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ガリア帝国編

連戦前夜

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 “エカテリーナ撃破さる!!”、その知らせは多大な衝撃を持ってハウシェプスト協会内部を駆け巡った、信じられない出来事だった、あの“暁の三幹部”の一人、エカテリーナが打ち倒されたのだ。

 その知らせを聞いた時、デュマは初めて我を忘れて呆然となった、台座に深く腰掛けたままで瞳をカッと見開きつつも、身動き一つしなかったのである。

「メイヨール・・・?」

「どうなされますか?」

 ガイヤールとデマーグがそれぞれ、自身に伺いを立てる声すら彼の耳には入っては来なかった、この報告は、それほどの衝撃を彼へともたらしたのである。

「レベッカ・・・!!!」

「・・・・・?」

「メイヨール・・・?」

 訝しげな表情を浮かべるガイヤール・デュポンとデマーグ・バーグマンにそれぞれ、ゴホゴホッと咳払いをしてみせるとデュマは己を取り戻しては二人に告げた、“まずは真偽の確認を取れ”とそう言って。

「レベッカが、エカテリーナが本当はどうなったのか。生死の程を探るのだ!!・・・手立てはその後に考える!!」

 そう告げるとデュマはその場で深く瞑想しては、レベッカの波動を追って見るモノの、すると途中までは確かに繋がっていた彼女の即席が、ある地点を境にバッサリと切り落とされて見えなくなってしまっていたのである、それは即ち波動を遮蔽膜か何かで覆われてしまっており、探知出来ないようになってしまっている事を示していた、それの意味する所は。

「間違いない、レベッカはまだ生きておる・・・!!」

「・・・・・!!!」

「なんですと!!?」

「至急、生死の確認共々レベッカが、エカテリーナが何処に連れて行かれたのかを探るのじゃ。手段は問うな、行けぃっ!!!」

「・・・もし、邪魔者が現れた時には?」

「その時は構わぬ」

 “始末せよ”とデュマが答えると2人は“ははっ!!”と言う返答と同時に直ちに手勢を引き連れて彼の元から出立していった、もし事がデュマの思っている通りに進んでいるのだとすれば、これは由々しき大事態である、何としてでもレベッカの、即ちエカテリーナの身柄を奪還しなくてはならなかった。

(我等“レプティリアン”の秘密が外界に漏れる等、絶対にあってはならぬ事だ!!!)

 そう思い立つとデュマはいそいそと立ち上がっては自身も暗がりの帳から出でて、闇夜に覆われている外の世界へと向けて、久方振りに歩を進めて行ったのである。

「いよいよとなったら」

 と独り言ちながら。

「私も出る事を考えていないといかんなぁ・・・っ!!!」

 誰にともなくそう呟くと、デュマは両手を後ろで組みつつその場をウロウロとし始めた、彼にしては珍しく動揺を隠せていない様子であり要はそれだけ、精神的ダメージが大きかった事を意味するのであったが、しかし。

「・・・・・」

(レベッカが捕らえられた、と言う事は・・・!!!)

 デュマは尚も思うが相手もまた、相当な手練れである事を意味する訳であり、もしこの者達と一戦、交える事にでもなったら、正直に言っていまのガイヤール達では“レプティリアン化”したとしても歯が立たないかも知れないのである。

「・・・・・」

(万に一つの可能性も考慮して・・・。ここは慎重に立ち回らねば!!!)

 そう考えるとデュマはそれでも落ち着きを取り戻せないまま、頭の中を高速で回転させつつ付近をウロウロと徘徊しては、己が心根を落ち着かせて行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 一方で、ちょうどその頃。

 国家高等秘密警察組織、通称“ミラベル”の本部ビル地下十五、六階の深層に設置されていた、最重要犯罪人を取り調べる為の特別留置場“総監室”内において、デュマの予想通りにレベッカは厳しい追及を受けていた、“このままでは身体が持たない”と言い、元の人間の姿に戻った彼女に対して間髪入れずに蒼太やメリアリアを始めとした、今回の為だけに結成された“真相解明チーム”連中による、連日連夜の尋問が開始されたためである。

「事情を、説明してくれないかな。レベッカ・・・」

「・・・・・」

「あの時。確かに“向こうのメリー”に止めを刺された筈のお前が、なんでこの世界にやって来れたのか、なんで大人の姿になっているのかを・・・!!!」

「・・・・・」

「あの化け物の姿はなんだ?己の魂と引き換えに、“レプティリアン”と取り引きしたのか?答えろっ!!!」

「・・・・・」

 囚われの身となったレベッカは、ずっと黙秘を貫き通していたモノの、もっとも。

 あんな姿(レプティリアン体)を見られてしまった今となってはもはや、どう足搔いても自らの正体を隠し通す事等不可能な筈なのに、それでもレベッカは頑として此方の言葉に耳を貸さずに沈黙を守り通していたのである。

「彼女達にはもはや、自分自身の魂と言うモノが存在してはいないからね」

 その日の取り調べを終えて帰る途中に、蒼太がメリアリアとアウロラに話すが悪魔と取り引きをしてその魔力を得た変わりに魂を失ってしまった彼女達はもはや、“邪神達”の操り人形以外の何ものでも無く、今だって果たしてどちらの意志が出ていて沈黙を貫いているのか解らない、と蒼太は難しい表情のままにそう告げるが、この“レプティリアン”と言う種族には謎が多くて彼もまた、その全てを解明出来ている訳では決して無い。

 ただし。

 神界での修業の砌(みぎり)に神々から教えてもらえた事はあって、その範疇でならば理解していたつもりではあるモノの、要するに享楽に現を抜かして己自身を見失った恐竜達の末路、それ以外の何者でも無かったのである。

 凶暴強欲なる原初本能と、生存競争意識のままに流され続けて生きた彼等は結局、己の中にある光、輝きを見出してはそれを磨く、煌めかせると言う事を、一切しなかったのであって、遂には己が何者であるかも忘れてただただただただ、刹那の愉悦に集中、没頭するようになっていってしまったのであったが、そんな連中と取り引きをしてまでレベッカは何を得たかったと言うのであろうか、そこが良く解らないのであった。

(そんな事をしたって、魂は無くなってしまうしな。そう考えるともう、レベッカはいないのかも知れないな、アソコにいるのは単なる“レベッカのようなモノ”でしかなくて、要するにレベッカの“残留思念”が奴等から与えられている“仮初めの意識”を纏って動いているだけか・・・!!!)

 “そう考えると”と蒼太は更に思案を続けた、“奴等は手足の指を一本、失ったようなモノか”と、あれだけてんてこ舞いさせられた挙げ句にそれしか成果が得られないのは、まさしく“骨折り損の草臥れ儲け”以外の何ものでもない。

 もっとも。

(ただし“無駄骨”ではない・・・!!!)

 と蒼太は思うが相手方が自分の秘密を護る為に必死になっている事は間違いなく、そうだとすれば恐らく、レベッカをこのままにしてはおかないだろう、必ず奪還にやって来る筈であり、奴等との決戦の日は近い筈だ、用心するにしくはない。

(この事を一応、オリヴィアの耳にも入れておくか。後はアイツらの狙いが何処にあるのかだけなんだけれども、しかし・・・)

「・・・なた、あなた!!!」

「え、えええっ!!?」

 とそこまで考えていた時に、蒼太はメリアリアに呼び戻されて現へと帰還を果たすが彼は歩いている最中に、道の真ん中で立ち止まってしまっていたのであり、危なっかしい事この上無い。

「大丈夫?あまり根を詰め過ぎるのも毒よ?」

「・・・・・っ。ああ、全然!!」

 “大丈夫だよ!!!”と蒼太はわざと明るく振る舞って見せるが蒼太は思っていた、“多分、メリアリアやアウロラの前では、そうしたポーズはバレバレなんだろうな”、と。

 それというのは、女性と言うのは男性を“意識の連続体”、“反応パターン”で見る事が出来るのであり、即ち“どういう時にどう言うアクションを起こせばどう言う反応をするのか”、と言う事がある程度は解る訳であって、それ故に嘘や隠し事がある時等も一発で見抜く事が出来ると言う訳なのであった。

 一応、自己観察を続けていけばこれは男性も手にする事が出来る能力であり、蒼太も勿論、取得していてそれ故に、メリアリアやアウロラを始めとした、周囲の人物との余計な摩擦を避ける事も出来ていたのだが、だからこそ彼には二人には自分のそうしたポーズが通用しない事を理解していて、やはり一番の懸案事項である事も手伝って、まだ思考途中ではあったけれども二人に自分の考えを、語って聞かせる事にした。

「ごめんね?二人とも。だけどどうしても気になるんだ、アイツらの狙いが何処にあるのか、何が最終目的なのかが全然、読めないんだよ」

 “例えば”と蒼太が続けた、“これがレベッカだったなら、アイツの思考はある程度は読み取る事が出来るんだ”と。

「二人にも話したと思うんだけれども、“ガイア・マキナ”で出会った際に、アイツは最初、正体を隠して僕達に接していたからね。・・・まあもっとも、子供ながらに油断ならないと言うべきか、怪しい所はチラホラとはあったから、警戒する人達は皆、警戒していたんだけれども、とにかく、ああなってしまう前のアイツとは何度か接点もあって、話もした事があったし、だからこそ、と言うべきなのかな?性格だって掴めていた、だから思考を読むのもそれほど苦では無かったんだよ」

 “ところが”と蒼太は続けるモノの、“そのレベッカが捕まった事で、今後の奴等の出方がよく読めなくなってしまったんだ”と。

「あくまでも、今考えられる範囲での事なんだけれども・・・。今後奴等が取るべき道、と言うのは主に三点あると思う。まず第一はレベッカの奪還作戦、これは絶対に間違いない。で二番目なんだけれども、レベッカを捕縛した、僕たちに対する報復的襲撃。これもほぼほぼ、間違いないと思って良いだろう。で三番目が、以上の点をクリアーした上での“人類恐竜化計画の遂行”だと思うんだ、手順も恐らくは、そう言う感じで進めて来るだろうと思うよ?」

「・・・・・っ!!?」

「と、言うことは・・・?」

「まだ僕たちは4人一緒に生活を続けていた方が良いってこと。皆大変かも知れないけれども奴等の狙いはレベッカであると同時に僕達でもあると見て間違いないからね・・・!!!」

「・・・・・!!!」

「じ、じゃあっ。それをオリヴィアさんにも伝えないと・・・っ!!!」

「一応、オリヴィアには油断するなと伝えてあるんだけれども、そうだね。彼女にももう一度、話をしておくとするよ・・・!!!」

 蒼太の言葉に、ホッとすると同時にそれでも、身の引き締まる思いであった、まだ連中との戦闘は終わってはいないのであり、間違っても気を抜く事が出来ないのであった。

「・・・・・」

(しかし困ったぞ?これじゃあ。本当はメリーの実家に改めて挨拶に赴いて、お義父さんとお義母さんにキチンと今回の事を報告しなくてはならないと言うのに。いいや、それだけじゃないぞ!?アウロラのおじさんとおばさんにも、結婚の挨拶と許可をもらいに行かなくてはならないと言うのに!!!)

 蒼太は厳しい顔を見せるがアレッサンドロの言っていた、“送り祝い”の準備は後十日ほどで完成するらしく、そうなってから報告にあがったのでは全てがぶち壊しになってしまう、それだけは何としてでも避けなければならなかった。

(余裕をみて行かなくてはいけないにしても・・・。やはり開始の1週間位前までにはキチンと事前報告を・・・!!?)

「・・・うた、蒼太!!!」

 蒼太がそんな事を考えていると。

 後方から誰かが走り寄って来る気配を感じて一瞬、全員が身構えるモノの、それが知っている人のモノだと解るとすぐに蒼太もメリアリアもアウロラも構えを解いて“彼女”を迎え入れた。

「オリヴィア・・・?」

「どうしたの?一体。急に駆け付けて来たりして・・・」

「今ちょうど、話をしていた所だったんです!!」

「はあ、はあ・・・っ。良かった、まだこの辺りにいたのだな!!?」

 息を切らせつつ、オリヴィアが言葉を綴った。

「奴の、レベッカの様子がおかしいのだ、何やら俯いたかと思うと死んだ目をしてブツブツと言い始めてな。それで今一度、君達に意見を聞きたいと思って・・・!!!」

「オリヴィア、ちょうど良かった。さっきアウロラが言っていたけれども、僕達も君に用事があったんだよ!!!」

 そう言って蒼太はこれまで纏めた自分の考えを、彼女に伝えて聞かせたのだが、その結果、オリヴィアは少しも嫌な顔をせずに了承してくれた、“また一緒に過ごせるならば幸せだよ!!”とそう告げて。

「そうか、連中としてもまだ終わった訳では無いのだな。了解したよ、また4人一緒に過ごせるならば私は少しも構わない!!!・・・ところで部屋はまた私の所で良いか?」

「・・・・・」

 そう言われて蒼太がメリアリアとアウロラを見ると、2人ともコクンと頷いて見せた、彼女達からしてみれば、最愛の男性(ひと)と一緒にいられる訳なのだから、嫌なわけなど全く以て存在してはいなかったのである。

 ただし。

(はあぁ~・・・。決まってしまったモノは、もうしょうが無いけれど・・・。出来たら蒼太を、独り占めしたかったなぁ~・・・!!!)

(あぁ~、折角蒼太さんのお側にいられるというのに、2人っきりでラブラブする事が出来るというのにっ。残念です・・・!!!)

 彼女達は二人して同じ事を思っていたのであり、別段メリアリアはアウロラの事が、そしてアウロラはメリアリアの事が嫌いでは無かったモノの、2人とも出来たなら“夫とラブラブしたいなぁ~っ❤❤❤”等と考えて止まなかったのであった、それを。

「おほんっ。ま、まあ蒼太は私が一番近くで守り抜いてやろう。彼は大事な戦力でもあるし?その、あのっ。私にとっても大切なもの・・・っ。ゴニョゴニョ」

「・・・・・?」

「何ですって!!?」

「何ですか!!?」

 思い掛けない場所から入った横槍に対してメリアリアとアウロラとが共同で睨みを利かせるモノの、全く油断も隙も無いとはこの事である、やはりこと蒼太に関する物事においては自分以外は信じてはならないと言う事が、ハッキリとした瞬間だった。

「オリヴィアッ、彼は私のモノなのよっ。余計な手を出さないでっ!!!」

「何が“私のモノ”なんですかっ、蒼太さんは“私のモノ”なんですっ。引っ込んでいて下さいっ!!!」

「良いか!?2人とも。この際だからハッキリさせておくが蒼太は私のモノなんだ、それを忘れるな!!!」

「何ですってっ!!?」

「何ですかっ!!?」

「何なのだっ!!?」

「あ、ああっ。あのね?皆、お願いだから仲良くしようよ、喧嘩しないで・・・っ!!!」

 自分の事でいがみ合う美女三人に囲まれながらも、蒼太は肩身を狭くしつつもそれでも必死に彼女達を宥めて落ち着かせては己の心とその場の平穏を保つのに必死になっていたのであったが、それと殆ど同時刻のミラベル本部ビルの正面玄関口付近に、“彼等”の姿はあった。

 デュマの右腕たるガイヤール・デュポンと左腕たるデマーグ・バーグマン、そしてその配下の者達であったが総勢が十名にも満たない中での襲撃に、それでも二名は成功を確信していた、と言っても何も、危険を犯して本部に突入する必要などサラサラなかった、要はするに事情を知っていそうな奴をとっ捕まえて縛り上げ、情報を吐かせれば良いのである、大した任務では無いと高をくくっていたのだが、しかし。

「チイィィ・・・」

(何奴だ?情報を握ってそうな、中堅以上の役員共は・・・!!?)

 そう舌打ちしつつも手元にある、エイジャックス連合王国から入手した“ミラベル本部内情資料”に目を通して行くモノの、そんな2人の内で、特に狡賢かったのがガイヤール・デュポンであった、肉体的な強さもそれなりにはあったが何より勝つためには手段を選ばない非情な男であった彼はだから、今まで人質を取る事等は当たり前、酷い場合だと戦いの前に様々な罠を仕掛けて相手を散々に消耗させたり、反撃する事が出来無くさせてからタップリと嬲って仕留める闘法を得意としておりその点、姑息な所はあるにはあったがまだ己の力を頼みとするデマーグとはそう言った意味では対照的であったのである。

 もっとも。

 2人とも横暴さと身勝手さに掛けては類を見ない程に酷くて決して譲らず引くこともせず、現に以前もそれでデュマの前で揉めに揉めて、その怒りに触れる寸前まで行ってようやく止めた経歴の持ち主達であったのだ。

 そんな連中だったから、組織内においての人望等は殆ど皆無と言って良く、部下達も皆嫌気が差しているのが実状ではあったモノの、然りとて自分達よりも上位の実力を持っている二人には中々、逆らう勇気と言うのを持てなかったのであり、上司が上司ならば部下も部下と言う訳であって、この辺りも流石に上役であるこの彼等に非常に良く似通っていたのであるが、それと言うのも。

 基本的に、ガイヤールもデマーグも、自分よりも弱い相手には限度を超して強く激しく出るモノの、強い相手には絶対に手を出さないのが信条だったからであり、彼等には元から、そう言った困難に立ち向かって行く胆力、度胸と言ったモノがまるきり存在してはおらずに、腹も据わっていなかった、だから。

 自分よりも上手な存在に対しては徹底的なまでに“イエスマン”を貫き通して何か事があると一から十までソイツに伺いを立てなければならなかったのであるモノの、そんな2人の怯えと恐れの最たる対象と言うモノが他ならぬアレクセイ・デュマその人であって、この二人が彼に絶対服従を誓っていたのは、要はそれだけの力をデュマが持ち合わせているからであり、もしデュマがその気ならば自分達等は立ち所に魂までをも焼き尽くされて、殺されてしまうであろう事をよくよく思い知っていたからに他ならなかった、自分という存在が抹消されてしまうと言う恐怖、無限の苦しみの中へと落とされてしまう叫喚。

 それを何より恐れていたガイヤールとデマーグはだから、デュマに逆らう等死んでも考える事が出来なかったのであり、いつまでも幹部でありながら彼の使いっ走りに甘んじているのを余儀なくされていたのであった。

「それにしてもエカテリーナめ、日頃の態度は何だったのやら・・・」

「ああっ。大見得切って結局は俺達の手を煩わせる事になりやがった!!」

 ガイヤールとデマーグはそう言い合ってはそれでも、“情報を持っていそうな中堅以上の役員共”を狙い続けていたのであるが、とうとうその人物が出て来る時がやって来た、“上級選任統括官”の一人、フランシス・ルセーブルその人であったがそれとは別に“総監室管理長”の肩書きを持つ彼はだから、立場上、ミラベル本部に投獄されている全ての犯罪者を知っている筈だった、標的としてはもってこいだ。

「奴をとっ捕まえて締め上げようぜ!!」

「へっへっへっ。ソイツは愉快だ・・・!!!」

 2人は醜悪な笑みを浮かべると、手下を連れて“総監室管理長”の後を密かに追い回し始めた。

 一応、車に乗られた時の為にと思って自動車の手配もしていたのであるが、その心配は杞憂に終わった、何故ならば彼は本部ビルに程近い、“ガリア帝国帝都ホテル”へと入って行ったからである。

「ここか?奴の仮宿と言った所か・・・!!!」

「ホテル暮らしとはな。これだから宮仕えってーのはやってらんねーや・・・」

 そう言い合いつつもしかし、自分達は用意して来た車(ワゴン)の中で一泊して夜中も交替で見張りをし、次の日の朝まだ早い時間帯から入り口周辺を警戒しつつ、フランシスの出て来るのを待って作戦に及ぶ腹積もりだったのであるモノの、即ち。

 彼を拉致して情報を入手した挙げ句に、レベッカの開放のための交換条件としての人質に使おう、と言う算段だったがその標的を待ち伏せしている最中にガイヤールが提案した、“人質ならば多い方が良いだろう”とそう言って。

「それもなるべくならば、一般人の女か子供が良いな、デマーグ。奴等は決して一般人を巻き込む事は出来ないんだよ、だからこそこの人質には意味があるってもんなのさ!!」

「ああん・・・?」

「だからお前はバカだって言うんだ、良いか?ただでさえ、超秘密組織である所の“セイレーン”と“ミラベル”はその存在が世間に露見してしまうだけでも拙(まず)いんだ、それに加えて“一般人を人質に取られた”挙げ句に“それを見殺しにした”等と言う噂が立てばもう、国家の中枢権力機構としては、致命的なイメージダウンは避けられないからな。奴等はだから、どんな取り引きにだって応じるだろうぜ?“この話をテレビ局にでもリークしてやる”とでも言えばな!!!」

 “何だったら”とガイヤールは続けた、“その一般人の命はエカテリーナを捕縛してくれた奴等の命と引き換えにしても良い”とそう言って。

「奴等はどうにも出来ねぇぜ?進むことも引くことも出来なくなってどう出て来るか、見物じゃねえか、デマーグ!!」

「・・・・・」

 デマーグは呆れてしまった、そんな事などしなくともただ単に暴れて見せれば良いではないか、と彼は思っていた、ガイヤールよりかはまだ、己の強さに自身があった彼はだから、“自分達がレプティリアン化”してしまえば敵う者等いないだろうと考えており、それを以て一気に本部を制圧、レベッカを救出すればいいと考えていたのであったが、しかし。

(まあいいか。俺には別にどうでもいい、それにコイツの考えも面白そうだし、暫くは好きにやらせてやるさ!!!)

 “何だったら”とデマーグは思った、“コイツも失敗してくれた方が後々都合が良くなるぜ”と。

(失敗した二人を、俺様が助けてやる。そうすればコイツらは二度と俺様に逆らう事など出来なくなるだろうぜ、その方が良いに決まってる!!!)

 ガイヤールが失敗すれば残された幹部は自分だけになるから、デュマ様の覚えも目出度くなるだろうぜ、等と考えていたデマーグはだから、相手の力量が既に自分達を上回っており、その結果としてとんでもない窮地に立たされる事になる等とはこの時点では予想だにしていなかったのである。

「じゃあ俺は新手の人質を捜して来るから、お前らはその間アイツの事を見張ってろ、片時も目を話すんじゃ無いぞ?」

「「ははっ!!」」

 一方のガイヤールもガイヤールで、手下共にそう告げるとデマーグの思惑も知らぬままに、新たな人質を捜し求めて出立していった、“これで上手く事が運ぶ”と確信していた彼はだから、この策略が却ってある男の怒りを燃えたぎらせて自分達の“死刑執行書”に自分でサインを与える結果となってしまうのである事に、全く気付いてはいなかったのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
 次回はガイヤール・デュポンとの戦闘(決着)になります。

 レベッカとの戦いから三日経ってはいますけれども、蒼太君達にとっては事実上の連戦です(それも、人質を取られた上でのモノです)、蒼太君はそう言う戦い方を最も嫌います(自分の父親達がやられたから、と言うのもありますが、元々彼は正々堂々とした、正面切っての戦いを“よし”とする人でもあるからです)、久々に、蒼太君がぶち切れる回です。
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