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ガリア帝国編

VSレプティリアン戦(レベッカ編)

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 レプティリアンと言うのは主に二種類に分けられます。

 “生まれ着いてのレプティリアン”か、“後から魂と引き換えにレプティリアン化した存在”の2つに1つです。

 この内、レベッカは後者であり、ガイヤールやデマーグは生まれ付きの方です(ただし死んだ後に消滅するのは変わりません、と言うよりも彼等は本来であれば、とっくに抹殺されて然るべき連中なのを、邪神達が庇っているのです、それで長生き出来ているのですね)、なのでコイツらも蒼太君達に敗れた後は容赦無く抹殺します(実力的にはレベッカと殆ど互角な為に、“今の蒼太君達”ならばあまり手こずる事は無いと思いますが、ただ一人、デュマが問題です←コイツは本当に強いので、打ち勝つには蒼太君達の総力を結集させる必要があります)。

 今の蒼太君の場合、彼だけでも“撃退”したり、魔力を打ち破ったりは出来ますがハッキリと抹殺する事は出来ません(残念ながら)。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「どっりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 気合い一閃、レベッカは“魔力の槍”による超長距離精密射撃を行うべく、迫り来る“怨敵”に対して投擲を開始した、狙いは勿論、“奴ら”の中心的人物である蒼太であり、コイツさえ抹殺する事が出来たなら、メリアリア達“花嫁”はその帰るべき場所を、純愛の対象を、そして何よりかにより心の拠り所とでも言うべき存在を失って、その持てる輝きを発揮する事無く自己が崩壊して行くであろう事は、想像に難くない事象であった、その為。

 レベッカは最初の目標を蒼太のみに絞り込み、その持てる力の限りに強力なる一撃をお見舞いする所存であったが、しかしー。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「な、なんですかっ!?この禍々しいまでに害意溢れる殺気は・・・っ!!!」

「これは間違いなく、あの女の・・・っ!!!」

 蒼太達とてただ闇雲に追跡を行っていたのでは決して無かった、四方に気を配りつつも何があっても直ぐさま対応できるよう、万全の態勢と心構えのをしっかりと整えた上でレベッカの行方を追っていたのであった、それだからー。

 遥か前方に見える小高い岡の上で爆発的に発生していた、憎悪と凶暴さが多重に塗り込められている魔力の発動を感知しない筈は無く、何事かと思って各々、武器を持って身構えるが、特に彼等彼女の醜悪なるを、いやと言うほど身にしみて知っていた蒼太は自身も静かに、しかし最大限まで自らの白銀色に輝くオーラを練り上げ、それを油断無く剣へと伝わらせては魔力の溢れる空間を注視していたモノの、直ぐさま狙いが自分である事に気付いて本格的な迎撃態勢をとる事にした。

「・・・・・っ!!?」

(狙いは、俺か・・・っ!!!)

 レベッカの思惑を正確に見抜いた彼は大津国流の極意である、“創世・神龍波”の要領で魔力を時空間ごと断絶すべく、その場で一気に波動を高めた、やがてー。

 然したる間もなく、ヒュウゥゥゥッと言う音と同時に赤黒い光を放つ“魔力の槍”が虚空を劈(つんざ)いて自らに、真っ直ぐに向かって来るのが見て取れたが、それがまさに着弾するか、しないかの一瞬にも満たない程の刹那の合間にー。

 蒼太は腹の底から叫ぶと同時に凄まじい力と勢いとで剣を振りかぶり、狙いあまたず“魔力の槍”を真っ二つに切り裂いてみせた。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「蒼太・・・っ!!!」

 “僕なら大丈夫っ!!!”と心配の余りに声を掛けて来てくれた“花嫁達”に対してそう答えると、蒼太は続けて“今のうちに距離を詰めよう!!!”と彼女達に提言した、恐らくレベッカは戦略を“完全かつ速やかなる撤退”から“追ってくる敵対勢力の各個撃破”に切り替えたのであり、今の超長距離精密射撃はその証左と言えるだろう事が、青年には一目瞭然に見て取れた。

(レベッカのヤツ、此方を1人ずつ始末する気でいやがるな・・・!!!)

 そう思い立った蒼太はこの隙に、即ち投擲の第二撃が繰り出されるまでの間に少しでも標的(レベッカ)に肉薄しては距離を詰めた方が良いと判断していた、その方が標的を捕捉しやすくなる上に、そもそも論としてこちらも移動をしていた方がレベッカの狙いを逸らし歪める事が、出来ると言うモノである。

「レベッカは僕達を1人ずつ、遠くから狙い撃ちにするつもりだ。今の内に移動して距離を詰めた方が良い!!!」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

「一応、レベッカが前方にいる事だけは解ったけれども・・・っ。皆で全方位を警戒する事を忘れないように!!!」

 “良いね!!?”と蒼太が告げるとメリアリア達は直ぐさま頷き合い、“解った!!!”と彼に答えた、メリアリアもアウロラもオリヴィアも、蒼太の事をそれだけ信頼していたのである、彼の言っている事に間違いは無いし、現に自らの直感が告げていたのである、“彼は正しい”とそう言って。

「あのアジトの状況から鑑みて、内部にいたのは14、5人と言った所だ、だけれども!!!」

 と蒼太が続けた、“僕の残留思念探索(サイコメトリー)と波動追跡(エネルギートレーサー)によれば、全員がバラバラに逃げて行っているから、この場に増援が来ている可能性はかなり低い!!!”と。

「ただし、全く可能性が無い訳では無い。絶対に気を緩めないでくれ!!!」

「解ったわ!!!」

「解りました!!!」

「承知した!!!」

 自身の言葉にそう言って、三人が頷くのを確認した蒼太は直ちに、彼女達を率いての追撃作戦を再開させて行き、素早くそして確実に、レベッカとの距離を詰め続けて行ったのだが、その一方で。

「・・・・・っ!!?」

(は、弾きやがっただと?この私の渾身の一撃をっ!!!)

 それを見ていたレベッカは、些か以上に驚愕し、また動揺していた、信じられない出来事だった、魔力を放出していたとは言えども自分は投擲の直前までは少なくとも“殺気”自体は出してはいなかった、つまりは十二分に不意打ちに近い形で相手の脳天目掛けて“魔力の槍”を打ち込んでやったと言うのに、蒼太はそれを完全に跳ね返して見せたのであり、現に槍は彼女の見ている前で真っ二つに引き裂かれて四散していったのである。

(信じらんない、私の怒気と怨念とを、あれだけふんだんに練り込んで発動させた魔力で作った槍なのに、質量や力場エネルギーだってバカにならない位にあるのにっ!!!)

 “蒼太めっ!!!”とレベッカは前方の、蒼太達がいるであろう地点へと向けて目をやるが、ここからではまだ連中の姿を視認する事が出来ずに苛立ちばかりが募っていった、しかし疑問は増すばかりである、あの攻撃を蒼太は一体、どうやって凌いだと言うのだろうか。

「・・・・・」

 “そうか!!”と暫しの思案の末に、漸くにしてレベッカは直感を得た、“あの聖剣に違いない”とそう呟いて、再び蒼太達がいるであろう地点をキッと睨み付けてみせるが、しかしそれでも納得が出来なかった、如何に蒼太があの聖剣に守られている、とは言っても自分だって“ガイア・マキナ”にいた時よりも遥かに強くなっているのだ、どうしてもそれが腑に落ちなかった。

 レベッカは知らなかった、蒼太が“神人化”の奥義を極めている事を、そしてそこに“ガイア・マキナ”の蒼太から学んだ“大津国流の極意”を取り入れて混ぜ合わせ、更なる進化を遂げていた事を。

 ・・・そしてさらに言うならば、蒼太がその後も鍛錬を欠かさずにおり、それらを一層、強化していた事を、レベッカは知らなかったのだった、強くなったのは、自分だけでは決して無いのだ、と言う事を、彼女はまだ受け入れられずにいたのであるモノの、しかし事ここに至ってそんな事を言っても何の解決にもならなかった、“メイヨールに、力を授けてもらったのに・・・!!!”と呻いてのたうち回っていたレベッカだったがしかし、次の瞬間にはもう、“そんな事をしている場合では無い”と気が付いて、今現在の、迫り来る脅威に対する手立てを講じなくてはならなかったのである。

 事実として驚愕している余裕さえも、今の彼女には与えられてはいなかったのであり、急いで“怨敵共”を何とか返り討ちにしなくてはならなかったのであった。

「ち、ちくしょうっ。こんな事ってええぇぇぇっ!!!」

 “あって堪るかああぁぁぁっ!!!”と叫ぶと動じにレベッカは、第二、第三、第四撃を続けざまに投擲するが、それらも全て悉(ことごと)く蒼太によって切り裂かれ、虚空に四散していってしまい、何の用も為さなかったモノの、それを見た彼女はだから、本格的に茫然自失となってしまい、ワナワナと震えだした、こんな筈では絶対に無かった、本来であれば今までの攻撃で既に蒼太は息絶えている筈であり、残った“花嫁達”もまた、自身の最愛の夫の変わり果てた姿を見て完全に無力化されている、その筈であったのである、それなのに。

 事態は一向に好転しない所か、却って悪化の一途を辿った、このままでは何度、槍を投げても同じ事であろうし其れ処か却って此方の魔力や体力、そして何より精神力が消耗する一方である、攻撃を続ける意味がない。

 しかし攻撃を続行しなければ、いずれやられるのは此方である、このままではさほど間を置かずに追い付かれるであろうし、また仮に運良く例え逃げ果(おお)せたとしても、自分にはもう、“組織内”においての立場など無いのであるから、何としてもここで奴らを仕留めなくてはならなかった。

 かと言って。

(拙いな、一度に投擲出来る槍の数は限られている。これだけの質量、威力を維持したままで行える投擲数と言うものは・・・!!!)

 レベッカがそう計算するモノの、自身の怨念をふんだんに練り込んである魔力で形成されている“ランス”はだから、その為一発一発の威力が大きくて命中率も抜群のモノがあったし、超長距離精密射撃を行うに当たってこれほど確かな攻撃方法は、他には無かった、と言って良かったが、その分投擲の際には全神経を集中して行わなければならずに連射が利かないのが欠点と言えば決戦であったのである。

 一応、威力を落として形状を“矢(アロー)”とする事で、数十本からなる“それら”を連中の頭上から雨霰(あめあられ)と振らせる事も可能ではあったがしかし、そんな事をしたとしても到底、蒼太達にダメージはないであろうし、全て防がれてしまうのが関の山であろう事は、疑う余地の全く無い、極めて明白な事であった。

「・・・・・っ!!!」

(こうなったなら・・・!!!)

 “やむを得ないか”、とレベッカは思った、“全力を出すしかない”と。

 本当は“それ”になりたくは無かった、正直に言ってレベッカは今の自分、即ち“人間形態”の方が美しくて可愛らしく、格段にお気に入りだったのであるモノの、しかし。

「ここまで来たのならば、話は別だ。“レプティリアン化”して奴らを一気に葬ってやる!!!」

 そう独り言ちるとレベッカは、それまでのモノを上回る程の膨大なる憎しみと凶暴性を多重に含んでいる己の魔力を腹の底から練り上げては空中に放出し、それをまた“コオオォォォッ!!!”、“コオオォォォッ!!!”と言う独自の呼吸法によって体内へと取り入れてはますます強大化させて行く、と言った事を繰り返して行き、最終的にはそれらを全て丹田にまで落とし込んでは徐々に徐々に集約して行った、そうしておいてー。

「“神々に反逆する者よ”、“盟約に従いてその身、その力を我へと与えよ!!!”」

 呪いの言葉を唱えてそれらを一気に身体の外へと吐き出して行くモノの、すると彼女が息を吐き出せば吐き出した分だけ身体が変質して行った、美しかった頭髪は全てまるごと抜け落ちて行き、筋肉や骨格が発達して巨大化すると同時に顔が、皮膚が爬虫類のそれとなって行く。

 頭部や背中は硬い鱗に覆われて行き、腹部も蜥蜴の革となり果て、口は耳まで裂けて牙が剥き出しとなり、手には鋭い爪が生えて冷たい輝きを放っていたのだ。

「グルルルルルルルッ!!!」

 腹の底からそう“呻いた”彼女は次の瞬間、バケモノのような咆哮を発して宙に向かって手を翳した、すると。

 先程までのそれよりも、遥かに巨大で禍々しい“魔力の槍”が十二本程空中に出現したかと思うと、その全てが高速で回転し始めて行き、ギュルルルルルルルルルルッと言う独特の高音を立てたかと思うとその穂先が黒い雷球を伴ってバチバチと発光し始めたのだ、それをー。

 レベッカは蒼太目掛けて一斉に射出させたのであり、撃ち出された槍はビュ、ビュンッと虚空を穿ちつつ目標を目掛けて疾走して行くモノの、一方で蒼太達はその変化に、即ち魔力が暗黒化して強大化し、かつ凶暴なモノになっている事に気が付いて思わず前方の空間へと目をやるが、するとそこには先程までとは違う、完全なる“魔”の気配が満ち満ちており、しかも自分達へと向けて黒い雷球を纏ったランスが十本以上もすっ飛んで来るのが見て取れた。

 しかし。

「・・・・・」

(これは流石に、奥義を打たねば裂けきれ無いな・・・!!!)

 そう思った蒼太が大津国流の真髄である“創世・神龍波”を発動させようとした、その時だ。

「メリーッ!?アウロラッ、オリヴィアも・・・っ!!?」

 迎撃態勢を取っていた蒼太の目の前にメリアリア達三人の“花嫁”が展開してはそれぞれ鞭を、ロッドを、そして剣を構えて“魔力の槍”に相対し、それぞれ迎撃に打って出た、既に蒼太から“オーバードライヴ(超過活性)”を伝授されていた三人はそれを用いて、メリアリアは“絶対熱”を纏わせたウィップで、アウロラは“爆雷魔法”で、そしてオリヴィアは“極光の閃熱魔法”を纏わせた愛剣でそれぞれ槍を撃墜に掛かり、アッサリとそれを成し遂げてしまったのだ。

「・・・・・っ!!!」

(バ、バカな、一体、何が起こったのか・・・!!!)

 “なんてこった!!?”、“どうかしてる!!!”とそれを目撃していたレベッカはまたも驚愕すると同時に狼狽えるモノの、三人が“超過活性(オーバードライヴ)”を扱える事にもそうだったのだがそれぞれが発動させた術式、それにもだ、信じられない凄まじさである、今のは一体、何だったのか。

(“超過活性(オーバードライヴ)”を使っているのは、もう間違いは無いとしても・・・。もう一方の術式はなんだ、炎熱魔法や爆裂魔法の類か・・・?いいや、違うな。今のはそんな生易しいモノ等では断じてない!!!)

 そう結論付けるモノの、特に“此方のメリアリア”等は魔力によって形作られた槍(ランス)の力場を、その量子ごと削り取ってしまったのであり、その力は自分も未だに遭遇した事の無い、全く未知なる法力だった、向こうの世界、即ち“ガイア・マキナ”のメリアリアでさえも発動させた事の無い、恐るべき代物だったのである。

「・・・・・」

(たった一人で私の“魔力の槍”を四本とも、完全に消滅させやがった。あれは実に厄介だ・・・!!!)

 “それに”とレベッカは確信したのだが、残りの二人も問題である、メリアリアとまるきり同じモノでは無いモノのそれでも、何やら不可思議な法力を使う事は間違いなく、現に彼女達も一瞬にも満たない時間でランスを4つも撃滅しているのである、用心するにしくはない。

(あの青髪の女・・・。“アウロラ”だったか?確か“ガイア・マキナ”では“守りの道”を極めた女だった、あの黒髪の方はオリヴィアだな?“制圧の女王”の異名を取っていたのだが・・・!!!)

 “チッ”と舌打ちするとレベッカは今度はまたも戦略を変える事とした、今度狙うのは“蒼太達そのもの”では無くてその周囲の地面である、ここに魔力の杭を決められた図式に沿って打ち込む事で魔方陣を形成させ、四人を一挙に金縛りに追いやろうと言うのだ。

(これならば、確実に上手く行く。今までのモノと違って“殺気”が出る訳では決して無い、しかも今までので奴らも少しは消耗している筈だら余計な力は使わないだろう!!!)

 そう考えたレベッカは再び魔力の槍を出現させると、それをビュン、ビュンと飛ばし始めた、しかし。

「な、なにぃっ!!?」

(なんで・・・っ!!!)

 レベッカが愕然とするモノの、今度の槍も着地を待たずにメリアリア達によって瞬く間に邀撃されて行った、“超過活性(オーバードライヴ)”を使う事によって感覚もシャープになっている彼女達は殺気こそ出してはいないモノのそれでも、レベッカの放つ独特の害意を察知しては用心の為にと、やって来る槍を忽ちの内に叩き落とす作戦に出たのである。

「・・・・・っ!!!」

(く、くそっ。こうなったなら・・・!!!)

 “滅多打ちにしてやるよ!!!”と叫んでレベッカは自身の魔力と体力の続く限りに“魔力の槍”を生成、射出する事で所謂(いわゆる)“飽和攻撃”を行う算段を整え、四人の位置をなるたけ正確に測定しつつもそこへ向かってやたらめったらにランスを撃ち込み続けて行った。

 接近戦を行おうと言う選択肢を、彼女は持っていなかった、1対1の戦いならば、或いはそれも想定に入れられたのかも知れなかったが今回は最初から4対1である、しかも向こう一人一人の実力は此方と同じかやや上だ、だから仮に“そう言った戦い方”をしたとしても、結局はジリ貧となり、最終的には押し切られてしまうであろう事が、端から解りきっていた事であったのだ。

「ちくしょう・・・っ!!!」

(ここがもし、アジトか何処かだったなら。そしてもっと自由に使える戦力が、此方に揃っていたのなら・・・!!!)

 レベッカは思った、ソイツらを捨て駒にして奴らにぶち当て、しこたま消耗させた所を一挙に叩く、そう言う戦い方も出来たであろうに、しかし。

(やむを得ないか、“メイヨール”からは“組織に傷を付けるな”と言われているし。ここはやはり、どうやっても私の力でどうにかするより他にはしょうが無い・・・!!!)

 そう思い立つとレベッカへ本格的に現実へと向き合い始めて“魔力の槍”をそれまでよりも素早い速度で生成、射出して行ったのだが、しかし。

「てやあああああっ!!!」

「はああああっ!!!」

「たあああああっ!!!」

 攻撃は全て、メリアリアとアウロラとオリヴィアの三人によって阻まれてしまい、本来の一番の目標だった蒼太には一本も届く事無く打ち破られて、空しく空中で四散して行った、と言って蒼太も蒼太でただ黙ってその光景を眺め続けていた訳では決して無かった、彼は反撃用の魔方陣を密かにレベッカの上空に生成しており、彼女の意識が自分達へと向いている隙を突いて“封殺型”の術式を空から落としてその一切の活動を無理矢理にでも押さえ込もうとしていたのである。

「天空に瞬く星々よ、大いなる真理の探究者よ。我が思いに答えて力となれ・・・」

 彼が真言を唱え始めるとレベッカの頭上に青く輝く魔方陣が生成されて行き、そこには星々の光を集めて形成された“光の剣”が十数本出現していた、それらを。

 蒼太は一気にレベッカ目掛けて振り下ろしたのであり、“光の剣”は一本も狙いをあまたずレベッカの片、腕、腹部、両腿、両足を貫いてそのまま地面に突き刺さる。

「ぐ、ぐあああぁぁぁぁぁっ!!?」

 再びバケモノの様な呻き声を発してレベッカが地面にもんどりうって転げ落ちるが、蒼太は更にその上からも次々と剣を落着させては彼女の自由を完璧に封殺してみせた。

「ぐううぅぅぅ・・・っ!!?く、くそ・・・っ!!!」

(な、なんだこれはっ!!?痛みは無いけど身体に力が入らないっ。蒼太のヤツか!!?妙な呪(まじな)いを使いやがって・・・っ!!!)

 地面に倒れ伏したままで、それでも尚もレベッカがジタバタと藻掻いてはみたモノの、この星の光で出来た剣は少しも弛(たゆ)まずグラつきもせずに、地に堂々と突き刺さったままたじろぐ事さえ無かったのである。

 一方でー。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「やった、のか・・・!?」

 “それ”を“感覚的に”確認したメリアリア達三名もまた、油断無く残心を取って身構えつつも光の剣が落着して行った方向を見つめるモノの、蒼太の“・・・もう、大丈夫だ”と言う声に安堵して一時、兎にも角にも彼の下へと集結するが、この時、蒼太が使ったのは“星光封殺陣”と言う極めて特殊な呪(まじな)いであり、星々の波動光を集約させて形作った封殺剣を標的の頭上から打ち下ろして貫通させ、その力を奪うと言う、“封印術”の一種であった、本来であれば“神によって祝福を得た人間”しか扱う事が許されないが、“神人化”の出来る蒼太はその資格があると見做され、特別に修得する事が出来たのであった。

「・・・・・っ!!!」

(す、凄いっ。凄いわこの人ってば、本当に・・・っ!!!)

「す、凄いです蒼太さん。あれだけ高度な封印術を扱えるなんて・・・っ!!!」

「大したモノだ、流石は蒼太だな・・・!!!」

「皆、取り敢えずまずは距離を詰めよう!!!」

 自分に詰め寄ってはそう声を掛けてくれる三人に対して“ありがとう”と応じた蒼太はそれでもまずは、全員の安全を確保する為にもレベッカの身柄を拘束する事を最優先事項とし、“疲れていないか?”とメリアリア達を気遣いつつも先を急ぐ事とした。

「みんな、ありがとう。守ってくれて。いや本当に凄く助かったよ、なにしろ正直に言ってこの呪いは、発動する際には全神経を集中させなければならないから、ちょっと癖のある術式なんだけど。でも決まれば並大抵の相手ならば封殺する事が出来るから、そう言う意味では最強の一角に属しているモノなんだ・・・!!!」

「そうだったのね!!?だけど良いの、そんなこと・・・っ。だってあなたが無事でいてくれたんだもの、それにしてもアイツってばなんなの?今度はあなたばっかり狙って来るような真似して。本当に腹立たしいったらないわ、許せない!!!」

「凄い殺気でしたモノね、どうして蒼太さんを彼処まで殺そうとするのかは、疑問でしたけれども・・・。でも絶対に許せなかったです、私の大事な蒼太さんに、こんな真似を働くなんて・・・っ!!!」

「ああ、本当にな。この手で八つ裂きにしてやりたい位に憎たらしい女だ、あのレベッカとか言うヤツは!!!」

「あ、あはは。あははははははははは・・・っ!!!」

 と怒り心頭に達していた三人に対して蒼太は為す術も無く笑って見せたがメリアリアは勿論の事だとしてももし、自分が彼女達全員と、結婚する事になったのであれば、どうするのだろうと考えるモノの、彼女達はきっと自分に何処までも着いてきてくれるだろう事は間違いないとしても自分は多分、余程しっかりしなければ尻に敷かれっ放しとなってしまうであろう事は想像に難く無い事実であった。

(が、頑張れよ、俺。本当に何とか頑張ってね・・・!!?)

 そう言って心の中で自分で自分に喝を入れると、蒼太は術式の効果が切れる前にレベッカを捕縛することを提言して四人で再び隊列を組み直し、標的目掛けて疾走して行くモノの、ちょうどその頃。

 レベッカは必死になって“封殺陣”から逃れようとしていた、手足に何とか力を伝えて起き上がろうとするモノの、身体に全く意志が伝わっては行かないのである、半ば途方にくれていた彼女はしかし、それでも尚も往生際悪く、まだ姿も見えない蒼太に敵意を剥き出しにしたままで四肢をピクッ、ピクッと震わせては抵抗の気概を露わにする。

「・・・・・っ!!?」

(ちいぃぃっ。奴らが、もうすぐそこにまで来ているってのに!!!)

 しかし事態は何も変わらなかった、“こんなことならば”と事ここに至って漸く、レベッカは後悔の念が滲み出して来た、最初から蒼太達に狙いを定めるのを公言するのでは無くて、“人類恐竜化計画”のみを推し進めて居れば良かった、と。

(恐竜化計画を進める為には、どの道“ガリア帝国”を潰す事になっていたんだ、どうせその途上で蒼太達は妨害をして来るに違い無かったのだから、早かれ遅かれ“組織の抹殺リスト”にはその名前が載る事にもなっていたはずだ。それから動くべきだった!!!)

 “そうすれば”とレベッカは思った、“こんな圧倒的劣勢のままで戦い続けなければならない理由は何処にも無かった”と、もっと組織の援助も何もかも、当てにしても良かったであろう、と。

(“キング・カイザーリン”も恐らくは、アイツらの抹殺を支持してくれたかも知れない、動くのはそれからだったんだ・・・!!!)

 レベッカはそう判断するモノの、実は彼女の脆さはここにこそあった、と言って良い。

 最もこれは何も、彼女に限った話では決して無かった、同僚の“ガイヤール・デュポン”、“デマーグ・バーグマン”双方にも言えた、共通点ではあったモノの、彼女達と言うのは基本的には自分と互角か、それよりも強い相手と戦った事が殆ど無かった、特にレベッカは向こうの世界のメリアリアと戦った事があったが後者の二人に関しては、そんな事はまず皆無だった、と言っても良いが、そんな訳であったからだから、こう言う逆境に恐ろしい程に弱くて“心一貫で立ち向かう”と言う事が、間違っても出来なかったのである。

 要するに精神的に極めて脆く、追い込まれると弱かった、と言い換えても良かったモノの、これが例えば蒼太達ならば最初の段階で超長距離射撃には見切りを付けて逃走しつつ相手の出方を探り、隙を見付けては攻撃を行う等の“劣勢ならば劣勢でどう戦えば良いのか”と言うことにまで頭と気持ちが回るのである。

 何故ならば心が負けていないからであったモノの、しかしこの三人に関しては話は別であり、最初から弱者をいたぶる事しか考えていない、もしくはそう言う事しかやって来なかった連中であったから実力的にも中途半端な上に、(有利な時はともかくとしても)不利になると途端に逃げ腰になってしまう、と言う特徴があったのだった。

「グルルル、グルルルルルルル・・・ッ!!!」

(ええい、クソ、クソッ。こいつ、外れろっ!!抜けろよ、この、クソ・・・ッ!!!)

 そんな事をしている間に。

「いたぞ!!!」

「アソコかっ!!?」

 ガチャガチャ、ザッザッと“装甲具”の擦れ当たるそれと同時に自分に近付いてくる足音がして、更には蒼太達の話し声までもがハッキリと耳に響いて来た、そうしてー。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「な、何ですか!?これは・・・っ!!!」

「“レプティリアン”だ・・・」

 変わり果てたレベッカの姿を見ては戸惑う三人に対して蒼太が告げるがそれは紛う事無く“レベッカ・デ・アラゴン・イ・シシリア”その人だったモノであり、蒼太達が“この世界では”最初に遭遇した“生身のレプティリアン”そのものであったのだ。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

(な、なんて禍々しい醜気。それに何なの?この酷い臭いは・・・っ!!!)

(こ、これが本当に人間だったモノなのでしょうか。それにしては人の温かさも何も、微塵も感じられませんけれど・・・っ!!!)

(これが悪魔に魂を売り渡した人間のなれの果てか。余りにも酷すぎる、悍まし過ぎる・・・っ!!!)

 平然としている蒼太と違い、三人は声も出なかったモノの、蒼太は倒れ伏しているレプティリアンの、頭部に向かって話し掛けた。

「久し振りだな、レベッカ。もっとも1週間振りに過ぎないけれども・・・」

「グルルルルルルル・・・ッ!!!」

 蒼太からの言葉に対してレベッカからは何の返答も存在しなかった、もはや“言葉すら忘れた”とでも言わんばかりに腹の底からグルグルと、唸り声を発しては爬虫類特有の、縦長の眼を蒼太に向けて悔しそうに睨み付けていたモノの、そんな彼女の。

「・・・・・っ!!?」

「そ、蒼太さん!!?」

「なにを・・・!!?」

 顔に向けて蒼太は一本、“星光の剣”を生成するとそれをブスッと突き刺してみせた、これで顔の動きと牙による“噛み砕き”を防ぐのであり、捕縛に向けた最後の手だった。

「オリヴィア」

 蒼太が“氷炎の大騎士”に“今の内だ”と語り掛けた、“手足を二重に拘束してくれ”とそう言って。

「剣を刺したまま、手足を自由にする。ただしその状況では自由は効かないから問題は無いよ。先ずは足からだな・・・」

「了解した」

 蒼太の言葉に頷くと、オリヴィアは持って来ていた足用の錠をレプティリアン化しているレベッカの足首に、何とか二重にはめる事が出来た、後は手だけであるが此方も問題なく手首に二重に錠をする事が出来たのだ(レベッカは抵抗していた様だったが)。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「任務完了、だね・・・」

 一応、残心を取ると同時に周囲数キロに渡って意識を飛ばしていた蒼太は、異常や敵意のある輩が誰も居ないのを見てそう答えた。

「オリヴィア、本部に至急連絡を。標的を生きたまま確保、ただし異形の姿を取っていると。迎えが来たらコイツを連れて、一足先に帰ってくれ、僕はまだちょっとここで、やる事があるから・・・」

「水臭いぞ、蒼太!!!」

 すると漸く、多少は緊張を解いたオリヴィアが蒼太に告げた、“それならば私も残ろう”とそう言って。

「僅か1週間とは言えども、文字通り寝食を共にして来たんだ、最後まで付き合うわせてもらう!!!」

「ううーん。しかしそうなってしまうとコイツの護送と尋問とを任せられる挙げ句に、上に正確に物事の伝達を頼める人がいなくなってしまうんだよ、オリヴィア。君しかいないんだ、頼むっ!!!」

「むううぅぅぅ・・・っ!!!」

 と尚もオリヴィアは不服そうな顔を見せるが現状で、蒼太の言っている事は頷ける。

 確かに組織全体を俯瞰しつつ指揮を執るべき責任ある立場にあるオリヴィアが、それも今回の犯人(ホシ)の様な重要参考人を連行して報告しなくては、職務怠慢の誹(そし)りを受けてしまうであろう事は想像に難くなく、このままでは今の役職を解任されて蒼太とも一緒にいられなくなってしまうであろう事は間違いの無い事実であった。

「た、確かにこのままでは拙(まず)い状況に陥ってしまうだろうが・・・。ううーむ、しかし・・・っ!!!」

「頼むよオリヴィア、君しかいないんだ。何とかコイツを本部まで見張って行ってくれ!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解った”と暫しの沈黙の後に、オリヴィアは渋々、本当に渋々頷いた、しかし蒼太の言っている事は確かに頷ける事である、従わない訳には行かなかった。

「では取り敢えず、私は本部に連絡を取る事にして。二人とも蒼太を頼むぞ!!?」

「解ったわ、オリヴィア!!!」

「任せておいて下さい!!!」

 三人がそう声を掛け合って頷き合っていた時には、蒼太は既に現場に残されていた残留思念探索と波動追跡とを実施するべく、一度“神人化”する為の準備に入った、正直に言って“レプティリアン”の波動は余りにも禍々し過ぎて生身の人間の状態では、どんなに“受け流し”を徹底させても被ってしまう可能性があった為である。

 当然、その間は蒼太は無防備になってしまうのであり、しかも側にはレベッカがいるのだ、ここでは“それ”を行う訳には行かなかった。

「・・・・・」

(えと。何処か適当な場所は・・・)

 と蒼太はそこで初めて年相応の一青年の表情を見せるがそれはいつもの蒼太とは違う、どうにもパッとしないしかし、幼さの残る精悍な顔立ちをした、戦士の休息の面持ちであったのだ、それを。

 レベッカは見逃さなかった、いざの際に発揮されるべき度胸や胆力と言ったモノは皆無だったこの少女はしかし、その分自分の保身を図る事と他の人間の隙を突く事に掛けては恐ろしい程に敏感だった、今なら蒼太を始末出来る、そうなれば自分は“時空を糺す者”を抹殺した事になり、今回の失敗だって帳消しになって余りあるかも知れないのである、ここで手を拱(こまね)いている理由は何も無い。

(一発分だけ生成できる、私の魔力を込めた槍っ。食らえぃ、蒼太ぁっ!!!)

「・・・・・?」

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

 レベッカの槍は狙いを外さず、蒼太の胸を貫いた、筈であったがしかし、その前に二人の女性が立ちはだかった事で状況は一転した。

 一人はいうまでもなくメリアリアであり、もう一人はアウロラだった、彼女達は一方が鞭で槍を叩き落とすと同時にもう一方が魔法を掛けてはそれを雲散霧消させて見せたのであったが、同時に。

 それが済んだ後、一瞬何が起きたのか解らなくなっていた蒼太に全力で走り寄ると思いっ切り飛び付いて泣きじゃくった、“あなた、あなた”、“蒼太さん、蒼太さん”とそう言って。

「ヒック、グス。ヒグッ!!あ、あなた、あなたああぁぁぁ・・・っ!!!良かった、本当に良かったわ。本当に・・・っ!!!」

「そ、蒼太さん、蒼太さんっ!!!ウエェェ、ヒグッ。グスッ!!よ、良かったです、御無事で本当に・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

 蒼太は呆然自失としながら、それでも二人をしっかりと抱き締めて、そして言った、“有り難う”と。

「また、君達に。命を助けてもらったね・・・。有り難うメリー、アウロラ・・・!!!」

「ヒッグ、グスッ。ウエェェッ!!!そ、そんな事無い、そんな事無いよぅっ!!!あなた、あなたああぁぁぁっ!!!」

「ウゥッ、グスッ。ヒック、ヒックッ!!!蒼太さん、だって蒼太さんはぁ・・・っ!!!ウ、ウエェェッ!!!」

「・・・・・っ!!?な、なんだ?何があったんだ、蒼太っ!!!」

 騒ぎを聞き付けたオリヴィアもまた、必死の形相で彼の元へと駆け寄って来るモノの、話を聞いて先ずは一発、レベッカをぶちのめしに行って来たのであった、そうしておいて。

 彼女を気絶させた四人はそのまま暫くの間、応援が現場に来るまでの間、一カ所に固まって過ごしており、他のメンバー達の到着を待ってオリヴィアは蒼太に言われた通り(先程の事もあって不安でいっぱいであったのであるが)兎にも角にもレベッカの身柄をミラベル本部の地下にある、“特別総監室”に送るべく、異形と化した彼女共々自動車に乗って去って行った。

 それを見た残りの面々も準じ撤退をして行くモノの、蒼太とメリアリアとアウロラだけはその場に残って彼の行う“神人化”と、それに続く“残留思念探索”及び“波動追跡”を見守る事となったのである。

「ふううぅぅぅ・・・っ!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 漸く全てが終わって彼等も本部に帰る前に。

 蒼太はメリアリアに礼を言うと同時に尋ねた、“僕の為に有り難う”と、“だけど恐くは無かったかい?”とそう言って、すると。

「そんな事を考えている余裕なんて無かったわ!!!だってあなたが死んでしまうかも知れないんだもの、そう思ったら身体が勝手に飛び出していたの。だけど無事で本当に良かった・・・っ!!!」

「・・・・・」

 それを聞き届けた蒼太は続いて、アウロラにも同じ事を尋ねてみると、やはり。

「だって蒼太さんが死んでしまうかも知れなかったんですもの、そう思ったらいても立ってもいられなくなって、気が付いたらアソコに立っていました、でも良かったです、蒼太さんが御無事で・・・!!!」

「・・・・・」

 “メリー”と、その言葉を聞いていた蒼太は再び愛妻の名を呼ぶモノの、その顔は真剣そのものであり、瞳には強い決意の光りが宿っていた。

「・・・・・っ。なぁに?あなた。どうしたの?」

「前に言ってくれたよね?一緒に生きて一緒に死ぬって。一緒に地獄の底まで落ちても良いって・・・!!!」

「言ったわ!!!」

 メリアリアは蒼太の言葉を真正面から受けても些かも臆することなく頷いてみせた。

「今もそう、思ってる。死ぬときは一緒よ、だけど必ず生きて帰りましょうね・・・!!!」

「うん、僕も同じ気持ちなんだけど・・・。あれ、アウロラも一緒に良いかな?」

「ええっ!!?」

 唐突に発せられた夫からのその言葉に、メリアリアは驚きの余りに一瞬、二の句が継げなくなってしまったモノの、一方で。

 “とうとうこの日が来たか”と思った、彼女は知っていたのである、蒼太の心の葛藤も、その内面から滲み出る苦しみも。

 そしてアウロラの気持ちにもまた、気が付いていたのであったが、それを全て解決する為にはもはや、方々は一つしか残されてはいなかったのであるモノの、即ちー。

 蒼太が自分達二人を受け止める、と言うそれであったが蒼太は元々、決して軽薄な気持ちや思いつき等でそう言う事を言う人等では無かったし、何か頼み事をする時と言うのは己の全てを賭けて、つまりは命と人生そのものを賭けてこれに充てる人だったのであるから、その事を知っているメリアリアはもはや、何も言えなくなってしまったのである。

 裏を返せば、それだけの覚悟や気迫が無かったのならば、如何にメリアリアであろうとも蒼太の言葉に安易に頷くような真似等は、間違ってもしなかった筈であったし、それ以前に何よりかによりの話としても、自身もまた命を賭けてまで、この人の為に尽くそう、等とは思わなかった筈である。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “もうっ!!”とメリアリアは思った、惚れた弱味を突かれたなと思った、“そんな真剣な顔でお願いされたら、断りたくても断れないじゃないの!!!”と、そう思ったら覚悟も決まり、気持ちも随分爽やかになった。

「良いわ!!!」

 とメリアリアは答えていた、本心からの言葉を言い表すのであれば本当はそれでも、ある種の寂しさと懸念があるにはあったがしかし、それらを全てググッと飲み込んでは蒼太に対して全く曇りの無い笑みを浮かべて力強く頷いてみせる。

「あなたが苦しんでいたのは、知っていたし。それにアウロラの気持ちにも、気が付いていたからね!!!」

 とそう告げて。

「メリー・・・!!!」

「だけど私、負けないからね?あなた。だって私が一番、あなたの事を愛しているんだから!!!」

「・・・・・っ!!!」

 “有り難う”と、彼女の嘘偽り無いその言葉と思いの丈に心の底から感謝を述べて抱き締めるとソッと口付けを交わして蒼太は、続いて反対側でキョトンとしている青髪の少女に向き直った。

「アウロラ・・・」

「は、はい・・・っ!!!」

「今度は君だよ、アウロラ・・・!!!」

 と蒼太はアウロラに歩み寄りながら言葉を紡いだ。

「た、大切な話・・・?な、なんでしょうか・・・?」

「うん。実は僕達。つまり僕とメリーは今度、結婚する事になっているんだ!!!」

「・・・・・っ!!!!?」

 と、何か大切な話があるのだろうと心していたアウロラはしかし、その言葉に仰天してしまっていた、信じられなかった、信じたく無かった、蒼太はきっと、最終的には自分を選んでくれると心の何処かではそう思っていた彼女はしかし、一方では“やっぱりな”とも思っていたのである、それというのも。

 勿論、二人の関係性が長いモノである事を知っていたからでもあったモノの、それに加えてアウロラが見た所、メリアリアは素晴らしい女性である、些か気は強いモノの、純情で一途で芯も強く、何があっても折れない心を持っている。

 それに何よりかによりとして、蒼太が危機に陥った時にみせたあの光りだ、魂の持てる輝き、真愛と真心の発現とも言えるそれは、要はそれほど強く確かに、メリアリアが蒼太の事を愛している証拠であった、それを見た時。

 アウロラは密かに思ったのである、“自分では無くて、メリアリアさんの方が蒼太さんに相応しいのでは無いかしら?”と。

 だからこの話を聞いた時に、“とうとう来るべき時が来たな”と思った、“私の蒼太さんは、永遠に心の中の男性(ひと)になったんだ”と思った、そして凄く悲しくて辛くて、涙が出そうになったけれども、何とか堪えようとした、せめて笑顔で送り出そう、送り出してあげようと、そう決意しつつアウロラが瞼を閉じてゆっくりと微笑み、目を開けようとしたその瞬間だった、“君も一緒にこないか?アウロラ・・・”と蒼太から問い質されたのは。

「・・・・・っ。え、えっ?」

「君は、僕と一緒になりたくないかい?アウロラ・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “えええええっ!!?”とアウロラが叫び声を挙げて驚愕した、目をまん丸くして蒼太を見つめ、続いてメリアリアの方を見る、すると。

 メリアリアは優しく微笑んで頷いてくれていた、アウロラはビックリしてしまった、“まさか蒼太さんは重婚するつもりなのだろうか”と事ここに至って漸く彼女は自身の最愛の人の思いに気が付いたのであったのだ。

「で、でも、でもっ。私、私・・・っ!!!」

「もしかして嫌なの?アウロラ・・・」

「ち、違います、違いますっ。嫌とかそう言う事では無くて・・・っ!!!」

 “ちょっとビックリしちゃっただけで・・・!!!”とそう告げるとアウロラはその場で涙を流し始め、思わず嗚咽を漏らしてしまった、“ウエェェ、グスッ。ヒック!!!”と泣きじゃくりながら。

「アウロラ・・・」

「ち、違います、違うんです。その、私っ。嬉しくって、それで・・・っ。ウ、ウエェェッ、ヒック、ヒック!!!」

「おいで?アウロラ・・・」

「・・・・・っ!!!」

 そう言って蒼太はアウロラを自身の腕の中に招き寄せるがいつ以来だろうか、蒼太にこうして抱き締められるのは。

 その安らぎと温もりの中に蕩けて、まるで大空を飛び回るかのような満たされた心地に浸るのは。

「ウ、ウエェェ、グスッ、ヒグゥッ!!!えーん、えーん・・・っ!!!」

「いっぱいお泣き?アウロラ。もう絶対に離さないからね・・・!!?」

 蒼太から告げられたその言葉に、自らも夫にしっかりとしがみ付いたままでアウロラはそれから実に、小一時間に渡って泣きじゃくり続け、すっかり蒼太の装甲具服を涙でビショビショに濡らしてしまった、蒼太はそれを何度も何度も拭ってやったが、やがて気分が落ち着いたのか、アウロラは身を少しだけ離して自身の新郎となった、最愛の人の顔を見る。

「で、でも。それでよろしいのですか!!?だって、重婚するには・・・」

「解ってるよ・・・」

 蒼太がその言葉を途中で遮り、自身で続けた。

「国によって認められた“英雄”か、“聖人”にならなければならないんだろう?僕、頑張るから。だから大丈夫だから・・・」

「あ、あの。それでその・・・。メリアリアさんは?」

「・・・私の心配よりも、自分の心配をしなさいよ。アウロラ!!!」

 とメリアリアはわざと挑発的な言葉を吐いた、だってしょうがないではないか、あんなモノを見せられたなら。

 そうだ、あの時。

 あの“カインの子供達”との戦闘の最中に、危機に陥った夫を助けたあの光は、間違いなくアウロラが魂に宿り秘めたる、彼への確かなる真愛と真心の発露の光、それそのものに他ならなかったのだから。

「貴女の気持ちは、知っているもの。でもねアウロラ、私絶対に負けないからね!!?彼は私のモノなんだからね!!!」

「・・・・・っ!!?わ、私だって!!!」

 “負けません!!!”とアウロラは返すが、それを聞いたメリアリアは澄ました顔で聞き流した、そうして。

 最愛の夫にである蒼太に向かって、満面の笑みで頷くと自身も彼へと抱き着いて、そしてー。

 その唇にキスをした。

「・・・・・」

「ん・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

 それを見たアウロラは最初はキョトンとしていたモノの、程なくして悔しそうな面持ちとなり、最後に自身もちょっとだけ勇気を出してー。

 それでも一瞬、逡巡して一息置いてから、蒼太の唇に、唇を重ねてみた、すると。

 無味無臭な筈の彼の唇からは幸せの甘い風味が胸いっぱいに広がって行った。
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