黒龍の娘

レクフル

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第2章

チグハグな感情

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 エリアスと一緒に、エリアスの家という場所にやって来た。

 ここは前に私が龍の姿の時にエリアスと過ごした場所らしくて、でも寝ていた部屋から出た事がなくて、私は初めてその建物を外から見た。

 思ったより大きな建物だった。エリアスは、ここにいっぱい人が住んでるって言ってた。私と同じくらいの子供達がいるって。皆優しいから、私に攻撃しないって。本当かな……そうだったら良いんだけど、まだ少し怖いな……

 中に入ると誰かいた。女の人っぽい。エリアスはその人の事をルーナって言ってた。ルーナは私をじっと見る。

 フェンリルと魔物の巣窟と言われる場所で過ごしていた時、私とフェンリルは話せていたけれど、他の魔物達とは話せなかった。どうやら高位の魔物、と言うか、知能が高い魔物じゃないと話せなかったようで、私は他の魔物とは一切話しをすることはできなかった。
 
 けれどそのお陰なのか、フェンリルからもそうするように言われて練習したのもあるけれど、魔物の感情が読めるようになった。体内にある魔力を読み取って同調させる、といった感じにしていくんだけど、最近はこれが癖になってしまっていて、レオやロレーナの時も自然と感情を読み取ってしまってた。

 二人の場合は、特に表情と感情に違いがなかったから何とも思わなかったし、エリアスももちろんそうだったから特に何も思わなかった。
 
 けど、ルーナは違う……

 ルーナはエリアスの事が好きみたい。だから、エリアスと一緒にいる私に、あまり良い印象を持っていない。それがすごく伝わってくる。そんなルーナの事を、エリアスは全く気づいていないし、特別な感情を持っている訳でもなさそうだ。エリアスはきっと鈍感なんだろうな……

 エリアスの部屋へ行くと、龍の私と一緒に過ごした場所で、一緒に寝たベッドがあって、なんだか凄く懐かしい気持ちになった。

 この部屋は安心する。エリアスの優しい感情とかが溢れてる。窓から見える所を指差して、エリアスが色々教えてくれる。その時、ルーナがやって来た。

 ルーナはエリアスを連れ出そうとしている。私も一緒に行こうとしたら、凄い形相で「来るなっ!!」って言ってる声とイメージが頭に入り込んでくる……!頭に入り込んだその様子にビックリして、思わず後退りしそうになってしまう……

 でも、まだ一人になるのが怖くって、またエリアスと離れ離れになってしまうのが怖くって、ルーナの感情に飲まれないようにギュッて目をつむりながら、一緒に行くことを決める。

 それから三人で街を歩く。ここは人が多い。色んな物を置いてる、店というモノが多いし、それを見ている人も多い。

 エリアスがお店で物を貰って、代わりに何かを渡している。これはお金って言って、このお金と物を交換するんだって。言ったら貰えると思ってたんだけど、そういう訳じゃ無かったんだ……

 歩いていると、なんか良いにおいがしてきた。そのにおいはどこからかな?って探していると、色のついた水を置いてる所があった。
 あれは前に、ホセに貰ったことがあるジウスってやつだ!でも、本当はジュースって名前だったみたい。

 エリアスに言って、ジュースを貰う事にした。
お金というのを渡されて、それと交換するって教えて貰う。木のコップに入ったジュースを受け取る。甘くて、良いにおいがする……

 それを口にすると、やっぱりすっごく甘くって、でも少し酸っぱいのもあって、ビックリするくらい美味しかった!今まで甘いのって、花の密を舐めるくらいだったから、こんなに口の中にいっぱいに甘味が溢れることはなくって、それがすごく嬉しくて思わずエリアスを見てしまう!

 人間って、こんなに美味しいのをいつも飲んでるの?それともこうやって、この場所でまで来ないとジュースは飲めないの?あ、でも、ホセからも貰ったから、あるところにはある、といった感じなのかな??

 あまりに美味しくて、すぐに飲み干してしまった。上を向いて、コップから流れ落ちるジュースの雫を待ってたけど、もう落ちてこなくなった。

 それを見たエリアスは、もっと飲むか?って聞いてくれたけど、前みたいに食べ物がいっぱいいると思ったエリアスが、また私を置いて何処かに取りに行く、とかなるのが嫌だし、そんなに食べ物とか飲み物はいっぱいいらないから、私を置いていかないで一緒にいて欲しいって思って、もうジュースはいらないと首を横に振る。
 
 ふとルーナを見ると、すごい形相で私を睨んでるような感じが頭に流れ込んでくる。

 ……怖い……

 でも、目が合うとルーナは笑ってくれる。なんでこんなふうにチグハグなんだろう……?今までこういうのを経験した事がなかったから、どうしたら良いか戸惑ってしまう……

 そうしたら、話していたルーナがエリアスの腕に抱きつくようにして体をくっ付けた。ルーナはエリアスを魅了しようとしている……?!

 それを見た私は、気付いたらルーナを突き飛ばしていた。

 ルーナとエリアスがくっついてるのが何だか凄く嫌に思えて、エリアスは私の人間の親で、でもそれは言っちゃいけないような気がして、でも多分、もしルーナの横にいるのがアシュリーって人だったら何にも思わなかったような気がして、何だか色々な思いが頭の中を行き来していて、自分でもよく分からない感情が胸を覆いつくして……

 気づいたら涙が溢れていた。

 そんな私をエリアスが抱き上げてくれる。やっぱりエリアスは優しい……私を心配する表情と感情が同じで安心できる……

 魔物達もフェンリルもレオもロレーナもゾランもミーシャも、みんな表情と感情は同じだった。敢えて言わない、といった事はあっても、それは他の者を気遣っての事で……

 だから、こういうのってすごく戸惑う。

 どうしたら良いのかな……

 エリアスはこれから一緒に暮らすって、エリアスの家で暮らすって言ってた。ということは、ルーナはいつもいるって事だ。

 ルーナが嫌いとか、そんなんじゃないんだけど、どう接して良いか分からない……だって、ルーナは私を疎ましく思ってるから……それがすごく伝わってくる。その感情が今は怖くて仕方がない。

 でも、こんなことエリアスに言えない……

 どう伝えたらいいのかも分からない……

 エリアスにとってはルーナはきっとすごく良い人で、エリアスと接している時のルーナの表情と感情は同じで、全く違和感を感じない。

 けれど、私に優しくするエリアスを見るたびに、ルーナが私を敵視するような感情がヒシヒシと伝わってくる。

 私、あの家で一緒に暮らしていけるかな……

 そんな不安を胸に、三人で家まで戻ってきた。入口から入ると、そこにはいっぱい人がいた……!
 ビックリして、思わず後退りしてしまう……


「あ、エリアス!おかえりー!」

「今日は早いねぇ?どうしたのー?」

「一緒に遊んで!」

「いや、それよりも俺に剣術を教えてくれよ!なぁ、良いだろ?!」

「あれ?その子は誰なの?」


 エリアスの周りに人がいっぱい集まってくる。そして私を見て、誰だ?って顔をする。

 攻撃はしてこない……って分かる……

 でも、こんなに多くの人達に囲まれた事がなかったから、すごくドキドキしてしまう……

 エリアスは、私の左手首に能力制御の腕輪をしたから、もう人に触っても大丈夫だと言った。

 けれど、それが本当に大丈夫になったのか試していないから、迂闊に人に触れないし、やっぱり一度にいっぱい喋られるのに慣れてなくて圧倒させられる……

 思わずエリアスの後ろに隠れるようにするけれど、後ろからも話しかけられて、どこに隠れて良いのかが分からない。

 子供達はエリアスの元に来て、抱きついてきたり、話しかけてきたり、服を引っ張ったりしていて、皆がエリアスの事が好きなのが、感情を読まなくても感じ取れる。

 きっとエリアスは、私にも凄く優しいけれど、他の子供達にも凄く優しいんだと思う。皆がエリアスに向ける感情は凄く好意的なものばかりで、誰一人としてエリアスを嫌だと思っている人はいない。

 それが凄く誇らしくもあり、不安でもある。

 大丈夫かな……
 
 皆本当に仲良くしてくれるのかな……

 仲良くしたいけど、エリアスから離れられない自分がいて、思わずギュッてエリアスの腕にしがみついてしまう。

 まだ言ってる事全てが分かる訳じゃないから、つい感情を読み取ろうとしてしまう。だから、その感情に飲まれそうになってしまう。
 聞こえてくる声と感じる感情が多くって、思わず目をつぶって下を向いた。

 私、こんなに多くの人達とやっていけるのかな……

 今は不安でしかなくて、ただエリアスの腕を掴むことしかできなかったんだ……
 


 
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