境界戦記

k_i

文字の大きさ
6 / 11
第1章 雨の回廊

デンキドリの夢

しおりを挟む
 頂までは、二時間は要するとのことだったし、必要な休憩ではあった。疲れが出たのだろう、ミシンも少しうとうととし始めていた。ミシンはその中で夢らしきものを見た。

 はっきりとしない夢だったが、デンキドリを見た。デンキドリだ、とわかった。デンキドリは動かない。マホーウカが射たというデンキドリだろうか。死んでいるのか。
 木々の中に、人の姿が見える。マホーウカ? ミルメコレヨンか? デンキドリを撃とうと?

 ミシンははっとして起き上がった。

 辺りは、暗い。ミジーソは、眠っているようだ。ミルメコレヨンらの方で、影が動いたが、灯かりが消えており、よくわからない。が、人の頭らしき影が二つ。もう一つは……

 ミシンはさらにはっとする。その向こうに広がるのは、夢の中に見た木々だ。いや、夢ではなく……ミシンはややあって足早に歩き出した。ミジーソが、「む……むむ」と呟く。寝ぼけているだけか。呼び起こすことはしなかった。離れた二つの影は、一人は冑を被っているのでミルメコレヨン。もう一人は、どっちだ? 暗くてわからない。先ほど動いたように見えたが、木にもたれ眠っているのか、反応はない。二人を過ぎて、木々の中へ……そこで、何をしている。そこで。おまえは。

「何をしている」
 ミシンは、木々の真ん中にぼうっと佇む男の真ん前まで来て、言う。

「マホーウカ」

 マホーウカだ。ミシンの方を向く。

「いい加減にしてくれないか」

 何を言うでもなく、ぼんやりとした表情を向けている。

「何をして……」

 マホーウカの手に、何か握られている。弓……? いや、弓は男の足元に落ちており、矢が何本か散らばっている。何かある。動物……鳥、鳥の死骸? では、男が手に持っているのは?
 うす暗がりの中で表情は何も語らない。男はただ、それを手にした片方の手を差し伸べてくる。

「やめろ……ふ、不吉だ。おまえは」
 ミシンは剣の柄に手をやろうとした。だが、剣はない。

 後ろから、ミルメコレヨンが来る。何も言わずに、マホーウカとの間に入りミシンに向き合う。マホーウカはぼっと立ったままだ。部下のもう一人か、ミシンの背後に来て立ち止まったのが感じられる。ミジーソはまだ寝ているのか。
 うす明かりが影を落とす、ミシンを見下ろすミルメコレヨンの表情は威圧的なものに思える。帯剣している。

「ちょっと……何か……ミシン殿は……」
 マホーウカの声か。ミルメコレヨンに後ろからぼそぼそと何か語りかけている。いや、ただの独り言か。と思うとその内容も聞き取れないものになっている。

「ミルメコレヨン」
 ミシンの声は、震えていた。
「それは」
 デンキドリの頭……

「ミシン殿」
 ミルメコレヨンの声。落ち着いた声だ。
「それはただの鳥だぞ」

 マホーウカの手からぼてっと落ちた、それはミシンにも見覚えのある、都の郊外にも生息するカラスに似たこげ茶色の鳥だった。何で……

 何で、こんな時間に一人で狩りなどをやっている。規律を、規律を乱すな。ミシンは荒い息づかいばかりでそう声に出すこともできなかった。

「疲れているのだ、ミシン殿は」
 ミルメコレヨンはそう言って、部下を連れて離れた灯かりのところへ戻っていった。
 
 ミシンも続いて木々から出る。三人は馬の支度を始めている。見れば、向こうの灯かりの下ではミジーソも起き上がって、同じように馬の支度を始めていた。

「ミシン殿。どうなすった? 疲れが多少はとれましたかな」

 ミシンはその顔を見て少し安心したが、だが夢の中まではミジーソは助けには来れない、とはたと思った。夢の中の戦……ミシンは、これから戦うことになる判然としない敵のことを浮かべて、敵は、最後までその姿を判然とさせず、自分はそのぼんやりとしたままの敵を切って、切り尽くさねばならない、といった思いに駆られたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...