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第1章 雨の回廊
デンキドリの夢
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頂までは、二時間は要するとのことだったし、必要な休憩ではあった。疲れが出たのだろう、ミシンも少しうとうととし始めていた。ミシンはその中で夢らしきものを見た。
はっきりとしない夢だったが、デンキドリを見た。デンキドリだ、とわかった。デンキドリは動かない。マホーウカが射たというデンキドリだろうか。死んでいるのか。
木々の中に、人の姿が見える。マホーウカ? ミルメコレヨンか? デンキドリを撃とうと?
ミシンははっとして起き上がった。
辺りは、暗い。ミジーソは、眠っているようだ。ミルメコレヨンらの方で、影が動いたが、灯かりが消えており、よくわからない。が、人の頭らしき影が二つ。もう一つは……
ミシンはさらにはっとする。その向こうに広がるのは、夢の中に見た木々だ。いや、夢ではなく……ミシンはややあって足早に歩き出した。ミジーソが、「む……むむ」と呟く。寝ぼけているだけか。呼び起こすことはしなかった。離れた二つの影は、一人は冑を被っているのでミルメコレヨン。もう一人は、どっちだ? 暗くてわからない。先ほど動いたように見えたが、木にもたれ眠っているのか、反応はない。二人を過ぎて、木々の中へ……そこで、何をしている。そこで。おまえは。
「何をしている」
ミシンは、木々の真ん中にぼうっと佇む男の真ん前まで来て、言う。
「マホーウカ」
マホーウカだ。ミシンの方を向く。
「いい加減にしてくれないか」
何を言うでもなく、ぼんやりとした表情を向けている。
「何をして……」
マホーウカの手に、何か握られている。弓……? いや、弓は男の足元に落ちており、矢が何本か散らばっている。何かある。動物……鳥、鳥の死骸? では、男が手に持っているのは?
うす暗がりの中で表情は何も語らない。男はただ、それを手にした片方の手を差し伸べてくる。
「やめろ……ふ、不吉だ。おまえは」
ミシンは剣の柄に手をやろうとした。だが、剣はない。
後ろから、ミルメコレヨンが来る。何も言わずに、マホーウカとの間に入りミシンに向き合う。マホーウカはぼっと立ったままだ。部下のもう一人か、ミシンの背後に来て立ち止まったのが感じられる。ミジーソはまだ寝ているのか。
うす明かりが影を落とす、ミシンを見下ろすミルメコレヨンの表情は威圧的なものに思える。帯剣している。
「ちょっと……何か……ミシン殿は……」
マホーウカの声か。ミルメコレヨンに後ろからぼそぼそと何か語りかけている。いや、ただの独り言か。と思うとその内容も聞き取れないものになっている。
「ミルメコレヨン」
ミシンの声は、震えていた。
「それは」
デンキドリの頭……
「ミシン殿」
ミルメコレヨンの声。落ち着いた声だ。
「それはただの鳥だぞ」
マホーウカの手からぼてっと落ちた、それはミシンにも見覚えのある、都の郊外にも生息するカラスに似たこげ茶色の鳥だった。何で……
何で、こんな時間に一人で狩りなどをやっている。規律を、規律を乱すな。ミシンは荒い息づかいばかりでそう声に出すこともできなかった。
「疲れているのだ、ミシン殿は」
ミルメコレヨンはそう言って、部下を連れて離れた灯かりのところへ戻っていった。
ミシンも続いて木々から出る。三人は馬の支度を始めている。見れば、向こうの灯かりの下ではミジーソも起き上がって、同じように馬の支度を始めていた。
「ミシン殿。どうなすった? 疲れが多少はとれましたかな」
ミシンはその顔を見て少し安心したが、だが夢の中まではミジーソは助けには来れない、とはたと思った。夢の中の戦……ミシンは、これから戦うことになる判然としない敵のことを浮かべて、敵は、最後までその姿を判然とさせず、自分はそのぼんやりとしたままの敵を切って、切り尽くさねばならない、といった思いに駆られたのだった。
はっきりとしない夢だったが、デンキドリを見た。デンキドリだ、とわかった。デンキドリは動かない。マホーウカが射たというデンキドリだろうか。死んでいるのか。
木々の中に、人の姿が見える。マホーウカ? ミルメコレヨンか? デンキドリを撃とうと?
ミシンははっとして起き上がった。
辺りは、暗い。ミジーソは、眠っているようだ。ミルメコレヨンらの方で、影が動いたが、灯かりが消えており、よくわからない。が、人の頭らしき影が二つ。もう一つは……
ミシンはさらにはっとする。その向こうに広がるのは、夢の中に見た木々だ。いや、夢ではなく……ミシンはややあって足早に歩き出した。ミジーソが、「む……むむ」と呟く。寝ぼけているだけか。呼び起こすことはしなかった。離れた二つの影は、一人は冑を被っているのでミルメコレヨン。もう一人は、どっちだ? 暗くてわからない。先ほど動いたように見えたが、木にもたれ眠っているのか、反応はない。二人を過ぎて、木々の中へ……そこで、何をしている。そこで。おまえは。
「何をしている」
ミシンは、木々の真ん中にぼうっと佇む男の真ん前まで来て、言う。
「マホーウカ」
マホーウカだ。ミシンの方を向く。
「いい加減にしてくれないか」
何を言うでもなく、ぼんやりとした表情を向けている。
「何をして……」
マホーウカの手に、何か握られている。弓……? いや、弓は男の足元に落ちており、矢が何本か散らばっている。何かある。動物……鳥、鳥の死骸? では、男が手に持っているのは?
うす暗がりの中で表情は何も語らない。男はただ、それを手にした片方の手を差し伸べてくる。
「やめろ……ふ、不吉だ。おまえは」
ミシンは剣の柄に手をやろうとした。だが、剣はない。
後ろから、ミルメコレヨンが来る。何も言わずに、マホーウカとの間に入りミシンに向き合う。マホーウカはぼっと立ったままだ。部下のもう一人か、ミシンの背後に来て立ち止まったのが感じられる。ミジーソはまだ寝ているのか。
うす明かりが影を落とす、ミシンを見下ろすミルメコレヨンの表情は威圧的なものに思える。帯剣している。
「ちょっと……何か……ミシン殿は……」
マホーウカの声か。ミルメコレヨンに後ろからぼそぼそと何か語りかけている。いや、ただの独り言か。と思うとその内容も聞き取れないものになっている。
「ミルメコレヨン」
ミシンの声は、震えていた。
「それは」
デンキドリの頭……
「ミシン殿」
ミルメコレヨンの声。落ち着いた声だ。
「それはただの鳥だぞ」
マホーウカの手からぼてっと落ちた、それはミシンにも見覚えのある、都の郊外にも生息するカラスに似たこげ茶色の鳥だった。何で……
何で、こんな時間に一人で狩りなどをやっている。規律を、規律を乱すな。ミシンは荒い息づかいばかりでそう声に出すこともできなかった。
「疲れているのだ、ミシン殿は」
ミルメコレヨンはそう言って、部下を連れて離れた灯かりのところへ戻っていった。
ミシンも続いて木々から出る。三人は馬の支度を始めている。見れば、向こうの灯かりの下ではミジーソも起き上がって、同じように馬の支度を始めていた。
「ミシン殿。どうなすった? 疲れが多少はとれましたかな」
ミシンはその顔を見て少し安心したが、だが夢の中まではミジーソは助けには来れない、とはたと思った。夢の中の戦……ミシンは、これから戦うことになる判然としない敵のことを浮かべて、敵は、最後までその姿を判然とさせず、自分はそのぼんやりとしたままの敵を切って、切り尽くさねばならない、といった思いに駆られたのだった。
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