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ガリア帝国編

魔法と術式

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「つまり今回、使用された“マジックアイテム”と言うのはあくまでも“状態異常”を引き起こすためのモノ、と言う事なのだな?」

「その通りです、オリヴィア・・・!!」

 セイレーンの誇る“波動分析班”から報告が入ったのは、事件発生から二日経った日曜日の事だった、この間、ろくに眠らず飲み食いもせずに、全てそっちのけで対応に当たっていた彼等は疲労困憊の極致にあったがしかし、それでも任務を優先して行ってくれていたのである。

 果たしてその結論は、蒼太が睨んだ通りで一見“時空魔法系統”に見せ掛けた、“肉体的なる状態変化”を引き起こすためのマジックアイテムが使用された、との事であって、その場に後から駆け付けて来た“時間魔法”の使い手であるクレモンスも同様の判断を示していたのだ。

「しかし何とも紛らわしいな、一見時空魔法と見せ掛けた“状態変化魔法”とは。君達がいなかったならまんまと騙される所だったぞ!!」

「“時空を操る法術”と言うのは、熟すのが極めて難しい、非常に高度な技術、感性が要求されますからね。それにそう言ったアイテムは“周囲の時空間”にも少なからず影響を与えてしまいます、だからどう言う形であっても人里の側に置いておかれる筈がありませんよ・・・」

「そう言えば・・・。今回の騒動の発端になった“賢者(セイジ)の理念”は“サン・サヴァン・シェル・ガルダンプ”から盗み出されたモノだったのよね?」

 メリアリアの言葉に蒼太は“ああ”と頷くと、今度は自ら分析班に問い掛ける。

「それで・・・。老人の姿にされた人々を、元に戻す手立ては見付かったのか?」

 “それが・・・”と途端に暗い顔になり、班員達はそれに答えた。

「まだ難航しております、何しろ件の“マジックアイテムそのもの”があれば今回、被害者達に掛けられてしまった“状態変化の術式”と言うモノの正体がどう言った仕組みでなされているのか、と言うことが、一発で解ると言うモノなのですが。それが欠片と言えども、現場から検出されなかった、となると・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「あ、あのっ、ですけど!!」

 “一応、“時間の問題”ではあります!!”と更に別の班員が口を開くが彼女によれば“肉体の状態変化と言うモノにおける、魔法の術式は限られている、それを解明するのはそう難しいモノではない”との事であったのだ。

「で、具体的にはどれ位掛かるのだ?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “どんなに急いでも数年間は・・・”等と言う波動分析班員の言葉に蒼太達は思わず宙を仰いで呻いてしまうが現状、老人の姿にされてしまった人々を救う為には、それに使える時間と言うのは非常に限られてしまっているのであり、余り長々と研究、解読を続ける事にはある種の危惧を感じざるを得なかったのであるモノの、しかし。

「“状態変化”の術式によって老人化してしまっている患者達の“肉体的寿命”はかなり繰り上がってしまっているはずだ、勿論、君達が一生懸命にやってくれているの事は解るのだが・・・。それでも尚、足りないのだ、おそらくこのままでは、“復元術式”が解読される前に“命の時間”が尽きてしまう患者が何名かは出て来るだろうな・・・!!」

「ならば方法は、1つしかない!!」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

 オリヴィアの言葉に、何かを決意したかのようにそう告げる蒼太に対してメリアリアとアウロラが反応するモノの、彼女達とて応えはもはや1つしか無い事を、無言の内に理解していたのである。

 即ち。

 “レベッカを打ち倒して捕獲し、口を割らせる”それであったが。

「君達の言いたい事は、良く解るぞ蒼太、メリアリア、アウロラ。しかし蒼太よ、相手はその“ドラクロワ・カウンシル”とか言う魔術師集団なのだろう?そう易々と、此方の思惑通りに行くとも思えないが・・・!!」

「本当は危険なやり方なのですが・・・。もしどうしても、と言うのであれば、奴らの精神に侵入して情報を抜き取る、と言う方々が無いわけではありません」

「そ、そんな・・・っ!!?」

「そんなこと・・・っ!!!」

「そうだ、蒼太・・・っ!!!」

 するとその場にいたメリアリアとアウロラが何かを叫びださんばかりとなり、それをまるで制するかのようにオリヴィアが口を開いた。

「君の心意気は買わせてもらうが。・・・それだけは絶対にダメだ」

「しかし、オリヴィア・・・」

「それをやったら確かに、情報は手に入るかも知れないとしても・・・。やられた側は、下手をすれば廃人となるぞ?多大な精神的負荷を掛けられる事になるからな。それに蒼太、何よりかにより君の事だ!!!」

 オリヴィアが語気を強めて言った、“君だってただでは済まないぞ!!?”とそう告げて。

「下手をすれば、相手の精神の影響を受ける事になりかねない。そうなれば君の内面はバランスを崩してしまい、二度と元には戻れないかも知れないんだぞ?そんな事は間違っても許可出来ない!!!」

 オリヴィアの言葉に同調するかのように、メリアリアとアウロラとが強い怒りと憂慮と悲しみの光をその目に込めて、何事かを訴え掛けるような面持ちを蒼太に向けるモノの確かに、そのやり方をすれば半強制的に相手から情報を引き出す事は出来るにしても、心や意識の内側と言った、その人をその人たらしめている“秘密の部分”、“根幹的領域”を半ば無理矢理引っ掻き回して覗き見る事になるのであり、その代わりの代償として相手は軽い場合でも幻視、幻聴等を含んだ統合失調症を発症したり、重篤な状態になると精神の崩壊、即ち植物状態にまで陥ってしまう事さえあったのである。

 しかもそれは、やられた側だけに留まらなかった、やった側もやった側で精神汚染や神経紊乱等と言った、同様のリスクを背負い込む事になるのであり、メリアリア達の蒼太に向けられた視線には明らかにその事に対する不安と恐怖と、“無茶はしないで”と言う彼女達の心の底から迸りたる悲痛なるまでの叫びが込められていたのであった。

「・・・・・」

(困ったな・・・!!!)

 蒼太は思うが彼は“神界”において神から修業を受けた際、どんな呪術や魔法の軛も無力化してそれから対象者を解き放つ“聖刻印の法”と、大小強弱様々な想念や波動が来たとしても、それに決して飲み込まれる事無く見て流す、もしくは受け流す極意を授けられていたのであり、それを以てすれば極めて安全に他人様の精神内部にも入る事が出来たのである。

 ついでに言えば“神人化”して“聖刻印の法”を発動してやれれば今回の事でも人々を、助けだしてやる事も出来るには出来たのだが、しかし。

(だけど神々からキツく言い渡されているからなぁ、“あまり不用意に自身の底力や法力を見せるモノでは無い”と。それは確かに頷けるんだけどさ・・・!!!)

「あなたお願い。そんな事はしないで、お願いよ・・・!!!」

「蒼太さん、お願いします。無茶な事はしないで下さい・・・!!!」

「私からも頼む・・・」

 どうしようかと蒼太が迷っている所へ、メリアリア、アウロラに加えてオリヴィアまでもが頭を下げて来るモノの、自身の愛妻を含めた三人の美女達からの熱烈な思いを向けられた蒼太はそれ以上、何も言い出す事が出来なくなり、黙って俯いてしまうモノの、しかし。

「ええと・・・。じゃあしかし、他にどう言った方法を取れば良いのだろうか・・・?」

「“復元術式”を開発するのを、もう少し早める事は出来ないのかしら・・・!!?」

「そ、そうですっ。それさえ出来れば蒼太さんも、そんな無茶をしなくて済みますし・・・!!!」

「今後、同様な事件、事故が起きたとしても、迅速かつ確実に人名を救助して回復させてやる事が出来るようになるしな・・・っ!!!」

 蒼太達は考えるモノの元々、実は“老化”を始めとして石化や混乱、眠り、盲目、麻痺等人体を状態異常にしてしまう魔法、魔術と言うのは遙かな古代より存在しており、その対策や回復魔法もある程度は知られていた為、だから今回の“老化魔法事件”も通常通りのそれならば(即ちセオリー通りに“時空魔法”を用いたモノであったのであれば)、その救済も実に容易いモノであった筈だったのだ。

 ところが。

「今回用いられた魔法の術式は、純粋なる魔法力学のそれと言うよりも、科学技術と魔術の融合したようなモノなのです」

「肉体的なる機能が全く老人のそれになり尽くすまで、“細胞分裂を猛烈な速さで推し進めてしまう術式”等と言うモノは聞いた事が無いですし、それを回復させてやる術式、と言うのも私達にとっては未知なる領域のそれになる訳です!!」

「ですが全く望みが無い訳ではありません。これは最近になって発見された、“テロメラーゼ”と言う成分なのですけれども・・・。これには何と染色体を回復させてやる機能が備わっている事が解って来たのです!!」

「つまりは“細胞の若返り”が出来る効能があるのです。つまりはこれを魔法力学に基づいて術式化してやり、人体の細胞に働き掛けて強烈な速度で分裂を起こすように組んでやれば、彼等は回復する、と思うのですけれども・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「元になった術式が解らなければ、やはり不安だ。と言いたいのだろう・・・?」

 何かを考えるようにして項垂れたままで沈黙してしまう三人の美女達に代わって発せられた蒼太の言葉に、“その通りです”とでも言わんばかりの様呈で分析班員達は頷くモノの通常、“呪(まじな)い”、“魔法”、“術式”、“神儀”等言い方は様々であってもこれらはそのどれもが皆、超自然的存在の領域にアクセスしてその力を借り受けたり、もしくは直接、それらの発する波動や力場のエネルギーを発動させてはこの世に顕現させるモノなのであって当然、中には自然の摂理を捻じ曲げてしまうほどに強力なモノも存在していた。

 そしてそう言った、所謂(いわゆる)禁術であったり奥義、極意レベルの呪法が発動された際にはこの世界や宇宙と言った、“時空の連続体”に掛かる負荷と言うモノが半端無いモノとなってしまい、それを力尽くで解除した場合にはどう言った副作用や反動が引き起こされてしまうのか、想像に難くなかった。

「しかし、今回の場合はそれほど高難易度な呪法が発動された訳では無いのだろう?要するに肉体の持つ原子や元素に働き掛けて、肉体を老化させる、と言うのが骨子となっているのならば、やりようはあるんじゃないのか?」

「確かに石化や盲目、混乱等の魔法もそれと同じような事ですしね・・・」

「“混乱”は脳のシナプスやドーパミンを一時的に滅茶苦茶に増大させたり、掻き乱したりする魔法。盲目は視神経をシャットダウンさせてしまう魔法だもんね?それを元に戻してやる事で回復して行くのであれば確かに、難しい問題では決して無いかも・・・!!!」

「いいや、皆。実はそれが一番、難しい所なんだよ」

 と蒼太が分析班員達に代わって答えるモノの、メリアリア達の言った通りで例えば今回の老化を始めとして石化、眠り、混乱、麻痺、盲目等はそんな凄い大呪法、と言う訳では確かに無かった、勿論、掛けた者の力量差により解除の難易度は変わって来るモノの、基本的にはあれはあくまでも肉体内部の神経や様々な物質の作用を“人為的に”変異させたり、掻き乱す事によりその効果を発揮するように作り出されていたモノであるから、セオリー通りに掛けられたモノならば解くのもそれほど、大変なモノでは決して無かったのである。

「掛けた相手を葬り去るか、そこまで行かなくともその魔力を断ち切るか。もしくは何某かの浄化手段で呪いそのものを消し去るか、そのいずれかで充分対応出来ます。また他にも変わった方法ですと、例えば浄化の術式を弾いてしまう呪い、等と言うのもありますけれども、こうした強力な呪いを重ね掛けされた場合なんかは、その呪いが打ち破られた瞬間に、一緒になって剥がれ落ちてしまったりもするんですよ」

 “ただし”と蒼太は言った、“これらはあくまでも、ある程度以上のレベルの戦士達に対してのみ、適応される現象なのです”と。

「・・・・・!!?」

「・・・・・!!!」

「どう言う事だ!?」

「例えばその身に極めて高い霊力を有していたり、または神々等から祝福を受けている存在、そんな人々には生まれつき、呪いや毒素に対して強力な浄化耐性が備わっています。彼等彼女達ならば、確かにそう言った呪法等にも対抗する事は可能でしょう。ですがこれが一般人となって来ると、話が全く違って来ます」

「・・・・・!!!」

「ああ・・・っ!!!」

「一般的な人々には、そう言った呪いに対する抵抗力が無い、と言うわけかっ!!?」

 “そう言う事になります”と蒼太は静かに頷くモノの、例えばそう言った、ある程度以上の力量を有する冒険者達が“石化の魔法”を掛けられたとしても、キチンとした屋内で管理されているのであるならば(即ち雨風に晒されて風化したりさえしなければ)、彼等彼女はその状態で永遠の時を生きる事が出来る上に、“解印浄化の術式”を用いる事でいつでも完全な状態で元に戻る事が出来る。

 何故ならば、仮に肉体が呪法で元素変換されてしまったとしても、それはあくまでも突き詰めて行けば“真実なる宇宙の愛”、“自然の摂理”から掛け離れている人為的な歪みであってそれ故に、抵抗力のある人々と言うのは魂の部分で呪いを弾き返すと同時にそこで人間であった頃の、ありとあらゆる自身の波動、記憶、そして思いを“量子的に”保ち続ける事が出来ているからであるモノの、それが“浄化法印”を用いられた瞬間に一気に放出されて来ては元の人体の持っていた、細胞や意識の固有振動数を取り戻す事が出来るからに他ならなかった訳ではあったがしかし、これが霊力や神力と言った、所謂(いわゆる)“抵抗力”が無い人の場合はその限りでは決して無いのだ。

「これはある冒険者達から聞かされた話ですが。“石化の魔法”を掛けられるとどうなるのか、と言うと、まず意識が半覚醒状態になるそうです。つまり微睡(まどろ)んでいる時の状態になる、と言えば良いでしょうか。眠って起きて、また眠ってを、ずっと繰り返すんだそうですよ?」

「意識が飛び飛びになるって事・・・!!?」

「そう言う事だね」

 愛妻の言葉に、蒼太がゆっくりと頷いて見せた。

「例えばある瞬間は覚醒していたとしても、次の瞬間には眠ってしまっている、と言うのを延々繰り返すんだそうだよ。やがて体が風化して死ぬか、誰かが助けてくれるまでね・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ゾッとするような話だが・・・。しかしある程度以上の霊力を持っている人間でもそれならば、無抵抗な一般市民はどうなってしまうのだ?」

「彼等が人間としての意識を保てるのは、精々持って二、三十年と言われています。それを超えると体の波長が完全に石と同化してしまい、それはつまり人間としての終わりを意味します。魂はそこから解き放たれて輪廻の輪の中に戻り、再び生まれ変わって新しい人生を始める事になるでしょうね、残念ながらと言うべきか、何と言うべきか・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ともかく。一般人に関しては我々の様にはいかないと。抵抗力が無いために早くに限界を迎えてしまうとそう言う訳だな?」

「その通りです、オリヴィア。だからこそ急がなくてはならないんですよ、手段を選んでいる時間は無い・・・」

「ねぇ、でも。ちょっと待って。それならば・・・」

「そ、そうですっ。“時間魔法”を用いて皆さんが攻撃を受ける前の状態にまで戻して差し上げたならよろしいではありませんの?」

「・・・・・」

 “いいや”とメリアリア達の言葉に蒼太が返した、“それは迂闊には出来ないんだよ”とそう告げて。

「“時間”や“空間”を司る魔法、所謂(いわゆる)“時空魔法”がどうして高難易度な術式なのか、熟すのが非常に難しいのか、と言えばそれは、他の魔法や呪術と違って万物を貫いて存在している“宇宙の法則”により近しい力、領域の業を発動させるからなんだよね。それはつまりはそれだけ“時空の連続体”に変異をもたらす、即ち“負荷が掛かる事を意味する”んだけれども・・・。実はそれだけには留まらないんだ・・・」

 蒼太が続けるモノの、“そう言う魔法を用いた場合、その対象に選ばれている人の体にも同じだけの負荷が掛かってしまうんだ”との事であり、だから“生命体として弱体化している、今の患者さん連中にそれを掛けた場合、効力が出る以前にその反動で死んでしまうかもしれない”と言う危惧を、彼は抱いていたのである。

「これがもし、“一般的な老化の魔法”であった場合なら問題は全然無いんだ、何故ならばそれを受けた人は本来の時間軸、即ち自然的時空法則を歪められて人為的に時を進められ、老人の姿へと変えられてしまっているわけだから、その分の時間を巻き戻させてやる事で問題は解決するんだよ」

 “ただし”と蒼太は言うモノの、今回の様に“肉体現象”としての老化が引き起こされてしまった場合にはこの限りでは無くて、ちゃんと掛けられた術式を精査して元に戻るための魔法、即ち“復元魔法”を掛けてあげないと、歪みが更に拡大してしまう結果となってしまうのだ、と言うのが彼の唱えた理論であった。

「セイレーンの同志達が調査に赴いた際に、“サン・サヴァン・シェル・ガルダンプ”の僧侶が言っていたらしいけれども・・・。それに拠ると、今回のマジックアイテムも、前回のメリーの時と同じような“伝説の法具”であったのだろうと思うよ?何しろ大昔の賢者達の祈りが形となって現れて来たモノなんだからね。ただでさえ、それだけ強力な術式を掛けられている所へ持って来て、その上から皿に新たな“時空魔法の術式”を上書きされるとなると、僕らならともかくとしても、何の霊力も持たない一般人には正直、かなりキツい筈だ。“老化現象”が相当に進行している今のあの人達では多分、持たないんじゃないかと思うよ・・・」

「そ、そんな・・・っ!!!」

「そんな事って・・・!!?」

「これは神様から教えてもらった話なんだけれども」

 と前置きした上で蒼太が続けた、“本来、時空の連続体に干渉する価値のある者と言うのは神々を超えた神々、その中でも極々一部の存在なのだそうだ”と。

「だから例え賢者と言えども人間の身で時空魔法を、ある程度は用いる事が出来たと言えども、間違っても“極める”等と言うことは、出来なかったに違いないよ。況んやマジックアイテムにしてそれを残すだなんて所業は、まず間違っても不可能だった筈だ、だから彼等は人の望みを聞くために、“実質的に人体の時間を巻き戻す”と言う方法を、取らざるを得なかったのでは無いのかな。・・・もちろん、その逆も然りだけれども」

「・・・・・」

「・・・・・」

「私達が使っている時空魔法は、表面的なモノに過ぎない。と言う訳ね・・・?」

「そう言う事になるね。勿論、多少の間ならば、時間を止めたり早めたり、はたまた巻き戻す、なんて言う事も可能ではあるけれども・・・。実際にはそれは、宇宙の根幹部分に触れる奥義、極意には程遠いモノなんだ、何せそう言った強力な“時空超越法”の行使は、余程の事が無い限りかは神様でさえも許されてはいない、と言うのだからね。だから本来ならば僕達人間になんか、勝手に許される筈は無いのさ・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「さっきも言ったけれども。時空魔法を扱う場合はだから、周囲の自然や対象に掛かる負荷が通常のそれらとは比較にならない位に大きいんだ。だからこのまま、ただでさえ体力や抵抗力の落ちている老人状態の一般人達に“術式の重ね掛け”を行ってしまうと、とんでも無くまずい事になるんだよ・・・。そう言う事なんだろ?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「その通りです・・・」

 蒼太の言葉に、半ば感嘆したかのように分析班の班員達が頷くモノの、彼女達としてみれば本来しなければならなかった煩雑な説明を、蒼太が変わりに受け持ってくれた事で“肩の荷が降りた”と思わず胸を撫で下ろしていた所であった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「復元魔法の完成を待つしか、現状で方法は無い、か・・・!!!」

「・・・オリヴィア」

 “ううむ”と唸って腕組みをする“氷炎の大騎士”に対して蒼太が再び口を開いた、曰く“伝説級の法具が他にも眠っている場所は何処ですか?”とそう告げて。

「あなた・・・?」

「蒼太さん・・・?」

「これは予測でしか無いんだけれども。もし今回の件、“ドラクロワ・カウンシル”が裏で糸を引いていたとしたならば、そして更にはその関係者としてエイジャックス連合王国が助力をしていた、とするならば。彼等の狙いはまず、間違いなくこのガリア帝国の弱体化にあります。国の内外で騒ぎや事件を連発させてその評価と評判とを失墜させ、更には賢者や魔術師達のもたらした“法具”を奪い去る事で、魔術的にもこちらの戦力や底力の低下を狙っているのです」

「それって・・・っ!!!」

「そう言えば、お父様から聞かされた事があります。彼等賢者や魔術師達は、このルテティアの街が落成した際に、それを守るために自分達の法力を封じたマジックアイテムを、何重にも連なって存在している“結界法陣”の術式に従って、ルテティアの彼方此方(あちらこちら)に散りばめて設置してくれていた、と。もしそれを、その“ドラクロワ・カウンシル”の人々が破壊しようとしているのだとしたら・・・」

「それだ!!!」

 蒼太が叫んだ、“多分、間違いは無いだろう”とそう言って。

「他にも結界の役割を担っている教会や寺院がルテティアにはあるはずです、オリヴィア。至急、警備を強化しないと!!!」

「そうか、それが狙いだったか。まさか防御結界の破壊が目的だったとはな、しかし今から考えてみれば、色々と思う所はあった・・・!!!」

 そう言うとオリヴィアは直ぐさまメリアリアを含めた全女王位並びに主力メンバーの招集と同時に上部組織である“ミラベル”、更には“ハイウィザード達”へも連絡を入れる事にした、事は国家鎮護やルテティアの街の治安維持問題そのものに直結するために、セイレーンだけでは手に余る、と見越した上での処置だったのである。

「今や敵はエイジャックス連合王国と“ドラクロワ・カウンシル”、この2つに搾られている!!!」

 集まった各位に対してオリヴィアがそう告げるモノの、彼女としてはこの機会を逃すこと無く主敵の2つの勢力を出来うる限りに邀撃して減少させておきたい所であった。

「彼等の最終的なる目的は未だかつて不明なままだが・・・。目下の所、何を目論んでいるのかは大凡の見当が付いたのだ。奴等は先人達が施してくれた、我が国の国家鎮護の為の結界を破滅させようとしている、それも極めて悪辣なる方法、手段によってだ!!!」

「賢者の法具を盗み出して悪用し、人々を苦しめているなんて・・・っ!!」

「考える事がえげつねーっすね、マジで信じられねーっすよ!!」

「他人様に迷惑を掛けるのって、本気で良くないって思うんだよな、俺は!!」

 流石のアンリ達が憤るがオリヴィアは声に熱を込めながらも、あくまで冷静に言い放った。

「現状、我々は常に先手を取られっ放しだが・・・。今回の事が上手く行けば、初めて奴等の組織の全容が明らかにされる可能性が出て来る、しかも盗まれた秘宝もセットで我々の手の内に戻って来る、と言うものだ!!!」

 “オオッ!?”と一部の者達からはざわめきが起きてうねりとなり、やがて隊員達全員に広がって行くモノの正直、オリヴィアにはある懸念があった、それは今回の事すらも彼等の意図する“段階的計画”の1つに過ぎず、その真の目的をまだ、見せてはいないのではないか、と言うモノだったのであるモノの、現に蒼太の話によれば彼等は“神々への反抗”を企てている、との事であって、それほどの大悪事がこれしきの事で終わる、等と言うことが、間違っても見えては来なかったのである。

「・・・・・」

(ええい、ままよ!!!)

 オリヴィアは思うが今はまず、何よりかによりも解決の糸口が見えている所からその糸を手繰り寄せなく手はならない局面であり、迷ったり悩んだりしている暇は無い筈である。

 それになにより。

(“ドラクロワ・カウンシル”・・・。次から次へと卑劣な手段ばかり使った上に、“私の蒼太”に手を出すとはな。そんな巫山戯た真似は絶対に見逃すわけにはいかない、必ず落とし前を付けさせてやる!!!)

(自分達とは何の関係も無い人々を、その日その日をただただ一生懸命に生き抜いている人々を面白半分に苦しめるなんて。人を何だと思っているのっ!!?それになにより蒼太を、この人に害悪をもたらす敵だなんて絶対に許せない。必ず私の手で打ち破ってみせるわ!!!)

(蒼太さんの敵は私の敵です、絶対に容赦しません。それに何の罪科も無い一般の人々までをターゲットにするなんて、何て心無い人達なのでしょうか。最悪です!!!)

 “狡猾な奴等だ”と心底その存在を唾棄しながらも、オリヴィアもメリアリアもアウロラもまた、それぞれに戦う決意を新たに固めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 石と言うのはそう簡単には風化しません(小さなモノでも二、三十年は持ちます!!)

 また今回のお話しで出て参ります、“時空の連続体、その根幹や真理に(より正確に言ってしまいますと、時間の流れ“そのもの”に関して)干渉する価値のある者、資格のある者と言うのは本来であれば、神々を超えた神々、その中でも極々一握りの存在だけ”と言う箇所は実際に昔、私がある方々から教えてもらった話が元になっています(その話を物語に絡めてみたのですね)、だから蒼太君達と言うのは、時空魔法を用いたり、時空に影響がある術式を発動させたりする際には非常に慎重に慎重を重ねます(それだけ周囲や対象者、及び掛けた本人に対する影響力や威力、リスクがある、と言う事なのです)。
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