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夫婦の絆と子供への思い

夫婦の絆と子供への思い 2

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 蒼太とメリアリアの間には10年の間に四男三女が産まれていた、アランとリア、アシルとレナ、レオとローズ、そして末子の雷太だ。

 皆可愛い子供達であったがこの内でも、特に蒼太とメリアリアが可愛がったのがアランとリア、そして雷太であった、雷太は末子でまだまだ幼いから解るが彼だけでは無くて長子の双子、アランとリアに対して夫婦が注目して期待していたのが、彼等の持ち合わせたる“優しさ”と“暖かさ”であったのである。

 赤ん坊の頃こそ何かにつけて泣きじゃくったり甘えて来たりして色々と手が掛かった二人であったが3歳を半年も過ぎる頃になると段々と自我が芽生え始めて独り立ちしていった、この頃には既に第2子達となるアシルとレナが産まれ出でて来ており、またメリアリアのお腹の中には第3子であるレオとローズが宿っていて彼等の世話に注力せざるを得なかったから夫婦にとっては助かったが何分、初めての子育てで中々思うように出来なかった部分もあって、それが不憫さに繋がっていったのであるモノの、アランとリアはそんな事は全く気にも止めていない様子であり、元気にスクスクと育っていったのだ。

「あの子達は立派だね?特にアランは既に長兄としての自覚が芽生えて来てる・・・」

「本当よね?私達は助かっているんだけれども・・・。とは言ってもまだまだ子供だもん、“もっと甘えても良いのに”って思う事もあるわ?」

 “そうなんだよね・・・”と愛妻淑女の言葉に青年が頷くモノの、確かに彼等に対しても愛情を目いっぱい注いで育てあげた夫婦であったが、その一方で“もう少し優しく接してあげるべきだったかな?”と思わないでも無かった、それというのも。

「こらっ。何をやってる!!!」

「御飯は大事にしなさいって言っているでしょう!!!」

 蒼太とメリアリアの胸中には先達から聞かされて来た子育ての指針が存在していた、それは“決して冷酷にならないように”また“やり過ぎないように細心の注意を払いつつ”、“3歳になるまでは性悪説を取って厳しく育て、それ以降は性善説を取って優しく、大らかに育てなさい”と言うモノであったのだ。

「冷酷になってはいけません、それは厳しさとは似て非なるモノです。特に子供と言うのは人の本心や本性、気持ちと言うモノを良く見抜きますから親達は心して掛からねばなりません」

 そんな事柄を義父連中や義母達、そして育児セラピストに教わったのであったから、蒼太達は親として常に子供達に全身全霊で向き合う事にしていたのである、そしてその結果。

 アランとリアは強くて優しく、その上素直な子である事が解って来た、これは他の子供達もそうであったが彼等二人は特にそれらが突出して長じており、このまま育てばいずれは立派な人物になれるであろう事が窺えたのだが、しかし。

「いやだ!!!」

 そんな長男と長女のペアに対して蒼太達夫妻を最も悩ませたのは次男次女、即ちアシルとレナの組み合わせであった、彼等は何かにつけて反抗しては言うことを中々聞かなかったのだが、その原因と言うのが兄と姉に対するある種の劣等感にあり、もっと言ってしまえば“自分達が誰にも見てもらえない”、“兄と姉ほど愛されていない存在である”と認識している為だからだ、と蒼太が気付いたのが彼等が8歳と半年になってからの事である。

 それというのも。

「父さん!!!」

「どうしたんだい?アラン・・・」

「アシルが僕の玩具を取ったんだ!!!」

「・・・・・」

 悪戯好きで乱暴者だったアシルはレナと共に、会う人会う人に分け隔てなくちょっかいを掛けていたのだが特に、兄であるアランに良くそう言った行為をしでかすようになっていた、それだけではない、蒼太がアランに訓練を施していると影からジッとその様子を見ていたり、かと思うとアランの行動を真似したりして、周囲の人々の関心を得ようと試みるのだ。

 その内でもとかく、蒼太達夫妻の気を引こうとしてあれこれとやって来るのであったが、そんな二人にメリアリアはホトホト手を焼いていたし、カッシーニ邸の使用人達も彼等を恐れてあまり近寄らなくなっていった、そんな中で。

「アシル、レナ・・・」

「何さ、父さん!!!」

 ある朝、蒼太はアシルとレナとを誘ってカッシーニ邸の裏庭までやって来る。

 ここはいつも、兄達が父や母から修練の指導を受けるのに用いられる場所であるから、流石の二人も気合いが入った。

「僕達に戦闘訓練を教えてくれるの!!?」

「もちろん」

 意外そうに、それでいて嬉しそうに尋ねるアシルとレナに、蒼太は爽やかに頷いて見せた。

「君達にも、稽古を付けなければ不公平だからね・・・。さあどっからでも掛かってこい!!!」

 “言っておくけど”、“手加減はいらないからね・・・!!?”とそう言って蒼太は二本ある木刀を一本ずつ二人に向かって投げ飛ばすと、自らはそこら辺に転がっていた、やや大きめの木の枝を持ってきてスッと構える。

 流石に歴然の勇士だけあってそこには一縷の隙も無く、それはまだ子供と言えどもアシルにもレナにも伝わっていった。

「くうぅぅ・・・!!?」

「ううーん・・・!!!」

「・・・どうした、打ち込んで来ないのか?いつもの威勢は何処へ行った!!!」

「そ、そんな事言っても・・・!!!」

「・・・・・っ!!!」

 父親の言葉に中々打ち込むタイミングを計れないでいた二人は彼の回りをグルグルと回るが、そうしている内に。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・?」

 蒼太の後ろに回ったレナが木刀を両手で上段に構え、そのまま無言の内に振り下ろしてきた、それを。

「いたっ!!!」

「ああっ。レ、レナ!!?」

 気配を察知した蒼太は機敏な動きで振り返り様にレナの手の甲を打ち、木刀を叩き落とさせてしまう。

「いったーい・・・」

「ち、ちくしょう・・・っ!!!」

 その光景に怒りを覚えたアシルは今度は隙も見出せていないにも関わらず、“突き”の体勢を取ったまま遮二無二突っ込んで来るモノの、結果は全く同じであった、それを難なく躱した青年はレナの時と同じように小枝を高速かつ縦横無尽に操ってアシルの手を打ち、木刀をはたき落とす。

「いっつつ・・・!!!」

「・・・どうしたどうした、二人がかりでこんなもんか?アランはまだ攻撃を防ぐ事が出来たよ?」

「「・・・・・っ!!!」」

 その名前を聞いた瞬間、二人の目には闘志が芽生えて来た、全体から醸し出される雰囲気が変わって漸くやる気が湧いて来たのが窺える。

「てやぁっ!!!」

「てえぃっ!!!」

 先程までとは違う、深くて鋭い打ち込みに蒼太も内心で驚愕していた、まだ9歳にもなっていない子供達にこんな才能があったなんて、彼自身思ってもみなかったのである。

 しかし。

「いてっ!!!」

「あいたっ!!!」

 所詮はろくすっぽ訓練を受けていない子供の剣である、動きにも無駄が多くて蒼太にはまさに児戯に等しかった。

 一時間もする頃には双子はすっかりと体力の限界に来てしまっていた、それだけではない、全身もあざだらけでボロボロ、特に真正面からの突撃を繰り返していたアシルは酷い有様だった。

「はあはあっ、はあはあ・・・っ!!!ちっくしょう・・・」

「はあはあっ、はあはあ・・・っ!!!お、お父さん。強すぎぃ・・・」

「・・・これは普段から思っていた事なんだけど。君達にはどうも破れかぶれな動きと言うか、投げやりな隙があるんだよ。どうして自分を大事にしないんだい?」

「はあはあ、はあはあ・・・っ。な、投げやり?」

「はあはあ、はあはあ・・・っ。何さ、破れかぶれな隙って・・・」

「思い返してごらんよ、君達はわざわざ僕が構えている所へ突っ込んで来た。そんな事をすれば跳ね返されるのは当たり前なのに、特にアシル!!!」

「・・・・・」

「どうして闇雲に突っ込んで来る?自分の命をドブに捨てる戦い方だ、あれじゃあ幾ら命があっても足りないよ・・・?」

「・・・・・」

「君達はせっかく、お母さんが一生懸命に産んでくれたモノなんだから。もっと自分を大事にしてくれないと困るな・・・」

「・・・でもさ、でもさ。お父さんもお母さんもアランやリアには一生懸命に色んな事を教えるけれど、私達には何も教えてくれないじゃない!!!」

「・・・・・」

「戦闘訓練だって今回が初めてだし。いきなりそんな事を言われたって解らないよ!!!」

「・・・・・」

 するとそう諭されて黙ってしまったアシルに代わってレナが父親に抗議をするが、それを聞いた青年は。

 何を言うでも無く、ただ黙って俯きその場を後にしてしまうが、その日の訓練はそれで自然と終了し、自由を手に入れた二人はしかし、疲れていた為にその日は悪戯をする元気も出なかったから、夕食を済ませてシャワーを浴びるとサッサと床に付く事にした。

 ところが。

 蒼太の訓練はそれで終わりでは無かった、次の日も次の日も、その次の日も訓練は続いていった。

 しかも。

「いったーい・・・!!!」

「何をするんだよ、父さん。痛いじゃないか!!!」

 最初は剣術のみだった鍛錬も、徐々に精神統一や魔法と言った呪力を扱うモノに変化していったが、二人はブツブツ言いながらも一応、父親の言う事には黙って従った、蒼太を怒らせると本当は怖い事を直感で悟り、また本能的にも理解していた為である。

「・・・なんなんだろうね、お父さん。急に私達に武術や魔法を教えてくれるなんて」

「うん・・・」

「ま、お陰で前よりはかなり強くなったけどさ?だけど今まで放っぽっておいた癖に“自分を大事にしろ”だなんて、良く言えるよね!!?」

「うん・・・」

 “どうしても君達二人には、投げやりな隙があるね”、“命を大切に感じなさい、生かされている事に感謝してね・・・”。

 それがここ数ヶ月間の蒼太の口癖になっていったが、そんな父親と共に武術や術式の稽古をするとその日は本当にクタクタになってしまい、夕食を終えてシャワーを済ませる頃には眠くて眠くて堪らなくなっていた、二人は思った、“もしかしたならそれが父の狙いなんだろうか”と。

(僕達が悪戯出来ないように、仕向けるために急に付きっ切りで武術の鍛錬を始めたのかな・・・)

(私達、そんなに信用されていないのかしら・・・)

 “親にまで疑惑の目を向けられているのかな”、“疎ましく思われているのかな・・・”等とそんな事を考えて、子供ながらに泣きながら眠りに就いた、“私達は、誰にも愛してもらえて無いんだ・・・”、その孤独感だけを友として。

「・・・今日は君達に見せたいモノがある」

 その翌朝の出来事だった、暗い面持ちのまま訓練場にやって来た二人に対して開口一番、そう言って蒼太が胸のポケットから取り出した物、それは銀でも金でもない、不思議な鉱物で出来ている煌めく指輪だった。

「・・・・・っ!!?」

「うわぁ、キレイ・・・ッ!!!」

 それを見せた時に、流石に女の子であるレナはアシル以上に食い付いて来た、しかしこの指輪、よく見ると何処かで見た覚えがあるのだ。

「・・・・・」

「お父さん、この指輪どうしたの・・・?」

「これはね?お母さんの指輪だよ・・・」

 その言葉を聞いて、アシルとレナはハッとした、確かにこれは、彼等の母親であるメリアリア・サーラ・デ・カッシーニ、その人のモノであったからである。

「この指輪にはね、お母さんの思いが込められているんだ。単に装飾用の為のモノだけじゃ無くてね・・・」

「・・・お母さんの?」

「思い・・・?」

「ほら、これを持ってごらん?そして精神を統一したまま指輪に向かって語り掛けるんだ・・・」

 “感じてごらん、お母さんの思いを・・・”。

 そう言って父は子供達に指輪を託し、自らは少し後ろにまで退いた。

「・・・・・」

「お母さんの、思い・・・?」

 改めて怪訝そうにそう呟くと、二人はそれでも言われるがままに指輪を重ね合わせた互いの掌の中で包み込み、そのまま意識を研ぎ澄まさせて指輪の波動を感じ始めた、その直後に。

 二人の脳裏にはあるイメージが映し出されて来た、それは彼等が産まれた日の場面、蒼太の手を握りしめたメリアリアが分娩台の上で必死になってアシルとレナを生み落とした時の彼女の目で見たモノがそのまま映像となって双子の視覚に投影されて来ていたのである。

 それだけではない、二人の心には母の情感が流れ込んで来ていたのであり、メリアリアの覚えた想いが、直に精神に響き渡って来る。

「私の赤ちゃん・・・!!!」

 産まれたばかりで泣き喚く我が子を、メリアリアは衰弱しきった体でそれでもしっかりと抱き支えた、そしてその瞬間。

 彼女の胸の底の底からは“生まれて来てくれて有り難う”と言う嘘偽りのない暖かな、それでいて極めて強烈な思念が発せられて来るモノの、それはまさに本質的かつ無償無上なる感謝の顕現であり光の光たる純真さの発露、それそのモノに他ならなかった、そしてー。

 それに触れた途端に双子の瞳からは大粒の涙が溢れ出して止まらなくなり、アシルとレナはその場で崩れ落ちて泣いた、素行不良な彼等だったが根は素直で優しい子達であったから、この時の母の優しくて確かなる愛情の煌めきは二人の心に深々と突き刺さって行ったのである。

「ウッ、グス・・・ッ!!!」

「お母さん、お母さん・・・っ!!!」

「・・・・・」

 そう呻いて泣き喚く二人を、蒼太は少し離れた所からジッと眺めていたのだが、やがて。

「・・・もういいかい?」

「ウェッ、グス・・・ッ。う、うん。父さん・・・!!!」

「ウウッ、グス・・・ッ。ごめんなさい、お父さん・・・!!!」

 二人が泣き止んで来たのを見て取ると、蒼太は改めて彼等に近付き、その手の中から愛妻の指輪を受け取った、それは結婚式の時に蒼太がメリアリア達に送ったエンゲージ・リングであったのであるが、その事を子供達は知らなかった。

「これからは自分を大事にしなさい、生かされている事に感謝してね・・・。解ったかい?」

「グス、ヒック・・・。う、うん。父さん!!!」

「ウッ、ウック。わ、解りました・・・!!!」

 それ以降。

 二人の悪戯や不良行為はピタリと止んで、嘘のように素直で大人しい子になった、メリアリアの真心に触れたアシルとレナは、愛を取り戻したのである。
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