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神世への追憶編

第二次エルヴスヘイム事件12(ノエルの油断とレアンドロの失態)

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 蒼太達は“極北星下の禁足地”を目指してどこまでもどこまでも歩き続けた、“ガハラジャ”や“オルコット”と言った巨大城塞都市を経て“オリオスの大河”を渡り、更には“ラーナ・カウアの双子山”を踏破して、漸くにしてその入り口たる街“エルスラウア”へと至ったのである。

 “氷樹”と言う名の寒さに大変、強いとされる巨大な針葉樹の大森林“エルスラ”の中心部分に形作られていたこの街は“エルヴスヘイム”の中でも特に、最北端に位置している集落であり尚且つ、エルフ達の住む生活圏の中では“極北”に位置するモノの一つであった。

 そんな土地柄故だろう、“北極星信仰”の盛んなここはその為、至る箇所でその紋様を掲げている建物や人々に出会う事が出来たのだがしかし、そんな事情であったから皆“アウディミア”の出現には殊の外困惑すると同時に難儀している様子でもあったのだ。

「良かったわね、あなた。町長さんにも街の人々にも、快く了解してもらえて!!!」

 街の北側にある“開かずの門”の封印を解いてもらって漸くにして本格的な“禁足地”に突入を果たした蒼太達一行はそのまま更に北の大地を目指して進んで行ったがその途中で愛妻淑女(メリアリア)が青年に話し掛けて来る。

「ああ。皆、アウディミアが現れる迄は年に数回だけ、禁足地の中央部分にある“古代遺跡”の神殿跡地で北極星に祈りを捧げる儀式を行っていたそうだからね。ところが奴らの出現に伴って禁足地が封鎖され、それが滞ってしまっているらしいから。まあ僕達の出現は“渡りに船”だったと言う訳だよ」

「ですけれども、街の方々は何だか皆さん窶(やつ)れている御様子でしたわね?活気もそれほど感じられませんでしたし・・・」

「正直に言って街全体が死んでいるかの様な印象を受けたぞ?まあ、アソコはアウディミアに最も近い場所に位置しているから、その攻撃や嫌がらせ等も半端なモノでは無かったのだろうな・・・」

 メリアリアの言葉を受けて、アウロラとオリヴィアもまた、それぞれ口を開くが確かに“エルスラウア”のエルフ達は誰も彼もが疲れ切った表情と装いを呈しており、また森全体のエネルギーも些か以上に不足していた、話を聞く所によるとこれは“アウディミア”の度重なる嫌がらせや攻撃等から森や街を守る為に外界との結節点に対魔物・魔力用の極めて強力な結界を施していて、それ故に起きている現象なのだと言う。

 “黒雲の魔女”の魔手を振り払う為に彼等なりに全力を尽くしている、と言う訳であったが要はするに、それだけ“彼女”のエルスラウアに対する横槍は熾烈かつ執拗なモノだったのだろう事は容易に想像が付く、と言うモノであったのだ。

「何卒よろしくお願い致します。伝説の“白き風の導き手”の蒼太、そしてその仲間達よ。どうか“黒雲の魔女”を打ち払って我等に安寧をもたらして下さい!!!」

「連中が何処にいるのか、と言う具体的な事に付いては、実は我々も掴み切れてはいないのが現状なのですが・・・。もしあなた方が“禁足地”の中心部分に辿り着く事が出来たなら、この石笛を吹き鳴らしてみて下さい。これが奏でる調べには暗黒を退け白光を招き入れる、不思議な力が宿っています!!!」

「奴らがこの街に度重なる攻撃を仕掛けて来たのは偏(ひとえ)にこの石笛を奪い取る為です、つまりはこれがあれば奴らの“まやかしの術”を打ち破る事が出来る、と言う事なのでしょう・・・!!!」

 そう言って彼等に石笛と街の命運を託してくれたエルフ達の願いに応える為にも蒼太達一行は一路、禁足地の中心部分目指して歩を進めて行った、ここまで来ると流石に気温は一年中寒冷であり、誰も彼もが皆、戦闘用装備の上から厚手のコートを着用していた。

「ここまで来ればあともう少しだ」

 途中で蒼太が皆を鼓舞する。

「僕達の向かう禁足地の中心部分、そこには古代遺跡の神殿跡地があると言う。そこでこの石笛を吹き鳴らせばアウディミアの魔力を減退させる事が出来る筈だ、そうすれば奴の正体も居場所もピンポイントで解るようになる。大変な旅ももう直ぐ終わるよ!!?」

 それを受けて旅の仲間達はみんな笑顔になると同時に拳を突き上げ、“オオッ!!!”と叫ぶがその内の誰一人として不満を抱えている者はいない、雰囲気と勘で解った。

「それにしても三ヶ月間か、結構な旅路だったわね!!!」

「どうだった?エルヴスヘイムの旅は・・・」

 夫の言葉にメリアリアがニンマリと笑って答えた、“とっても楽しかったわ?”とそう言って。

「途中、トイレとか不便じゃなかった?」

「うーん、まあちょっと。それはそれで困ったけれど・・・。でも慣れてしまえば平気だし、勝手も解って来たから、なんて事は無かったわ!!!」

「そっか。でもまあ良かったよ、メリーが満喫してくれたみたいで!!!実を言うと僕、ちょっと不安だったんだ。メリーに“こんなに大変だったなら来るんじゃなかった”って言われてしまうんじゃないかって・・・」

「あははっ。そんな事無いわよ!!!」

 “そんな事を気にしていたわけ!!?”とメリアリアは夫に破顔しながら尋ね返すが蒼太本人からしてみれば決して笑い事等では無かった、それ程真剣だったのである。

「だってもし、メリーに気に入ってもらえなかったら・・・」

「・・・ねえあなた」

 するとそれを聞いたメリアリアが不意に神妙な面持ちとなって青年に告げて来た。

「私の帰る場所も居る場所もね?いつもあなたの隣なんだよ、だからあなたの居る場所が私の居場所なの。あなたがここに行きたいって言うのなら、私はただそれに付いて行くだけ。あなたの側にいてあげたいの、ううん。ずっと寄り添っていたいの、側にいたいの。支えてあげたいの・・・!!!」

「メリー・・・!!!」

 “だからね?気にしないで・・・?”とそう告げてくれた愛妻淑女に愛しさと感謝の念とを抱きながら、蒼太は改めて彼女に頭を下げると同時に他の者に見られないようにソッと抱き寄せて、その額に口付けをした。

「あんっ❤❤❤もう、あなたったら。でも次はおでこじゃなくて、こっちにして・・・?」

 そう言って突き出された唇に“チュ・・・ッ!!!”と口付けをすると蒼太は彼女をしっかりと抱擁してその温もりと匂いとを堪能する。

 それは無味無臭な筈なのに何だか甘くて切なくて、少しだけしょっぱい風味がした。

「あと少し、頑張れるね?」

「うん、大丈夫。だってあなたがいるんだもん!!!」

 そう言うとメリアリアはニッコリと微笑んで自らも蒼太の肉体に腕を回し、抱き着いて来た。

 思い人の逞しい胸の中へと自らの頭を埋めてこのまま時間が止まれば良いのにと、どんなにかメリアリアは強く願った事だろう、しかし。

「ああっ!!?な、何をしているんですか。メリアリアさん!!!」

「抜け駆けは良くないぞ?メリアリア!!!」

 天は常に万人に対して平等である、時間は無情にも流れ続けー。

 やがて事態に気付いたアウロラとオリヴィアとが蒼太の元へとやって来るが、そんな二人の花嫁の姿を見たメリアリアは“仕方が無いわ・・・”とでも言うかのように、とても残念そうに体を離し、そして蒼太も蒼太でややぎこちない笑顔を浮かべながら二人にもメリアリアと同じように接して行った。

(メリー、可愛いよ。メリー・・・)

(蒼太。大好き、蒼太ぁ・・・っ❤❤❤)

 目でアイコンタクトを送り合うとメリアリアはそれでも、“私は負けない”とでも言うかのように蒼太の右腕にしっかりと抱き着き、離れなかった。

 それを見た二人の花嫁達もますます、蒼太の体へと密着を強めるが、そんな三人の戦いは思いもよらぬ所から一時休戦を迎える事となった、事の発端となったのはノエルだ。

「・・・ねえ、ソー君」

 まさか空気を察した訳でも無いだろうが、彼女が唐突に口を挟んで来たのである、ちなみにこの時はノエルは普段の“ゆるフワピンクな年上フレンド”としての雰囲気はなりを潜めており、代わって何やら神妙な面持ちをしていた。

「・・・・・?」

「どうしたの?ノエル」

「私思うんだけれど。そのアウディミアって奴が“異世界”にいるって事は無いかしら・・・?」

「・・・・・?」

「アウディミアが異世界にいる?どう言う事なのよ、ノエル!!!」

「んーっとねぇ、私も上手くは言えないんだけれども。例えば水の中の生物が地上の様子を掴むのって中々に困難な事でしょう?それと同じ事が起きているんじゃ無いかと思うの~っ!!!」

「なるほど」

 その言葉に、今度は蒼太が頷いた。

「つまりは奴らは何某かの“まやかしの術”を使っているのみならず、実体をこのエルヴスヘイムとは異なる別の異世界に潜めさせている、と。それで此方の探査が通常のように上手く機能していないと、そう言う事ですか?ノエルさん」

「うん、そう。勿論、ソー君の言う通り、アウディミアが何らかの“まやかしの術”を重ね掛けしている可能性もあるけどね?とにかくそれでその、“異世界への入り口”があるのが“古代遺跡の神殿跡地”なんじゃないのかなぁ~っ!!?」

「・・・・・」

「どう思う?あなた・・・」

 “可能性はあるかもね”と愛妻淑女(メリアリア)に対して青年がまたも頭(こうべ)を上下に振るモノの確かにそれならば“本拠地”に近付くに連れて魔物共の抵抗が激しさを増して行ったのも、頷けると言うモノである。

 もしアウディミアが本当に“まやかしの術”を使っているだけだとするのならば、ここまで執拗にモンスター達を送り込んで来る必要は全く無い、と言って良かった、何故ならば攻勢を掛け過ぎる事はむしろ蒼太達に“お前達の辿っているルートは正しい”と教えてしまうようなモノなのであり、自分達をはぐらかす術を掛けているのであればそれは却って逆効果にしかならない筈であるからだ。

「アウディミアは間違いなく僕達を始末しようとして来ていたんだ、だとしたらその狙いと行動は・・・!!?」

 そう言い掛けた時だった、不意に何某かの禍々しい気配を感じて蒼太がバッと遥か彼方の虚空を睨むが、するとその方角からは何やら“ギャアッ!!!”、“ギャアッ!!!”と喚き声を挙げながら空中をかなりの高速で飛翔してくる、緑色の大型生物の群れが此方(こちら)目掛けて殺到して来るではないか。

「・・・・・っ!!!」

(今までの、“ガーゴイル”の気配なんかじゃ無いぞ?なんだ、あれは!!!)

「・・・・・っ。何かしら、これって!!!」

「今までに無い位の、強い波動を感じますね・・・!!!」

「“まだ見ぬ敵”と言うわけか、面白い!!!」

 まだ彼自身も見た事も感じた事も無いその感覚の正体を探るべく、青年が尚も精神を集中させて意識を研ぎ澄まさせていると、やがて花嫁達も何某かの波動を感じて臨戦態勢を取るモノの、それから程なくして飛翔体の群れはそれが肉眼で確認できる位置にまで接近して来る。

 それは。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「な、なにぃっ!!?まさかあれは・・・っ!!!」

 “ワイバーンだ!!!”と蒼太が叫ぶと同時に飛翔体の内の何体かが急降下して来て、その鋭い足の鉤爪で青年達を引き裂きに掛かるが、そんなワイバーン達に対して。

「てやあぁぁっ!!!」

 蒼太が真っ先に素早く対応して見せた、彼は“白き杖”の先端部分から素早く“光の波動真空呪文”を、それも中級の威力で極集約させたモノを瞬時に生成させて光線状態のまま発動させ、連中の顔や翼、腹などに強(したた)かにぶち当てるが、すると最初に襲撃して来た面々は“ギャアアァァァッ!!?”と喚いて空中で蹌踉(よろ)け、或いはその衝撃波に吹き飛ばされて体勢を崩された挙げ句の果てには迸って来た光の波動に体をしこたま焼かれて遥か彼方へと墜落して行く。

「相手はワイバーン、“ドラゴン”の一種だ。気を付けろ!!!鱗は硬く、両脚には強力な鉤爪を有している。口からは毒液や火を吹くぞ、舐めて掛かるな!!!」

「解ったわ!!!」

「はいです!!!」

「了解した!!!」

 “まさかドラゴンと戦う事になろうとは!!!”等と言いつつも、メリアリア達は皆、次の瞬間にはもう対空戦闘にシフトしていた。

 メリアリアは光炎魔法を球体状にまで集約させたモノで上空を狙い撃ち、アウロラはいつものように蒼太と自身を含めた全員に強化術式を掛けると同時に“爆雷魔法”を用いて制空権を掌握し、オリヴィアはパルサー呪文を剣に纏わり付かせたまま地上に降りて来たワイバーンの首や翼を次々に切断して行く。

 見るとダーヴィデ達伯爵連中も夫人達を守りつつ一歩も引かずにワイバーン達を撃退し、或いは屠り倒して始末を付けて行っていた、“やはり義父達は強いな”と蒼太は内心で舌を巻いたがそれはそうであろう、だって彼等はメリアリア達を指導し、ここまで育て上げた人物達なのである、それが娘達よりも弱かろう筈も無かった。

 そんな中で。

「がんばれソー君、負けるなソー君。フレー、フレー。ソー君!!!」

「頼むよ蒼太、何とか勝ってくれ!!!」

 どうにも場違いと言うか、脳天気なのがノエルとレアンドロの二人組だったが現状、特に二人が役に立つような事は何も無く、ハッキリと言って申し訳ないが蒼太達から見た場合、“お荷物”以外の何者でもない。

「ノエルさん、レアンドロ。あんまり僕達から離れないで、危険です!!!」

「ううーん、とは言っても近付くのはちょっと怖いのよおぉぉ~っ( ̄。 ̄;)( ̄。 ̄;)( ̄。 ̄;)もう少し後ろに下がっても良い?」

「ダメです。ワイバーン達はまだ上空を舞っている上に、後続部隊も来ているみたいです。あんまり離れられると貴女方の護衛が出来なくなります!!!」

 “あと油断しないで!!!”と蒼太が杖と剣とを振り回し、更に1匹のワイバーンを撃退しつつ叫ぶが正直に言ってノエルは油断していた、否、これはレアンドロもであったがここの所、出会う敵出会う敵連戦連勝であり、蒼太達の強さを目の当たりにしていた二人はだから、何処かで“自分達は何があっても大丈夫ではないか?”、“ちょっと位、はっちゃけても問題は無いだろう”とタカをくくってしまっていたのだ。

「ソー君達なら大丈夫でしょ~っ( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)なんてったって私の弟子一号なんだから~っ(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」

「なんなんだよ、そりゃ・・・!!!」

 “何時から俺があんたの一番弟子になったんだ!!!”と蒼太は軽い腹立ちを覚えるモノの、今はそんな事を気にしている場合では全く無かった、とにもかくにも襲い来るワイバーンの群れを殲滅する事が最優先事項であったのである。

「ノエルさん、とにかくあんまり遠くまで行かないで。良いですね!!?」

 それだけ言うと、蒼太は今度はメリアリア達の元へと戻って彼女達と力を合わせ、空の脅威を排除する事に注力して行った、どうやらワイバーン達の主力が到達した様子であって戦闘はますます、その激しさを増していたのだ。

 しかし。

(ふーんだ、ソー君のケチんぼ。ちょっと位後ろに下がっても別に悪いことなんか、何にも無いじゃん!!!)

 その間にもノエルはどうにも悪い癖が出てしまっており蒼太に心の中で“あかんべ~”をしていた、彼女は“ある事”を思い立ってそれを実行しようとしていたのであるモノの、それというのは。

 “持っていたスマホでこの戦いの一部始終を録画しよう”と言うモノであり、それもあって蒼太から“あんまり離れるな”と言われていたにも関わらずパーティーを離れて一人だけ、思いっ切り後方にまで下がってしまっていたのであった。

「みんな、がんばれっ。漸く終わりが見えて来たぞ!!?」

「ええっ。後はあの、空中に残っている“赤いワイバーン”達だけみたいね!!?」

「私の“爆雷魔法”で迎撃します!!!」

「いいや、アウロラ。まだだよ?まだ君の射程距離外だろうから、もう少し待って様子を見るんだ・・・」

 漸くにして蒼太達がワイバーンの群れの主力部隊を撃退し終えたその時にはもう、ノエルは蒼太達から200メートルは離れた場所にたった一人で佇んでいて、呑気にスマートフォンを構えていたのだ。

 そこへ。

「ああっ!!?」

「嘘でしょうっ、ノエルッ!!!」

「な、何をなさっているんですの!!?」

「プリンセス、お気を確かに!!!」

 その場にいた全員が事態に気が付いた時にはもう、遅かった、何と上空を舞っていたワイバーンの1匹が集団を離れていたノエルに目を付け、そのまま急降下して来て、そしてー。

 その鋭い鉤爪を有している足を巧みに動かして彼女の体をガシッと掴み、そのまま再び上空へと舞い上がって行ってしまったのである。

「キャアアァァァッ!!!」

「何をやっているんだ、ノエルさんは!!!」

「これじゃあ攻撃が出来ないわ、ノエルに当たっちゃう!!!」

「プリンセス、どうしたら良いのでしょうか・・・!!!」

「なんて言う事なんだ、プリンセスが・・・!!!」

 口々にそう叫んでいる蒼太達を尻目に、ノエルを掴んだワイバーンは残留していた他の個体共々、元来た方向へと向けて引き上げて行った。

「くそっ!!!」

「ノエル、ノエルゥーッ!!!」

「プリンセスが・・・!!!」

「ダメだ、どうする事も出来ない!!!」

 蒼太達がその場で地団駄踏んで悔しがっていると、フラフラとレアンドロがやって来る。

 その顔は虚無そのものであり、顔は驚愕の色に満ち満ちていた。

「レアンドロ!!?」

「プリンス、良かった・・・」

「御無事で何よりです、プリンス・・・」

 口々にそう告げる面々の中から蒼太がズンズンと進み出てきて、そしてー。

 突如彼の胸ぐらを掴むと凄い剣幕でまくしたてた。

「どうしてだ!!?」

 蒼太が叫んだ。

「どうしてノエルさんを止めなかった。君は側に居たんだろう?一体、何をやっていたんだ!!!」

「ウグググ・・・ッ。と、止めたよ最初はね?でもノエル、聞いてくれなかったんだ・・・!!!」

「それでも力尽くでも引っ張って来るのが君の役目の筈だろう!!?何でノエルさんを守ってやらなかったんだ!!!」

「ウウッ。そ、それは・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!!」

 “くそっ!!!”と誰にともなく悪態をついた蒼太は漸くにして彼の胸ぐらを離すと今度はメリアリア達の方へと歩いて行った。

「すぐに追わなければならない、何としてでもノエルさんを助けてやろう!!!」

「ええ。そ、そうね・・・!!!」

「そう、ですわね・・・!!!」

「そうするべき、だろうな・・・!!!」

 蒼太の指針に異議を唱える者等誰も居なかった、これは元から花嫁達が青年の事を信頼していた為でもあったがそれに加えてその時は、普段は温和な自分達の夫の激昂した姿を見て些か気圧されてしまっており、静かな声で同意の言葉を口にすると皆、一様に頷き合う。

「蒼太・・・」

「蒼太君・・・」

「婿殿・・・」

 するとそんなメリアリア達に代わって義父連中が彼の前に出て来て、尋ねた。

「プリンセスをすぐに追跡する、との事であったが・・・。果たしてノエル様は御無事であろうか?」

「それは大丈夫だと思います・・・」

 落ち着きながらもやや緊張した面持ちで自身に声を掛けて来るダーヴィデ達に対して蒼太も冷静さを取り戻し、応えて言った。

「ワイバーン達は、いいえもっと言ってしまえば“アウディミア”はあの場でノエルさんを殺害する事も出来ていた筈です。それをやらなかった、と言う事は即ち、ノエルさんに何らかの“利用価値”を見出しているのでしょう。であれば暫くの間は手出しはしないと思われます・・・!!!」

「・・・・・」

「ふむ・・・」

「なるほど・・・」

 それを聞いた義父連中は思わず感嘆の声を漏らすと同時に大きく頷いていた、この優男な娘婿の言う事は一理あるし何より、納得する事が出来るモノだったからである。

「行こう」

 蒼太は言った、“言ってノエルさんを助け、アウディミアの魔力を打ち破ろうじゃないか”とそう告げて。

「まあ・・・。今回の事は油断していたノエルさんが一番、悪いんだけれどもさ?」

「もう、あなたったら・・・。それを今言っても始まらないわよ?」

 するとそう言って、蒼太の言葉に対応して来た女性がいる、メリアリアだ。

 青年と付き合いの一番、長い彼女が一番最初にいつもの調子を取り戻しつつ、夫に歩み寄って来る。

「先ずはとにかく、ノエルを助けてあげましょうよ。詳しい話やお説教は、それからでも出来るわ?」

 “それに”と彼女は尚も続けた、“私もノエルには言いたい事がいっぱいあるしね!!?”とそう告げて。

 そしてそんな愛妻淑女(メリアリア)の声に促されつつ蒼太は力強く頷くと、皆を引き連れて一路、古代遺跡の神殿跡地を目指して出立していったが、一方で。

 ちょうどその頃、何処とも解らぬ場所へと連れて来られたノエルはその身を支配する恐怖と不安とに慄いていた、彼女は運ばれて来る途中で、自身の身に起きたあまりの出来事に対するショックと長旅の心労、そして空を運ばれる際の身体的負担の為に気を失ってしまっていたのだ。

 だから掠われた時の事は良くは覚えていないモノの、それでもここが敵の本拠地中枢なのだ、と言う事は何となく理解する事が出来ていた。

「ぐへ、ぐへへへ・・・っ!!!」

 周囲には夥しい程の“魔の気配”が漂っており、妖気と暗闇とに満ち満ちていた、並大抵の人間ならばその悍ましさにショック死してしまうかも知れない中で、しかしノエルは気丈にも己を奮い立たせて頑張って自我を奮い立たせていたのである。

「ぐふふふっ、美しい女だ・・・!!!」

「コイツは上玉だ、久方振りに美味そうなのが手に入ったぞ・・・!!?」

「決めたぜ・・・!!!」

 するとその内の1匹がノエルの前へと進み出てきて舌舐めずりをしながら告げた、“コイツを俺の花嫁にしてやる・・・!!!”とそう言って。

「そりゃ無いですよ、若頭様・・・」

「そうそう、せっかくの上玉。しかも霊力も豊富に蓄えていると来てる、我々にもどうか御相伴させて下さい!!!」

「やかましい!!!」

 すると“若かし様”と呼ばれた存在は忌々しげにそう告げると、“他の連中に手を出される前に俺様のモノにしてやる!!!”と言ってノエルに対して手を伸ばそうとした、その時だ。

「・・・・・っ!!!」

(レアンドロッ!!!)

 ノエルが最早これまでと感じて、それと同時に自身の運命の恋人の事を強く思った時だった。

 不意にノエルの全身から眩いばかりの輝きの波動が迸って伸ばされて来た魔物の手を“バチイィィッ!!!”と弾き飛ばしたのだ。

「ぐわああぁぁぁっ!!?」

「ああっ!!?」

「わ、若頭様・・・っ!!!」

 ズダアアァァァンッ!!!とその巨体を退けられながらもその魔物は“な、なんだ今の力は・・・!!?”とそう呻いてワナワナと震え始めた、それも“信じられない”と言う表情をして見せながら、しかし。

「・・・ク、クックックッ。ハーッハッハッハッ!!!」

 “そうかそうか!!!”と次の瞬間にはもう、気味の悪い笑みを浮かべて言い放った、“どうやらお前には心に決めた男がいるな!!?”と。

「人間の中にはたまにいるのだ、心の強さを思いの力に変える事が出来る存在がな。なるほど、ソイツがお前の心の拠り所になっている、と言う訳か!!!」

 “面白い”、とその一際巨大な魔物は言った、“ソイツをお前の目の前で嬲り殺しにしてやろう。そうすればお前の愛も心の灯火も消え失せてその瞬間、お前は俺様のモノになるのだ!!!”とそう告げて。

「母上の手を煩わせる事も無い、俺自身の手で全てを手に入れ、奪い尽くしてやる!!!」

 “ガーハッハッハッ!!!”と高笑いを浮かべる魔物達のボスの前で項垂れつつもノエルは呟いた、“レアンドロ、来ちゃダメ”と、“貴方だけでも生き延びて”とそう言って。
ーーーーーーーーーーーーーー
 このお話は“セイレーン編14”の前書き部分をお読みになられてから読んでいただければ幸いに存じます。

 ちなみに。

 このお話の後半部分、特にノエルが捕まってからのシーンを“あの作品”の“リメイク”に入れてくれたなら(時系列的には主人公達が“デモンズタワー”に突入した直後辺りのタイミングで、ですけれども←花嫁達が彼処に連れて来られたのって、大体それ位の時間だったと思われますので)。

 “NTR派”を根絶やしにする事が出来るのに・・・。

 と、半ば本気でそう思っております(少なくともNTR派に付け入る隙を与えなかったでしょうに)、あの会社の社員じゃない自分が恨めしい、本心から悔しいです。
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