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夫婦の絆と子供への思い

夫婦の絆と子供への思い 4

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「てやぁっ、たぁっ。うらぁっ!!!」

「・・・・・っ!!!」

 カッシーニ邸のただっ広い裏庭を使って行われている戦闘訓練で、アシルは木刀を巧みに使い、父である蒼太に肉薄していた、“二刀流”を駆使する兄のアランと違って“空中殺法”を得意としていた彼は縦横無尽に体を使い、彼方此方へと飛び移っては父親に一撃を浴びせようと突っ込んで来る。

 そこには最早、かつてのような“破れかぶれな気迫”は存在していなかった、漲る闘志を極一点にまで集約し、纏め上げては鋭く叩き付けて来る、一介の戦士の姿があったが何分、以前のアシルは“自分は要らない子供なんだ”、“誰にも必要とされていないんだ”と言うやさぐれ感が心に満ち満ちており、それが何処か“投げやりな隙”となって表面化して来ていたのであったモノの、今の彼は全く違った。

 己の本質の深い部分で“母の愛”を直に感じてその暖かな思いに包まれてからと言うモノ、“自分自身を愛する心”を取り戻した少年は精神のささくれ立った部分が癒され、是正された事で段々と隙が無くなって来つつあり、また己本来の在り方や生き方、戦い方を見出しては120%の実力を発揮出来るようになってきていた訳である。

 もっとも。

「いてぇ・・・っ!!!」

 それでもまだまだ、漸くにして人並みのスタートラインに立てた、と言うレベルでしかなかったアシルはどうしたって父に敵わず、あっさりとやられてしまうがそんな息子に対して蒼太は内心で舌をまくと同時に感心していた。

 何とか子供の心のわだかまりを解く事には成功した彼ではあったが、その“残された傷跡”が消えたアシルは(時折調子に乗る事はあったが)概ね非常に良い子であり、素直さの光る優しさを持ち合わせていた、これは双子の妹のレナもそうで、彼等はだから徐々に屋敷の使用人達とも打ち解けて行き、今となっては誰も彼等の事を悪し様に言う者はいなくなっていたのである。

「いたたた・・・っ!!!」

「あははっ。いや、ごめんごめん。あんまり手加減出来なかったよ、二人とも強くなったなぁ・・・!!!」

 その場に蹲って回復魔法を掛け始める我が子達を見ながら蒼太が思わず感嘆の声を挙げるがアランとリア、アシルとレナの現状を鑑みるにかつての自分やメリアリアよりもしっかりとしていて強い、と言わざるを得なかった。

 特に長男長女であったアランとリアはもう既に、将来的には蒼太とメリアリアを超えるであろう実力、法力の一端を身に付け、しかもそれらを現実のモノとして顕現し始めて来ており行く末が非常に楽しみだと、誰も彼にも思われていた、それもただ単に腕力や呪力が強い訳では無い、二人ともしっかりと人として大切なモノを持ち合わせてくれており他人を慈しんだり、偲ぶ心を自然と発揮しては蒼太達夫妻を喜ばせていたモノの、これは勿論、彼等自身に秘め備えられていた暖かさ、霊性さの発露であった事は違いないが、そこへ持ってきて蒼太とメリアリアの教育の賜物である、と言う事が出来たのだ。

 それと言うのも。

 蒼太達はダーヴィデ夫妻や日本、ガリア双方の育児セラピストから“決して冷酷になったり、やり過ぎたりしない様に細心の注意を払いつつ”と前置きされた上で“生まれてから3歳になるまでは性悪説を取って厳しく育て”、“3歳以降は性善説を取って優しく、大らかに育てなさい”と繰り返し指導を受けていたのであって、真面目で理解力もある彼等はだから、初めて自分達が子育てをするに当たっては先達の意見に耳を傾ける意味合いもあって“確かにその方が良いかもな”と考えて実践するように心掛けたのだが、その結果。

 子供達はまず、無垢むく無辜むこな内から“両親の厳しさ”と言うモノを嫌と言う程味あわされるのであり、それと同時に“人とは怖いモノなんだ”、“決して舐めてはいけないんだ”と言う事を、無言の内に思い知らされる事になるのである。

 それだけではない、怒られる時の怖さ、悲しさ、苦さと言った、“人に攻撃されたり非難されたりする痛み”を痛感する訳であるがそうやって子供達は無意識の内に“親の威厳”と言うモノを感じ取って行くのであり、またこの時に出来た“心の傷”を3歳以降は性善説に則って優しく接する事で癒し、慰め、それと同時に“人の優しさ”、“暖かみ”と言ったモノを改めて教え込んで行く、と言うのがこの教育方法の趣旨だったのだ。

「・・・勿論。これらを実行するにはまず、親御さん達が子供達に対してキチンとした愛情を持っている事が前提になります。冷酷になってはいけません、それは厳しさとは似て非なるモノです、全く異質のモノなのです。それに子供と言うのは大人達が考えている以上にこちらの本心や本性、そして気持ちを良く見抜きますから親達は心して掛からねばなりません!!!」

 “人の為と書いて偽りと読みます、皆自分の為に生きているのです”、“また人に憂いと書いて優しさと読みます”と育児セラピスト達は蒼太達夫妻に説明するが、“厳しさや痛みを知っている子供達はだから、その分他人に優しくなれるのです”、“勿論、甘やかし過ぎてもいけませんが”と結んで講習を終えた、そしてその時に蒼太達の子育ての指針は決定したのであった、“生まれて来る我が子を最初は敢えて厳しく育て”、“3歳以降は優しさと愛情で包み込むようにしよう”、“ただ闇雲に甘やかすのではなく、けれども年頃になって自分達の元から巣立って行くまでは幼い頃に傷付けてしまった心を癒して慰め、なるべく元通りにするように心掛けよう”と。

 それこそが親が未熟で危なっかしい部分もある子供達に対して持つ責任であり、保護者の保護者たる所以なのだ、と。

 そうやって優しさと強さを併せ持った子供として導いて行こう、と。

「アランとリアが将来、他ならぬ自分自身の為に、しっかりと地に足を付けて生きて行ってくれれば良いと思っているよ。メリー、僕はね?この子達に“勇者”では無くて“仁者”になって欲しいんだ・・・」

「・・・“ジンシャ”?」

 “それってなんなの?”と尋ねる愛妻淑女の質問に、青年が丁寧に応じて応えた。

「“仁者”って言うのはね?本当に優しい人って言う意味なんだよ。本当に優しい人と言うのは必ず、本物の勇気も持ち合わせているそうなんだ。そしてそんな人と言うのはね?自然自然と自分の為にやった事が、人の為にもなるような行動をとる事が出来るようになって行く、とされているんだ。自分自身に対してだけでは無くて、他人様にも真の思いやりを持つことが出来るようになる、とされているんだ。アランとリアにはそうなってもらいたいなぁ・・・!!!」

「あははっ。あなたったら、ちょっと壮大過ぎるわね・・・!!!」

 そう言って互いに微笑み合う二人であったが彼等はまだ知らなかった、自分達の子供達が、やがて大勢の人間の命と運命を救う存在となるのだ、と言う事に。

 人々を光へと導く使命を帯びていたのだ、と言う事に。

「この子達が大きくなる頃までには、もうちょっと幾らか平和な世の中になってくれていると良いんだけどなぁ・・・」

「そうね・・・」

 ソッと夫に寄り添ったメリーが彼の手を恋人繋ぎで握り締め、瞳を瞑ったままその肩にコツンとおでこを寄せて来る。

「少しは良くなって来ているように感じているんだけどね。世界・・・」

「大魔王がいなくなった事でちょっとずつは、確実に浄化が進んでいるからね。ただここまで引っ掻き回されたモノが、そう簡単には良くならないよ。やっぱりある程度は時間が掛かるみたいだ・・・」

「そう、なんだ・・・」

「でも大丈夫さ?皆がそれぞれの場所で頑張って行けば必ず、世界平和は実現出来るよ。あのノエルさんも、今現在は父方の故郷である“ルクセンブルク大公国”に帰って貴族院で活躍しているそうだよ・・・?」

「あははっ、懐かしいわね!!!」

 “ノエル”の名前を聞いたメリアリアはそう言って何処か遠くを見つめるような眼差しを浮かべる。

「あれから・・・。ノエル達がガリアからルクセンブルクに帰還してもう5年か。早いわよね・・・。って言うか、そう言えばあの時もあなたが助けてくれたのよね?」

「・・・そうだったっけか?はぁ~、まったく。ノエルさんに関する事なんか、一々覚えてられないよ。ただでさえ子育てでいっぱいいっぱいだったって言うのに、あの人は!!!」

「あははっ、お疲れ様!!!」

 何処かゲンナリとした面持ちとなって吐き捨てるように呟いた青年に対して、愛妻淑女は彼に抱き着きながら、明るい笑みを浮かべていた。

「あの時はまだアランもリアも五歳になるか、ならないかだったっけ?雷太は生まれてもいなかったね・・・」

「だけどあなたは凄いわ?子供の時からとっても強くて勇敢で。それに何より優しかったわ?私、いっぱいいっぱい助けてもらって来たわね・・・!!!」

「・・・助けてもらったのは僕の方だよ、メリー」

 するとそう告げてくる花嫁に対して花婿が言葉を発した。

「僕、自分で言うのも何だけれども結構、無茶して来たからね。良く命を永らえたと思っているよ、メリー。間違い無く君のお陰だよ?」

「ううん、そんな事ない。私の方が無茶してたもん、蒼太はいつも私に寄り添ってくれてたじゃない!!!」

「・・・そうだったっけ?だけどね?メリー。僕はただ、君と一緒にいる事が楽しくて嬉しくて。それで夢中になってずっと一緒に過ごして来たんだよ?」

「私だってそうよ?あなたと一緒にいるととっても心強くて暖かくて。何より幸せで物凄くドキドキしてた、だから“もっと一緒にいたい”って。“ずっと一緒にいたい”って毎日のように思っていたの、願っていたの・・・!!!」

「あははっ。嬉しいな、君と昔からずっと思い合っていたなんて・・・!!!」

「うふふっ。私もよ?あなたと思い合っていたなんて、とっても幸せ・・・!!!」

 そう言うとメリアリアは蒼太の正面に回り込み、“チュ・・・ッ!!!”とフレンチキスをする。

「ねえあなた・・・」

「ん・・・?」

「私、また赤ちゃんが欲しくなっちゃった!!!」

 少し照れ臭そうな微笑みを浮かべてそう言葉を紡いだメリアリアは。

「ううん、赤ちゃんが出来なくても良いの。ただあなたに愛してもらえるのならば・・・」

 そのまま爪先立つまさきだちして夫の耳元で“いっぱい抱いて?”、“いっぱい愛して?”と甘く熱っぽく囁くモノの、そんな愛妻淑女に対して。

「・・・メリー。僕、幸せ」

 そう答えると青年は彼女の瑞々しい唇に自らの唇を重ねて返した。
ーーーーーーーーーーーーーー
 例え使い古された表現だろうと、どんなにベタと言われようと“王道”こそが“正義”なのです。

 “こう言うので良いんだよ”と言うゲームを量産する事が出来れば、お客様は自然と世代を超えて御社を支持してくれるようになります。

 その為には下手に奇をてらった展開を連続させるよりも、より深い物語と重厚なシステムを作り込む事です。

 捻くれた発想は要りません、素直な心を持ちなさい。

 何故ならば正しい意味での“夢”と“希望”と言うものは、“愛”と“正義”を土台にして育つモノだからです。

 “ゲーム大国”と言われた日本を見て下さい、特に“昭和”と呼ばれた時代には、彼の国にはまだ“それら”があった、法律等に頼らなくとも皆の心の中には“愛と正義”に裏打ちされた、“夢と希望”が満ち溢れていたのです。

 これらは人々の中に眠っている“創造性”を刺激して、世界をどこまでも発展させて行きます。

 今現在、日本に於いて隆盛していたり、また或いは命脈を保っている“RPG”を見るとだから、“昭和の時代”にその骨組みが完成しているモノ、もしくは何らかの形でそれらの影響を受けたと思われるモノが大半です。

 今一度、愛を紡いで正義を為せ、あなた方だけにそれが出来る、あなた方だけにそれが出来るー。

 ~ルクセンブルク大公国に於ける、新生ゲーム会社設立記念式典に際して招待された“ミリオラ・ノエル・キサラギ”貴族院議員が祝辞として読んだ言葉~
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