1 / 34
1 Prologue
「お前なんかと誰が」
しおりを挟む
「今日を限りにお前との婚約関係は抹消する」
国随一の権力を持つオイレンブルグ公爵家の夜会にて。
それまで楽しげにさざめいていた群衆が突然水を打ったように静かになった。
その中心にいるのはーーー私、ユリアーナ・ラムスドルフ。社交界では一応それなりの名の通った侯爵令嬢である。
目の前で顔を真っ赤にして私を睨みつけている公爵嫡男ーーアウグスト・オイレンブルグは、私の幼い頃からの家によって決められた婚約者でもある。アウグストの後ろから、震えながらものぞいているのは、ラウラ・ミュラー。
ラウラは男爵令嬢で、この2人が私に向かって歩いてきた時点で、突然の既視感に襲われ、目眩がしていたくらいだ。
知ってるこれ…知ってる
前世で好んで読んでいた転生ものの貴族令嬢ものだと。よりにもよってこのお話は、自分がヒロインだと信じていたら、実はそうではなくて悪役令嬢として追い払われるパターンであった。
「お前みたいな冷たい心の女にはもううんざりだ。私には爵位がなくても本当の愛情を知っている女と結婚する権利がある」
親に決められた婚約者だったからということでもなく、公爵嫡男という地位にあっても召使にも公平で優しい貴方のこと、私はちゃんと好きだったんですけど、貴方の中では私はただの「心が冷たい女」だったんですね…。図らずも慕っていた男に投げつけられたナイフのような鋭い言葉に思わず唇が震えてしまって、ぎゅっと噛み締める。ふとアウグストの後ろに立っているラウラを見るとーー彼女の唇は私とは裏腹にそっと綻んでいた。
(…ラウラ…ここで笑うのね、貴方は)
私は侯爵令嬢としての矜持をなんとかかき集め、心を奮い立たせると、なるべく毅然とした声を出すように努力する。
「ーーーアウグスト様、短慮はなさいませんように。私どもの一存では破棄出来ませんのはお分かりでしょう。
ラムスドルフ家への申し入れを希望致します」
彼は私の冷静な言葉に促され、少し我に返ったようだ。もともとは優しすぎるほどに優しい人なのだ。
「ーーあ、ああ。すまない。こんな公衆の面前で私もどうかしていたな」
時が止まっていた周りの群衆たちがその言葉を皮切りに動きを取り戻す。
私がもう一度ラウラを見るとーーー彼女は明らかに悔しそうに眉をひそめていた。そのことに強い違和感を感じる。まるで、彼女がアウグストを操っているかのようなそんな印象を与えた。
(思い出さなくては…小説の粗筋を…)
とりあえず今日のところはもうこれで十分だ。私はもうひどく傷ついていた。
立ちすくんでいる2人に、侯爵令嬢として無礼にならないように会釈をすると、私は踵を返して夜会の会場を後にした。
国随一の権力を持つオイレンブルグ公爵家の夜会にて。
それまで楽しげにさざめいていた群衆が突然水を打ったように静かになった。
その中心にいるのはーーー私、ユリアーナ・ラムスドルフ。社交界では一応それなりの名の通った侯爵令嬢である。
目の前で顔を真っ赤にして私を睨みつけている公爵嫡男ーーアウグスト・オイレンブルグは、私の幼い頃からの家によって決められた婚約者でもある。アウグストの後ろから、震えながらものぞいているのは、ラウラ・ミュラー。
ラウラは男爵令嬢で、この2人が私に向かって歩いてきた時点で、突然の既視感に襲われ、目眩がしていたくらいだ。
知ってるこれ…知ってる
前世で好んで読んでいた転生ものの貴族令嬢ものだと。よりにもよってこのお話は、自分がヒロインだと信じていたら、実はそうではなくて悪役令嬢として追い払われるパターンであった。
「お前みたいな冷たい心の女にはもううんざりだ。私には爵位がなくても本当の愛情を知っている女と結婚する権利がある」
親に決められた婚約者だったからということでもなく、公爵嫡男という地位にあっても召使にも公平で優しい貴方のこと、私はちゃんと好きだったんですけど、貴方の中では私はただの「心が冷たい女」だったんですね…。図らずも慕っていた男に投げつけられたナイフのような鋭い言葉に思わず唇が震えてしまって、ぎゅっと噛み締める。ふとアウグストの後ろに立っているラウラを見るとーー彼女の唇は私とは裏腹にそっと綻んでいた。
(…ラウラ…ここで笑うのね、貴方は)
私は侯爵令嬢としての矜持をなんとかかき集め、心を奮い立たせると、なるべく毅然とした声を出すように努力する。
「ーーーアウグスト様、短慮はなさいませんように。私どもの一存では破棄出来ませんのはお分かりでしょう。
ラムスドルフ家への申し入れを希望致します」
彼は私の冷静な言葉に促され、少し我に返ったようだ。もともとは優しすぎるほどに優しい人なのだ。
「ーーあ、ああ。すまない。こんな公衆の面前で私もどうかしていたな」
時が止まっていた周りの群衆たちがその言葉を皮切りに動きを取り戻す。
私がもう一度ラウラを見るとーーー彼女は明らかに悔しそうに眉をひそめていた。そのことに強い違和感を感じる。まるで、彼女がアウグストを操っているかのようなそんな印象を与えた。
(思い出さなくては…小説の粗筋を…)
とりあえず今日のところはもうこれで十分だ。私はもうひどく傷ついていた。
立ちすくんでいる2人に、侯爵令嬢として無礼にならないように会釈をすると、私は踵を返して夜会の会場を後にした。
40
あなたにおすすめの小説
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません
腐ったバナナ
恋愛
王太子アルベルトの婚約者であったユミリアは、前世で悪女の汚名を着せられ、騎士団長ギルバートによって処刑された。
しかし、目を覚ますと、処刑直前の自分に時間が戻っていた。
ユミリアは、静かに追放されることを目標に、悪女の振る舞いをやめ、王太子から距離を置く。
しかし、なぜか冷酷非情なはずの騎士団長ギルバートが、「貴殿は私の光だ」と異常な執着を見せ、彼女を絶対的に独占し始める。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
秋月一花
恋愛
旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。
「君の力を借りたい」
あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。
そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。
こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。
目的はたったひとつ。
――王妃イレインから、すべてを奪うこと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる