい、伯爵様。“おじさん”だなんて呼んじゃって・・・」

「良いんだよ、蒼太君!!」

 自分の前で項垂れて謝罪する蒼太に対してエリオットは笑顔で頭(かぶり)を振って見せた。

「君は私の命の恩人だ、何しろアイツらと来たら、一度刺したら仲間を引き連れて次々と立て続けに刺して来るそうではないか。流石にあんなモノに何度も何度も刺され続けたなら、命を奪われ兼ねない所であったよ、君はそれを救ってくれたのだ。感謝しこそすれ、怒る通りは無いよ!!」

 “それに”とエリオットは更に続けた、“君から見たなら確かに、私もおじさんに違いないからね!!”とそう言って再び、“あっはっはっはっはっ!!!”と明るく笑うがこんな事があって以降、蒼太だけはエリオット伯爵の事を、何かあった時についうっかり“おじさん!!”と呼んでも怒られなくなったのであった。

「全くもうっ、父にも困ったモノですわ!!年甲斐も無く庭先で居眠りなんてして・・・」

「まあでも。エリオット伯爵も、疲れてしまっていたんだよ。読書をしながら眠っちゃうことって、僕も割とあるしね!!それに・・・」

 と蒼太が続けるモノの“正直、伯爵のお身体が心配だ”と。

「エリオットさん、時々無理をしてるんじゃ無いのかな?明らかに披露が次の日にまで残っちゃってる気がするんだよね?」

「その事でしたら、確かに。この数ヶ月間、ずっと遅くまで調べ物をしている様子ですし、母もエドモン先生からも、注意を受けておりました」

「何事も無ければ、良いんだけどね・・・」

「本当です、此方が心配している、と言うのに。父もあれで聞きませんから!!」

「・・・・・」

(アウロラ、何処となくお嬢様っぽくなったな。以前は本当に、“ただの大人しい女の子”って言う感じでしかなかったのに・・・!!)

 自身の言葉に頷いては返してくれるアウロラの様子を見ていた蒼太が思うがこの所、確かにアウロラは段々とその言葉遣いや所作や雰囲気、その動作等が上品なそれになっていっていたし、それに加えて全体的に何となく、自信と言うか勢いと言うか、とにかく前に向かおうとする積極性が出て来たように感じられるが特にあの、誕生日会のスピーチからして実に堂々としたモノだった、傍らに蒼太がいて“頑張れ!!”とは声を掛けていたのであるモノの、しかしそれでも最終的には本人だけの力と努力で苦手だったそれを行い得たのは特筆すべき事柄であったと、蒼太は思っていたのである。

 現にあれを境にして、アウロラのどもり癖は少しずつではあったけれども修正されて来つつあった、よく考えてみたならば、以前のアウロラだったのならば、人前で話すことはおろか、あの“トワール館の冒険”すらも成し得られたかどうか解らなかったが、この子は一体、いつの間にこれだけの勇気を身に付けたのであろうかと、蒼太は思わず目を見張るモノの、しかし。

 彼はまだ、解っていなかった、それが自分と言う存在がもたらしたモノなのだ、と言うことを、自分という存在がいたからこそ、アウロラが頑張れたのだ、と言うことを、蒼太はまだ気付かずにいたのである。

「そう言えばさ」

 思い出したかのように蒼太が告げた、“修道院、見に行ったんだって?”とそう言って。

「どんなところだったのさ?その“サン=サヴァン・シュル・ガルタンプ”って言うのは・・・」

「思った以上に素敵な所でしたわ、趣(おもむき)があって荘厳(そうごん)で。修道女(シスター)の皆様方も、皆さん心優しくて穏やかで。とっても暖かくて、心の綺麗な方々でしたわ。でも・・・」

 とアウロラが不意に沈んでしまった、“蒼太さんと離れ離れにならなければならないなんて・・・!!”と、悲しそうにそう告げるが、その言葉は大仰さも何にも無くて、ただただひたすらなまでに、自らの真心の赴くままに発せられたる彼女の純粋なる意志の発露、それそのものに他ならないモノだったのだ。

「蒼太さんと、離れたく無い。です・・・。私、蒼太さんと・・・っ!!!」

「アウロラ・・・ッ!!!」

 正直に言って、蒼太は戸惑っていた、蒼太はある意味で誤解しており、そしてある意味では正しかったのであるモノの、それというのは彼は“本当のアウロラってこんなにも情の深い子だったのか!!?”と感心すると同時に自分自身の事がちょっと恥ずかしくなってしまっていたのである、それというのはー。

 蒼太はこの時、本気で“せっかく出来た友人と連絡も取れなくなるなんて”としか考えておらず、またどうしてアウロラがこんなにも、自分に対して“だけ”は情が深いのか、と言うことを、“深くなれるのか”と言うことを全く思いを馳せてはいなかったのだ。

 彼女の自分に抱く恋心にも、そしてまだまだ不確かなそれではあったがしかし、それでも淡くて甘いその思いにも、気付けずにいたのであるモノの、それと言うのはもうこの時には既に、蒼太はメリアリアと相思相愛となっており本格的なお付き合いが二人の間で始まっていた為だったのである。

 そんな訳であったから、彼女以外の女性の事が女性として見られなくなり、元からの生真面目かつ朴念仁な性分も加わって、アウロラの事はあくまでも“妹みたいなお友達”としか思えずにいたモノの、ただしその事が却って、後にアウロラと蒼太との仲を取り持つ事に繋がっていたのかも知れなかった、それというのは元来、奥手ではあったけれども恋慕や愛情と言った確かで大切なモノに関してはしっかりとした考え、感性を持っており、かつ良くも悪くも融通の効かない性格をしていた蒼太はだから、もしこの時点でアウロラの気持ちを知ってしまっていたのならば、それをきっぱりと断って、関係を絶ってしまっていたかも知れなかったのである。

 それが元でアウロラとは気まずくなって疎遠になり、更にはフォンティーヌ家との縁も切れて、そしてその結果として彼は、その将来において迎え入れるべき三人の妻の内の一人を失ってしまう所だったのかも知れなかったのであったが、しかし。

「だけどアウロラも、随分としっかりしてきたよね。こう言い方をしたらなんだけど、本当に一年前とは大違いだよ、凄い素敵なレディになったよ!!」

「ほ、褒めすぎです蒼太さん。私(わたし)が、いいえ私(わたくし)が変われたのはあなたのお陰で御座いますのに・・・!!」

 そう言ってアウロラは、思わず頬をポッと赤めるモノの事実、蒼太と言う存在が彼女の目覚めと言うか自立に果たした役割は殊の外大きいモノだった、と言うのはこの少年との出会いを契機としてアウロラは自らの中にある彼への思いを、即ち自分の意志と情緒や感覚、感性とを見出してはそれを確立させた上に、その思いの丈の激しさのままに遂には自分自身の殻を破る事にも成功したのである、これらは皆、“蒼太”と言う少年を、その切っ掛けとして引き起こされた事だと言えたが、さて。

「あはははっ、褒めすぎだよアウロラこそっ。僕、なんだか擽ったくなっちゃうよ!!!」

 そう言いながらも蒼太はさて、何かやっただろうかと真剣に思い悩んでいたモノの、蒼太自身は驚くほど何もしておらず、ただその時その時で一生懸命にアウロラの事を見守っては助け出し、或いは自分の意志で前に進もうとする彼女の手を引いたり、背中を押したりしていただけである、要するになんら手助けらしい手助けや、導きらしい導きを行ったのでは決して無かったのである。

(はあぁぁっ!!同じことをメリーにも言われたけれども。“あなたがいてくれたから良かったの”って。だけど僕・・・)

 “何にもしてあげられて無いんだ”と、蒼太は真面目に少し、落ち込んでしまうモノのこの時、彼は恋人であるメリアリアの事で、ある悩みを抱えていた、それと言うのはー。

 これは今年の5月くらいから、特に顕著に出始めたのだが普段はどうと言う事は無い彼女が時折、物凄く辛そうなと言うべきか、とにかく暗い表情で立ち尽くしてしまっている時があって、そしてそう言う日は大抵、度を超えて強く激しく蒼太の事を求め続けて来たのモノの、実はこの時、メリアリアはガリア帝国の誇る秘密組織である、魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”へと半強制的に入隊させられてしまっており、その過酷な任務と苛烈な世界にほとほと追い詰められてしまっていた、要するに心身共にかなり消耗してしまっていたのである。

 それが11月に入って蒼太と結ばれてからは一応、精神的に安定したらしく、それまでのように酷く落ち込んだりする事は無くなって来ていたのであるモノの、そう言った事情があることを知らなかった蒼太は“何事が起こったのか!?”と気が気でなくなってしまっており、“何としてでも彼女の役に立ってあげたい”、“その苦しみを取り除いてあげたい!!”と真摯に心を砕いていたのだ。

 一応、メリアリアには気になって何度か“何でも言って?”、“何でも聞くよ?”と詰め寄った事があるのであるが、彼女は“大丈夫”の一点張りであり結局は、(この時点では)原因は不明なままであったのであるモノの、そんな状態であったからだから、蒼太は殊の外、“自分はなんて無力なんだろう”、“大切な人が悩んで苦しんでいると言うのに何もしてあげられないのか?”と、自分で自分が情けなくなり、その無知と無力さとが許せずに彼なりに葛藤していたのである、苦しんでいたのであった。

 ただ彼にとって救いだったのは、メリアリアが自分と一緒に居られる時だけは真実、その全ての悩み、苦しみから解放されているようだ、と言うのが解って来たからであり、そしてそれは確かに、紛う事無き事実でもあったから、“自分でもどうやら、メリーを支えてあげられる事位は出来ているらしい”との自分で自分自身の心を慰撫してあげる事が出来ていた点に加えて、もう一つ。

 余りにもクソ真面目な所のある彼が、真剣に思い悩んで内側に籠もってしまう前に、下手な行動に走って暴走し、事態を更に最悪な方向に追いやってしまう前に(メリアリアもそれを心底、心配していたのだが)、それとなく良い気分転換と言うべきか気晴らしが出来ていたからに他ならなかったが、それがアウロラと遊ぶ事、それそのものに他ならなかったのである。

 現にアウロラと遊んでいる際には全てを、と言うわけでは無いにしてでもそれでも、その苦痛の一定量は確かに軽減されはしていたし、それに加えて根本的な解決には成り得なかったがそれでも、彼女の言葉や立ち振る舞い等は行き場の無い焦燥と自分自身に対する怒り、無念さを覚えてささくれ立ってしまっていた蒼太の心に対して一時の清涼剤とでも言うべきか、“癒し”を提供してくれていたのであるモノの、そんな中でー。

「蒼太さん」

 ふとアウロラが、歩みを止めて蒼太に言葉を掛けてきたモノの、その瞳はいつかの誕生日会の時のように真剣そのものであり、口調こそ穏やかであったが語気は強くて、有無を言わさぬ気迫に満ち溢れていたのである。

「・・・なにさ、アウロラ。そんな改まって」

「私、もっと蒼太さんの事が知りたい。もっと蒼太さんと一緒にいたい、遊んでもらう以外にも、蒼太さんとずっと一緒にいたいです!!」

「・・・・・。アウロラ?」

「蒼太さんは私の事、どう思っているんですか?何で私と一緒にいてくれるんですか?私と一緒にいて楽しいですか?私は凄く楽しいですっ。蒼太さんともっとずっと一緒にいたいって、ずっと思ってます、心の底から希(こいねが)っていますっ!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “ど、どう言う・・・?”と流石にその態度と言葉とに、ただならぬモノを覚えた蒼太がアウロラに何事かを尋ねようと口を開き掛けた、その時だ。

「お嬢様、蒼太様っ。此方にいらっしゃいましたか!!!」

「・・・・・っ!!!」

「モハメド・・・ッ!?」

 今日こそはせっかく蒼太に詰め寄ろうとしていたアウロラだったが見事に水を差された格好となってしまい、些か憮然とした態度でそれでも何事かと、この長い年月、勤め上げてくれていた家令の言葉に自らの耳を傾けているとー。

 次の瞬間、とんでもない言葉が飛び込んできて、二人は散策を中断して屋敷に飛び帰る事となったが、曰くー。

「ただちに、屋敷にお戻り下さい。旦那様が、エリオット伯爵様がお倒れになられました!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
 余りにもクソ真面目な所のある彼が、真剣に思い悩んで内側に籠もってしまう前に、下手な行動に走って暴走し、事態を更に最悪な方向に追いやってしまう前に(メリアリアもそれを心底、心配していたのだが)←メリアリアはこの時実質、“半強制的に”セイレーンに入隊させられていたのですが、彼女はその事を、蒼太君には黙っていました。

 何故かと言えばそれは勿論“家族や恋人に対してさえも守らなくてはならない守秘義務”があったからなのですが、もし万が一、この事を蒼太が知ったら必ず、“メリーだけにそんな危険な事はさせられない”、“自分も入る”と言って聞かなかったでしょうからです(実際に絶対、そうなっていたと思います、蒼太君はそれだけメリアリアちゃんの事が大好きだったし、大切にも思っていましたから←それに彼は普段は温厚なくせにそう言う所は凄い強情です、自分が“大事だ”と思う事柄に付いては相手が誰であろうと絶対に妥協しません)。

 しかしそうなると先ずは、メリアリアが蒼太に秘密を喋った事がバレて自分はおろか、蒼太までもが処罰の対象になるばかりか、下手をすればもう、彼とは二度と会えなくなってしまっていたかも知れません。

 それに何よりかによりの理由としては、メリアリアちゃんは蒼太君が自分と同じ世界に入るのは絶対にダメだと思っていました(彼女は実際に、任務に駆り出されてみて初めて知ったのです、蒼太君が“エルヴスヘイムの冒険”においてどんな目にあったのかを、どれだけ不便で危険で恐い思いをしたのかを、です←実際の蒼太君はそれよりももっと恐い思いをした訳ですけれどもとにかく、基本的な部分で彼とその感覚、意志を共有したのでした)、だから本当は“蒼太に来て欲しい、守って欲しい”、“恐くて仕方が無い、蒼太助けて!!”、“共に戦って欲しい、側に居て欲しい”と思っていたにも関わらずに、それらをグッと堪えて飲み込んで、蒼太を此方へと来させないようにしていたのです(蒼太が来ることに、蒼太をセイレーンに入れる事に最後まで反対していたのです)←この辺りはエルヴスヘイム編の最終章やセイレーン編の初期の話を見てもらえれば、解っていただけるかと思われます。

 自分自身の都合や感情、願望や思惑。

 それら全てを棚上げしてでも、その人の事を大切に思い、ただただひたすら誠意を尽くす。

 人はそれを“真心”と言います、それはその人に対する、“狂おしい”等という言葉ですらも足りない程に絶対的なまでに確立されている比類無き程に強い愛情、それが無いと成し得ないモノなんです、発現出来ないモノなんです。

 ましてやメリアリアちゃんの場合、本当は助けて欲しいのに、側に居て抱き締めて欲しいのに、暖めて欲しいのに、それらをグッと堪えてでも蒼太君に尽くそうとする、そのいじらしさが可愛いんですよ。

 ちなみに私はこの話で、それをアウロラにもさせようとしました、アウロラは言ってましたよね?“もっと蒼太さんの事が知りたい”、“もっと側に居て欲しい”って(凄い情熱的な子なんです、この子は)。

 でもね、彼女だってもし本当に、蒼太君に自分以上に大切に思っている女性(ひと)がいたのなら、素直に身を引こうと思っていたんです(そして彼の幸せを願って、日々暮らそうとしていたんです)。

 凄い一途でいじらしいでしょ?その人の事を、そこまで思い続けるって言うのは。

 余談ですが(いや、余談等ではありません、むしろこれこそが本題です!!)私達ビアンカ派をビアンカ派たらしめているモノ、それはまさに彼女の比類無きまでにいじらしい、リュカ(アベル)への一途さです(勿論見た目とか性格だとか、他にもお気に入りの要素は色々とありますけどね、だけどそれよりもなによりも彼女の真心が私達の心に突き刺さったからなのです!!話の流れで選んでいたり、可哀想だから選んでいる訳では決して無いのです)、それはまさしく彼女の真心の顕現であり唯一無二なる彼に対する確かなる愛情の発露、それそのものに他ならないのです。

 私達ビアンカ派は、ビアンカのそれをハッキリと見ました(その言葉で、その態度で、その雰囲気で、です!!)、そのいじらしい程の一途さ、即ちリュカ(アベル)に対する真摯なる真心をです、だから私達ビアンカ派はビアンカを推すのです(今回、自分でもフローラを元にした存在を書いてみて解りましたが、フローラも充分に魅力的な女性であると思います←私はフローラを選んだ事はありませんが、それでもきっと良い子なんでしょうね。だけどそれをした上でも、私はビアンカが好きなんですよ、上記で述べさせていただいたようにとにかくいじらしくて可愛いのです、私なんかではまだまだその魅力を発揮してやることが出来ないくらいに奥ゆかしくて、リュカへの愚直なまでに一途な愛に、それも途轍もない程の無限の思いに満ち溢れているのです、だから私はビアンカ派なのです。また今回、そんなビアンカの可愛らしさを、彼女から感じ取った事や学んだこと、それ以外にもフローラから感じだこと、“彼女が幼馴染であったのならば、こうだったんじゃないのかな?”と思った事等をアウロラにもフィードバックしてみました、如何でしたか?ビアンカとフローラとは陰陽です、“ツインズ”なんです、根っこの部分が同じなんです。そしてそれは、メリアリアとアウロラもまた同様です、だからお互いから得たモノや勉強した事柄を当てはめて書けば、二人の事は書けるモノなのです←勿論、ここにはあと二つほど、忘れてはならない重要なエッセンスがあります、一つ目は私は創造主として、蒼太とメリアリアとアウロラ、そしてオリヴィアの四人を同じくらいに大切に愛している、と言うことであり、もう一つは皆様方の御理解、受諾です、と申しますのは皆様方に“こんなモノは認めない”と言われて拒否されてしまえば、どうにもならなかったからです、ここまで読んで下さいまして、本当にどうも有り難う御座いました、大変に感謝しております、どうか今後とも、よろしくお願い申し上げます)。

 可哀想だから選ぶ、なんて言っている方々は私達ビアンカ派の中で、“ツンデレ属性”を持っている方々でしょう、だから本当は“いじらしいまでに一途で純粋なる、唯一無二の真心を見た”とは言えずに“可哀想だから”とか言っちゃってるんですよ(素直じゃ無いんですよ、そう言う方々は。ビアンカにツンデレしちゃってるんでしょうね!!)←同志達がツンデレしてしまって誠に申し訳ございません。

 そう言う事で御座います。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】女騎士レイノリアは秘密ではない恋をしている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:193

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,690pt お気に入り:393

時翔る嫁 双子令嬢と身代わりの花婿

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:68

美貌の魔法使いに失恋するための心構えについて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:63

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:4

【短編】わかたれた道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:22

パスコリの庭

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:27

処理中です...