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夫婦の絆と子供への思い

夫婦の絆と子供への思い 12

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「来たかマエル、待ち侘びていたぞ!!?」

「リアナ皇女様こんにちは、ご機嫌麗しゅう存じます!!!」

 帝室一家の住まいたる宮廷に登城してモノの5分と経たない内にマエルは待ち構えていたリアナ皇女に連れられて中庭へと引っ張られていった。

 蒼太達が取り敢えず、その後を着いて行くとー。

 そこは見事な茨の園が広がっている庭園でありかなりの敷地面積を誇っていた、見ると既に医者やメイド、執事と思しき人々が10名前後顔を揃えて待機しており、皆恭しく頭を垂れてリアナ皇女以下を出迎えた。

「マエル、私の訓練の相手をしろ。今日こそお前に一撃をくれてやる!!!」

「負けません、皇女殿下。僕もいっぱい、修業を積んで来ました!!!」

 その言葉が終わらない内から。

 リアナ皇女はまだ何の防具も着けていないマエルに一気呵成に打ち掛かっていった、手にしているのはサーベルを模った木刀であり、あれがもし当たってしまえばかなりのダメージを負うだろう事は想像に難くない。

「ちょっと。嘘でしょう・・・!!?」

「バ、バカな。なんて事を・・・!!!」

「ま、まあ婿殿。オリヴィアも、ちょっと落ち着いて・・・!!!」

 流石に慌てて飛び出そうとした蒼太とオリヴィアを、すかさずアルベールが押し留めるがリアナ皇女の上段からの打ち込みが自身の頭に炸裂するかどうかと言う、本当に一瞬の間合いをマエルは制して剣道に於ける“抜き胴”の形でギリギリ早く、リアナ皇女の腹部を打ちのめしていったのである。

「うわ・・・っ!!?」

「そんな、まさか・・・!!!」

「・・・・・」

 驚愕の色を露わにする蒼太夫妻に対してアルベール伯爵達は頭を抱える仕草をしつつも尚、冷静であった。

「・・・ぐっ、く。やったな?マエル!!!」

「皇女様が先に仕掛けて来たんです。僕は悪くないもん!!!」

「うるさーいっ!!!」

 そう叫び様、リアナ皇女は再び木刀を構えて吶喊し、マエルに対して我武者羅なまでの攻撃を繰り返すがしかし、そのどれもを少年は剣を合わせて擦り上げ、絡ませ、応じ技や返し技に持ち込んで豪快に頭や肩、腹等に一撃を加えて行く。

 これらはどれも日本の剣術にフェデラール家の技法を加えたモノであったが遮二無二打ち込みや刺突を繰り返して来るリアナ皇女に対してマエルは冷静に試合を運び、彼女に一撃も入れさせなかったのである。

 とうとう最後には。

「げはぁっ!!?」

「・・・・・っ!!?」

「そ、そこまで。そこまでだ!!!」

 疲労からガラ空きになった上部、それも喉元に対してマエルが“突き”を入れ、その直撃を受けた皇女が堪らずもんどり打って転げ落ち、地面に倒れ伏すモノのそれを見た蒼太夫妻は急いで我が子とリアナ皇女を止めに入った、勝負は充分に着いている、これ以上の仕合いは全くの無用であったのだ。

「マエル、君はなんて事を・・・!!!」

「女人に、それもまだ年端も行かぬ少女に突きを入れるとは・・・!!!」

「げほっ、がはっ。ま、待て二人とも・・・!!!」

 息子のあまりの容赦のない戦い振りに、流石の蒼太達もドン引きしつつも制止と注意に入るが、それを押し留めたのがリアナ皇女本人であったのだ。

「ぐはっ。はあはあ・・・っ!!!わ、私がそうするように言ったんだ。手加減してもらったのでは試合にならないからな!!!」

「リ、リアナ皇女殿下・・・!!!」

「それは確かに、そうかも知れませんが・・・!!!」

「げはっ。はあはあ・・・っ!!!ふうぅ、有り難う。マエル、良い闘いだったぞ?」

「・・・皇女様、今日はもう良いんですか?」

「うん。今日はもう良いんだ、目標は達成したからな!!!」

 そう告げると。

 リアナは木刀を従者に預けて一礼をする。

「流石にマエルだな、この前よりももっと強くなっている。何度か打ち込もうと思っていたのだが、叶わなかった・・・!!!」

「リアナ様こそ、凄いですよ。この前と違って全然手加減出来ませんでしたから・・・」

「コイツ・・・!!!」

 “と言う事は、やっぱり今まで手を抜いて戦っていたのか!!!”とリアナは初めて年相応の少女らしい脹れっ面を見せるが、その表情は愛くるしくてマエルが赤面して行くのが解った。

「リアナ様、許して下さい。でも僕だって何の恨みも無い人に、いきなり全力で打ち掛かって行く事なんて出来ません・・・」

「くうぅ・・・っ!!!」

 その言葉を聞いてリアナは尚も悔しさを滲ませるが、しかし。

「ええい、仕方がない。また特訓だな!!?次は絶対に負けないからな、マエル。また私と勝負しろ!!!」

「はい、解りました。皇女様・・・!!!」

「マエル、今日は付き合え。これからお茶会だ!!!」

「解りました皇女様。でも僕、紅茶よりもコーヒーミルクが好きなんだけど・・・」

「バカ者!!!」

 するとそんなマエルの言葉を聞いたリアナが口調を荒げて言い放った。

「私は昔からお茶会にはダージリンを出すと決めてあるんだ。お前も私の番ならば、それ相応の舌を持て!!!」

「・・・ツガイ?ツガイってなんですか?」

「将来は私の夫になる人間と言う意味だ、そんな事も解っていなかったのか!!?」

 “これだからお子様はダメなのだよ・・・!!!”と溜息交じりにそう言葉を綴る皇女を他所に、蒼太とオリヴィアは一瞬、思考が硬直してしまいアルベール伯爵夫妻は目を瞑って小さく気吹いた。

「・・・ち、ちょっとちょっと。お義父さん、それにお義母さんも!!!」

「これは一体、どう言う事なのですか?何が何処まで進んでいるのです?」

「・・・まあ、落ち着いてくれたまえよ。二人とも」

「まだ何処にも、何も進んでいません・・・」

「アルベール伯爵夫妻、それに義父上、義母上!!!」

 アルベール伯爵夫妻がそう応えると同時にリアナ皇女が小走りに走り寄って来た。

「お初にお目に掛かる。私はガリア帝国第7帝位継承権を持つ、第3皇女のリアナ・イリアナ・ド・メロヴィングだ。以後お見知りおきを・・・!!!」

「は、はあ。これは・・・!!!」

「恐れ入ります・・・!!!」

 ハキハキと挨拶をするリアナに対してまだ状況が良く飲み込めていない蒼太達はやや困惑したまま頭を下げた。

「既に御覧になられたように、マエルは異性として非常に魅力的だ。強さも誠意も暖かさも、皆しっかりと兼ね備えている。御両親の教育、指導の賜物だな?」

「い、いえ。あの・・・」

「有り難う御座います・・・」

「まあ少し頼り無い所もあるが、私は別に気にはしないぞ?欲張るのは良くないからな、完璧な人間などいないのだから・・・!!!」

「「・・・・・」」

「マエルとは既に話をしていて私が二十歳になったら正式に婚約を発表しようと思っているのだ。どうだ?伯爵家にとっても悪い話では無いだろう!!?」

「ええっ?いや、あの・・・」

「何も心配しなくて良い、政府や臣民、国軍や他の貴族達に対する準備や根回しも抜かりなく此方でやっておくからな?其方は安心してその時を待ってくれていれば良いのだよ!!!」

 完全に置いていかれてしまっている蒼太達を尻目に、“あ~はっはっはっ!!!”とリアナは一人で呵々大笑していた。

「あ、あの。あのですね・・・、失礼ですがリアナ皇女殿下。このお話は皇帝陛下や皇后陛下、それに皇太子殿下は御存知なのですか?」

「お祖父様達は知らない。ただし父上にはもう話したよ?最初は“もう少し大きくなったらまた話をしよう?”と言われたから“私は絶対にマエルが良い”と食らい付いたんだ。そうしたら“お前がそれで良いのなら・・・”と父上には言っていただいだぞ?」

「ええぇ・・・っ!!?」

「あ、あの。あのですね、リアナ皇女殿下。それではアリシア皇太子妃様は、お母様はどうなのですか?」

「お母様は“本格的なデビュタントを迎えてから改めて考えなさい”と仰られていた。だけど私の決意は変わらない、マエルを私の婿にする!!!」

「「・・・・・」」

 これには流石の蒼太達も絶句してしまった、なるほどこれではマエルに婚姻の話が来ないのは無理からぬ事だった、裏表の無いリアナ皇女の事だから箝口令等敷いてはいないだろうし、この事は既に貴族達の間で密かな噂になっているかも知れない。

「義父上、義母上。御案じ召さるな?大丈夫です、マエルは私が守ります。どうか大船に乗った気でいて下さい!!!」

「「・・・・・」」

(ち、ちょっと。オリヴィア!!!何なんだ?これは。一体全体どう言う事なんだよ!!?)

(私が知るわけ無いだろう、私だってまだ数回程しかお茶会に呼ばれていなかったんだから!!!)

 夫婦が戸惑いつつも顔を見合わせてヒソヒソ話をしているとー。

 宮廷の奥の方から数名の人の気配が近付いて来るのを感じたので其方を見やると、そこには5、6人の従者に囲まれている、壮年の男が立っていた。

 やや細身だが見る限り、健康そうであり身長も180cm前後はあるようで、体幹もしっかりと鍛えられている様子であった。

「一体、何の騒ぎかね?・・・なんだね、君達は」

「あ、僕達。いいえ私達は・・・」

「父上!!!」

 するとその男性に対してリアナ皇女が抱き着き様に叫んだ。

「リアナ、君のお客人か?しっかりとお持て成しはしているのだろうな?」

「はい父上。万事抜かりなく進んでおります・・・!!!」

「・・・・・」

(父上?と言う事はこの方が・・・!!?)

 蒼太がキョトンとしている間に、既にアルベール伯爵夫妻とオリヴィアは跪いて手を胸に当てている。

 そうだ、彼こそが次代のガリア帝国皇帝となるべくして生まれ落ちたる皇太子、第1帝位継承権を持つルイ・メロヴィングその人であったのだ。
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