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夫婦の絆と子供への思い

夫婦の絆と子供への思い 11

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 蒼太は漸くにして、自分とオリヴィアとの間に生まれた長男“マエル”の至らない部分に気が付く事が出来たがそれは“自分で自分を一番輝かせよう”とする、己に対する飽くなき願い。

 或いは“これだけは必ず~~する”、“やり遂げる”と言う強靱なる意志。

 決して諦めない心、いっそ“執念”と言っても良いかも知れないが、幼き日~青年期に掛けての蒼太は確かに、それを持っていた。

 “メリアリアと再会する”、“彼女と添い遂げる、結ばれる”、そしてー。

 “何があっても彼女を守り、救う”と言う鋼鉄のような覚悟と決意、確かなる思い。

 それらが彼を突き動かしては相次ぐ困難と試練とを跳ね返し、突破させて来たのである。

 ところが。

(マエルには、それが無いのか・・・)

 蒼太はそれがちょっぴり不憫であると同時に心配でもあった、このままもし、事態が進んで例えば何某かの試合か何かでマエルが後れを取る場面が出て来たら。

(流石に可哀想だなぁ、皆の前で敗北するのは・・・!!!)

 “まあでも”と何処か他人事感全開で蒼太は呑気に構えていた、“それで誰かの運命や人生が破綻する訳でも無いし。人命が奪われる訳でも無いしね”と。

(マエルには悪いけれど、こればっかりは“環境が人を育ててくれる”と言うか。時期が来たなら勝手に成長してくれるだろう、多分・・・!!!)

 幸いにして、今現在は世界は平和そのものである、幾つかの発展途上国で内乱はあったモノの、それでもきな臭かったり血生臭い抗争は、全体的に見れば引き起こされてはいなかったのだ。

(この子達が大きくなる頃には、もう少し世の中も穏やかで安寧に包まれたモノになっているだろう。自分自身と向き合って、気付きを得るチャンスは十二分にある・・・)

 そう考えていたのであるモノの、しかし。

 “青天の霹靂”とでも言うべきか、世界の時流は彼の予想よりも、遥かに早く動いていた。

「旦那様!!!」

 蒼太がアルベールと談議を終えて、二人で一息付いていた時だった、急にアルベールを呼ぶ声が聞こえてメイド達が慌ただしく駆け寄って来る。

「何事だね?騒々しい・・・」

「ハアハア・・・ッ!!!た、大変で御座います。たった今宮廷から使いが参りまして、至急登殿するようにとのお達しで御座います!!!」

「旦那様と奥様は勿論、今回は若様とオリヴィア様。それにマエル坊ちゃんをお連れするように、との事です!!!・・・ちなみにいつものように、マエル坊ちゃんは木製の“模擬刀”を携帯して来るようにと」

「・・・・・っ!!!」

 “またか・・・!!!”と言う顔を見せるアルベールに対して蒼太が尋ねた。

「・・・お義父さん?」

「んんっ?ああ、いや。何でも無いんだよ、婿殿・・・!!!」

 怪訝そうな表情を浮かべる青年に対してアルベールが些かゲンナリとした面持ちとなりそう応えた。

「いや、その。ちょっとな?マエルの事を殿下が殊の外気に入られたみたいでな。時折こうして大した用事も無いのに我等を呼び付けて来る事があるんだ・・・」

「・・・殿下って?一体、何処の何方どなたです?」

「・・・皇女殿下だ」

「・・・はい?」

「リアナ皇女殿下だ!!!」

 アルベールが若干、困り顔を更にしかめてそう告げるがリアナ皇女とは今年で12歳と少しになる皇孫すめみまの一人で第7帝位継承権の持ち主であった。

 現皇帝である“フィリップ・メロヴィング七世”は御年59歳になる初老の男性であり、その下には今年で35歳になる皇太子ルイ・メロヴィングと双子の弟のガリウス、更にその二人にも子供達が大勢いたのだがその内で、皇太子ルイの元に“第3皇女”として生まれ落ちたのが“リアナ”と言う訳である。

 リアナ皇女は女だてらに凛々しく溌剌としていて剣を嗜んでおり、お転婆を通り越して明らかに男勝りな性分だった、色白でスレンダーな体型に顔は良く整っている美形であり、将来は麗しい女性になる事が約束されているかんばせをしていた。

「・・・そのリアナ皇女が何故?マエルとどう言う縁があって今に続いているのです?」

「君は任務で忙しかったから、知らぬのも無理からぬ事だが・・・。5年ほど前に宮廷で催された剣術大会の幼年部にマエルが出場して優勝した事があった」

「ええ、いや。あの、その話ならばオリヴィアから聞いてますけど・・・?」

「その大会の会場に、当時7歳だったリアナ皇女も出席されていてな?マエルに興味を持たれて大会終了後に直々に話し掛けられて来られたのだそうだ」

「・・・それで?」

「閉会後のお茶会に参加するように、要請されたらしいのだが。そこでマエルと懇談されている内に、徐々に話が弾んでいったらしい。結果その後も度々、城からお誘いが来るようになってな?今に至っている、と言う訳なのだよ・・・」

「・・・皇女殿下は、マエルの何処が気に入られたのでしょうか?」

「何でも正直な所と実直な所。そして普段は頼り無いがやる時はやる所なのだそうだ・・・」

「・・・・・」

(まずいな、それは・・・!!!)

 アルベールから粗方の話を聞き及ぶに連れて、蒼太は若干、背筋が冷たくなるのを感じていた、男勝りで快活な皇女殿下、と来ればやはり“ハキハキとして竹を割ったような性格の男性”が好みのタイプとして挙げられるのであり、我が子に申し訳無いのだが今のマエルでは到底、それには当て嵌まらない。

(今のマエルは“おっとり”とまでは行かないけれども。それでも自分自身の中でまだ、“決定的な気概”を持つに至っていない。もしそれが皇女殿下に看破されでもしたら・・・!!!)

 フェデラール伯爵家は帝室一家の不興を買ってしまい、下手をすれば今後暫くの間は冷遇される事になるかも知れない、そうなれば社交界からも弾き出されて一人で寂しく生きて行かねばならなくなる。

(冗談じゃ無いぞ?それだけは絶対に避けなきゃ・・・!!!)

 “オリヴィア達の為にも!!!”と意気込む蒼太であったが、ではどうすれば良いのか、と言う事に対する具体的な策はトンと思い付く事が出来なかった。

「確かにマエルは本質的には優しい子で勇気もあるし。少年にしては剣の腕前もかなりのモノだ、それに加えて“人付き合いで大切な事は何なのか”と言う事をキチンと弁えている子でもある。その辺りが皇女殿下のお心に突き刺さったのかも知れないな・・・」

「・・・そうですね、素直で実直、それでいてやる時はやる子、ですか。正直に申し上げまして、皇女殿下の評価は親としては嬉しい限りなのですが。しかし今のままのマエルでは」

「その通りだ。“いつか皇女殿下から見捨てられるのではないか?”と、そればかりが気掛かりなのだよ・・・」

 蒼太に続いてアルベールも暗い面持ちとなったモノの結局、宮廷からの申し出を無下に断る訳にも行かないのでアルベール達は蒼太夫妻とマエルを伴い、登城する事にしたのである。
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