7 / 11
第1章 雨の回廊
雨の回廊の入り口
しおりを挟む
些かの休みをとった後(それはミシンにとっては休まれない休みだったが)、緩やかな勾配の丘陵を一行は黙々と馬を駆り、頂に達した。
ミシンは最後尾を歩き、何度か振り返ったが、中腹に来て以降は、遠く山と山の影の連なりの間に、都のものだろう光が見えた。淡い、光が幾つも、幾重にも、輝いて見える。
レチエ……とミシンは思い馳せそうになったが、今度は、恋人でもない女性を……と思い直し、これでしばし都ともおさらばだ。その名を心の中でも呼ぶのは、本当に必要なときにしよう、とひとり決意をするのだった。
頂へ来ると、本当に夜空が広く、近く感じられた。
ほぼ平らな草地になっており、小さな木がまばらにあるだけだ。この頂上部分の真ん中に、積まれた石なのか盛り上がった土なのか突起のような建物がある。灯りがかかっており、あれが雨の回廊の入り口なのだ。四方を囲む夜空に見とれつつも、ミシンはすでにその建物へ足を向けている皆に続いた。
近づくと、石造りの古墳のような建物で、質素で小さな木の扉が付けられた入り口が一つある。その両側に、煌煌と夜を照らす灯かりが揺れていた。
「ここが……」
「そう。雨の回廊の入り口ですじゃ」
言いながら、ミジーソが扉を叩き、「王都より参った、この度、雨の回廊を越えて境界に赴く、騎士ミシンとその一行である」大きな声で呼びかけた。
すでに扉の向こうで待ち構えていたように、「ようこそ」と声がして、扉が開いた。
ローブを纏った穏やかな表情の男だった。
「お待ちしておりました。すでに聞いております。さあどうぞこちらへ、馬もそのままご一緒にお入りください」
中は石造りで、しかし整備されており明るかった。
一行が中へ進むと、ミシンにとっては驚く光景が立ち現れた。
外からだとわからなかったが、建物の天井は開け放たれている。そして驚いたことに、そこから雨が降り込んでいる。
「どういうことだ?」
外は、満天の星空だった。
「すぐに、入られますか?」
「ミシン殿。よいな?」
ミシンはどういうことなのかさっぱりわからないという表情のまま、頷く。とにかく、ここが雨の回廊の入り口で、雨の回廊を行かねばならない。それがわかっていることだ。
ローブの男が奥を指差した。幅広の階段が、天井の外に向かって伸びている。
「準備ができましたら、いつでもどうぞ」
「行きましょう」
ミジーソは言うなり、馬を駆ってそれを上っていく。ミルメコレヨンらも戸惑う様子もなく、それに続いた。
最後になったミシンに、ローブの男が微笑みかける。
「なあに。何も心配要りませんよ。雨はお嫌いですか?」
「いや、……僕は、雨は好きです。落ち着くから」
ローブの男はもう一度微笑み、頷いた。
「よい旅でありますよう」
階段を上って頭を出すと、そこは夜空ではない真っ暗闇。そして一つの方向に青く光る道が続いてる。これが、雨の回廊か。
ミシンは最後尾を歩き、何度か振り返ったが、中腹に来て以降は、遠く山と山の影の連なりの間に、都のものだろう光が見えた。淡い、光が幾つも、幾重にも、輝いて見える。
レチエ……とミシンは思い馳せそうになったが、今度は、恋人でもない女性を……と思い直し、これでしばし都ともおさらばだ。その名を心の中でも呼ぶのは、本当に必要なときにしよう、とひとり決意をするのだった。
頂へ来ると、本当に夜空が広く、近く感じられた。
ほぼ平らな草地になっており、小さな木がまばらにあるだけだ。この頂上部分の真ん中に、積まれた石なのか盛り上がった土なのか突起のような建物がある。灯りがかかっており、あれが雨の回廊の入り口なのだ。四方を囲む夜空に見とれつつも、ミシンはすでにその建物へ足を向けている皆に続いた。
近づくと、石造りの古墳のような建物で、質素で小さな木の扉が付けられた入り口が一つある。その両側に、煌煌と夜を照らす灯かりが揺れていた。
「ここが……」
「そう。雨の回廊の入り口ですじゃ」
言いながら、ミジーソが扉を叩き、「王都より参った、この度、雨の回廊を越えて境界に赴く、騎士ミシンとその一行である」大きな声で呼びかけた。
すでに扉の向こうで待ち構えていたように、「ようこそ」と声がして、扉が開いた。
ローブを纏った穏やかな表情の男だった。
「お待ちしておりました。すでに聞いております。さあどうぞこちらへ、馬もそのままご一緒にお入りください」
中は石造りで、しかし整備されており明るかった。
一行が中へ進むと、ミシンにとっては驚く光景が立ち現れた。
外からだとわからなかったが、建物の天井は開け放たれている。そして驚いたことに、そこから雨が降り込んでいる。
「どういうことだ?」
外は、満天の星空だった。
「すぐに、入られますか?」
「ミシン殿。よいな?」
ミシンはどういうことなのかさっぱりわからないという表情のまま、頷く。とにかく、ここが雨の回廊の入り口で、雨の回廊を行かねばならない。それがわかっていることだ。
ローブの男が奥を指差した。幅広の階段が、天井の外に向かって伸びている。
「準備ができましたら、いつでもどうぞ」
「行きましょう」
ミジーソは言うなり、馬を駆ってそれを上っていく。ミルメコレヨンらも戸惑う様子もなく、それに続いた。
最後になったミシンに、ローブの男が微笑みかける。
「なあに。何も心配要りませんよ。雨はお嫌いですか?」
「いや、……僕は、雨は好きです。落ち着くから」
ローブの男はもう一度微笑み、頷いた。
「よい旅でありますよう」
階段を上って頭を出すと、そこは夜空ではない真っ暗闇。そして一つの方向に青く光る道が続いてる。これが、雨の回廊か。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる