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夫婦の絆と子供への思い
剣で槍が討てるか? 7
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「俺は、何も知らん・・・」
「嘘を付け、お前の先祖がカロリング家の使用人だった事は掴めているんだぞ・・・?」
蒼太との戦いから3週間程が経ってから。
漸くにして話せる位にまで傷の癒えたセレスタンは相棒のエルミーヌ共々連日に渡る過酷な事情聴取を受けていた、もっとも。
自白したとて彼等に待っているのは最終的には絞首刑であるから、あの時蒼太がとどめを刺していたとしても変わる事は無かったかも知れないが、それでも貴重な証人を殺さずに生かして捕らえた事は特筆すべきお手柄だった。
「正直に言ってあの時」
後に蒼太がアンリに語った。
「このまま勢いのままにセレスタンを刺し殺してしまうおうか、とも思ったんだ。アイツは連続殺人犯だったしな?だからさ。最初は刃を一旦、下に下げてから逆袈裟で一気に切り上げようとも考えていたんだよ。それで後は心臓を一突きにしよう、と」
“でもな?”と彼はその時に、些か神妙そうな面持ちとなって呟くように言い放った、“その一瞬前にメリーの顔が過った”、“それで俺は踏み留まったんだ・・・!!!”とそう告げて。
「・・・メリーさんの?」
「凄い、悲しそうな顔をしていて“ダメだよぉっ!!!”って叫んでいた。だから俺はもうそれ以上、刃を振るう事が出来なくなってしまっていたんだ、それで・・・」
「それで、セレスタンを生かしたのか・・・?」
「ああ。まあ結果的に証人を生きたまま確保出来たのは僥倖だった、生きてさえいれば口も割れるからな・・・」
「・・・・・」
「お前はどうだよ?やっぱりギリギリの所で、マリアさんが出て来たのか・・・?」
「いいや、俺は・・・」
“もう既に、そう言う体験をしてきた”とアンリは言った。
「前にガリウスの連れをやった事があっただろう?あの日の晩に、俺はマリアに正直に打ち明けたんだ。人を斬り殺したんだって事を。そうしたらアイツ・・・」
「・・・・・」
「“貴男は優しい人ですから”って、言ってくれて。“ですから余程の事だったのでしょう?”って、そう言ってくれたんだ。俺、それを聞いた時に“コイツには一生、敵わないんだろうな”って思ったよ。それで・・・」
「今回は殺さずに済ました、とそう言う事か?」
「まあ、半分は殺すまでも無く相手が気絶してくれたから、だったがな?要するに状況が状況だったからなんだよな。まだまだなんだなぁ、俺達って・・・」
“だけど良くお前は”とアンリが更に述べ立てた、“アイツの槍先をへし折るなんて芸当が出来たな?”とそう続けて。
「普通は剣で槍を相手にしている場合は、そんな余裕は無いもんだ。況してや槍の先端部分はかなり頑丈に作られているんだぜ?それこそ下手な剣よりも、な。一体、どう言うマジックを使ったんだよ・・・」
「・・・コイツが頑張ってくれたからこそ、成し得た事だったのさ」
そう言って蒼太は自らが腰に佩いた聖剣“ナレク・アレスフィア”を鞘から少しだけ引き抜いて見せた。
「コイツはな?エルフ達の祈りの込められたミスリル銀で出来ていて憖っかな事では折れたりしない。勿論、限界はあるがな?とにかくコイツが頑張ってくれたからこそ、俺はセレスタンの槍先を切り飛ばす事が出来たんだよ・・・」
「そうか、エルフ達の。どうりでな・・・」
アンリが感慨深そうに口を開いた。
「知ってるか?セレスタンの使っていた、あのジャベリンな、スーパーチタニウム合金で出来ていたんだそうだ。それを切り飛ばしたんだからお前の技量ってのは大したもんだよ。勿論、このミスリル銀で出来ている聖剣の切れ味もだけど・・・」
「・・・・・」
「ちなみにさ、蒼太。知っているか?セレスタンとエルミーヌが捕まってから暗殺事件はピタリと止まったそうだぜ?お手柄だよな、俺達って・・・」
「まあ帝国と帝室への、これ以上のダメージは取り敢えずは避けられたんだ。まあ、よくやったと言えるんじゃないかな・・・」
「どうするつもりなんだろうな?ロレーヌ公爵の爺さんは・・・」
「跡取りもいない、事件も失敗じゃ、生きる気力も湧かないだろうが・・・。それにしても一体、どうして・・・」
二人がそう言って話し込んでいた、その時だった。
「蒼太君、アンリ君・・・!!!」
不意に上役のポールがやって来て二人を呼び寄せる。
「君達に任務がある。それも飛び切り上等の、な・・・」
「・・・・・?」
「一体、どんな任務です?」
「つい先程、当代皇帝であられるフィリップ七世陛下よりお達しがあった。特別条項第七条に基づいてロレーヌ公爵を拘束するように、との事だ。勿論、他の隊員達も現場には急行させるが君達にも出向いてもらう・・・」
「・・・・・っ。いや、あのですね。ポールさん」
「誠に以て申し訳無いのですが。私達はもうすぐ定時なんですが・・・」
「この事件が無事に解決したなら、一ヶ月間程の休暇を与えよう。最近休めて無かっただろうから、ちょうど良いのでは無いのかね?」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解りました”と暫しの沈黙の後に両者はそう頷くと、アンリの車でルテティア郊外に建っている、やや年代が入っているロレーヌ公爵邸へと赴いて行くモノの、そこには既に数名程の隊員達がいて突入するタイミングを伺っていた。
「どうする?蒼太・・・」
「構うことは無い、正面から堂々と行けば良いんだ!!!」
「お、おい。蒼太、それにアンリも!!!」
「知らないからな?どうなっても・・・」
口々にブツブツと文句を垂れる仲間達を尻目に蒼太とアンリはロレーヌ公爵邸へと突入を果たし、そのまま公爵がいると思しき執務室へと昇っていった、そこで。
「ロレーヌ公爵・・・っ!!?」
「なんてこった・・・っ!!!」
彼等は自分達が追い求めていたターゲットである、“ガルニエ・アントナン・ド・ロレーヌ公爵”の変わり果てた姿を目撃して茫然となってしまう。
遺体の直ぐ側にはワイングラスが一つ、転がっていてその周囲には中身と思しき赤ワインが絨毯に染みを作っていた。
「・・・・・っ。コイツは!!?」
「毒かな・・・?」
“鑑識を呼んだ方が良い”と蒼太が発言すると、周りにいた仲間の隊員達が一斉に動き出す。
その日の晩には鑑識班が到着して現場検証が行われたのだが、ロレーヌ公爵は遺書の類いを一切合切残しておらず、自身は何者だったのか、何故事件を起こしたのか、本当に黒幕だったのか、と言う数々の謎を残したままで事件はお蔵入りになってしまった。
もし事件の裏を知っている者がいるとすれば二人しかない、一人はセレスタンでありもう一人はエルミーヌである。
しかし彼等もまた、事件の詳細を一切、口にする事無く絞首刑になる事を選んだ。
これをもって完全に事件の真相は闇の中に葬られた事になる、筈であったが。
彼等の死刑が執行された後日、蒼太の元に弁護士を介して一通の手紙が届いた、差出人はセレスタン本人であり、そこには“自分が知っている限りで”と言う前書きと共に事件の裏話が実に十枚以上に渡って綴られていたのだ。
それによるとー。
ロレーヌ公爵家はカロリング家の直系に当たること、内々にメロヴィング朝に潜んで反乱を起こす機会を伺っていたこと、しかしロレーヌ公爵の代になって跡継ぎが生まれなかった為に失望した公爵は、せめてメロヴィング朝を打ち倒す事で先祖に報いようとしたこと等が事細かに書かれていたのだ。
「なんでもガリア帝国の政治体制を、共和制に改めさせようとしていたらしい・・・」
「なるほどな・・・」
蒼太から事の次第を聞きおよぶと同時に自身もその手紙を見せてもらったアンリが頷く。
「だから、先に民主共和制を敷いていた合衆国のメインバンクにガリア帝国側の有力企業の株を片っ端から売っ払い続けていたって訳か。いや、これは納得するわな・・・」
「暗殺事件を連続して引き起こしたのも狙っていた企業の株を暴落させて買いやすくする為と、ガリア帝国帝室に敬意を持っている有力者を抹殺する為に、ロレーヌ公爵が計画した事らしい。・・・自分達はその実行犯であった、と」
“しかし”と蒼太が続けた、“最大の驚きはカール・マルテル・ピピンが実は双子であった、と言う件だな?”とそう言って。
「俺はてっきり、ノエルさんの持って来たゴシップこそが歴史の真実だと睨んだのだがな?」
「それは本当にその通りだよな?“事実は小説より奇なり”とは良く言ったモノだぜ・・・!!!」
二人がそう言って頷き合うが、セレスタンが残してくれた情報によると歴史上では最後のカロリング家の当主とされていたカール・マルテル・ピピンには隠し子がいたのでは無くて、カールセンと言う双子の兄弟がいたらしいのである。
しかし将来的な分割相続を嫌った父、グリモアルドによりまだ幼い時分に彼等と交流の深かった大商人の家に密かに預けられ、その家の人間として暮らす事になった、と言うのだ。
「手紙によると・・・。グリモアルドは度々、その商人の屋敷を訪れては、父親である事を隠したまま我が子と面会していたらしいな・・・。その時に同時に“グリモアルド流槍戦術”の稽古を付けて行ったらしい」
「カールセンも、兄であるピピンに負けず劣らずの腕前だったらしいな。それで将来を有望視されていたらしいが・・・」
結局の所、兄が死んでグリモアルド流も表舞台から姿を消すが、カールセン自身は商人から打ち明けられて、かなり早い時期から自分がグリモアルドの子供である事を知っていたらしかった。
「それでカールセンの子孫が生き延びて今に至っている、と言う訳か。しかし恐ろしい執念だね?1,500年に渡って王権を狙い続けているとは・・・」
「ああ、この事件は闇が深いな・・・」
蒼太とアンリはウンザリしたような表情で言い放つが、それに加えてもう一つ、蒼太を特に何とも言えない気分にさせたのが、セレスタン本人が書き残した最後の一文であった。
曰く“どうせ殺されるならばお前に殺されたかった”と。
「だってよ、蒼太。どうするんだ?お前・・・」
「勘弁してくれよ・・・」
蒼太が困ったような顔をして天を仰いだ。
「俺にもね、俺の“生き様”ってのがあるんだよ。それは誰にも指図されたくは無いし、汚されたくも無い・・・」
“それに”と蒼太は尚も続けた、“俺にはメリーの方が大事なんだよ、セレスタンなんかよりもよっぽどな!!!”と。
「彼には悪いが・・・。俺は死んだら天国に行こうと心掛けてるんだ、だから余り人を斬り殺したくはないしね・・・」
そう言うと蒼太は立ち上がり、“帰るか?”とアンリに提案する。
彼等には今回の事件解決の立役者として、纏めて一ヶ月間にも及ぶ長期休暇が与えられていたのであり、それはまだ、始まったばかりであった。
「嘘を付け、お前の先祖がカロリング家の使用人だった事は掴めているんだぞ・・・?」
蒼太との戦いから3週間程が経ってから。
漸くにして話せる位にまで傷の癒えたセレスタンは相棒のエルミーヌ共々連日に渡る過酷な事情聴取を受けていた、もっとも。
自白したとて彼等に待っているのは最終的には絞首刑であるから、あの時蒼太がとどめを刺していたとしても変わる事は無かったかも知れないが、それでも貴重な証人を殺さずに生かして捕らえた事は特筆すべきお手柄だった。
「正直に言ってあの時」
後に蒼太がアンリに語った。
「このまま勢いのままにセレスタンを刺し殺してしまうおうか、とも思ったんだ。アイツは連続殺人犯だったしな?だからさ。最初は刃を一旦、下に下げてから逆袈裟で一気に切り上げようとも考えていたんだよ。それで後は心臓を一突きにしよう、と」
“でもな?”と彼はその時に、些か神妙そうな面持ちとなって呟くように言い放った、“その一瞬前にメリーの顔が過った”、“それで俺は踏み留まったんだ・・・!!!”とそう告げて。
「・・・メリーさんの?」
「凄い、悲しそうな顔をしていて“ダメだよぉっ!!!”って叫んでいた。だから俺はもうそれ以上、刃を振るう事が出来なくなってしまっていたんだ、それで・・・」
「それで、セレスタンを生かしたのか・・・?」
「ああ。まあ結果的に証人を生きたまま確保出来たのは僥倖だった、生きてさえいれば口も割れるからな・・・」
「・・・・・」
「お前はどうだよ?やっぱりギリギリの所で、マリアさんが出て来たのか・・・?」
「いいや、俺は・・・」
“もう既に、そう言う体験をしてきた”とアンリは言った。
「前にガリウスの連れをやった事があっただろう?あの日の晩に、俺はマリアに正直に打ち明けたんだ。人を斬り殺したんだって事を。そうしたらアイツ・・・」
「・・・・・」
「“貴男は優しい人ですから”って、言ってくれて。“ですから余程の事だったのでしょう?”って、そう言ってくれたんだ。俺、それを聞いた時に“コイツには一生、敵わないんだろうな”って思ったよ。それで・・・」
「今回は殺さずに済ました、とそう言う事か?」
「まあ、半分は殺すまでも無く相手が気絶してくれたから、だったがな?要するに状況が状況だったからなんだよな。まだまだなんだなぁ、俺達って・・・」
“だけど良くお前は”とアンリが更に述べ立てた、“アイツの槍先をへし折るなんて芸当が出来たな?”とそう続けて。
「普通は剣で槍を相手にしている場合は、そんな余裕は無いもんだ。況してや槍の先端部分はかなり頑丈に作られているんだぜ?それこそ下手な剣よりも、な。一体、どう言うマジックを使ったんだよ・・・」
「・・・コイツが頑張ってくれたからこそ、成し得た事だったのさ」
そう言って蒼太は自らが腰に佩いた聖剣“ナレク・アレスフィア”を鞘から少しだけ引き抜いて見せた。
「コイツはな?エルフ達の祈りの込められたミスリル銀で出来ていて憖っかな事では折れたりしない。勿論、限界はあるがな?とにかくコイツが頑張ってくれたからこそ、俺はセレスタンの槍先を切り飛ばす事が出来たんだよ・・・」
「そうか、エルフ達の。どうりでな・・・」
アンリが感慨深そうに口を開いた。
「知ってるか?セレスタンの使っていた、あのジャベリンな、スーパーチタニウム合金で出来ていたんだそうだ。それを切り飛ばしたんだからお前の技量ってのは大したもんだよ。勿論、このミスリル銀で出来ている聖剣の切れ味もだけど・・・」
「・・・・・」
「ちなみにさ、蒼太。知っているか?セレスタンとエルミーヌが捕まってから暗殺事件はピタリと止まったそうだぜ?お手柄だよな、俺達って・・・」
「まあ帝国と帝室への、これ以上のダメージは取り敢えずは避けられたんだ。まあ、よくやったと言えるんじゃないかな・・・」
「どうするつもりなんだろうな?ロレーヌ公爵の爺さんは・・・」
「跡取りもいない、事件も失敗じゃ、生きる気力も湧かないだろうが・・・。それにしても一体、どうして・・・」
二人がそう言って話し込んでいた、その時だった。
「蒼太君、アンリ君・・・!!!」
不意に上役のポールがやって来て二人を呼び寄せる。
「君達に任務がある。それも飛び切り上等の、な・・・」
「・・・・・?」
「一体、どんな任務です?」
「つい先程、当代皇帝であられるフィリップ七世陛下よりお達しがあった。特別条項第七条に基づいてロレーヌ公爵を拘束するように、との事だ。勿論、他の隊員達も現場には急行させるが君達にも出向いてもらう・・・」
「・・・・・っ。いや、あのですね。ポールさん」
「誠に以て申し訳無いのですが。私達はもうすぐ定時なんですが・・・」
「この事件が無事に解決したなら、一ヶ月間程の休暇を与えよう。最近休めて無かっただろうから、ちょうど良いのでは無いのかね?」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解りました”と暫しの沈黙の後に両者はそう頷くと、アンリの車でルテティア郊外に建っている、やや年代が入っているロレーヌ公爵邸へと赴いて行くモノの、そこには既に数名程の隊員達がいて突入するタイミングを伺っていた。
「どうする?蒼太・・・」
「構うことは無い、正面から堂々と行けば良いんだ!!!」
「お、おい。蒼太、それにアンリも!!!」
「知らないからな?どうなっても・・・」
口々にブツブツと文句を垂れる仲間達を尻目に蒼太とアンリはロレーヌ公爵邸へと突入を果たし、そのまま公爵がいると思しき執務室へと昇っていった、そこで。
「ロレーヌ公爵・・・っ!!?」
「なんてこった・・・っ!!!」
彼等は自分達が追い求めていたターゲットである、“ガルニエ・アントナン・ド・ロレーヌ公爵”の変わり果てた姿を目撃して茫然となってしまう。
遺体の直ぐ側にはワイングラスが一つ、転がっていてその周囲には中身と思しき赤ワインが絨毯に染みを作っていた。
「・・・・・っ。コイツは!!?」
「毒かな・・・?」
“鑑識を呼んだ方が良い”と蒼太が発言すると、周りにいた仲間の隊員達が一斉に動き出す。
その日の晩には鑑識班が到着して現場検証が行われたのだが、ロレーヌ公爵は遺書の類いを一切合切残しておらず、自身は何者だったのか、何故事件を起こしたのか、本当に黒幕だったのか、と言う数々の謎を残したままで事件はお蔵入りになってしまった。
もし事件の裏を知っている者がいるとすれば二人しかない、一人はセレスタンでありもう一人はエルミーヌである。
しかし彼等もまた、事件の詳細を一切、口にする事無く絞首刑になる事を選んだ。
これをもって完全に事件の真相は闇の中に葬られた事になる、筈であったが。
彼等の死刑が執行された後日、蒼太の元に弁護士を介して一通の手紙が届いた、差出人はセレスタン本人であり、そこには“自分が知っている限りで”と言う前書きと共に事件の裏話が実に十枚以上に渡って綴られていたのだ。
それによるとー。
ロレーヌ公爵家はカロリング家の直系に当たること、内々にメロヴィング朝に潜んで反乱を起こす機会を伺っていたこと、しかしロレーヌ公爵の代になって跡継ぎが生まれなかった為に失望した公爵は、せめてメロヴィング朝を打ち倒す事で先祖に報いようとしたこと等が事細かに書かれていたのだ。
「なんでもガリア帝国の政治体制を、共和制に改めさせようとしていたらしい・・・」
「なるほどな・・・」
蒼太から事の次第を聞きおよぶと同時に自身もその手紙を見せてもらったアンリが頷く。
「だから、先に民主共和制を敷いていた合衆国のメインバンクにガリア帝国側の有力企業の株を片っ端から売っ払い続けていたって訳か。いや、これは納得するわな・・・」
「暗殺事件を連続して引き起こしたのも狙っていた企業の株を暴落させて買いやすくする為と、ガリア帝国帝室に敬意を持っている有力者を抹殺する為に、ロレーヌ公爵が計画した事らしい。・・・自分達はその実行犯であった、と」
“しかし”と蒼太が続けた、“最大の驚きはカール・マルテル・ピピンが実は双子であった、と言う件だな?”とそう言って。
「俺はてっきり、ノエルさんの持って来たゴシップこそが歴史の真実だと睨んだのだがな?」
「それは本当にその通りだよな?“事実は小説より奇なり”とは良く言ったモノだぜ・・・!!!」
二人がそう言って頷き合うが、セレスタンが残してくれた情報によると歴史上では最後のカロリング家の当主とされていたカール・マルテル・ピピンには隠し子がいたのでは無くて、カールセンと言う双子の兄弟がいたらしいのである。
しかし将来的な分割相続を嫌った父、グリモアルドによりまだ幼い時分に彼等と交流の深かった大商人の家に密かに預けられ、その家の人間として暮らす事になった、と言うのだ。
「手紙によると・・・。グリモアルドは度々、その商人の屋敷を訪れては、父親である事を隠したまま我が子と面会していたらしいな・・・。その時に同時に“グリモアルド流槍戦術”の稽古を付けて行ったらしい」
「カールセンも、兄であるピピンに負けず劣らずの腕前だったらしいな。それで将来を有望視されていたらしいが・・・」
結局の所、兄が死んでグリモアルド流も表舞台から姿を消すが、カールセン自身は商人から打ち明けられて、かなり早い時期から自分がグリモアルドの子供である事を知っていたらしかった。
「それでカールセンの子孫が生き延びて今に至っている、と言う訳か。しかし恐ろしい執念だね?1,500年に渡って王権を狙い続けているとは・・・」
「ああ、この事件は闇が深いな・・・」
蒼太とアンリはウンザリしたような表情で言い放つが、それに加えてもう一つ、蒼太を特に何とも言えない気分にさせたのが、セレスタン本人が書き残した最後の一文であった。
曰く“どうせ殺されるならばお前に殺されたかった”と。
「だってよ、蒼太。どうするんだ?お前・・・」
「勘弁してくれよ・・・」
蒼太が困ったような顔をして天を仰いだ。
「俺にもね、俺の“生き様”ってのがあるんだよ。それは誰にも指図されたくは無いし、汚されたくも無い・・・」
“それに”と蒼太は尚も続けた、“俺にはメリーの方が大事なんだよ、セレスタンなんかよりもよっぽどな!!!”と。
「彼には悪いが・・・。俺は死んだら天国に行こうと心掛けてるんだ、だから余り人を斬り殺したくはないしね・・・」
そう言うと蒼太は立ち上がり、“帰るか?”とアンリに提案する。
彼等には今回の事件解決の立役者として、纏めて一ヶ月間にも及ぶ長期休暇が与えられていたのであり、それはまだ、始まったばかりであった。
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